精霊使いと冠位の10人

いなお

埜々の戦い



康太がカトレアと戦う直前。
三体いたトロールの倍の大きさのトロールが落ちてきた。
トロールが地面に着地すると土煙が巻き起こり校庭一帯を包み込んだ。
次第に土煙がなくなり、その大きさが余計に際立つ。

「全くもう、さっきからなんなのよこの魔獣!」

巨大なトロールに光魔術を打ち込む。
しかし、先程のトロール同様、すぐさま傷口が再生を始めていく。

「あれをやるにしてもここじゃ・・・」

埜々中にはまだ切り札と呼べる魔術があった。
それを使えばこの巨大トロールでも一撃で葬り去ることも可能だろう。
だが、それは言わば光魔術の究極の一撃と呼べる秘技だ。
それを使用すればこの辺り一帯は間違いなく吹き飛ぶ。
故に、これだけは使用することができなかった。

「よし、決めた!スナイプでで押し切る!」

「閃光の弓矢(ライトニング・スナイプ)」ではトロールを倒せなかった。
だがそれでも今埜々がこの場でトロールを足止めできる魔術はそれだけだった。

「はあああああ!」


「閃光の弓矢(ライトニング・スナイプ)」を乱打するように放つ埜々。
しかし肉片一つ残っていれば、トロールはその凄まじい再生速度で回復していく。
そして右腕の部分が埜々の一撃で切り離される。
すると切り離された腕と残された方の身体が別々に再生され、トロールが2体に増えた。

「まさか分裂した!?」

そして腕から再生した方のトロールは埜々の攻撃を避けながら、校庭の外に出ようと駆け走り出した。

「行かせるか!」

しかし、埜々の攻撃は当たることなく、食い止めきれないと思った矢先だ。
トロールがどこからともなく飛んで来た水の塊に吹き飛ばされ校庭の中央に吹き飛ばされた。

「やっほー埜々ちゃん。よく1人でこんなのと戦ってたね」
「遠藤さん!」
「だから由美子でいいってばー」

青色の髪が空になびく。
魔法省名古屋支部長、遠藤由美子。
水属性魔術の最強の使い手と言ってもいい人物が援軍として現れた。
由美子の後ろには他の魔法省の職員が20人程度連なっている。

「こんな真昼間の安全区域内に魔獣が出たなんて聞いたからね。急いで駆けつけたわけだけど、でっかいねえこれは」

巨大なトロール達を見上げてその様子を伺う。
そしてまた校庭から出ようと走るトロールを睨みつけ、魔術を発動させる。
智香が使用していた「水の迷宮(アクア・ラビリンス)」を即座に発動する。
動きを封じられたトロールは不気味な呻き声をあげる。

「君達はこの周辺にいる一般人の避難を優先。あれは私と埜々でやるから」

そういうと職員達はすぐさま散らばり、その指示を全うする。
するとそそくさと走って、由美子は埜々の隣に立ち、埜々に向けてVサインをする。

「さあ、埜々ちゃん。君の本気ぶっ放しちゃいなよ!」


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