NON DEAD〜転生したら不老不死というユニークアビリティを授かったので異世界で無敵となった〜

英雄譚

第11話 生命を司る守護神

 
 少年キュリムは掴んだ感覚を忘れぬためにも、稽古で養った知識を毎日欠かさずに分厚い本に書き上げながら王都での日々を過ごしていた。

 父はフィリス王国の君主として、『第35代王エティエンヌ・カオスレイ陛下』として国を統治しているトップの支配権を握る人物である。 その妻『王妃アリア・カオスレイ』も同様に王太子という立場にあるキュリムの母親だ。キュリムは両陛下を「父上」「母上」と呼んでいる。 エティエンヌ王は君主でありながらも厳重にキュリムを縛らずに可愛がり、国民には微笑ましく親バカ王と呼ばれていることもあった。

 それからキュリムが生まれて間もない頃、同時にオリヴィアはキュリムの妹を出産した。 名前は『オリヴィア・カオスレイ』姫である。

 性からして混沌的な臭いがただよってくる王一家だが、基本温和であり国民にとって不平等のないような国として治めていた。

 その中ではキュリムだけは異端と思われていた。

 王族としての自覚、資質、技量、魔力、知識、あらゆる能力に欠けているキュリムに対して不出来や落ちこぼれ、出来損ないという言葉が飛び交い王位継承に相応しくないと国民や貴族らに断定され、一方の妹はキュリムと打って変わって優秀かつ優良と評価されてた。

 時期の王は彼女が即位すべきだと、不評のキュリムは罵声を浴びらされオリヴィアは強烈に賛辞された。

 しかし王のエティエンヌはそんな国民の戯言に耳を貸したりはしなかった。 彼の身寄りだけは知っていた。

 王に相応しい権利とは物事に対して対応力を兼ね備える者でも、知識を幅広く待った者でもない。

 必要なのは優しさと包容力だと。 妹のオリヴィアはその部分だけが欠けていた。 自身より低い階級を持った人を見れば見下し、既に四六時中は規則や法律、他人の感情を尊重せずにルールを押し付けて蹴落とす。

 各地のスラム街の撤去に、不良となった人間を処理するとまで言い出した。 そんな王は改めて理解し彼女を見据えた。オリヴィアは不必要となった国民をいとも簡単に切り捨てられるのだと。

 対してキュリムはどうだ? 

 ある日、王エティエンヌは英才教育をすっぽかし姿を消したキュリムを探すよう兵士らに命令を下した。

 そんな彼を見つけだしたのが、都市内のスラム街付近だったらしい。

 王エティエンヌは無論キュリムを叱った。 何故あんな所へ行ったのか、王族である自覚はないのか! と彼の真意を確かめるような質問をドサぐさに紛れながら聞くと、キュリムは何ともないと言った様子で言い放った。

「なんでって……だって、そこにいる子供たちって遊べるような環境じゃないでしょ? だったら教えようと思ったんだ。一緒に遊んでやって友達になれたんだ。 その子たちの親御さんたちにも会ってさ、料理をもてなされておいしかった」

 決まったのだ。 王エティエンヌは優秀なオリヴィアではなく、純粋かつ優しさを有するキュリムを王にすると決心した時だった。

 自身の階級を王族だと理解しながら全てを受け入れる姿勢に優しさ、差別心のない無邪気な真意。 心を動かされてしまった王エティエンヌはどうしてもキュリムを王にするために精をふるってみせた。

 その次の日、キュリムは剣と出会い師匠とも出会ったのだった。




 ※※※※※※




 45階層 トラップルーム。 またまたうっかり罠を発動させる装置を起動させてしまったドロシーは慌てふためいてしまう。 そんな彼女を見てキュリムは薄く笑った。

「ドンマイだぞドロシー。冒険者たる者、危険な道を歩んで優秀となるのだ! が生憎そんな言葉とは俺は今まで縁がない身なのだ」

 ドジったドロシーを追い詰めるような発言より、場を和ませるための言葉だけがトラップルームに響いた。 しかし納得いかないドロシーは泣いて謝罪しながら湧いてくる魔物らに杖を構えてた。 彼女に背中を預けて、キュリムも逆の方向からも湧いてくる魔物らに剣を構える。

