生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした

T&T

15.神都『ギフティア』

「うわ~すごいすごい! 大きな街だよ! 剣と魔法の世界の都だよ! ぽいよ! ぽい!」

 リズが目を輝かせて神都の大通りを駆けていく。通り沿いにあるお店の商品を眺めては店の主人に話しかけ、商品が何なのかを確認しては目を輝かす。あぁいう無邪気な姿を見ると、年上なはずなのに年上に見えない。
 中央方向には大きな城の一部が見え、ペイニアもそれなりに大きな街だったが、それと比べても全く想像がつかない程、この神都は大きいということだけは確かだった。
 ここは神都『ギフティア』。
 遥か昔、まだ神が人の形をなし、人と共に生きていた時代、神と邪神が争っていた時代、何とか邪神に打ち勝った神が、神と共に邪神との最終決戦に挑んだ冒険者への感謝の印として贈ったとされる神の都がここ、神都『ギフティア』である。神の祝福を受けたこの都は栄華を極め、魔法都市滅亡の折にもその被害を受けることなく、平穏な時代を守り続けてきている――とのことらしい。もちろんこれは全て宿屋の主人の受け売りである。
 やはり昔、神は人と共に生きていたらしい。非常に興味をそそられる神話である。この話を聞き、『神都』の意味をようやく理解した。
 昼前に神都に到着した僕達は、まずはじめに宿屋を探し、神都における拠点とした。この神都は神に祝福されているというだけあり温泉も湧いているらしく、どの宿屋にも風呂がついている。風呂付宿屋の値段はだいたい一泊あたり銀貨30枚。シングルでだ。ツインであれば銀貨50枚。シングル2部屋よりも銀貨10枚ばかり安い。僕は同室なのはさすがに色々とまずいと思ったので2部屋取ろうとしたが、節約だとリズにツイン1部屋で押し切られた。

 金貨50枚で1か月は十分生活できると言われていたが……確かに、金貨50枚では100日の滞在が可能である。とりあえずサービスがしっかりとしていそうな印象を受け、馬も置ける小綺麗な宿屋『銀月』で、約1か月分の宿泊費金貨15枚と長期滞在することのチップ代わりとして5枚、計20枚をその場で前払いすると、宿屋の主人は目の色を変えて、日々の朝食と馬の世話はサービスだと言ってくれた。どうやら冒険者は宿屋を転々としたり、宿代を後払いにして逃げたりする人もいるらしく、長期間の滞在やまとめて前払いということはないらしい。

 そして宿屋を決めた僕達はギルド本部の場所を探しながら、この神都の街並みを色々と物色しているところだ。宿屋の主人が場所を教えてくれようとしたが、急いでいるわけでもなかったので街を見ながら探すことにした。

「欲しいものがあれば、買ってもいいんじゃない?」

 目を輝かせるリズに声をかけるが、簡単に窘められる。

「ダメ、依頼クエストをちゃんと達成して、自分の力で稼いだお金で買いたいの」

 僕達の手元にあるお金はペイニアの領主が御礼としてくれたお金のみである。リズが賊から巻き上げたお金はちゃんとペイニアで身の回り品を揃える時に使ってきた。それが残っていたとしても、自分達でちゃんと稼いだものとは言えないため、そうした意味では自分達で稼いだお金はまだ一銭もないのだ。リズの気持ちもよくわかる。
 通りに並ぶ店の主人達と一言一言会話する度に、ギルド本部の場所の方向が間違っていないかだけを聞きながら街を歩くと、しばらくして豪奢にそびえ立つ建物が見え、リズが声を上げる。

「あ、あれじゃない?!」
 高さはいかほどだろうか。近づいてみると、その高さはタワーマンション並みだ。ぐるっと周りを回って見てみれば外観は円柱のようだった。僕達が歩いて来た通りのちょうど反対側が正面入り口だった。 重機なども見かけないこの文明の中で、これだけの大きさのものを作れるとしたらそれはもう魔法以外ありえないと思われた。
 中に入るとその作りも立派そのものだ。大きな両開きの扉を開けると、内壁は外観同様円形に広がっていて、数歩先には人が5~6人並んでも同時に昇降できるほどの幅のある階段がある。その階段の後ろには主に冒険者達の交流の場なのだろう、ホールになっていて椅子やテーブルが沢山置かれているのが見える。
 その場を取り巻く1階部分の壁面全てには依頼クエストと思われる張り紙を貼る掲示板が敷き詰められていた。神都であり、かつ、冒険者ギルドの本部だけあって、依頼クエストの量も報酬も桁違いなのだろう。依頼クエストが多ければ多いほど、ビジネスは潤うものである。その結果が、この豪奢な建物なのだと思われる。
 目の前の階段の裏側部分にあたるちょうど入口から正反対の場所には、依頼クエストを受理するのであろう窓口が見えた。受付はどこかと階段を上ると、その先に受付らしきものがあった。
 本登録をしにきた旨を受付で話し、ネームタグを受付に渡す。受付はその中の情報を読み取ると、えっ……と声を漏らし、僕らに背を向け手に持った小さいクリスタルのような石に向かって何かを小声で話している。そして再び僕達の方を向くと、僕達は更に上階の部屋の35-2に行くよう案内された。受付から両脇に伸びる右手側の階段に向かおうとすると、受付に呼び止められる。

「こちらをお使いください」

 受付が指し示す手の先、受付の裏側にあたる部分には人が8人程度入れるクリスタル型の大きな鳥かごのようなものが5台、それぞれ淡く光るレールのようなものに囲まれ、宙に浮いていた。

「エ、エレベーターかな?」

 魔法文明の発展に驚きを隠せずに、リズを見る。

「た、たぶん?」

 エレベーターと思われるクリスタルは、このタワーマンション型ギルド本部の上層に繋がっているであろうことが見て取れる。リズもこの状況に目をキラキラとさせ、驚きながらも興奮しているのがわかる。
 乗り込んでみると、果たしてそれはエレベーターであり、目の前に現れた発光パネルの数字の中から35という数字を押すと、エレベーターは光を発し上層へと動いたのであった。
 本登録だけでこんな上まで向かうのだろうか。違和感を覚えながら、僕達は魔法の産物のクリスタルエレベーター、略してクリベーターでこの豪奢な建物の最上階へと吸い込まれていった。



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