斜陽の帝国復興期

鈴木颯手

第十三話 バルト公国第二騎士団

「騎士団長に敬礼!」

 スオミ連合王国との最前線であるサンクト・ペテルブルグでは第二騎士団一万二千が騎士団長であるカミラに騎士団の礼を取る。一切のぶれもなく一万もの軍勢が礼を取るのは圧巻であった。
 そんな騎士団に生気が籠っていない目で見たカミラは礼を辞めさせると声を張り上げた。

「諸君! 次の我々の戦場は神聖ゲルマニア帝国に決まった!」

 神聖ゲルマニア帝国という言葉に騎士団はざわめきを起こす。少し前の神聖ゲルマニア帝国であればここまで動揺はなかったが新たに即位したフリードリヒ1世の噂はサンクト・ペテルブルグにまで届いていた。そんな彼らの動揺を吹き飛ばすようにカミラは続ける。

「諸君らは何やら帝国の若造に怯えているようだが心配する必要はない。我が騎士団は精強である! それは諸君らが一番身をもって知っているであろう」

 カミラの言葉に騎士団の者たちはわずかだが同意を示す。カミラが騎士団の元に戻ってからスオミ連合王国に対して連戦連勝でありスオミ連合王国は彼らに恐怖を抱くほどであった。

「今回はただ相手がスオミ連合王国から神聖ゲルマニア帝国に変わっただけである。我らが行う事は変わらない! 眼前で蠢く敵を駆逐し騎士団の名を轟かせ!我らは最強の騎士団である!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」

 カミラの宣言に騎士団は雄たけびを上げる。誰もが目つきが変わり強者の目つきとなっていく。もはや神聖ゲルマニア帝国、フリードリヒ1世の噂に怯える兵はいない。カミラと共に戦場に真っ先に飛び込み最後まで戦い続ける獰猛な騎士団しかいなかった。

「我らは証明しよう! 公国、ひいては大陸で誰が最強であるかを! 我らに適う敵などいないと言う事を! 帝国兵の血で! 恐怖で! 命で! 教えてやろう!」

 カミラの言葉に騎士団の士気は大きく上がる。建造物は震え近くの馬たちも影響を受けいななきをし、動物たちは恐怖で縮こまる。カミラを中心に風が吹き神の加護がついているように曇っていた空に光が差し込みカミラを照らす。鎧を身にまとうカミラの姿は戦女神の如く美しく気高く、そのように騎士団に見せていた。
 カミラは馬に乗ると剣を抜き高々と掲げ叫んだ。

「全軍! 出陣!」

 カミラの言葉に第二騎士団は雄たけびを上げカミラに続き出陣した。カミラの出陣に民衆は笑顔で見送っていく。カミラを慕う民衆は多く兄であるフリッツを超える勢いであった。

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 出陣した第二騎士団は公都タリンがある西ではなくプレスコがある南であった。本来なら出陣を公爵であるカミラの父に直接会って言うべきであったがそれを公爵は拒否し直ぐに向かう様に指示を出していたのである。第二騎士団は公爵の態度に苛立ちを覚えていたがカミラ自身が既に諦め指示に従ったことで渋々ながら怒りを抑えていた。
やがてプレスコに入るとフリッツの使者が訪れた。

「我らが団長であるフリッツ公太子殿下からの命を持ってきました」

 フリッツの使者を名乗る兵士は一応カミラに対して礼を摂っているがその雰囲気はカミラや第二騎士団を見下していた。その雰囲気を感じ取った騎士団の指揮官たちは兵士を睨みつける。使者から受け取った命令書に目を通したカミラは使者の方に顔を向けた。

