家族に愛されすぎて困ってます!

甘草 秋

37話 本当の返事をするために



 学校から家までの帰路を全速力で走る。
 しかし、春鷹は電車通学なので、必然的に駅で止まる。改札を抜け、ホームで電車を待つ。
 数分後、緑色の線が入ったねずみ色の電車が来た。
 それに乗り込み、出口の近いところの手すりに掴まる。
 家の最寄りの駅に着いた時、1秒でも早く出れるようにするためだ。
 電車に揺られること約15分。春鷹の家の最寄りの駅に到着した。
 ドアが自動で開いた瞬間、春鷹はまた家に向かって走り出す。改札口にICカードをかざし駅を出る。携帯を見ると時刻は4時30分をまわっていた。
 ここから家までは歩いて10分かかるが、走りだと5分で着く。
 一刻の猶予もない。とにかく走った。
 何分経っただろうか、走ることに夢中だったため、時間など気にしなかった。携帯を見ると、4時33分だった。
 家の玄関のドアの前で息を整えた後、ゆっくりとドアを開ける。

「ただいまー」
「春ちゃん!どうしよう!」

 リビングから飛び出してきた母さんは突然変なことを言いだした。

「どうしようって、何かあったの?」
「じ、実は......瑠美が家出したの!」
「い、家出!?」

 母さんは自分の携帯の画面を春鷹の方に向けた。
 そこには、瑠美と母さんとのメールのやり取りが表紙されていた。今日の午後4時25分頃に「ごめんなさい、もう家には帰りません」と丁寧に書かれていた。

「最近なんだか元気ないのは薄々気づいてたんだけど......」
「どうして......」

 瑠美はあの日の春鷹の返事にショックを受け、自宅にいるのも窮屈になっていたのだ。それが家出の最大の理由なのだ。

「そうか......だから、瑠美姉は大荷物で朝に家を出たんだ......」

 「どうする?」その疑問だけが頭の中に残った。
 もちろん探す。しかし、見当がない。何処に行ってしまったのだろうか、まったく分からない。
 それでも、探すしかないのだ。
 こんな風に悩んでいる時間すら勿体ない。

「......っ!」
「あ、春ちゃん!」

 気づけば、春鷹は玄関を出てまた走っていた。
 何処にいるか分からないのに。何処に行ったか分からないのに。
 でも、今は何かしていないと、不安と罪悪感で自分が押し潰れそうな気がするから。
 とりあえず、春鷹は周辺を片っ端から探し始めた。

 瑠美がよく友達とガールズトークに使っていた喫茶店にいない。
 瑠美がよくプライベートのジョギングで走っていたマラソンのコースにもいない。
 瑠美がよく春鷹と買い物に行く時に通っていた商店街にもいなかった。

 もう、探せる場所全て探した。時刻はもう6時半。太陽も落ち、辺りは暗くなり始めた。
 まだ......何かあるはずだ......。
 春鷹は深く考える。
 春鷹が今行ってきたのは、大学生の瑠美の思い出の場所。なら幼い頃の思い出の場所は?

「ーーあ......」

 一つ......一つ忘れていた。幼少期時代、瑠美が迷った場所......。

「たしかあそこは、少し山奥の......」

 春鷹はすぐにそこへ向かった。







★瑠美視点


「懐かしいなぁ」

 時刻はもう夜の7時、真っ暗な場所に街灯が一つ。それが唯一の灯だった。
 そこが何処なのかは分からない。
 古びたブランコに古びた滑り台があり、瑠美は屋根のついたベンチに座っていた。横には今朝用意した大きめのキャリーバッグ。中には洋服や貴重品が入っている。

「家出なんかするの、何年ぶりだろう」

 たしかあれは、瑠美が幼少期時代の頃。
 当時12歳だった瑠美は少し反抗期にはいっていた。
 親にはいつもわがままを言い、反抗し、言うことも聞かなかった。
 そしてある日、母親と喧嘩した瑠美は家を出てしまった。

「お母さんなんてもう嫌い!!」
「ちょっと瑠美!何処行くの!」
「瑠美お姉ちゃん!」

 親や春鷹の声を無視してずっと遠くへ走っていった。
 誰も知らないような場所へ、誰にも見つからないような場所へ行くために山奥に行ったのだ。
 そして辿り着いたのは、閑静な公園だった。
 人気ひとけもなく、空には物騒なカラスがカァカァと鳴いていた。
 初めは、母さん達を困らせるためそこに居座ろうと思ったが、いつの間にか寝てしまった。
 起きると、辺りはもう暗くなっていた。帰る道さえも見えなくなってしまった。

「こわいよー。おかあさん......はるくん......」

 その時だった......




