ねこと一緒に転生しちゃった!?
036話 るーてぃん?
私が遠征に出てから、二ヶ月半が過ぎた。前回の進行から数えれば約一ヶ月過ぎた事になる。この一ヶ月で更なる冒険者が来訪し、大きな戦力を蓄える事に成功していた。
ウルフテンペスタを討伐隊の編成はその都度変更する事となり、常に最高の人材を戦闘に参加させる事が出来るようにしていた。
そして今日。私を含め数多の冒険者が一人の凄腕冒険者『ラーウェイ』に従って動き出している。目指すのはウルフテンペスタの住処がある『ガラム森林』。
この森林は、エルフ領へと続く道の途中にある森林の一つであり、ウルフが生活をするのに最適な環境が整った土地である。
先遣隊からの話によると、ウルフテンペスタはこのガラム森林の奥地に引きこもり、戦力を蓄えているらしい。
ウルフテンペスタがいる奥地まで行くのには少なくとも三日。かかっても五日と言った感じだ。大部隊を率いて進軍しているのだから時間がかかるのは仕方がない事だとは分かっていても、すぐに倒しにいけないのが歯痒い。今までソロでやってきた弊害だろうか。
それと、今回は戦いの場が森林になるということで、私の広域魔法の炎魔法は全て封じられた。というのも、環境破壊は良くないと支部長に言われた為だ。
環境破壊をしてしまった場合、一気に生態系が崩れら今まで現れなかった未知の魔物と遭遇する可能性がある。それを防ぐために、環境破壊は冒険者の中ではタブーとなっている。
「よォーし! この当たりで一時休憩する! 各自身体を休めるように! 出発は今から二十分後とする!」
ラーウェイ支部長の掛け声によって、これから休憩が入る。二十分休憩と言っても何時間かに一度のペースなので、全然休んだ気にならない。
「あの人鬼か……いや怪物だな……俺等もうヘトヘトなのになんであんなに元気なんだよ……」
「僕もその気持ち分かりますよ……あんなに元気なのを見せられたら、僕達の気が滅入りますよね」
「そうそう。休憩なのに休憩出来ねぇよなあ」
「おい、お前達はこれくらいで音を上げるのか? これは日々の訓練を倍に――」
「やべぇー! マジで早く先行きてぇー! な!? お前もそう思うだろ!?」
「そうですね! いやー、休憩なんてしてる場合じゃないですしね! ホント先に行きたいですね!」
「……まあ、いいだろう。しっかり休んでそのガタガタ震えている足をどうにかしておけよ」
「「了解っす!」」
もう見慣れた光景になりつつあり、最近ではもう無視することさえあるやり取り。私達、女子の方では、このやり取りが始まったらおしゃべりタイムに入る。
「にしても、彼らはよく飽きずにやってますよね」
「なんて言うんやろ……ル……ルー……ルーティンや! あん人達はあれがないと気合が入らんらしいんよね」
「るーてぃん?」
「んー。分かりやすく説明すると、集中力を高めるためにする一定の動作ってことになるんやろうか?」
「私もそのルーティンってやつやってるよー!」
「そうなんですか? どんなものなのか宜しければ教えて貰いたいのですが……」
「うん! もちろん良いよ! 私のルーティンはジャンケンの時に使うの! これを……こうして……ここを覗いて……見えたッ! ってね! 私、これやって負けた事ないの!」
彼女は両腕をクロスして手を握り、それを顔の前に持ってきて、穴を覗き得意げに言った。
小さい頃は私も同じような事をした事があった。それもルーティンに入るのだろうか?
