武士は食わねど高楊枝

一森 一輝

1話 勝気なビスクドール(2)

 ファーガスは、十二番目に洗礼を受けた。一人ひとり個別に行われ、他人の様子などが見えない。騎士叙勲の洗礼というものは神聖なもので、聖神法を与え給う神と、その代行者。そして洗礼を受ける新たな騎士にのみ許されるものなのだという。 要は、部外者はこっち見んなという事だ。
「ファーガス・グリンダー。汝はウェールズへの忠誠と奉仕、また神の敵たる亜人を殲滅することを誓うか」
「この命を懸けて誓います」
「ならば汝に騎士の称号と、我らが神の力の一端を与えよう」
 ステンドガラスから降り注ぐ、柔らかできらびやかな光の束。こんな自分でも、この言葉が、この場所が、自分は騎士たるに相応しい礼儀を身につけさせてくれる。 肩に、杖が置かれた。そして、祝詞。これが終われば、自分は神の僕として、イギリスだけの技術にして異能――『聖神法』を授かる。
 儀式は、何事もなく終わった。立ち上がると、何かが変わったような気がしてならなかった。部屋を出ていく際に、祝詞を唱えてくださった神父らしき人に、「頑張りなさい。主も私も、応援していますからね」と穏やかに励まされ、思わず漲った声で「はい!」と言っていた。
 この後には、入学式が控えている。ファーガスは、騎士になったばかりではあったが、面倒で仕方がなかった。これは昔からのことで―― 頭を、振った。
「早送りできたらいいのになぁ……」
 イングランドクラスの集会場所で、指定された順番で並ばされる。そして、イングランドクラスの教頭の話を、口と目を半開きにしてボーッと聞いていた。傍から見ればアホ面を晒して突っ立っているファーガス。しかし、新入生代表が壇上に上がった瞬間、顔つきが変わった。
「……ベル」
 薄い、銀髪と言っていいほどの金髪を、後頭部で一纏めにした少女。凛とした面差しは、まっすぐ壇上から民衆へ向けられる。大勢の人の前に立っても揺るがぬ自信は、流石は大貴族のご令嬢ともいうべきか。
 ファーガスは高揚して、小さく彼女に向かって手を振った。気づかれないかもとも思っていたが、構わない。自己満足である。しかし、彼女は気付いた。目が、合ったのだ。 口だけを動かして、彼女の名を呼ぶ。久々の再会し、胸が躍っていた。彼女もそうだろうと思っていた。
 だがベルが無表情を貫いたまま文章を読み上げ始めた時、何かがおかしいと気づいた。
「……ベル……?」
 気づかなかっただけとも取れる。それくらい、彼女の表情に変化はなかった。
 粛々と入学式は行われ、気づいたら終わっていた。明日は、施設の紹介があるのだという。授業がないだけマシか。とファーガスは欠伸をした。


 騎士学園は全寮制で、当然相部屋が採用されている。
 といっても、全員が、という訳ではなかった。大貴族など、飛び抜けた身分の者は、望めば一人部屋になることも可能だった。つまるところ、ファーガスは相部屋という事だ。どんな人物となるのか少々ワクワクしている。
「えっと……。きみ、グリンダー君?」
「あ、うん。ってことは、ベンジャミン・コネリー・クラークだな。よろしく、ファーガス・グリンダーだ。ファーガスって呼んでくれ」
「こちらこそよろしく、ぼくはベンでいいよ」
 部屋に入ってきた少年と握手した。彼が、相部屋の相手という事らしい。
 少々面長で、のんびりした雰囲気だった。ファーガスは、上手くやっていければいいのだが、と心配になる。自分が、あまり接したことのない人柄だ。昔から、少々あくが強いのに好かれるのである。動物しかり。
 だが、軽く話す分には話しやすい相手だった。貴族だが、地位が高いという訳ではないのだと。「貧乏貴族さ」と彼が笑っていたので、「庶民上がりの俺に比べれば全然だっつの」と軽く肘でどつきつつフォローを入れる。
 存外気が合って、とりあえずは二人でパーティを組もうと決めた。パーティというのは、来たる亜人討伐のための班の事だ。聖神法同様、あまり説明がなされていないが、機会を見てローラや――ベルも、誘ってみよう。
