異世界戦国記
第七十八話・加納口の戦い、その裏で
「お館様、尾張の織田信秀。斎藤家との戦を始めました」
「そうか」
駿河国今川館にて太原雪斎から報告を聞いた今川義元は短く答えた。そしてそのまま腕を組むと長考に入る。考える事は勿論織田信秀に関してだ。
「(斎藤家を倒せば織田は美濃と尾張を領有する大大名になる。とは言え”美濃を制する者は天下を制する”と言われる程重要な場所でありその分統治するのは大変である。しかし、織田信秀なら美濃を統治する事など容易であろう……。ならば我らの取る選択肢は)」
義元がそこまで考えた時であった。小姓が一人の男の来訪を告げた。義元は今から行う下知に無関係とは言えない、むしろ関係者と呼べる者の来訪はまさに願ったり叶ったりであったためその者を呼ぶ。
やってきたのは十歳そこそこの少年であった。線は細く武将というには難しい体躯をしていたがその瞳には憎悪とも取れる感情が見え隠れしていた。
少年は義元の前に来ると恭しく頭を下げていった。
「お館様。お初にお目にかかります。松平広忠と申します」
「うむ、そなたが清康殿のご嫡男か。……成程、清康殿に似て将来有望そうだな」
「いえ、私では父上のようにはいきませんでした。恐らくこれからも……」
そう言った広忠は拳を強く握りしめる。松平信定に実権を奪われ更には父の時代には忠誠を誓った国人たちは一斉に反旗を翻した。今も松平家と共に今川家に従属しているが松平ではなく今川に忠誠を誓っている状態だった。
その事から広忠には自分には父のような能力も魅力もないのだと見せつけられている様で惨めであった。それは義元も感じ取る事が出来ており丁度良い復讐の場となるだろうと考えていた。
「広忠、そなたには尾張侵攻の先陣を任せる」
「それは……」
「そのためにはそなたを松平宗家とする必要がある。後見人気取りの松平信定はこちらで何とかしよう。そなたは自らに従う家臣たちを集めて尾張攻めの準備をせよ」
「……はっ!」
義元の言葉に広忠は頭を下げる。広忠の表情は歓喜に包まれていた。自分の父を殺した織田家を滅ぼす事が出来る。それも今川の力を借りつつも自らの手で。それが広忠にはとても嬉しい、まさに褒美と言って差し支えない物であった。
広忠を下がらせ改めて家臣を呼ぶ。朝比奈、岡部、安倍など、今川家が誇る家臣たちが集合する。彼らは誰一人声を漏らさず義元の言葉を待つ。
「……者ども、時は来た。五年前に領土を取り戻し、三河を手に入れた我らは国力を高めた。更に北条と武田と盟を結び東側の脅威を排除した今、近年尾張を統一しようとしつつ美濃すら手に入れようと動く織田信秀を倒す時である! 我ら今川の力を知らしめよ! 織田を降し尾張を盗り、我が一族である名護屋今川家の無念と信秀に降った裏切り者を後悔させるのだ! 者ども! 戦支度を始めるのだ!」
「「「おうっ!!!」」」
今川義元を中心に今川家は尾張攻めの準備が開始された。駿河を中心に遠江、三河とその話は広がり今川家に仕える者たちは兵を集め武器を整え今川軍に合流しようと動き出し従属しない国人たちは恐怖し自らに槍が向けられないことを祈るしか出来なかった。
そして、その動きは尾張にも伝わり留守居役の河尻親重は今川動くの報を急いで信秀に伝えるのだった。
今、織田家最大の敵である今川の力が織田家に、織田信秀に向けられようとしていた。
「そうか」
駿河国今川館にて太原雪斎から報告を聞いた今川義元は短く答えた。そしてそのまま腕を組むと長考に入る。考える事は勿論織田信秀に関してだ。
「(斎藤家を倒せば織田は美濃と尾張を領有する大大名になる。とは言え”美濃を制する者は天下を制する”と言われる程重要な場所でありその分統治するのは大変である。しかし、織田信秀なら美濃を統治する事など容易であろう……。ならば我らの取る選択肢は)」
義元がそこまで考えた時であった。小姓が一人の男の来訪を告げた。義元は今から行う下知に無関係とは言えない、むしろ関係者と呼べる者の来訪はまさに願ったり叶ったりであったためその者を呼ぶ。
やってきたのは十歳そこそこの少年であった。線は細く武将というには難しい体躯をしていたがその瞳には憎悪とも取れる感情が見え隠れしていた。
少年は義元の前に来ると恭しく頭を下げていった。
「お館様。お初にお目にかかります。松平広忠と申します」
「うむ、そなたが清康殿のご嫡男か。……成程、清康殿に似て将来有望そうだな」
「いえ、私では父上のようにはいきませんでした。恐らくこれからも……」
そう言った広忠は拳を強く握りしめる。松平信定に実権を奪われ更には父の時代には忠誠を誓った国人たちは一斉に反旗を翻した。今も松平家と共に今川家に従属しているが松平ではなく今川に忠誠を誓っている状態だった。
その事から広忠には自分には父のような能力も魅力もないのだと見せつけられている様で惨めであった。それは義元も感じ取る事が出来ており丁度良い復讐の場となるだろうと考えていた。
「広忠、そなたには尾張侵攻の先陣を任せる」
「それは……」
「そのためにはそなたを松平宗家とする必要がある。後見人気取りの松平信定はこちらで何とかしよう。そなたは自らに従う家臣たちを集めて尾張攻めの準備をせよ」
「……はっ!」
義元の言葉に広忠は頭を下げる。広忠の表情は歓喜に包まれていた。自分の父を殺した織田家を滅ぼす事が出来る。それも今川の力を借りつつも自らの手で。それが広忠にはとても嬉しい、まさに褒美と言って差し支えない物であった。
広忠を下がらせ改めて家臣を呼ぶ。朝比奈、岡部、安倍など、今川家が誇る家臣たちが集合する。彼らは誰一人声を漏らさず義元の言葉を待つ。
「……者ども、時は来た。五年前に領土を取り戻し、三河を手に入れた我らは国力を高めた。更に北条と武田と盟を結び東側の脅威を排除した今、近年尾張を統一しようとしつつ美濃すら手に入れようと動く織田信秀を倒す時である! 我ら今川の力を知らしめよ! 織田を降し尾張を盗り、我が一族である名護屋今川家の無念と信秀に降った裏切り者を後悔させるのだ! 者ども! 戦支度を始めるのだ!」
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そして、その動きは尾張にも伝わり留守居役の河尻親重は今川動くの報を急いで信秀に伝えるのだった。
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