NON DEAD〜転生したら不老不死というユニークアビリティを授かったので異世界で無敵となった〜

英雄譚

14話 形成逆転

突進してきたトレントの巨体をいなしながらドロシーは雷魔法を至近距離で発射。‬‬ トレントの攻撃手段である枝と頭上の葉っぱに命中し無力化する。‬‬ それでも諦めが悪いトレントは雄叫びをあげながら傷口を瞬時に修復してみせた。‬‬「やっぱり、ある程度の火力でさえダメージが蓄積されませんね。細胞が原因でしょうか? 傷を負った時に反応して活発化、傷口は瞬く間に修復されてしまう。貴方の殲滅はやはり木っ端微塵の一択だけでしょうね」‬‬ トレントの放つ葉っぱの弾丸を【守護魔法】で防ぎながらドロシーは考えこんだ。‬‬ ドロシーは未だに得意の雷魔法でしか攻撃していない。 相性を考えるとトレントは「木」、なので抜群の「炎」で焼き払えば一気に撃摧できるかもしれない。‬‬ それでもドロシーは悩んだ。‬‬(うーん、どうしようからし。ドロシーの一族は雷魔法を得意にしているけど、天敵の炎魔法は苦手なんですよねぇ……詠唱も倍と長くなりますし)‬‬ 角をいじりながら考えていると、彼女の視界にキュリムが入る。‬‬「……キュリムさん!!」‬‬【守護魔法】を解除しながら【爆風魔法】で自分をキュリムの元まで飛ばして移動する。‬‬ 彼の前まで到着すると険しい表情を向ける。‬‬「なにをしたのかは後で追求しますわ」‬‬ 言葉の意図をキュリムはすぐさま察した。 彼女がこうして何気なく魔力を操っているが、先ほどまでは無理だったはず。 疑問にそんなことをドロシーは思いながらも膨大な魔力で応戦、質問は後だ。‬‬「守られた身のクセにドロシーが言うのも図々しいと思いますが、キュリムさんの力を貸してほしいのです」‬「大丈夫だ問題ないよ。あいつを倒せる戦法があるなら何でも言ってくれ、協力する」‬‬ 妙に目立つ黒い角が気になるのか、キュリムは話を聞きながら数回ドロシーの頭上をチラ見していた。 彼の行動を見たドロシーは笑みをこぼす。‬‬「ありがとうキュリムさん。それと、ありがとうございます」‬‬ 深く頭を下げながら背後から迫ってくる攻撃に彼女は反応したが、テンポが遅れて回避が間に合わない。‬‬「危ねぇえ!!」‬‬ いち早く反応していたキュリムはすぐさま彼女を抱えて地面を思いっきり蹴った。 トレントの飛ばしてきた葉っぱの弾丸をギリギリで回避。 キュリムは鋭い弾丸を頰にかする程度だけで済んだが、さきほどまで立っていた地面は弾丸により砕け散っていた。‬‬ 威力が恐ろしいほどに強力な葉っぱもどきだ。‬‬(っぶねぇ! 何秒か避けるのに遅れていたらドロシー含めてミンチにされているところだったぁ)‬‬「ありがとうござい……ドロシーが不甲斐ないばかりに」‬‬ 腕の中に包まれた彼女はしょんぼりと頭を落とし、戦意を失ったかのような活気で謝罪をする。 キュリムとしては謝られるとなんだか逆に申し訳なくなってしまうと、彼女と同様に罪悪感が半端なく押し寄せてきていた。‬‬ トレントがさらに攻撃を仕掛けようと体をしならせていた。‬‬「話はあと! キミの力がなければ勝つことは不可能だ!」‬‬ キュリムはドロシーを横へとつき飛ばし、再び向かってくる攻撃を体に受けてしまった。‬‬ 地面に体を引きずられながら吹っ飛ばされる。それでもキュリムは自身の指を地面に食い込ませブレーキのように利用して勢いを殺す。‬‬ 全本の指の爪と皮が破けてしまった。‬‬ 対してキュリムに突き飛ばされたドロシーは既に次の段階へと突入して、呪文を詠唱する。‬‬ 雷がトレントの背後に命中するが、ビクりと全身する威力程度でダメージがない。 傷は説明のいかない原理により修復されてしまう。‬‬「こっのぉ!」‬‬ 杖をふるい地面に叩きつける。‬‬ 突如トレントの足元から大量の電流が出現して根っこを焼き付けた。 そのままトレントは体勢を崩し、地面に倒れ伏せる。