武士は食わねど高楊枝

一森 一輝

2話 幼き獣(6)

 ファーガスを見失ったオーガは、すぐにこちらを追いかけてきた。
 少々予想外だった。オーガと言う種族は、考えなしに無防備な二人に近寄っていくと考えていたからだ。その隙を突くつもりだったが、まぁいい。戦闘が続くだけだ。
 ファーガスの狙いは、オーガの脳天に威力増強の『マーク・チェック』を入れることだ。そこに、もう一度『フレア・ブレイド』を叩きこむ。足りなければ、『ブリザード・ブレイド』だ。熱に次ぐ冷却は破壊を生む。鉄ならともかく、奴は生物だ。
 今は一旦、『ハイド』で身を隠す。敵に気付かれているかどうかを知るだけの単純な聖神法だが、それだけに効果的だった。聖神法の反応がない限り、決してバレてはいないのだから。
「隙が欲しいな……」
 ファーガスは、ぽつりと呟く。そして、タブレットを取り出した。スキルツリーを開き、隠密系統の技能をざっと確認していく。
 一定範囲内の音を消す『サイレント』、自分の音だけを消す『セルフ・サイレント』、攻撃の直前まで完全に身を隠せる『ハイド・アウト』。少しずつ出来ることが多くなり、最後から三番目に『ハイド・シャドウ』があった。敵の影を踏んでいる限り、いくら攻撃しようと気付かれない。致命傷を与えても敵は動き、陰から出た瞬間に何もかもが露呈し、敵は自分が死んだのだと悟る――
 上の二つは、更にやりやすい程度の違いしかなかった。一つ上には敵でなくただ陰に隠れればよい『ハイド・ダーク』、それさえも必要としない『ハイド・カモフラージュ』。……この程度なら、特に差とも言えないだろう。
 数日の狩りで、十数ポイントが余っている。ファーガスは隠密系統を閉じ、まず『マーク・チェックⅡ』を取った。次にアイルランドのスキルツリーを開き、『ジャンプ』に連なる特殊運動補助系統に、ポイントを振り分けていく。
 ファーガスが立てた計画は、単純だ。『ハイド・シャドウ』でどうにか奴の頭に上り、ゆっくりと『マーク・チェックⅡ』を刻み込んで、最後に一撃か二撃叩き込んで殺す。それだけだ。
「そんで、肝心の手順は……っと」
 『ハイド・シャドウ』の細かい所作を、スキルツリーから開く。
 面倒なことは知っていた。ベン自身も、ファーガスに練習した後「でも、多用はできないね」と言っていたほどだ。
 しかし、これが使えれば勝利への道はぐんと短くなる。ファーガスは覚悟を決めて、その具体的な所作を見た。
『対象者の影に、一時間の間に合計五分とどまり続けること。もしくは、相手に合計五分自分の影を踏ませ続けることが発動条件である。二つの合計時間を統合するため、片方一分、片方四分などでも発動可能。条件を満たしたのち、祝詞、また指定された所作を行い、姿を見られないまま対象の影を踏むと、「ハイド・シャドウ」が発動する。一度発動したらその影を踏んでいる限り何をやっても敵に存在を気取られない。対象は発動者に触れ、阻害することも絶対にできない。ただし一つだけ警戒せよ。発動後一度でも対象の陰から外れれば、発動者はいとも簡単に存在を見つけられるだろう』
「ムッズ!」
 ファーガス、思わず絶叫する。とはいえ小声だったが、一瞬『ハイド』のセンサーに反応が上がり、非常に背筋が竦み上がった。急いで場所を移動し、渋面でタブレットを見る。
「とりあえず……祝詞は恒例の『神よ~』のあれと、所作は……。まぁ、問題って程のもんじゃないな」
 問題っつったらこっちだこっち。とファーガスは件の文章を指でなぞっていく。対象の影を五分間、もしくは自分の影を五分間。それなら直接マークを入れた方がと考えたが、改めて『チェック・マークⅡ』を見ると、素直にあきらめがついた。
