生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした

T&T

49.イザベラの贈り物

「こいつぁすごいな……」

「本当……よくこの程度の損壊で残っていたわね」

 ユウ達天翔ける竜スカイドラゴンはイザベラを見送った後、イザベラの遺言に甘えて幾らかの魔法道具マジックアイテムを都市から頂戴し、ギフティアへと戻った。そしてネロ達に魔法都市遺跡の存在を報告すると、ネロは遺跡の軽微な損壊状況と転移装置、魔力源の話に目を輝かせ、迅速にギフティアの各ギルド代表に声を掛けては大規模な遺跡復興隊編成を指示した。
 ネロの編成範囲は騎士団の一部と共に復興隊の護衛を務めることになる冒険者達だったが、冒険者と言ってもピンきりであり、品格なく強盗団や窃盗団まがいの輩達も当然ながら存在するため、ネロは冒険者の中でも信頼の置けるベテラン冒険者を中心に声を掛け、自分がいなくとも問題ないよう復興隊の騎士団を率いる副団長の指示に従うように根回しをする。
 復興隊編成が完了すれば未開拓の魔法都市遺跡発見の報は、即座にギフティアに広まる。遺跡を賊に荒らされるわけにはいかなかったため、復興隊編成の間にネロとシャルは天翔ける竜スカイドラゴンと共に先発隊として遺跡に来たというわけだ。

「お前達が調査して、アンデッドキングを倒して無事に確保した遺跡だ。本当に魔法道具マジックアイテムはもういいのか?」

「僕ら、これでも結構いただきましたよ。知り合いの魔法道具屋に渡す分までもらっていますから十分です」

 そもそもユウとリズの武器防具は神からの授かり物だ。リズの白金色の輝きを放つ鎧はその見た目からして神々しさがあり、ユウの鎧も革鎧だったがこの革鎧もエリー曰く神竜の革ということだ。エリーのローブも神竜の鬣で編まれたもの、ルカの手甲等は神竜の爪を、鎧は神竜の鱗を加工したものらしい。そう思うとこれ以上の武具はない。その結果、4人共通の戦利品は外套だった。その外套も勿論、魔法が付与された魔法道具マジックアイテムだ。その他ユウは今ある短剣とは別にもう1つの短剣を、リズはスカイブルーの髪留め、エリーは先端に魔石がついたゲラードの杖、ルカは額当てが戦利品だった。その全てにイザベラの名が刻まれている。イザベラの名が刻まれていた魔法道具マジックアイテムはいくつかあったが、その大半をユウ達はいただくことにした。僅かな時間ではあったが、語り合ったあの一途で健気な女性に敬意を払い、その人のものをいただくことにしたのだ。

「無欲だよなぁお前ら。普通はもっと欲しがるもんだけどな」

「それであれば、ここを見つけた狩人にでもいくつか渡してあげてください、それで僕らは満足です」

「本当に、他の冒険者達にも見習って欲しいわ」

 ネロとシャルは褒めながらも呆れた様子で天翔ける竜スカイドラゴンを見る。実際、欲しくないと言えば嘘になるかもしれないが、今やお金には困っておらず、持ち過ぎていても使い道がない。それならばみんなで共有し、歴史や過去の遺産を紐解く方が魅力的だ。
 冒険者にとっては未知の世界へ飛び込むことの方が何よりの報酬なのである。そう思えるユウ達天翔ける竜スカイドラゴンもいつの間にか、立派な冒険者の仲間入りをしていた。

「それより復興隊の本隊が来た後ってどうなるんです?」

 遺跡の様子に目を輝かせるネロに言葉はもう届かないと思ったのか、リズはシャルに向かって疑問を投げかける。

「まずは地上と地下を繋ぐ道をしっかりと繋げることからね。あの小道のままじゃ物を運び出すのも運び込むのも大変だし。その後、都市の中に拠点を移して、この都市を住めるように修復。落ち着いたら、転移装置の解析ってところかしら」

