異世界戦国記
第五十話・笠寺城の攻防~決戦前夜~
侍大将壇源右衛門を討ち取った事に彼を知る者たちの間で動揺が走った。源右衛門は戦に出るたびに武功を上げておりどんな猛者でも彼の前に屈してきたからであった。そんな彼が討ち取られた。多少ではあるが兵の侵攻が弱まっていた。
結局その日はそのまま夜を迎えてその日の戦闘は終わるのであった。
信繫は兵士の状態を見て確認したり敵に見つからないように城の補修の指示を出したりした後主だった重臣を評定の間に集めさせた。
「まだ伝助と親季にしか伝えていないが現在清康を討ち取るべく作戦が発動している」
信繫のその言葉に重臣の間でざわめきが起こるが信繫はそれを手を出して沈めさせる。
「予定通りなら明日清康の本陣に火の手が上がる。例え上がらなくても敵兵を後方にくぎ付けにさせることは出来る。後は我々が本陣に向かって突撃するのみだ」
「殿!それは少し危険すぎます!」
重臣の一人がそう叫ぶが既に信繫の覚悟は決まっており重臣たちの言葉が信繫に響く事は無かった。
「諦めなされ。既に策は動き出し止めることは出来ない状態まで来ているのです。我々は生きるために今を必死に生き抜きましょう」
伝助が重臣たちを宥めるようにして言う。その後伝助と親季が説得したため重臣たちも覚悟を決めてそれぞれの準備に取り掛かった。
「てっきり増援が来るものと思っていたが…そんな事はない様だな」
松平清康は本陣から笠寺城を見て笑みを浮かべる。本来なら本陣に奇襲して城の兵と挟み撃ちにする方が得策なのに信繫はそれを行わずそのまま入城してしまったのである。
不審に思った清康は敵の増援が来ていないか那古野城方面に偵察を行わせていたがそのような軍勢はおらずそれどころか別方面では弾正忠家が惨敗しているという報告させ入って来ていた。
流石にそれを鵜呑みにする清康ではないがこれを城に籠る者たちに教えて敵の士気を砕くと言う事も出来るようになり早速流し始めたが大した効果は出なかった。しかし、清康は新たに使えるようになった手札と言う認識でしかないため失敗しても特に問題ないと思っていた。
「殿、偵察に出ていた者が先ほど戻ってきました」
「分かった。それで?やはり噂は真実か?」
「確証はないですがその可能性が高いようです」
家臣の報告に清康の笑みは深まっていく。このまま行けば藤左衛門家を取り込むことが出来るかもしれないからだ。傘下にして尾張における領土を拡大してもらい松平と合わせて大勢力を築くことすら可能であるからだ。
「信繫も可哀そうに…”出る杭は打たれる”。それが戦国の世の暗黙の了解であろうに」
今川家のように少しずつ領土を拡大するならまだしも弾正忠家は急激に領土を拡大しすぎた。わずか一年で尾張の端の小大名から清州織田家、那古野今川家を降し尾張を統一しかけていた。そうなれば周辺の大名が危機感を募らせるのは当たり前と言えた。
結果、信友の道ずれ覚悟の策に美濃、三河、伊勢は乗り総勢一万四千と言う弾正忠家が動員できる兵のはるか上を行く大兵団を送り込むことが出来ていた。
「織田弾正忠信秀…まだあった事は無かったが是非とも一度はお目にかかりたかったものだな…」
清康は見た事のない信秀の顔を浮かべると直ぐに消して家臣に指示を出す。
「明日、全軍で総攻めを行う。明日で落とすぞ」
「はっ!」
清康は総攻めを行うために外側の見張りや本陣からも兵を前線へと送り出した。これが自身の首を絞めることになるとはつゆ知らずに。
結局その日はそのまま夜を迎えてその日の戦闘は終わるのであった。
信繫は兵士の状態を見て確認したり敵に見つからないように城の補修の指示を出したりした後主だった重臣を評定の間に集めさせた。
「まだ伝助と親季にしか伝えていないが現在清康を討ち取るべく作戦が発動している」
信繫のその言葉に重臣の間でざわめきが起こるが信繫はそれを手を出して沈めさせる。
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「殿、偵察に出ていた者が先ほど戻ってきました」
「分かった。それで?やはり噂は真実か?」
「確証はないですがその可能性が高いようです」
家臣の報告に清康の笑みは深まっていく。このまま行けば藤左衛門家を取り込むことが出来るかもしれないからだ。傘下にして尾張における領土を拡大してもらい松平と合わせて大勢力を築くことすら可能であるからだ。
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