‬‬ それを見計らったドロシーは地面を魔法で砕いて物質を生成、手を広げて岩を魔力により武器へと姿を変形させて彼女は重々しく両手でソレを握りしめた。‬‬ 岩によって作られた巨大な大斧だ。 ケルベルの装備していた斧とは比べられないデカさと迫力さがキュリムの胸に火を灯す。‬‬「キュリムさん! コレを受け取ってください!!」‬‬ 非力な少女ドロシーの素の力ではキュリムの元まで斧は投げられない。 全身を振り絞りながら【爆風魔法】を発動。 突然吹き荒れる強風を利用してドロシーはキュリムの元まで斧を投げ渡す。‬‬「おう! わかったぜ!」‬‬ 上空を過ぎそうな斧に向かってキュリムは地面を蹴って跳びつく。‬‬ 向かってくる斧に到達した彼は、片手を大きく広げて柄を力強く握りしめる。 キュリムの手に収まった斧の飛んでくる勢いは止まり、高い位置からキュリムは地面に向かって落下、地面の表面を砕きながら何事もないように鼻を鳴らしてキュリムは着地を成功させた。‬‬ 強い眼差しのその目線の先には根っこを修復させるトレントではなく、なんらかの詠唱を始めようとするドロシーな向けられていた。‬‬「ドロシー! 言っておくがトレントは物質が一切きかねぇぞ! この武器でどうすればいい!!?」‬「ハイ! さきほどまでの戦いを遠目で見ていましたが、やはりあの樹木の魔物に攻撃が通らなかったのは何らかの能力が影響しているからですよね? それに魔法に対しての耐性は低いとしても自動再生がなにより厄介です!」‬‬ 鋭い観察眼、わずかな時間帯にそこまでの情報を彼女は頭の中で分析していた。 走り回っている途中に考察したのだろうか、キュリムはそんな彼女を見て苦笑いで感心する。‬‬「ここは一気に畳ませてもらいますよ!!」‬「おう! そんなら、俺にできることがあるなら何でも言ってくれ! 協力する」‬‬ キュリムの身体中の傷が不死身の力によりすでに回復していた。それでも上半身の服はトレントの強力な連続攻撃により耐えれなくズタボロで裸寸前だ。 彼の鍛えられた腹筋が丸見えである。‬‬ キュリムに直視せず、魔力を真剣に操るふりをして目線を背けながらドロシー唇をピクピクと尖らせながら言った。‬‬「囮になってください!!」‬「おしっ任せてくれ! ってえ?!」‬‬ 駆け出そうとした足を止めてこける。役割が完全に形勢逆転していた。‬‬「生意気で申し訳ないですが、これからできるだけ強力な炎魔法をヤツにむかって放って片付けます!  永遠に戦いが続くか私たちが共倒れしてしまうのを避ける以外にこのような方法しかありせん!! 魔力を使用できる時間がいつまで持続するのかもわかりませんし!」‬「つまり! 俺が囮になるって、詠唱が長くなっちまうってことか?」‬「恥ずかしながら、そうですわ。なので図々しいようですが詠唱している最中に私をかばってもらえないでしょうか?! 今キュリムさんに託した武器には広大な魔力を込めました。魔法剣士なら扱いが得意なはずです! なんとか時間稼ぎさえしていただければ、とっても助かりますわ!」‬‬ トレントの根っこが修復され元どおりの形に戻っていた。‬‬ 大斧を片手にキュリムは時間の猶予のなさに頷くしかなかった。 深く彼女の案に頭を下げながら、引き締まった表情で出来るだけ発せられる声量で叫んだ。‬‬「それ以外に方法がないってんなら、乗る以外の選択肢はねぇな……! わかったぜドロシー!! 乗った!!」‬‬ キュリムの問いにドロシーは驚きながらも、すぐさま唇の両端をつりあげて嬉しそうに笑いタムズアッブ。‬‬「頼みますよ!!」‬「任せときや!!」‬‬ 風切り音とともにキュリムの斧が振り下ろされ、最終局面への戦いのフラッグが振り上げられ死闘が開始された。‬‬‬‬ 自分の方へと注意を引かせるためにキュリムは叫んだ。‬‬「こいよ抜け毛野郎! デカブツのくせにイイ色の胴体をしやがってムカつくんだよ! 羨ましいから寄越せや!」‬‬ 地面を踏みながら斧を振り回しなにかを訴えるキュリム。 