 翌日、学校を案内された。流石は貴族ともいうべきか、古式ゆかしい気品が失われていない部屋の数々に感動するベンを横目にファーガスはだいぶ参っていた。人工物に対する情緒心が薄いのが原因だろう。これが登山だったら別人かというほどの態度の差があったに違いない。 だが、そんな彼も最後の二つには興味を示した。
 昼過ぎ。騎士候補生にとって自分の教室などないらしく、毎回毎回移動教室だと言われた挙句事細かに説明されてげんなりなファーガスは、もそもそと昼食を食べ終えて食堂の机に突っ伏していた。ベンはそんな彼を健気になだめているが、どうも効果が薄い。
「だってここまでで面白いこと皆無じゃんどうでもいいよ化学室とか知らんわ爆発してろよ俺の知らないところで……」
「ま、まぁまぁ。次は野外に出るっていうから、気分転換になると思うよ?」
「野外ねぇ……。ここまでの説明の構成見る限り、とても期待できそうには思えないけどな」
「ま、まぁまぁ……」
 困った風にファーガスをなだめるベン。これでは自分が彼を苛めているみたいになってしまうので、仕方なく上体を起こして伸びをした。自分たちを先導する教官が昼休みの終了を伝え、ぞろぞろと新騎士候補生たちが付いていく。
「さて、これまでは退屈だっただろうが、ここからは騎士の騎士らしい施設を説明しよう。まず諸君らには、封筒に入っているタブレットを見てもらいたい」
 一度外に出て、今居るのは学園の敷地のはずれにある建物の中だった。シックな作りで、受付が大量に並んでいる。 スムーズにタブレットを取り出す他の生徒たちの中、ファーガスは一人、ちょっと戸惑い気味だ。まさか雑に扱っていた封筒の中にそんな高価なものが入っているとは思わなかったのである。タブレットの形状は市販のケータイにも似ていた。
「それは諸君ら専用のものだ。諸君ら騎士候補生は、言うまでもなく騎士にならねばならない。そして騎士になるという事は、亜人を倒さねばならないという事だ。そこで、我々はクエスト受注方式を採用している」
 何やらゲームの中で聞いたことのあるような単語に、ファーガスは耳ざとく反応する。
「諸君らは、義務教育の他に騎士たる教育を受けねばならない。そして最も効率のいい方法は、亜人との戦いの中に身を置くことだ。そのため、最低限必要な技術の習得を推し進めるとともに、諸君らには明日からでも亜人の討伐を行ってもらいたい」
 あちらの、受付に目を向けていただこう、と教官は言う。
「今日は説明という事で居ないが、いつもはそこに受付が居る。諸君らは、彼らと相談して亜人討伐依頼を受け取ってほしい。討伐は、その亜人を象徴する素材の納品で成功とみなされる。そして、成功した場合ポイントが支給される。全員、タブレットを起動しなさい」
 起動……、と首を傾げていると、ベンがファーガスのタブレットのどこかボタンを押した。「結構機械音痴なんだね、ファーガス」とからかわれ、「面目ない」と赤面だ。
「起動したら、左上のアプリに触れてもらおう。画面が出てくるはずだ。その右上に、『10』と表示されているポイントを確認してほしい。それは、諸君らの知識、権限、金銭に立ち替わるものである。……おっと、では、本職が来たので説明を変わっていただこう」
 受付の奥から、一人の女性が出てきた。身なりがしゃんとした、美しい人である。彼女はゆっくりとほほ笑み、「では、ご説明を引き継がせていただきます」と言った。
「ご覧のポイントは、様々なものに変換することが可能です。まず、先ほど騎士様が言われた知識についてですが、これは騎士候補生様の聖神法の技術を閲覧できるようにする、という事です。それでは、メニュー画面の『スキルツリー』をタッチしてください」
 よく分からないまま、言われたとおりにする。そこに現れるのは、何本かの、木のように枝分かれする表だ。丸い点がいくつもあり、その一つに触れると注釈が出た。
「……『ファイア・ソード』か」
 剣に火を纏わせ、その切断力を底上げする。また、敵に悪化し続けるやけどを負わせ、その体力を奪う。そのようなシンプルな名前の技が、魅力的なイラストと共に説明されていた。