「確かに命令は受け取った。はるばる大儀である」
「はっ」

 カミラの言葉に短く答えるとようはないとばかりにさっさと出ていく兵士。やがて兵士が出て行ったのを確認した騎士団の指揮官たちはいらだちを隠さずに兵士を罵倒していく。

「何なのですかあの態度は!」

 特に一番怒っているのはカミラの従者であるユーリアであった。彼女はサンクト・ペテルブルグに住んでいるがスオミ連合王国が攻めて来た時に家族を失い孤児としてその日その日を生きていくのに必死な状況となっていた。だが、ある時第二騎士団の陣地から食料を盗み出そうとした時にカミラに見つかりカミラの従者として仕えることが出来ていた。それ以来自分を救ってくれたカミラの為に一生懸命仕えてきていた。カミラが戦場に出れば一緒に戦場に向かい向かってくる敵からカミラを守りカミラが視察に出る時には安全の為に先に向かい確認するなどしてきた。その為カミラから信頼されるようになり今では従者筆頭として軍議にも参加できるようになっていた。
 そんなユーリアに嫉妬や羨望の眼差しを向ける者はいるが罵倒したり邪魔者扱いする者はいなかった。それだけカミラの事を第二騎士団は慕っているのである。その為カミラが不遇され続けている現状に第二騎士団は不満を持っておりカミラの為ならば謀反を起こす事をも考えるほどであった。

「落ち着けユーリア。他の面々も落ち着いてくれ」

 顔を真っ赤にして暴れそうになっているユーリアをカミラは宥める。カミラの言葉に指揮官たちは渋々怒りを治めたがその顔は不機嫌そのものであった。

「で、先程の命令についてだが我らはレーゼクネを攻める事になった」
「レーゼクネですか。しかし、我々だけとは…」

 指揮官の一人が不安そうに呟く。元々バルト公国との国境にあるリガとレーゼクネの防御力は高かった。それを第二騎士団のみで落とすとなるとそれ相応の犠牲が出る事が容易に想像できた。故にそんな命令をだすフリッツに怒りが沸いていた。

「兎に角、やるしかない。どうせフリッツの事だ。レーゼクネを攻めなければ命令違反と称して我が騎士団に介入してくるだろう。無論落とせなくてもな」
「となると我らはレーゼクネを落とすしかないのですか」

 悔しそうに指揮官の一人が呟く。他の元たちも口には出さないが手を握り締め悔しそうにしていた。
結局レーゼクネを落とす為に全力を注ぐこととなりその準備に騎士団は忙しくなるのであった。





☆★☆★☆
 レーゼクネは帝国の最東端に位置する都市で北方のリガと共にバルト公国からの侵攻を阻止する重要な役目を持っていた。その為レーゼクネは二重の防壁と空堀が掘られた要塞となっていた。その規模に相応しく常駐する兵士も東方直轄領三万の軍勢の内一万の兵がいた。
 そんな都市をバルト公国第二騎士団は半包囲をしていた。本陣が置かれている北東部に第一分隊と本隊合計八千の兵が、南東部と北西部にそれぞれ二千の兵がいた。

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 レーゼクネについて最初の日の出を拝んだカミラは陽の光を浴びて眠気を一気に落とした。本陣にいる兵達も簡易的に作られた寝床から這い上がり眠気を覚ます為に立ち上がったり談笑したりしている者がいる。そんな様子を見たカミラは満足げに頷くと朝の日課である素振りを始める。一撃一撃に集中しながら剣を振っていく。そして目標回数を終えるころには陽は少し高い所まで昇り本陣の兵も鎧を着て準備を整え始めていた。カミラも自身の天幕に入り汗を流し愛用する着慣れた鎧を着こんでいく。

「カミラ様、お手伝いします」

 既に鎧を着こみ準備万端となっていたユーリアが手伝いを買って出る。カミラが着る鎧は公族に相応しい見事な物であるがその分着るのに時間がかかる物であった。
 ユーリアの手伝いもあり鎧を着たカミラは天幕をでる。そこには素振りを始める時とは違い完全武装の兵が出迎えていた。そこへ分隊からの使者が現れ何時でも動けることを伝える。カミラは報告を聞くと剣を抜き切っ先をレーゼクネに向け高らかに叫んだ。