無論トレントは彼の口から発せられる言語など理解できない、なにを言われても意味がないのだ。‬‬ トレントはキュリムの妙な行動にかまわず咆哮を上げた。 地面の表面を引き剥がしながら突進をくりだす。‬‬「目を瞑れドロシー!」‬‬ 見計らったキュリムは腰に巻いたベルトに掛けた余りの『太陽弾』、閃光手榴弾のピンを抜いてトレントの手前にむかって投げよこした。‬‬ 投げられた閃光手榴弾は花火のような大爆発を起こし、目の前いっばいが光に包まれる。‬‬ 瞼を閉じたところ意味もないように眼球が焼きつけられそうな威力だ。‬‬ 光が消えるまでの3秒間を無駄にできないとキュリムは目を瞑りながら大斧を持ち上げた。‬‬ がしかし、目を瞑っていたせいで薄い気配で接近してくるトレントの枝に気がつかず腹部が横から斬り裂かれた。‬‬「がはっ!」‬‬ 血を垂らしながら地面に伏して、キュリムは前方を見た。‬‬( なっ、どうしてだ? 太陽弾の発生する光はたとえ猛獣や幻獣だとろう失明するほどの戦闘アイテムだぞ )‬‬ 購入させるための口実かとただの迷信だと疑いながらトレントを視覚に収まると、キュリムは青色へと顔面を変色させた。‬‬ 暗い空間に発せられた強い光を浴びてしまったはずのトレントは、それをも吸収するかのように口を大きく開いて飲み込んでいた。‬‬ 耳をすませると、ゴクゴクと喉に流し込まれる音が聞こえる。‬‬「嘘だろ……オイ」‬‬ キュリムは内心自分の愚かさに苦笑いをした。‬‬ キュリムの放った太陽弾の光をトレントは飲み込んで吸収したことによりパワーアップするかのように樹木全身がモリモリと膨れ上がり、力強い気圧がボス部屋を無造作に飛び交っていた。‬‬ 茶色の幹からピクピクと脈打つような赤い何かが浮かび上がる。‬‬ キュリムはすぐに原因に気がついた。‬‬( 太陽弾の光で活発化しとるぅう!! )‬‬ 日光を浴びて光合成する植物のような原理なのか、トレントが一段と進化されたような気がしてならない。 そんな印象を受け入れながらキュリムは大斧をキツく握りしめる。‬‬ 余計なことをしてしまった。 情報源が今ない状況じゃ仕方ないことだが、わざわざ自ら地雷にレッツーゴーと用心なくエンジョイしてしまったことに恥をかいてしまったキュリムは口を尖らせる。‬‬「ゴメン、ドロシー!」‬‬ 一応忙しそうに詠唱を続ける彼女に謝った。‬‬ しかしドロシーはキュリムの失敗の一部始終目撃していない。 目を瞑り集中ながら呪文を詠唱し続けていた。 キュリムの謝罪も耳に入っていないだろう。‬‬(しっかり自分の役割をこなしていて感心するが、半分無視されているようで何だが良い気分になれねぇな)‬‬ 一段と強力になったトレントの攻撃をかわしては弾きながらキュリムは早足で接近する。‬‬ わずかな距離を詰めたキュリムはトレントに突進をお見舞いされるが、大斧を盾にして身を守る。‬‬ カウンターを狙い、大斧を持ち上げてキュリムは木こりの如くに重々しい武器を振り下ろした。 ‬‬ 仕留められると思ってはいないが、時間稼ぎにはちょうど良い。 キュリムはトレントの幹にめり込んだ石の大斧を抜き取った。‬‬( やっぱり、武器に魔力を授けたことによって魔法が弱点のトレントに傷が入った! 確実に仕留められないが、これでバランスを崩させれば! )‬‬ 巨体ながらすぐさま後方へと逃げようとするトレントを睨みつける。‬‬ そいつの手前にはドロシーが詠唱していた。‬‬「!!」‬‬ トレントの幹に生える唇がいやらしく歪、黒い目元は無論ドロシーを狙っていた。‬‬ あぶないっ! と忠告して叫ぼうとしたキュリムは口を抑える。‬‬( 詠唱中は邪魔してはいけねぇんだった。けど…… )‬‬ 自分に向かって接近してくる魔物に気がつかないような様子で呪文をスラスラと唱えていくドロシーは端的な無用心だ。‬‬ キュリムを信頼しているからだろう。‬‬‬

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