精霊使いと冠位の10人

いなお

光の魔術師


「一体どうなってるの!?」

康太に遅れて校庭に出てきた智香。
校庭にいるトロールを目にして、とても信じられないと言った表情でその光景を確認していた。

「智香!急いで人を避難させないと!」
「えっ?えっ?」

智香はあたふたとして状況を整理しようとしているが中々落ち着かない。
そんな姿をみて康太は咄嗟に智花のほっぺたを両手で挟んだ。

「落ち着け馬鹿」
「なっ!」

極めて冷静を維持する康太。
智香からすれば、普段の康太の様子から想像もつかない落ち着きを目の当たりにして少しドキッとしてしまった。

「今状況がよくわからない以上、ここにいる人達をあの魔獣みたいのから避難させるのがベストだと俺は思うっス。だからここは智香に任せていいっスか?」
「う、うん。私もそうだと思う。でも康太は?」
「俺は校舎の中を見回ってくるから、もし人が居たら一緒に避難すように言ってまわるっスよ。だから智香は校舎外にいる人たちに声をかけてきて」
「わ、分かったからこの手を離して!」

「はいはい」と康太はいい、智香のほっぺたから手を離す。
少し恥ずかしそうにして居た智香も、今の康太の行動で少しは落ち着きを取り戻した様子だ。

「じゃあ、そっちは任せたよ!康太!」
「任せろっス!」
そう言って康太は智香の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから校舎内に入り上へ上へと階段を駆け上って行く。
階段を上りながら、康太は二人の精霊に話しかけた。

「なんなんスかあれ!?全く気づかなかったんスけど!?」
(私も全く気がつきませんでした。申し訳ございません)
(いや、リーシャを責めるのは良くないぞ康太よ。あれはいきなり沸いて出たのじゃ)
「沸いた?」
(そうじゃ。妾達精霊からすれば、魔力の塊である魔獣が近づけば同じく魔力の塊である精霊は気配で大体わかる。けどあれは急速に近づいたとかではなく、突如としてそこに現れたのじゃ)

ハイネがリーシャを庇うように、その経緯を説明した。
魔獣の気配を探るのはリーシャよりハイネの方が優れているらしい。

「けど現れたってどうやって?」
(そこまでは分からん。ただ生まれ落ちたと言うよりは召喚されたという感じかのう)

召喚された。
つまりは誰かが意図的に魔獣をこの場に呼び寄せたと言う事だ。
しかし、なんでこんな魔術学校でそんな事をしたのだろうか。
そんなことを考えてながら康太は屋上へ続く扉を開けた。
屋上から校庭を見渡すとトロールの魔獣は至る所に校庭に穴を開けながら暴れ回っている。

「こっから誰にも見つからずにあれを倒せるっスかね?」

康太は二人に問いかける。

(申し訳ありません。私の炎じゃどうしても人目についてしまいます)

リーシャの炎は確かに目立つ。
何かしらの魔術を使えばどうしても屋上から放ったことがバレてしまう。

(仕方ない、ここは妾を使うのじゃ)

風の精霊であるハイネの力なら確かに人目に触れず、自然現象だと思わせることができる。
康太はハイネのその言葉に頷き、行動をしようとしたその時だ。
校庭から眩い光が溢れ出した。

「何っスかあれ!?」
(これは光の魔術じゃぞ!なんとも珍しい!)

驚くハイネをよそに康太は目を細めながら校庭を見ると、そこには神草埜々がトロールの前に立っていた。

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