「暗記しても三十秒はかかるな、こりゃ」
 暗記してないから二分超ほどか。大人しく、『ハイド・シャドウ』の仕掛け方を考える。
 ファーガスがまず思いついたのは、木に登りオーガをストーキングするという手段である。効率的に自分の影を踏ませることができるだろう。次に、『ハイド・アウト』でオーガの影を踏み続ける。だが、『ハイド・アウト』はもって二十秒。ファーガスは、頭の中で試行錯誤する。
 とりあえずは、木の上からと言うので問題はないだろう。一番無難だし、効率もよさそうだ。ファーガスは『ジャンプ』を使いすいすいと木の上に登った。そして、オーガが自分の影を踏むよう、微妙に移動を繰り返す。
「……木の影が過半数を占めてるけど、多分大丈夫だ……よな?」
 ちょっと不安なファーガスだ。カウントが始まっているかどうかは、タブレットで知れる。――カウントは、始まっていた。あと数秒で、ニ分に達する。
 なんだ、余裕じゃないか、とファーガスはしたり顔をした。カウントは二分を超え、すぐにでも三分の壁に手が伸びていく。満足して、ファーガスはオーガに視線を戻した。
 目が、合った。
 漆黒の剛腕が迫り、ファーガスは後方へ飛びのいた。だが、そううまく他の木へと飛び移れるものでもない。したたかに尻もちをつき、雪の上を二転三転する。
 そのまま、奴から『ハイ・スピード』で逃げ出した。オーガの走行速度は、直線ならば人間を遥かに凌ぐ。ファーガスは何度か奴の手にかかりそうになりながらも、蛇行、木に登り、枝を飛び回ることによる攪乱で、奴の目を欺いた。
 木から降り、再び走る。そして木の陰に隠れて、『ハイド』を発動させた。気づかれてはいないようだと、胸を撫で下ろす。
「油断したのが痛かったな、畜生。……どうする? もう木の上からは難しいぞ」
 奴はこれから索敵範囲内に木の上を含めるだろう。事実、ここから伺い見ても、奴は高い頻度で木々の枝を折って確かめている。――奴の近くで樹に登ることすら、危険かもしれない。
 タブレットを見る。蓄積時間は、三分四秒で止まっていた。あと、二分弱。如何にして貯めるか。
「……大人しく、プランBだな」
 背後に忍び寄り、『ハイド・アウト』で時間をためる。だが、それでは効率が悪いため、まず『セルフ・サイレント』だけで様子を見ることに決めた。危険だと感じたら、『ハイド・アウト』だ。
 ファーガスは自身から音を奪って、少しずつオーガに近づいて行った。聖神法は三つまで併用して発動させられる。『ハイド』と合わせれば、『ハイド・アウト』のタイミングも見極めやすかろう。
 こっそりと、オーガの影を踏んだ。息をひそめていれば、存外バレない物だ。『ハイド・アウト』の所作もほとんど終えていて、あとは十字を切るだけだった。準備は欠かさない。一秒一秒が、相応の重さとなってファーガスに圧し掛かる。
 残り、三十秒になった。あと十五秒経てば、聖神法による制限時間付きの迷彩を着込んで最後の五秒で逃げればいい。
 そのように考え、ファーガスは少し気を緩める。そういう、詰めの甘さが彼の弱点だった。
 オーガはその瞬間を狙ったように踵を返し、ファーガスを真正面に捉えた。そして迫りくる豪腕。「またかよ!」と少年は叫び、間一髪で避ける。
 『ジャンプ』で飛びのいて、十字を切った。聖神法の発動と同時に、再び、身をかがめて奴の影を踏む。
 オーガは姿を消したファーガスが逃げたのだと解釈し、苛立ったように足早で密集した木々の中を歩き回り出す。ファーガスは『ハイ・スピード』を発動させていたため、特についていくのも苦ではなかった。
「あっぶねー。背筋ヒヤッとしたっての」
 ファーガスの短所が詰めの甘さなら、長所は切り返しの早さだ。天性の勝負勘のようなものを持っていて、短所によるミスが致命的なものにならない。
