未来国家建国記

ノベルバユーザー226196

006




私とリーシャはいつもの制服に着替えて来ると、お互い無言のまま、顔も見ずに軍人用のテントの入口に立つ。


どうしようか迷っているとちょうどテントの入口が開かれ、40代前ぐらいの男の人が出てきた。


「おっと、ごめんよ。あぁ、君たちか。君たちを呼び出した女の人なら中にいるから入っていいよ。」


男の人は2人の横をするりと抜けると片手に紙を持ち何かチェックを付けている。2人は言われた通りにテントの入口を開けると中には女の人が上座にある1人がけのソファに座っていた。


「ようこそ、軍人用のテントへ。まぁなんも無いけど、そこへ座って。」


そう言って女性は自分の目の前にある3人がけのソファを指す。


テントの中には女性が座っている1番上座にある1人がけのソファがあり、その目の前には小さなテーブルがあり、その左右にも1人がけのソファがあり、そして先程のハズナとリーシャが示された3人がけのソファが1番下座にある。


テントの中は軍人用なだけあって素っ気なく、ソファの他にはテントにそって簡単な椅子が並べてある。その上に個人の持ち物と思われるコートや小物がかけられている。


ハズナとリーシャは言われたところに座ると、あらためてその美しい女性を見た。


綺麗な黒髪を毛先から中盤までがウェーブしており、ポニーテールに結んであったのは既に下ろしてあり、肌はその黒髪に合うような丁度いい白さがあり、不健康そうではなくむしろそれがその人の色だと思わせる。


胸はキュッと引き締まっており大きすぎず小さすぎずといったところで、その胸元に光る真っ赤なバッチはwine redの階級であることを明白にし、それが3つ光る。


女性はその長い足を優雅にくみ、足は長いロングスカートを履いているがその先から見える足のつま先は素足であり、今にもキスしたくなるほど美しい。



「急に呼出してすまない。私の名前は結城ゆうき、軍位は大佐だ。」


そう言って結城と名乗った女性は、ほほ笑みを浮かべ組んでいた足を崩した。



「あ、「良は、良はどうなるんですか」」


ハズナが言おうとしたことをリーシャが言葉を被せてから言う。リーシャは体を乗り出し必死だがハズナはそんなことをしたリーシャが初めてで少し驚いた顔をしていた。


「あぁ、さっきの子か、あの子なら、生きるか死ぬかは君ら次第、って所かな」


結城は膝に肘を置き、手を顔の前で組むと目を細めて真剣な顔つ気になる。


ハズナもリーシャもその結城の変わりようにゴクリと唾を飲む。



「いいかい、君たちが挑んだ敵は学生なら逃げることを義務付けられている古代遺物エンシェントレリックの第四位だった。


たしかに、君たちは学校では抜きん出て強いかもしれないが、私たちからしたらたかが学生だ。


私達も見回りの際に見つけられなかったことは本当に悪いと思っている。だが、それとこれは別だ。撤退しろと言われているなら撤退は絶対処置だ。


なのになぜ撤退しなかった?気づかなかったとしてもそれぞれ何か感じるものはあっただろう?」



その問いかけに2人は答えることが出来ない。なぜなら、2人とも心当たりが大いにありそれを無視した結果がこれなのだ。


「第一に、初めの方で適わない敵だと気づかなければいけなかったのは探知者ソナーだ。なのに探知者ソナーはその戦いを止めて撤退させる役目ではなく戦わせる役目をおった。


なぜ?君は自分より巨大な敵で送られてくる映像が見えにくかったり雑音が入ったりしたはずだろ?なぜ止まらなかった。」


心当たりがあるリーシャは下唇を噛み、目をしたに向ける。


「はぁ、本来探知者ソナーの役割は、誰よりも先に敵を観察し敵の能力、強さ、行動、何の生き物を象った物なのか、それを見極める為にいるんだよ。


そして、それに勝てるかどうか、それを見極める為のものが探知者ソナーであって、自分が危険じゃないからといって仲間を向かわせるのは探知者ソナーでは無い。」



そこまで言われると日頃怒られなれてないリーシャは、自分の惨めさに泣きそうになりながら声を出すことが出来ずに膝の上で両手を握りしめる。


「そして、もう1人は自身の素早さを過信し、向こうは全力だと傲り、自分の本気には適わないと決めつけ少しも考えを捻らずに真正面から馬鹿正直に突っ込む選択肢をしてしまった。