「あれも一種のルーティンやね。多分やけど、集中力を高める事で、微妙な手の動きを見て何を出すのかを予測できるんやろうと思う。相当な芸当やん」
「えへへーっ」
「それで、そのルーティン? ってやつは私でも覚えれるんですか?」
「そうやね。誰でも覚えれるって言うてたよ。理想は、自分が集中出来る格好とか動作がええって」
「集中出来る格好……」
私が一番最初に思い浮かべたのがカヤの事だった。私にとっての拠り所で、家族とも言うべき大切な存在。
今では離れ離れで、触れ合う事が出来ないけれど、いつしか変わった私でカヤと再開を果たしたい。その時は、今まで以上の愛情をカヤに注ごう。
いつも私を助けてくれるカヤ。私を気にかけてくれるカヤ。寂しさを察して優しくしてくれるカヤ。
そんなカヤにいつしか大きな恩返しが出来るようになりたい。
今の私ではまだまだ力不足で、カヤには何も返してあげることが出来ない。けれど、力不足なりに出来ることをしていこう。
まずはカヤが好きなものは何なのか聞いてみよう。どんな事をしてもらいたいか聞いてみよう。そしてそれが私に出来ることなら、いつでもいくらでもやってあげよう。
それが私にとっての幸せで、カヤへの恩返しの第一歩になるだろうから。
「――フィーさんの集中力凄すぎやん……」
「すごいねー。なんて言うか、目を瞑って立ってるだけなのに、隙がない?」
「そうやね。自然体やけど、自然体だからこそ出来る事かもしれんなぁ。何にせよ、フィーさんの集中力は並々ならんわ」
「そんな事ないですよ。私はまだまだです。今も外の声が良く聞こえますし」
「……それは集中した結果の……いや、なんでもないわ。確証がないのに話すのは危険やろうしね」
「危険って、何がですか?」
「ううん、こっちの話や。気にせんといてや。それよりも、フィーさんのルーティンの方はどうにかなりそうなん?」
「はい。それは何とか。集中するだけなら何とかなりそうです。けれどそれを持続させるのはまだまだ時間がかかりそうです」
「まあそれは、何度もやっていくしかないやろね。でも、うちはフィーさんなら大丈夫やと思うよ?」
「そうそう! フィーさんなら絶対大丈夫だもんね! なんてったってフィーさんだもん!」
過大評価され過ぎて少し委縮してしまう。けれど、その評価に追いつけるように努力はしていこうと思う。他人の評価がどれだけ過大なものだったとしても、それに追いつけるように努力しないのは違うと思うから。
「休憩終了ーッ! さっさと次に行くぞーッ!」
ラーウェイ支部長は二十分ピッタリで休憩を終了させて、先を目指し先導を始めた。
数多の冒険者は疲れを滲み出しながら、けれども、先を目指してしかと歩き始めた。
「お前らーッ! 元気がねぇーぞぉーッ! あんま辛気くせぇと魔物がよってくんぞ! それじゃ余計疲れるがいいのかーッ! ほーらッ! お前らの辛気くせぇ雰囲気に釣られて魔物が寄ってきたぞ!」
左右から、各三匹ずつのボアファングが突撃をしてくる足音が響いている。
ボアファングは、大きな牙が特徴的で、その牙は流石に鉄には劣りはするが硬くて鋭く、武器の素材として使われたりする。戦う際には、良く見て回避行動をとるか、真正面からボアファングを止めるかの二択がある。
堅実に行くならば、回避行動を取りながら攻めていく。しかし、今回のように集団の中で回避行動を取ろうものなら、周りに被害がいってしまう。なので必然的に選択肢は一つになる。
「右は俺に任せとけぇーッ! 久々に大暴れしてやるさーッ! ひゃっほーい!」
ラーウェイ支部長は片手に大剣を装備して、ボアファングに特攻を仕掛けていた。
大剣を片手で扱う事に驚いたが、ラーウェイ支部長自身の速さにも驚いた。あんなに重たい武器を持っているのに、あれだけ素早く動けるのには何か秘密があるのだろうか?
「支部長が言ったように俺達は左だ。だが、これだけの冒険者がいるのだから、出番はないかもしれないな」
「あのー、私の魔法で片付けてしまってもいいですしょうか?」
「あー、それは遠慮してくれると有難いです。これはあくまでも他のパーティとの連携を図るためのものですから」
「そうですよね。ダメでもともとなので大丈夫です。ありがとうございました」
「ねぇねぇ、あれってジンって人だよね? 一人で全部倒しちゃったけどいいのー?」
「なんだと!? あいつは馬鹿か! ちょっと行ってくる。どうやらあいつにはキツい説教が必要だからな」
そして説教するためにこの場を離れて行った。クマの獣人さんはご愁傷様としか言いようがない。
「ジン……あいつ終わったな」
「えぇ、終わりましたね。ざまあないですよ」
「いや、何もそこまで言わねぇけどよ」