 そう何度も見つかって逃げ回るようなへまをしてたまるか、と誰にともなく勝ち誇る。『ハイド・アウト』が切れてもオーガはファーガスに気付かず、時間も稼げたとファーガスは一旦身を退いた。
 木の陰で息を吐く。何度かひやりとさせられたが、ここまでは順調だ。
「さぁて……。ここからはマジで気張ってかないと」
 今までは逃げられた。だが、次からは逃げられない。一発で成功し、何もかもやってしまわねば、また最初からになってしまう。我ながら随分と杜撰な計画であった。しかし単独だと手札が少ないのだ。
 ファーガスは、改めて木に登った。そして祝詞と発動の所作。心臓の鼓動が、先ほどの比ではない。体の調子を確認し、片手剣とは別に用意していたサバイバルナイフを手にする。敵を倒す用でなく、持参した食料を開けたり、邪魔な枝葉を斬ったりと言う雑事用だ。
 失敗したら、もはやグズグズしている時間はない。さっきまでの予想と違い、このオーガは囮作戦が効く。ベル一人に、それもソウイチロウを連れて下山させるのは非常に心もとなかったが、ファーガスがオーガを引付ける間に逃がすしか手がない。
 ファーガスは、天に命運を任せるという事が嫌いだ。キリスト教だが唯物主義的な所がある。要は、心配性なのだ。
「俺が今やりあってる間に、変なのに見つかってませんように」
 他のことを考えると、緊張がだいぶほぐれた。ファーガスはオーガに目を向け、再度緊張が襲い来る前に、一息に跳んだ。
 そして、オーガの首根っこにしがみつく。
 衝撃に、オーガの体が微動した。ファーガスはそれに、ただひたすら物に掴まる感覚でオーガの首を抱きしめた。オーガは、ファーガスに手を伸ばさない。無事、『ハイド・シャドウ』が発動している。
 ゲームを良くするファーガスは、「セーブしたい……!」と渋面で呟いてからタブレットを取り出した。オーガはいまだファーガスを探していて、駆け足気味なのでとにかく揺れる。タブレットや何かを落として――などと考えると、ゾッとしなかった。必要以上の握力を込めて、荷物を握りしめる。
 『チェック・マークⅡ』の紋様を表示させ、それを盗み見ながらサバイバルナイフでオーガの側頭部に刻んでいく。脳天でないのは、非常時のことを考えてだ。投げ出されたとき、最悪剣を投げて当たればこいつを卒倒させられるかもしれない。
 複雑な図形を、念を入れて注意深くナイフで書いていく。オーガの肌からは、血すら出ない。どれだけ硬いのだ、と思ってしまう。 隙を見て頸動脈を描き切ってしまえばと言う考えもあったのだが、それは今のファーガスには出来ないようだった。大人しく浅い傷を入れ続ける。
 奇妙な時間だった。亜人の多く出るこの山で、黙々と芸術の真似事をしている。その癖頭は揺れに揺れ、しがみつくのに必死なのだ。あと、二つ線を入れるだけで書き終わる。
 一つを、刻みいれた。最後だ、と思うと余裕ができて、周囲を見回すだけの視界がよみがえる。
 オーガは、密集していた木々の中から抜け出していた。ファーガスのことを諦めたのかもしれない。
 そして、十数メートル先にはベルがいた。オーガを見つけ、動けなくなっている。
 『ハイド・シャドウ』発動中は、他の人間からも見えなくなるという注意書きが先ほどの効果の下に書いてあった。敵から邪魔されないための措置という事らしかったが、今回は裏目に出たと言っていい。
 ファーガスの姿がオーガの首上に見えたら、流石の彼女でも逃げようという気になっただろう。けれど、今は出来ない。足場が大きく揺れ、オーガがベルに突進していくのが分かって血の気が引いた。最後の一描きを側頭部に付け足して、大きく跳躍する。