「うわぁぁん! 申し訳ありませんキュリムさん! またドロシーやってしまいました!」「だからイイっていっているだろうが!」

 魔法は安定して飛ばせないので、仕方なく杖を鈍器がわりにしながら物理的な攻撃をかましていくドロシー。 案外と魔物らは彼女の叩いてくる杖に大きく吹っ飛ばされていた。

「めぇぇえ! これでも食らっていてください!」
 至近距離での魔法発動。 魔法を不安定にさせる空間では、生成したい形に魔法は制御できない。 だったらと杖の切っ先にはめられている魔石を標的に叩きつけてからゼロ距離で強引に魔法を発動させれば、形を制御させたり生成しなくても済むようになるエコな方法だ。

 杖を爆発物のように扱う発想は今まで聞いたこともない、新たな発見と彼女に対しての驚きと敬意にキュリムは心を踊らせながらドロシーよりも数多くの敵と対立していた。

 向かってくるのは魔力の分解を得意とするトカゲ頭の爬虫類。 ケルベルの言っていた魔法陣を頭に刻み込んだ魔物らだ。

 キュリムは出来るだけ体内に溜まった魔力を抑えながら、トカゲ頭との距離を詰めて攻撃を放った。

 剣の切っ先を触れる距離までトカゲ頭は決して動こうとしなかった。 その意図を気に留めずにキュリムは鋭い剣を肉体に刺し込もう力を振るったが、トカゲ頭は音もなく姿を消す。

 キュリムの剣は地面を粉砕し、砂埃を撒き散らかせてしまう。 すぐに次のフェイズへと切り変わろうと重々しい剣を持ち上げようとした刹那、体が横へと吹っ飛ばされた。

 右肋骨がまるで鉄球にでも叩きつけられたかのようにミシミシとした激痛が駆け巡った。

「……ギィィィィッ!」

 口から微かに血が吐き出され、キュリムの体は宙で回転しながら地面へと倒れこんだ。 すぐに食らった右肋骨に手を当てて抑えながら、衝撃を食らった右側を確認した。

 そこには姿を消したハズのトカゲ頭が既にキュリムに狙いを定めて突進を行なっていた。

 両手で地面を押して、軽々しく空中へと体を浮かせてトカゲ頭の攻撃をかわし、通り過ぎていく瞬間にキュリムは剣でトカゲ頭の背中を斬り裂いて地面へと着地をした。

 トカゲ頭は苦しみながら壁に衝突して表面を粉砕して倒れてしまう。崩れてくる瓦礫に埋もれてトカゲ頭は息を引きとった。

「ふぅ、おっかねぇおっかねぇな。ケルベルの奴、なーにが大したことない魔物だっちゅうの。物理的にも強敵だったじゃねぇか」

 残りの残党(雑魚)を斬り捨てながらキュリムは苦戦しているドロシーのサポートに回り、戦闘を優勢に進ませて敵を一掃。

「オープン」

 荷物から結晶を取り出して魔力を込めながら指示をだすと、手のひらの上に乗せた結晶が輝きだしキュリムの周囲を迂回した。

 魔物らの死骸からドロップアイテムを回収しろと指示をだすと結晶は了承するように点滅しながらキュリムから離れる。

「な、なんなんですかソレ……?」

 そばにいたドロシーは杖を強く握りながら、警戒した目でキュリムの結晶に注目していた。

 無理もないだろう。 裏で女神が特注した最高の代物だ。人工知能で働いてくれる魔法道具はお目にかかったことがないんだろうから、ドロシーが舌を巻いて驚くのも仕方がない。