「何言ってるんですか。僕のあのクマさんに対するフラストレーションは溜まりに溜まって溢れ出しそうだったんですよ? 僕が一番弱いからっていつも馬鹿にしますし、僕が一番弱いからって弱い事を責めてきますし、僕が一番弱いからって僕が話しかけても無視されますし」
「お前……弱い事気にしてたんだな……」
「ふん! いいんですよ別に! ただ、僕を馬鹿にする人は何故か致死量の毒が盛られていたり、夜寝ている時に刺されたり、仲間に裏切られたりするって誰かが言ってたような気がしますねぇ。一体誰がやってるんでしょうかねぇー」
「お前それ隠す気ねぇだろ……」
「まあ、そうとも言います。取り敢えず僕はこう見えて根に持つタイプですよ」
「見たまんま根に持つタイプだよ、お前は」
「あんたら、そんな事言ってると殺されるんとちゃう? うち、獣人は耳がええって聞いたことあるんやけど?」
「「そういうのは早く言ってぇーッ!!」」
クマの獣人さんを馬鹿にしていた二人は聞こえていなかったかを確かめるために、チラチラと三秒に一回のペースでクマの獣人さんの方を見ていた。ちなみに全身震えていて、とてもダサい。
「はぁー。どうしてうちの男達はこんなにアホなんやろ」
「いーじゃんいーじゃん! 楽しいんだし! 楽しかったら笑顔が生まれる! 笑顔が生まれれば幸せになれる! 幸せになれば幸せが広がる! 幸せが広がれば楽しくなる人が増える! 名ずけて! 幸せスパイラル〜! イェーイ!」
「アホの子は男達だけやなかった……」
「ま、まあまあ、私はそれがハピネスラビットの良い所だと思いますよ? 他の冒険者には中々見られないと思いますし」
「ホントにフィーさん、うちに入る気ない? うち一人でみんなを見守るのは無理なんよ……」
「あの……えっと……すいません。それだけは出来なくて……」
「だよねぇ……これからも一人でやるしかないんやねぇ……」
向こうでは、説教をしたい男性と適当にあしらう男性。一方こっちでは、ビクビクと怯えている男性、妙にテンションが高い女性、落胆している女性と、多種多様な状況が私の身に降り注いでいる。
ソロで活動していた時には思いもよらなかった光景だった。なんだかこういうのも良いなと初めて感じたような気がする。今までグループで動いていて、楽だなとは思った事があったけど、いいなって思った事はなかった。だから、少し新鮮な気持ちがする。
「よォーしッ! 無事に討伐を終えたな! さあ先を目指して行くぞーッ!」
そして、ラーウェイ支部長の大きな号令が私達の間を駆け抜けた。
◇◆◇◆◇
「カヤ……ケホケホ……重大発表だ……」
『どうしたの?』
「俺、風邪引いた……ゲホゲホ……らしい」
『へー』
「えっ……俺、風邪引いたんだけど……」
『だから?』
「いや……ゴホゴホ……なんでもないです」
『?』
朝起きてみると寒気がして、頭が痛くて、喉も痛い。若干だが節々も痛い。これは俗に言う風邪だと言うことに思い至るまでに数分もかからなかった。
しかし、この熱の高さはインフルエンザと同等の威力を持った病原菌だろう。
多分、前回の買い物で貰って来たのだろうと思う。これだから人の多い所は嫌いなんだ。……おっと、つい本音が。
取り敢えず、今日は一日安静にしている方がいいだろう。やむを得ないが、ご飯や洗濯、掃除はカヤに全部任せるしかない。
「うーあー……頭痛い……寝るか」
飲み薬でもあればいいのだが、生憎俺は持ち合わせていない。
『寝るの?』
「あぁ、ちょっと頭痛いからな」
『えっ……し、死んじゃう……の?』
「いや……死にはせんだろ……コホコホ……もし死んだとしても生き返るだろうが」
『し、死んじゃやだっ!』
「大丈夫だ、俺は死なん」
『うわぁーん!』
俺の言っていることを聞きもせずに泣き始めたカヤ。しかし、これくらいで泣くとは想定外。
いや、でも良く考えればカヤは野良猫、もしくは捨て猫で、風邪を引いたら殆どの確率で死んでいたのではないかと思う。
それが俺にも来ていると知って、少し錯乱しただけだろう。そうに違いない。
「ほら、頭撫でてやるから泣き止め。そして良く聞くんだ」
『……うん』
「俺はちょっと休めば治るから。カヤは俺が寝てる間、家の仕事頑張ってくれ」
『……うん、わかった』
「いい子だ」
『は、早く元気になってねっ』
「おう」
カヤはテテテテとリビングの方に消えて行った。朝ご飯を作りに行ったんだろう。ちゃんと言われた事をやるなんて、なんていい子なんだろうか。
自分の子供にはカヤくらいの子が欲しい。いやでも、手のかかる子でもそれはそれで可愛い。なんならどっちも欲しい。
「クシュン……ズビー……はぁ……頭痛が痛ぇよぉ……」
風邪のせいで正常な判断が出来ていない。『頭痛が痛い』なんて言っているのが、その証拠だ。
俺はカヤの約束通り早く元気になるために、すぐに眠りに着いたのだった。
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