 雪の上を転がった。ベルの三メートル先。ファーガスは立ち上がり盾を構える。その寸前に、オーガは少年の首を掴んでいた。
 掴みあげられる。首に、圧力がかかった。へし折られる。そんな予感が、ファーガスを貫いた。
 必死になってもがく。腰袋から剣を取り出し、オーガの手首に突き刺した。だが、刺さらない。奴にとって、この剣は幼児用の鋏にも等しいらしい。
 都合の良い援軍など期待は出来なかった。ローラや、ハワード。カーシー先輩がいたら何も心配することはなかっただろう。ファーガスは、気が遠くなりつつあった。首の骨が砕けるのが先か、呼吸困難で死ぬのが先か。真正面から、オーガの表情が見える。醜く、愉悦にゆがんでいる。
 少年の視界の中に、ベルは居なった。それでも近くにいるはずだから、苦しい中声を絞り出す。
「逃げろ……べ、ル……! 俺が死んだら、すぐこいつはッ、おま、えを殺、す……! 早く逃げろッ……! あが、ぐぁ……」
 首の骨が軋むような感覚。死ぬのだと思った。体は半ば脱力していて、『使うか』使うまいかの葛藤も出来ない。ファーガスは、走馬灯のようにゆっくりと、今までの記憶をさかのぼっていた。今世の記憶。UKの独特な古めかしい雰囲気のある趣深い景色と、ベルを中心とした友人たち、家族。今世が終わると、前世のそれが始まる。前世に関しては、時系列に従って思い出された。生まれて、育って、友達ができて、それがベルに瓜二つで――最後には、『あの情景』で終わる。
 ここで虫けらのように死ぬのは、贖いになるのだろうか。思ってしまう。いまだファーガスは、前世との決別ができていない。
 その時、ファーガスは体にかかった衝撃に我に返った。気づけば、自分は雪の中で這い蹲っている。何度か激しくせき込んで、状況を把握するとオーガが側頭部に矢を突き立てて息絶えていた。
「ファーガス!」
 顔を涙で濡らして、ベルは少年に抱き着いてきた。その華奢な体は、震えている。手には弓。ファーガスは、信じられない気持ちで尋ねる。
「……まさか、ベルが……?」
 彼女は感極まったのか、頷きながら泣きじゃくった。それが、ファーガスには堪らなく嬉しい。この情動は、弱り切った彼女を見た者にしか分からないだろう。
「良かったな。……本当に、良かった」
 ファーガスも、彼女を抱きしめ返す。こんな風に甘えてくるベルはまるで、ファーガスの妹のようだった。実際、少年が少女に向ける感情と言えば、それに近い。どんなに素気なくとも、嫌いになりきれず心配してしまう。それには様々な要因があった。だが、今それを考えるのは面倒くさい。
 ベルに回復してもらい、寝覚めないソウイチロウを担ごうとした。その時、密集した木々の中から何ものかが出てくる。
 また、ヘル・ハウンドか。ファーガスはそのように思った。だが、違った。もっと、性質の悪い物だった。
 オーガが、ニ匹。思わず「嘘だろ……?」と漏らしてしまう。
 オーガは通常群れない。だが、臨時に徒党を組むことがあると聞いていた。それは繁殖期もそうだし、外敵に備える時もそうであると。
 だが、そんなのは余程運が悪くない限り遭遇しないはずなのだ。オーガは本来夜行性で、他の夜行性の亜人に比べたら少しだけ生活リズムが崩れやすい。そのために、だいたい一年に一度第六エリアに現れるのだと。
 夜の山は危険度がぐんと高くなる。十万近くポイントを貯めると第七エリアとして開放されるのだと、イングランドクラスの寮長から聞いた。とはいっても、オーガクラスの化け物などは第十二エリア――夜の第六エリアでも見かけることは滅多にないらしい。一カ月に一度ほど、観測されると聞いていた。その場合も人数次第では避けた方が無難なのだ。