「街の修復とか、時間かかりそうですね」

「大丈夫、各ギルドから集められたのはみんな超精鋭よ。あなた達が思うよりも、きっとあっという間だわ」

 あっという間とはいえ、どう少なく見積もっても修復には半年はかかる規模に思える。ギフティアよりは小さいにしても、建物の数は軽く100棟は超えている。石造りであるために造りはしっかりしていそうなものの見た目はボロボロだ。建物として利用するためには劣化の有無の確認からになる。相当な時間を必要とする気がした。

「私達、本隊が来たらギフティアに戻ろうと思うんですが、ネロさんとシャルさんはしばらくこっちでの生活になるんですか?」

 リズのその言葉にユウは一瞬顔を輝かせる。ギフティアにいる間はほぼ毎日行われているネロの地獄の特訓から少しの間だけでも解放されるのではないかというささやかな邪念がその胸をよぎったのだ。しかし――

「ネロはそれを望むでしょうね。でも、今やそれなりの立場だから、立場がそれを許してくれないのよ。一先ず、これから私達だけで行う魔力源の起動が安全に行われれば、本隊到着後、私達もギフティアに戻るわ。次に来るのは、転移装置の解析の時ね」

 束の間の安息の日々を夢みたユウは何も言えずにがっくりと肩を落とす。とは言えユウ自身、強くならねばと思っているわけで、そのささやかな邪念が実を結ぼうとも心から喜べるわけはなかった。

(ただ、たまには、本当たまには、何も考えずにリズと過ごしたいって思っただけだし……)

 などと誰に届くわけもない言い訳を胸の内でボヤく。近場をグルッと見て回ってきたネロがそんなユウの肩に手を置きながら会話に割り込んだ。

「その時は、お前らも来るんだぞ」

「え、僕らも?」

 イザベラの話によれば、魔力源はスイッチ1つで問題ないはずだ。転移装置の使い方までは聞けなかったが、これもそんなには難しくないはず。しかし、それもやはり何の知識もないユウ達が行うわけにはいかないため専門家達にお任せするしかなく、ユウ達の出番はないように思えた。

「当たり前だ。転移装置が無事に動かせるなら、もしかしたら空中都市、いや、天空都市に行けるかもしれないんだぞ。最初に足を踏み入れるのは、俺らとお前ら天翔ける竜スカイドラゴンしかいないだろ」

 敢えて天空都市と言い直したのは、ユウ達天翔ける竜スカイドラゴンの通り名に合わせてくれたのかもしれない。確かに空中都市よりも天空都市の方が響きはカッコよくテンションが上がり、惹かれるものがあった。

「そうですね、その時は是非」

 ユウは仲間達の判断を仰ぐことはせず、目配せだけをする。ユウのその言葉に反対する素振りを見せたり嫌がる表情をしたりするなどは当然のことながらなかった。

「おしっ、じゃあ本隊が来る前に一仕事しますかね」

 ネロがそう言うと、一行は魔力源があるオベリスクへと向かって歩いていく。オベリスクの扉をくぐると、その先は更に地下へと続く階段になっていた。

「何でお前ら魔力源見なかったんだ?」

 エリーの星魔法に照らされる階段を降りながら、ネロがその声を響かせる。ユウ達はイザベラが昇天した後、遺跡内をエリーの魔法の灯りで探索した。魔力源に下手に近づいて、壊したりでもしてこの遺跡に悪影響を与えることを恐れたのだ。

「いや、僕らじゃ見たところでスイッチわからないかなぁって思って」

「私達の中には、こういうのに詳しい人いないですしね」

「まぁ正解だな。未知のものに飛び込むのは冒険者として大事だが、目的はこの遺跡の安全確認だったわけだ。魔獣やアンデッドがいなくなったところで引き返したお前らの判断は決して間違ってないよ」

「そうね、どこでも飛び込んでいくネロに昔どれだけ酷い目に遭わされたか。自分達の身の丈を知り、踏み止まれることも冒険者には必要な素養よ」

 呆れた様子で昔を思い出しているシャルの発言はネロにチクリと刺さったのか、ネロはバツの悪い顔をしている。好奇心旺盛なネロが目の前の未知に踏み止まれるとは確かに思えなかった。
 そんな和やかな会話も魔力源が見えてきたことによって終わりを迎える。階段を降りきった先には、クリスタル型の5メートルの高さはあろう大きな魔石がはめ込まれた装置が見えた。その装置の台座からはその背面へと縄のようなものがいくつも伸び、壁の中へと消えていた。