「そちらに表示されているスキルツリーにポイントをつぎ込んでいただくと、その聖神法の御業の情報が得られるようになっております。亜人を討伐すればするほどポイントがたまり、使用できる御業の数が増えていくという形となっております」
 何処からともなく、期待に満ちた歓声が上がった。大抵は男子のものだが、女子もなかなかに楽しそうな表情をしている。
「まず、手始めにその中から御業を選び、ポイントを費やして情報を開放してみてください。ただし、他人の物をのぞき見するなどの不正行為があった場合、校則違反としてペナルティが課せられますので、くれぐれもそのようなことはしないようにお願いします」
 その時、数人の男子が短い悲鳴を上げてタブレットを落とした。彼らは自分たちに注目が集まっていることに気付き、焦ったように周囲を見回している。
 そこに教官が近づいて行って、拳骨を落とした。余談だが、騎士学園は体罰が存在する。もっとも条件が厳密なため濫用はされないし、万一濫用された場合でも、生徒が上級生を巻き込んで自主的に下剋上するため、あまり責任問題には発展しないらしい。
「と、ペナルティは大体このような感じです。他にはトイレ掃除などを行ったうえで、その分のポイントが差し引かれる、などがあります。不正を行った場合タブレットに電流が流れてすぐに露見する上、最も近くの教師に連絡がいくため、行わない方が無難かと思われます」
 教官からお叱りを受ける数人に頬を引きつらせつつ、ファーガスは大人しく自分のスキルの開放にかかった。スキルツリーというだけあって、最初は数少ない根元のスキルしか取れないようだ。軽く全体を見渡してみたが、習得が容易で危険度が少ない物から並べられていっている。
「えーと、初期状態で獲得可能なのは大体十個だな」
 ファーガスは、一つ一つ指で触れて、その情報を吟味していく。
 スキルツリーは全部で九本。それぞれ分類で、三種類色分けされていた。移動スキル、戦闘スキル、タブレットスキルの三つだ。前者二つが知識の開放で、最後の一つが機能解放という事だろう。
 移動スキルは、『ハイ・スピード』『ハイド』『サーチ』三つ。戦闘スキルはレイピア用の属性攻撃が四つ。すべて繋がった一本の木になっている。タブレットスキルは、『マップ』『ガイド』の二つだ。
 思わずうなってしまうファーガスだ。少年は、レイピアを使ったことがない。片手剣と盾が本領なのである。そのためやり切れなさに何度かスキルツリーを叩いていると、戦闘スキルのツリーが回転した。おや? と首をひねりつつ確かめる。すると、『レイピア』『大剣』『両手剣』『片手剣』『双剣』『弓矢』――など、様々なツリーが姿を現した。
「あ、そういう事か」
 ファーガスは片手剣のツリーに画面を切り替え、そのままの勢いで2ポイントの『ファイア・ソード』『アイス・ソード』の二つを取った。次いで、1ポイントの『リード・アタック』。攻撃を盾で防ぎやすくなるスキルだ。
「残り五ポイントか……」
 だんだん楽しくなってきたファーガス。口端に笑みをにじませつつ、スキル選びに熱中する。『マップ』は、必要不可欠だろう。『ガイド』というタブレットに目的地までの道筋を知らせてくれる機能も、非常に重要だ。土地勘がない山の中では、現在位置の分かる地図があっても危険は十分存在する。それぞれ1ポイント。残りは、3だ。
「うーん……。どれでもいいような、しっかり吟味すべきな様な……」
 『サーチ』、つまり索敵のスキルは非常に役立つだろう。だが、『ハイ・スピード』も捨てがたい。『ハイド』、隠れる技能は後回しでいいだろう。だがいずれ必要になるスキルだ。
「無難に索敵いっとくか……? っていうか、何だ、これ」
 端っこにあった『クラス・チェンジ』のボタンを見つけ、タッチする。するとスキルツリー全体がクルリと入れ替わり、右上の文字が『スコットランド』に切り替わった。「えっ」と声を出してしまうファーガス。周囲をうかがうものの、彼以外は全員自分のスキル選びにのめりこんでいて、反応する者はいない。
「……取っちゃっていいのか? いや、まずかったら最初から入れないか……」
