死んだ異世界の勇者は現代で15レベ(歳)の女子中学生になる
その日勇者は。
あつい。身を焼くような暑さ、熱さ、それはこの身を焦がさんとする炎のせいか、この身を流れ沸騰するほどに滾る血のせいか。
あぁとにかくあつい、あついんだ。
と、理解している。
「みんな、大丈夫だ!俺が居る!!」
絶望しそうなほどの敵の強さに、希望が見えない程の攻撃の応酬に、俺はただ仲間たちにそう叫ぶ事しか出来なかった。
舌の上に乗せるのは励ましの言葉ではなく仲間を鼓舞する呪文。もう少し踏ん張ってくれと。
そう、言った事を覚えている。
「勇者エヴァルブよ、我は寛大故今すぐ負けを認め許しを請えば慈悲を与えてやらんこともないぞ」
俺の名を呼び提案するのは魔王センカード。誰が負けを認めるものか、許しを請うものか、屈するものか!
例え俺の身がこのまま焼かれ灰になろうと悪を前にして背中を見せる事は出来ない。
俺の剣にはこれまで倒してきた魔族の命と、希望を託してくれた人達の想いが乗っている。簡単に諦めてなるものか。
って、思っていたんだっけな。
「エヴァルブさま!」
女の甲高い悲鳴にも似た呼び声が響く。そちらを振り向けば仲間のひとり、僧侶のカノンが魔王センカードの触手に捕らわれていた。
そちらにほんの一瞬気をそらせばその隙を突かれ、左横腹を震源とした痛みが全身に広がり全ての思考がシャットアウトされる。
飛びそうな意識に食らいつき、気がつけば這いつくばっていた。剣は遠くへ飛ばされ手を伸ばしても届かない。届きそうにもない。
エヴァルブ。俺の名を呼んで、ひとり、またひとり仲間たちが魔王センカードの手によって嬲られていく。
腹部を殴られ、足は枝のように折られ、腕は雑巾のようにひねり上げられ、四肢と胴体に死なないように風穴が空けられそうやってひとりひとり嬲られる。
その度になかまが皆俺の名を悲鳴と共に叫ぶものだから。
「やめてくれ…」
絶望を知ってしまった。否、すでにそこにあった絶望をただ知らんぷりしていただけで、俺は漸く絶望に向き合ってしまった。
それは勇者である俺は絶対に認めてはいけないもので。
「お願いだから…」
目の前で仲間が凄惨な仕打ちを受ける様を見せられる。己の未熟さを呪うどころでは済まされない。
何が世界を救うだ、何が人類のために立ち上がるだ、そんな言葉は所詮勇者だと乗せられて出た軽い言葉だけのものではないか!!!
「負けました」
そんな言葉だけで仲間を集め、俺を信じてくれる仲間を集め、その仲間たちをこんな目に合わせている。こんな目に合わせてしまうほどに俺は無力!
「負けました、から……」
地面に這いつくばっていただけの俺は両の手のひらを地面につけて、上体をおこす。頭を深く垂れて、垂れて、地面につける。
「許し、て……ください…」
許してください。仲間ひとりも守れない俺を。どうか、俺が頭を垂れるだけで彼らが解放されるならばいくらでもそうする。だからもうやめてくれ。
「ほう?」
魔王センカードは面白いものを見るように口の端を上げながら舐めまわすように俺を見る。どれほどの屈辱を受けようと、どれほどの拷問を受けようと仲間をこれ以上傷つけられる苦痛には比べられない。
奴は仲間を弄ぶことをやめ、ゆっくりと俺に近づいた。
「随分と賢いな。我はそういった奴は好きだ、実に気持ちが良くてな」
俺は頭を垂れたまま、言葉を受け止める。
「我は嘘はつかない、お前の英断には当然の慈悲を与えてやらねばな」
仲間が助かるならば。脳裏にはここに来るまでの数々の思い出が蘇る。火を囲んで飯を食ったこと、酒を飲みながら沢山語ったこと、凶悪な魔王の手先に悪戦苦闘したこと、全てが良き思い出となりその日に還る事が出来るならばどうなってもいい。愚かにも勇者として立ち上がり仲間たちを傷つけた俺の懺悔の用意は出来ている。
慈悲を与える、そう言った魔王センカードはその触手をゆっくりと天に突き刺すように上げる。
その触手は空気を割くように素早く振り下ろされ、高く鳴いた。
「永遠の安寧という慈悲をな」
俺が聞いたのはここまで。俺が覚えているのはそこまで。
その日勇者エヴァルブは魔王を倒すことが出来ないまま死んだ。
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