 魔石が魔力源なのかと、そこでユウは疑問にぶち当たる。魔石が魔力源だとすれば、いつかは魔石の魔力は枯渇するはずだ。しかし、その疑問はネロによってすぐに解消される。

「これが動力源ってことはまさか……吸魔縮石か?しかもこれほどの大きさなんてマジかよ、石と言うかもう岩だな。吸魔縮岩だ」

「吸魔縮岩?」

 ネロの呟きをユウは繰り返す。目の前の魔石、いや、魔岩をネロとシャルは知っている様子だが、もちろんユウ達天翔ける竜スカイドラゴンはみなその目をパチクリとさせている。

「とても稀少な魔石よ。魔力を吸収し、濃縮する魔石。魔石は魔力を使い切れば砕け散るけど、この魔石は魔石内の魔力を使い切っても砕け散ることなく何度も使えるの。使った魔力は大気に漂う魔力を吸収して回復、ただ、再び同様の魔力を蓄えるまでには長い時間が必要だけどね。加えて取り込んだ魔力を濃縮までするから、込められる魔力量は通常の魔石の比ではないわ。そんな魔石の、こんな大きいものを見られるなんて……」

 ネロもシャルも驚嘆の溜息を吐きながら装置へと近寄り、天翔ける竜スカイドラゴンは黙って2人の後を追う。
 台座の前まで来ると、台座に文字らしきものが書かれているのが見える。この世界の文字は読めていたユウであったが、その文字は理解できなかった。ネロがその文字を指先でなぞりながら呟く。

「古代語だ」

 次から次へと新しい言葉が出てくる。やはり自分達だけで踏み込まなくて正解だったとユウは思った。そして台座の脇に、人一人分の骨が横たわっていることに気付く。

「あ、もしかして――」

「お前らが会ったっていう女性の幽体レイスか?」

「そうです、イザベラ・ルイ・フェルトバッハさんです」

「イザベラ・フェルトバッハだと?!」

 ネロが急に大声で叫んだため、その声にみんな、シャルすらも驚いて肩を竦める。

「ど、どうしたんですか急に」

「イザベラ・フェルトバッハ……研究者の中では高名な付与術師エンチャンターだよ。付与術師エンチャンターとして有能なだけでなく、他にも沢山の魔法に精通していたらしい。書物の中にも名前がよく出てくる人物だ。フェルトバッハの魔法道具マジックアイテムは性能も高く、魔法道具マジックアイテムに精通する者なら喉から手が出るほど欲しいもんだよ」

「え、そんなすごい人だったんだ……」

「あーくそ、羨ましい。イザベラ・フェルトバッハと話したとか羨まし過ぎるぞこの! この! この!」

 ネロがユウにヘッドロックをキメてくる。リズは苦しそうに呻くユウを心配する素振りはなく、事の重大さに顔を蒼くしていた。

「ユウ、どうしよ、私達がもらった魔法道具、全部イザベラさんのだよ? みんなに行き渡った方がいいよね?」

「あぁすまん、気にするな。1つでも残っているなら、それをギルドで管理させてもらえれば付与構造を解析できるからそれで構わない」

「魔法道具屋の知り合いに渡す中にも入っていますけど……」

「それも構わん、持っていってやれ。その知り合いってのが誰かは知らないが、一介の魔法道具屋なら恐らく二度と出会えない代物だ。発狂するかもしれんぞ」

 ユウ達は戦利品としていただいた物がとても貴重な魔法道具マジックアイテムであったことをネロの反応から思い知る。ネロにこれ程までの反応をさせるなら、ギフティアの魔法道具屋ランドへの手土産としては申し分ないはずだ。ユウはランドとの約束を漸く果たせる時が来たと安堵する。

 そんな会話を横目に、シャルがイザベラの骨をちゃんと弔うためにまとめて袋にしまっており、それに気づいたリズも手伝うために駆け寄ったのだった。




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