 スコットランドクラスのスキルツリーを確認すると、移動スキルは大体同じで、戦闘スキルがだいぶ様変わりしていた。魔法、というとイメージしやすくなるだろう。杖を振りつつ祝詞を唱えて、『ファイア・ボール』といく訳だ。タブレットスキルは完全に同じものらしい。
 アイルランドクラスは、少々趣が違っていた。まず、移動スキルが五つもある。イングランド、スコットランド共通の物に加え、『ガード』『ジャンプ』の二つ。剣技はイングランドの物とは違い、剣に炎だのを纏わせないようだ。戦闘スキルは、『ハイスピード・ソード』『グラビティ・ソード』の二つ。ふむ、とファーガスは再び吟味を始める。
「こりゃあ迷うな……。個人的にはアイルランドクラスの『ジャンプ』ってのが何とも……。何々? 全身が羽のように軽くなり、移動困難な高所でも楽に身動きできます、か。これは取るしかないな」
 名前のダサさに関しては目を瞑ろう。これで残り1ポイントだ。
 1ポイントで取れるのは、スコットランドクラスの戦闘スキルに全クラスの移動スキル。アイルランドの『ガード』なんかも例外ではない。正直移動してないが、このスキル。
「っていうか、あれ。スコットランドの『サーチ』だけ移動しながら出来るのか」
 他のニクラスはその場で特殊な所作と共に地面に剣を突き刺すらしい。その場でしか、索敵ができないという事だ。敵を認識し続けられるスコットランドのそれと比べて劣っている。……まぁ、スコットランドのそれは酔いやすいと記されているが。
「……ま、こんなもんだろ」
 10ポイントを上手く使い切って、ご満悦なファーガスである。周囲もだんだん選び終えた生徒が増えてきて、互いに自慢し合っている。
「アレ、びりびりってなんないのか……?」
「ああ、何かね。解放された技術の中身を見せない限りは大丈夫なんだって」
 ベンがそのように言いながら近づいてくる。「こんな風に取ってみたんだ、どう?」とスキルツリーを見せられ、ファーガスは視線を巡らせた。
「レイピアの属性剣が三つ。タブレットは『マップ』だけ。『ハイド』と『ハイ・スピード』、それに……『サイレント』? 『ハイド』の上位系か」
「うん。ハイドのスキルは、敵に自分が認知されているかどうかを知ることができるスキルで、隠れる補助みたいなスキルじゃないか。それじゃあ心細いから、『サイレント』で自分の音を消せるスキルを取ったんだ」
「その割に戦闘スキルの攻撃系を三つも取ってんじゃん。好戦的なのかそうじゃないのかはっきりしろよ」
「だって、格好いいじゃないか! レイピアでシュシュシュ! って! まぁ本当のことを言うと両手剣がよかったんだけどね」
 身振り手振りで興奮を伝えてくるベン。結構面白い奴だなと再認識しながら、引っかかった発言にこう返す。
「あったぞ? 両手剣」
「えっ? 嘘だよ。騙さないでよファーガスったら」
「いや、本当だって。ほらここに」
 彼のタブレットの戦闘スキルを数回たたくと、両手剣のスキルが出てくる。ちらと見ると、ベンの表情が蒼白になっていた。
「ちょっ、ちょっと先生にやり直せないか聞いてくる!」
 駆け足で教官の元へ向かうベンを見送った。しかし、ファーガスの表情は少し硬い。
「……ベンのスキルツリーに、『クラス・チェンジ』のボタンがなかった……」
 一度軽く見せられた時は、微かな違和感だった。二度目、戦闘スキルの武器入れ替えを行う時にはしっかと確認したが、やはりそこに『クラス・チェンジ』の表示はないままだった。
 やはりミスなのだろうかと、ファーガスは首を傾げる。もっとも、自分に非がある訳ではないだろう。まず軽く使ってみて、使えないようだったら先生に直談判すればいい。
 肩を落としたベンが戻ってきて、それを慰めていると「全員再度注目!」という教官の声が響いた。先ほどの声の張り様よりも、びりびりして威圧的だ。再び受付嬢が話し出す。
「ではみなさん。それぞれスキルツリーを開放なさいましたね? それは後日練習していただくとして、次は『オープン・エリア』をタッチしてください」
 従うと、山の鳥瞰図らしきものが出てきた。頂上、中腹、麓の三つがまず円の線で区別され、更に麓の広い区域は四つほどに分割されている。中腹は二分割。頂上は一つだ。