「......瑠美姉、やっぱりここに居た」
「......は、春くん......!」

 走ってきたのか髪はボサボサで、衣服も乱れていて、靴は泥だらけだった。

「こんな所に居たら風邪ひくよ」

 春鷹はそう言って自分の着ていた学校のブレザーを瑠美の肩にかけた。
 ......暖かい......
..................でも......。
 
「どうして......探しに来てくれたの?」
「家族だから」
「そんな理由じゃダメ」
「えー」

 春鷹が口を開く前に瑠美が口を開いた。

「わたしはさ、もう振られた身なんだよ?失恋して、もう忘れようって、思ってたのに......なのに......どうして見つけるの!!」

 瑠美の口調が荒くなる。

「私はもう捨てられたの!ずっと大好きだった人に告白して、振られてしまった哀れな女!」
「......」
「だから、もうほっといてよ!家だと気まずいから家出したのに!なんで見つけるのよ!!」
「......」
「見つけてほしくなかった......忘れたかった......」

 瑠美にとっては春鷹が初恋だったのだ。物心つく前から好きだった、大切な人。
 そんな人に振られたら、生きる意味もなくなるくらいに。大好きだったのだ。
 見つけてほしくなかったと怒られた、ほっといてほしいと怒鳴られた。
 でも、春鷹はめげなかった。

「俺はさ、瑠美姉に、一つ嘘をついたんだ」
「そんなの、かん......」
「関係あるよ。......俺は酷い嘘をついた。......瑠美姉、あの日の事覚えてる?」

 あの日の事とは、瑠美にキスされた日の夕方、春鷹の部屋でした告白の返事の事だ。

「あの日俺は、姉とキスなんか黒歴史だとか言ったけど......あれ、嘘だから」
「え......?」
「なんて言うかさ、嫌じゃなかったんだよ」

 ありのままに答える、そう決めた。

「どういうこと?」
「瑠美姉にキスされた時、めちゃくちゃドキドキしたんだ。瑠美姉の事を一人の女としてね」
「......?」
「えっーと、だからつまり......」
「......っ!」

 春鷹は迷わず、瑠美と唇を重ねた。

「俺も、瑠美姉の事好きだってこと」

 ありのままに答える、そう決めたから。

「確かに俺たちの間には、兄弟っていう壁があるけど、正直関係ないなとかおもっちゃてさ」

 これは嘘じゃない。本音だった。

「春くん............ほんとに?」
「嘘だと思うならもう1回してあげよっか?」
「うん......」

 春鷹は瑠美の肩に手を置き、ゆっくりと口をあわせた。

「これで分かった?」
「う、うん......」

 照れくさった顔も可愛い。
 春鷹はこんなに可愛い姉をもってよかったと本気で思った。

「まぁでも、血が繋がってる限り、結婚とかは出来ないけどね......」
「あ、でも、春くん......」

 瑠美は言いかけた言葉を胸の内に引っ込めた。
 これを今言ってはいけない、そう思ったからだ。

「何?瑠美姉?」
「ううん、なんでもない。さぁ、早く帰ろ♪」
「うん。そうだね」

 瑠美は春鷹の右腕に抱きつき、スキップをしながら帰った。




 ーーしかし、この数分後、あの時瑠美が言いかけたことを春鷹は知ることになる......。



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コメント

  • ペンギン

    遂にきましたねぇ〜w早く教えてあげて欲しかった!w

    2
  • 名無し

    とうとうあの事実が

    2
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