「ウチの『主人』の知り合いが開発した魔法道具のスフィアだよ。そこら辺では普通出回っていないから知らないんだと思うけど、便利な物だ」「スフィア……ですか。なんだか可愛い形に名前ですね。キュリムさんが付けた名前なんですか?」「いや、『主人』がだ。それと……悪いがあまり深く詮索はしないでおくれよ」「ハイ? どうしてでしょうか?」

 ドロシーは斜めに首を傾けて聞いてきた。

「この世に存在してはいけない物にも手を出しているからだ。キミや部外者が知ればタダでは済まなくなってしまうんだ。その忠告だ」

 唇に指を当ててキュリムはジェスチャーをした。 行動の意味を理解してくれたドロシーは素直に頷いてくれたが、彼女の存在を女神に伝えたりしたらどうなるかが心配だ。

 たとえ報告時にドロシーのことを伝えなかったとしても、女神はデータ収集のベテランだ。 経歴や出来事をすぐに調べ上げてしまう。

「ウチの主人は神がかっているほどヤバイ人物だから、知られたりしたら俺がシバかれちゃうっての……」「へぇ、それは恐ろしいですねぇ」

 ドロシーはキュリムの主人について興味がありそうだったが、あんなに強いキュリムでも献身する程だ。 ドロシーはそれ以上のことを口にしたりはしなかった。

( ドロシーが力になってあげないと……! )

 彼の大きな背中を見ながらドロシーは、決心したようにそんなことを思っていた。



 ※※※※※※



 キュリムとドロシーは5メートルもの高さで立ちはだかる扉の前に、やっとのことで辿り着き顔を強張らせていた。

 キュリムは左手に松明を持っていた。『暗視』スキルを持っている彼だがドロシーは例外で、彼女は使用できたりはしない。

 松明の明かりによって虫が集ってくるが、キュリムは特に気にすることない様子だ。

 彼に同行する少女は小さな虫には鬱陶しそうにして、デッカい虫には拒絶反応を起こし泣きながらキュリムに「めぇぇぇ〜!? いやだ、取って取ってとってぇぇえ!! 」と救いを求めていた。

 まだ成長期真っ最中の体をしたドロシーは一応これでもレディーだ。 虫に怖がったところで何も不思議ではない、とキュリムは真顔で彼女の頭に引っ付いていた20センチもありそうなデカさの昆虫を取ってあげていた。

 普通だ、決して不思議なことではない。


( ついに辿り着いたんだな……ここが、この迷宮の守護神の部屋 )

 魔物の魔力の濃度が高くなっているような気がした。 それをキュリムより先に感じ取ったのは、魔道士であるドロシーの方だった。 扉に近づくにつれ彼女の顔色が悪くなっていた。

「平気かドロシー?」「は、はい……なんとか。 ただ、やっぱり魔法が使えなくなることが不安で……うぅ」

 まるで体内の魔力が全て尽きたかのような感覚に、彼女は上層階に立ち入ってから不安と恐怖によって、もう既に死んでいるのではないのか? と自分の生存を疑っていたのだ。

 魔力が一切感じられない、それが魔道士にとって最も出くわしたくない状況であり弱点だ。

 ゆえにドロシーは怖いのだ。

 杖を握る手が震えてしまい、とてもじゃないが制御できない感情に彼女は駆られていた。 青白い顔色に吐息も白く、まるで死人そのものになったかのように彼女に生は感じられない。

「どうして魔道士ばかりを弱体化するような効果ばかりが……まるでその為に設立されたような迷宮です」「確かにそうだな。迷宮の創造者と魔道士との間で何かがあったんじゃねぇか?」「そうであれば関係のない因縁に巻き込まれた感がありますわね……」

 根拠のない推測でドロシーをリラックスさせようと、ボス部屋前でキュリムは色々な話題をふり殺伐とした空気を盛り上がらせた。

「私が一緒に行っても、役に立つのでしょうか……? 現じゃ魔法の使用もままならない状況じゃドロシーは足手まとい」「うん、そうかもな」

 キュリムな予想外な返答により衝撃を受けてドロシーは肩を落とした。 もっと優しさが困った「そんなことはないさ、キミが居ないとダメだ」と慰めて欲しかった。 落ち込んだドロシーを見て、言葉を間違えてしまったことに気がつきキュリムは慌てながら彼女を宥めた。