「それらのエリアは、候補生様が亜人討伐を果たした際に得られるポイントの総合が、それぞれの規定値に達した場合に解放される仕組みとなっております。ボットレイ・ヒルは亜人の住まう山で、候補生様が最も足を運ぶ場所になることでしょう。それぞれフェンスで仕切られていますので、そのセンサーにタブレットを翳していただければフェンスが開く、という仕組みです」
「質問、いいでしょうか」
「はい、どうぞ」
 好奇心旺盛そうな少年が、受付の女性に手を挙げる。
「そのフェンスって、越えられるものなんですか?」
「はい。自力で越えることは、不可能ではありません。ですが実力の伴わないフェンス越えは最悪死の危険性がありますので、絶対に超えないようにしてください。また、超えた場合にはペナルティがあります」
「え、……てことは、亜人たちが」
「それについてはご安心ください。亜人に対してのみ発動される結界が張られています。それによって、彼らはフェンスに近づこうとは考えないのです」
「なるほど……」
 他の騎士候補生と同様、よくできたものだと感心する。流石は大英帝国の貴族学園と言ったところか。
 大方の説明が終わったらしく、「なお、このポイントはスキルツリーに回すだけでなく換金することも可能です。換金した場合の使い道は制限されておりませんので、武器を買うなり町にショッピングに行くなりご自由に」と言い残して、受付嬢は一礼の後奥の間に引っこんでいった。
 そして前に出るのは教官である。
「うぉっほん! では最後に、修練場に案内しよう! そこで諸君らは、スキル習得に勤しんでもらうことになる!」
 教官は建物から出て、今度は学園の中心にある広場に生徒たちを案内した。そこでは数人の候補生たちが打ち合いをしていたり、石柱に向かって聖神法を発動していたりしていた。
 中でも注目を浴びたのは、黒髪で長身の青年が石柱を壊すさまである。新騎士候補生でないギャラリーが何人もいて、一心に彼を見つめている。
 そして青年は、大剣を振るった。特殊なステップだった。大剣の重さを感じさせない剣速で、石柱に向かって十回以上の攻撃を加えていた。
 そして、瓦解。
 石柱は、いくつものこぶし大のきれいなブロックに小分けにされた。新騎士候補生たちが、歓声を上げる。そこでさわやかに汗を流す彼はこちらに気付き、軽く手を振り――教官に目を向けた途端、ギャラリー共々慌ててその場から去っていく。
「……何だ……?」
 その疑問はファーガス一人のものではなかったろう。だが教官はそれを無視して、「ここが修練場である!」と言い放った。どこか。先ほどよりも口調が荒々しい。
「諸君らは、ここでそれぞれが選んだ武器の使い方を学ぶだろう! 当然危険があるため、最初は我々教官が訓練を付ける。聖神法に関しても、基礎は同じだ。だが、発展する諸君らの能力は留まることを知らないだろう! すぐにでも授業の範囲を追い越し、自分だけの聖神法を身に着けていくはずだ。それで大いに結構! それこそが。意欲的な諸君らの成長こそが、我々教官の喜びだ! 分からないところがあったら積極的に聞きに来るといい。我々は諸君らの成長を何よりも優先する。 ――イングランド騎士候補生の諸君! 諸君らはアイルランドクラスの力強い剣舞、スコットランドクラスの摩訶不思議な神法が交じり合った剣技を使うことが可能な、どちらの国よりも優れた民族である! 誇りを持って、己の研鑽にいそしんでもらいたい!」
 ここに施設ガイダンスを終了する。教官は恭しく礼をし、新騎士候補生たちも礼をしてお開きになった。ざわざわと広がる喧騒。その中で、ポイントを割り振って選んだ聖神法の話をしていない生徒は少ない。
「ああ! 明日が楽しみだね、ファーガス! 早くこの聖神法を使ってみたいよ!」
 ベンの言葉を、ファーガスも満面の笑みで肯定した。微妙な懸念はあったが、そんなことがどうでも良くなるくらい少年は高揚していた。
 テンション高めに、ベンとハイタッチだ。

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