 ファーガスは、気が遠くなった。怪我はないが、先ほどの首絞めが精神に効いている。立ち向かえと言われても、足が動きそうになかった。
 逃げられるかを考える。ベルはだいぶ調子が良さそうで、逃げるだけなら出来そうだった。問題は、ソウイチロウだ。彼を担いでとなると、逃げ切ることは叶わないだろう。
「……はぁぁ。ベル、助けを呼んできてくれ。俺がこいつら引付けとくから」
「え、でも……」
「いいから。さっきみたいに撃退なんて考えてないし、引付けるだけなら危険は少ない。ほら、早く!」
「う、うん!」
 ベルが駆けだすのを見届けてから、オーガを見やる。奴らは、ファーガスなど見ていない。どちらもソウイチロウを注視し、警戒しているのか中々近づいてこなかった。
「マジで、何やってたんだよソウイチロウ……」
 その癖、騎士候補生は無傷で無力化するのだという。起きたらどんな反応をするのか、ファーガスにはちょっと想像が難しい。
 オーガたちはソウイチロウが本当に気絶しているのだと理解し、近づいてくる。それを遮るべく、ファーガスは立ちふさがった。オーガ二匹は一様に数秒足を止め、すぐに再び一歩踏み出す。
「無視しようとしてんじゃねぇぞ、この野郎!」
 炎を纏う剣を、地面に突き刺した。すると地面の雪が急激に昇華して、濃い湯気が立ち上る。オーガたちはそれに警戒して飛び退いた。ファーガスは、それに追い打ちをかける。
 オーガを足止めするには、奴らに警戒されねばならない。しかし傷を負わせられるような威力の高い攻撃法が、すぐに発動させられるものの中にないのも事実だった。
 ファーガスは思考する。敵を殺すほどの物でなくともいい。激昂させられるだけの痛みを追わせられる方法が、何かないものか。
 オーガの一匹が、その漆黒の腕を振るう。冷静に聖神法を発動させ、盾で防いだ。それが、連続で来る。聖神法自体は簡単で、対応自体は出来たものの、連打の終わりに盾の破損を感じた。あと数回受ければこの盾は壊れるだろう。勿体なかったが、命には代えられない。次の盾を袋から取り出す。
 盾も剣も、通常ファーガスは五つずつ常備していた。盾はすでに二個費やしたから、残りは手持ちを含めて三個。助けが来るまで持てばいいのだが。
 対する奴らは、自分たちの攻撃を防ぐ外敵と言うのに慣れていないのか、ファーガスを警戒し始めたようだった。じりじりと間合いを変え、挟み撃ちになるよう誘導している。少年は苛立ち、片方のオーガを睨んだ。目が合う。そういえば、先ほどの合ったとファーガスは思い出した。
「――そうだ、目だ」
 ファーガスは挟み撃ちにされる間に、正面のオーガに向かって一息に三つの聖神法を発動させた。『ハイ・スピード』、『ジャンプ』、そして『フレア・ブレイド』。
 跳び上がる。強化された跳躍力は、三メートル近いオーガの正面にまでファーガスを導いた。奴は彼を捕えようとするが間に合わない。そして、剣を突き出す。
 剣を回収する間はなかった。だが、初めて効果的なダメージを負わせたという実感が生まれた。ごうごうと音を立てて燃える片手剣が、オーガの虹彩を貫いている。絶叫が上がった。太く、低く、猛獣のうなり声と変わらない。
 袋からさらに剣を取り出し、反対側のオーガに目を向けた。オーガは唖然としていて、ファーガスの好戦的な笑みを見て感情の見えない微動をする。少年は、構わず駆け寄った。止めようとする手が伸びたが、正面からの攻撃など当たるわけがない。
 ファーガスは跳び上がった。再び剣に炎をともし、構える。そして、ファーガスの腕が何者かに掴まれた。肉厚なそれが、人間の華奢な腕を折るなど容易い事だった。

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