「そりゃ、ボス部屋に入場した瞬間にこの扉が閉じて、開かなくなったらどうする? 守護神を打倒すれば出口までの転移魔法陣が開放されるけど、扉が開いてくれる保証なんてねぇ。だから……その、ボス部屋では魔法が使用できないかはまだ分かんないしドロシーも一緒に一狩りいかねぇ?」

 キュリムにはまだ策はあった。 例の鉱石の妨害によってドロシー自身が魔法を維持できなかったとしても、キュリムが左手の『破精 刻印』を発動させるか、万が一の場合に備えてでドロシーを……。

 必死そうに自分の為に気を遣ってくれるキュリムを見て、ドロシーは自分が情けなく感じた。 真意は「死にたくない」で一杯なのが事実だ。足手まといとかそんなことより、引き返したいというのがドロシーの本音である。

 無力の自分がわざわざ戦場に足を踏み入れて死ににいくようなものだ。 逃げたい、戦いたくない、死にたくない。

 必死に本音を隠そうする自分が情けなく、哀れに感じてしまう。

 こんなにも必死に自分を救おうと、自ら身を犠牲にしてやってきたキュリムの厚意を蔑ろにするのか……? 情けなくて惨めで哀れに彼を殺せるのだろうか。

 否、彼女は両手で自分の頰を思っきり叩いて涙目でキュリムの方をまっすぐ見た。

「待っている理由なんてありませんよ。 ドロシーも出来るだけのサポートをしてみせます! たとえ魔法が使えなくなったとしても、背中は任せてくださいませ」

 キュリムは彼女の行動により呆気にとられ、顔に手を当てながら笑いをこらえた。 叩いた頰に痕が残っていて赤くなってらっしゃる。

 そんなこと気がつくハズもなくドロシーはそのまま杖を立てながら扉の方をみた。

「了解したぜ、相棒!」

 ドロシーが驚く。 いつからそんな関係になったの? と言わんばかりの表情だ。 しかし迷宮の最深部を攻略した者同士、共にここまで歩み、肩を並べて立っている。

 しかし、守護神を倒して脱出すれば彼女とは、これっきりになるのだろうかとキュリムは分かっていた。

 ゆえに彼は小さく笑っていた、この大切な思い出を蔑ろにしないように戦うのだ。

 扉に手を置きながら、キュリムは覚悟を決めてからドロシーの方を見た。 彼女も杖を握り締めながら、何かを思考錯誤をしてからキュリムの『破精 刻印』が刻まれた手の上に小さな手を重ねて、扉を強い眼差しで見つめて息を吐いた。


 ギィィィィィィィィィと軋む音とともに扉が全開に開き、中の広大な広間がさらけだされる。

 その中央に巨大な生物が頭をクネクネと動かしながら、地面に張り付いた足を強引に抜いて亀裂を生じさせた。

 動くたびに頭が揺れ、無数のハートのような形をした物体が雨のように地面へと散乱する。

 生物の茶色の手は完全に人間とは程遠くかけ離れた原型で地面を強く叩いた。

 巨大なその生物は完全に樹木、この世界では『トレント』と呼ばれるモンスターだった。

 そいつはキュリムとその背後に控えるドロシーを見るわ、生に反応して幹の中央から現れた口を大きく開いて、トレントは奇声な雄叫びを放つ。

 ドロシーは苦しそうに両耳を塞いだが、既にファイティングポーズのキュリムは構わずに地面を蹴ってから、背負った鞘から剣を抜いて叫び上げた。

 トレントも迎え撃つように、胴体のあらゆるところから生える枝を伸ばして刃を形成する。

 枝によって形成された刃に、天井の鉱石によって照らされ神々しく光を放つキュリムの愛剣が互いに交じり合い、ぶつかりあったことにより生じた大きな衝撃がこの正方形の広間を支配した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品