「全軍! 攻撃開始!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」

 カミラの言葉に本陣の兵達は雄たけびを上げ答えた。ここに後世の歴史では一括りにされ知られるゲルマニア東方戦線が幕を開けたのであった。
 まず、動いたのは一番本陣に近い第一分隊三千五百である。分隊長の指揮通りに兵たちが動いていく。城門を破るための破壊槌を守るように進んでいく。それを行かせまいと城壁からは大量の矢が降り注いでいく。騎士団は盾を構え防ぐがそれでも完全には防ぎきれず城門に近づくたびに負傷者が増えていった。
しかし、それでも城門にたどり着いた第一分隊は破壊槌を使って城門を破壊しようとする。いくら頑丈と言っても幾度も防げるわけではなく少しづつだが確実に城門にダメージが入っていった。
 他方面にいる第二、第三分隊も同じように攻撃を開始するが第三分隊は苦戦を強いられていた。第三分隊の方には一応門があるが街道があるわけでもないためそれほど規模は大きくなかった。その為他に比べて頑丈に作られており犠牲者が増えるばかりであった。

「分隊長! このままでは全滅してしまいます!」
「参ったなぁ」

 部下の言葉に困ったような表情をして第三分隊の隊長であるライマー・ジーベルは頭をかいた。歩兵戦を得意としているが攻城戦はそこまで得意ではないライマーはどうやればいいのか分からなかった。仕方なく彼は後方に兵を下げて他の方面の支援を行う事にした。
 しかし、そう指示を出す前に偵察していた兵が慌てて戻ってきた。

「分隊長! 敵が出てきました。大よそ二千!」

 ライマーが西を見れば遠くの方から騎馬隊がこちらに向かっているのが確認できた。ライマーは後方に下がる命令を取り消した。

「全軍で出てきた部隊を叩くぞ」
「「「はっ!」」」

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 ほぼ同数の兵とぶつかる事となった第三分隊であるがかなり不利な状況になっていた。レーゼクネから出てきた兵は騎馬隊でありライマー率いる第三分隊は歩兵のみで兵種的に不利でありまた、城壁に近いと言う事もあり城壁からは絶え間なく矢が降り注いでいた。例え矢が届かない所まで下がろうにも移動中の所を別働隊につかれやられるのは目に見えていた。その為ライマーは騎馬隊を倒す事にしたのである。

「盾を構えよ! 弓隊は盾の後ろから敵を狙え!」

 ライマーの指示を聞き小隊ごとの指揮官たちが命令を忠実に聞きあっという間に迎撃態勢を整えた。結果別働隊は陣形が整った同数の敵に突撃しなければいけなかった。しかし、彼らの目的は敵部隊を一つ潰す事である。躊躇なく近づいていく。
 ライマーは弓の射程範囲に入るとともに命令を下した。二十以上の矢が別働隊の先頭を走っていた者に突き刺さり悲鳴を上げながら落馬していく。それにより後続が巻き込まれていたりするがあくまで少数であり落馬した兵を避けながら守備隊は馬を進めていった。

「来るぞ! 盾を構えろ!」

 向かってくる兵に盾を構えて身構える騎士団員。しかし、別働隊の攻撃に盾は呆気なく破壊され陣内に侵入を許していく。第三分隊は直ぐに陣内に侵入した敵兵の排除を行っていくがそれよりも早く敵が雪崩れ込んでくる。そしてここで予想外の出来事が起こった。

「分隊長! 我らが攻めていたもんから敵兵が出てきました!」
「何だと!?」

 ライマーは思わず後方を確認する。そこには分厚い門が開きこちらに向かってくる敵兵の姿があった。その数は千。歩兵のみの様で皆一様に目を血走らせて第三分隊の背後を突こうとしていた。
 ライマーはこうなる事は何となくだが予想はしていたがあり得ないと考えていた。今対峙している兵の様に遠くの門から出て来るならまだしも攻められているところから飛び出してくるとは思っていなかったのである。
 しかし、その慢心ともいえる行動によって第三分隊は窮地に陥っていた。そして、窮地に陥る第三分隊を他の騎士団は、気づいていなかった。

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