普通なら前衛は細心の注意を測り、自分の力量と相手の力量を測り間違えない確かなを判断力を鍛えなければならない。なのに、それをする警戒心を完全に無くしそれを後衛に任せてしまった。


前衛なら相手の本来と真正面で向き合えるのだから、こいつとは戦えるのか、自分と相手の力量の差はどれほどなのか。それをはっきりと知らなくてはならない。」


そこで言葉をきった結城は2人を見る。二人とも目に見えて絶望の色を見せていてハズナは手がカタカタと揺れている。



「その良と言う男の子の首が飛んだのはそれぞれの傲りと、自身の力量をはっきり測りきれないその無知さだ。


恨むなら自身の力量と古代遺産エンシェントレリックに出会ってしまった運の悪さと、自身を犠牲にしてまで君たちを守ろうとするあの男の子のハートの強さにしな。」


まるで見ていたかのように全てを話す彼女はどこか同じ雰囲気を醸し出し、そして自分の中の何かを押さえつけるように二人を見る。


結城は細めた瞳を更に細めるとニコリと笑った。


「ま、ここまでは学生によくある話だから、まぁ、今回は首が飛んだっていう事故が起きちゃったってだけのところだか。」


結城はニコニコという笑みを消さずに良の首が飛んだことをそんなことだと言い捨てる。


他人である結城に取ってはそんなことだろうが、ハズナとリーシャにとっては絶望となる出来事だった。その為リーシャもハズナも完全に頭に血が上る


ハズナとリーシャは同時に立ち上がるとテーブルをバン!と音を立てて叩く。


「ふざけないで!あなたに取ってはそんなことかもしれないけど私に取っては絶望なんだから!」


いつもは物静かなリーシャが珍しく声を荒らげ捲し立てる。


「それに!目の前で首が飛んで、血がついて、どんどん体が冷たくなっていくのを感じたこと無い人が言わないで!!」


ハズナが泣きそうな声で下を向きながら怒鳴り声をあげる。


「うん、勝手なこと言ってごめんね。」


そう、優しそうな声で結城が2人に謝罪の言葉を告げる。


「でもね軍人用になると、昨日話したはずの知り合いが死ぬのは当たり前、数日後に遊ぶ約束をしていた友達が戦場から帰らないのも当たり前、ずっと一緒に戦ってきた親友が急に背中から居なくなるのも当たり前なのよ?


しかも、敵を殲滅したあと足元を見るとエルメイの死体と共に冷たくなった仲間の死体が何個も折り重なっているのが当たり前。


それが戦場よ。」


ツッと息を呑む2人。それを想像して、そして自分たちがなぜこんなに平和なのかと言うことを目の前に叩きつけられた気がした。その絶望している二人を見て結城は人差し指を立ててふふっと笑う。


「そこで提案です。あの男の子の首を繋げて生き返らせるには軍人でなくてはいけない機密の治療法があります。


治すためにはそれなりの階級と実績、そしてチームが必要です。


まぁ、治るのに何年、何十年になるかは分からないけど、提案を呑むなら「ふたり」で来てね。」


そう言って結城は席を立つとそのままテントの外に行こうとする。


「ま、まって!」


リーシャの止める声によって結城はテントの入口を開けたまま顔だけで後ろを振り向く。


「私は、軍人になるわ!だから、だから良の治療を早く....」


「いらないよ?」


「へ?」


結城がえ?と言うような顔で首を傾げながらいらないと無慈悲にも言い放つ。


「わたしは、共闘する「ふたり」が欲しいって言ったの、だってあなたたち1人だけじゃ軍人のチームにも入れないほどでしょ?」


そう言い放って美しい笑みを浮かべると結城はテントを出ていく。


残されたハズナとリーシャはチラリとお互いを見るとリーシャが先にテントを出てゆく。


それに続くようにハズナも席を立ち良の入ったカプセルの所へ向かう。




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