ねこと一緒に転生しちゃった!?

十六夜 九十九

022話 すぐに行きましょう!


「うぅっ……わたっ……うぐっ……この………人達……に……ひっく……みんな……助けに……うわぁーん!」

「すまんなぁ衛兵さん。こん子酷い目にあってるんよ。上手く話せんようやからうちから話すけどええか?」

「では、あなたの方から当時の状況を教えて下さい。まずは・・・」

 ハピネスラビットの人達が呼んでくれた数人の衛兵が現場に到着し、私は予定通りに泣き真似をして、自分は酷い事をされたということをアピールしていた。
 私の泣き真似は、割と真に迫ってると練習中に言われた。それもそのはず。何故ならば、私はカヤと触れ合う事が出来なかったこの十数日を思い泣き真似をしていたのだから。
 真に迫ったと言うよりも、本当に泣いていると言った方が正しい。けれど、真似は真似なのでこの涙は偽物の涙で、そんな涙で丸め込まれる衛兵には悪いと少し思う。

「・・・ちゅう事や。これでこん子がどれだけ怖い思いしたか分かってもらえたんと違う?」

「確かに、仰る通りのようです。それに先程の話ですと、彼ら『暴れ牛』は過去にも同じ事を幾度となく繰り返していたそうですね」

「そうや。冒険者としてはあるまじき行為やと思うし、人としても終わっとるから、厳重に処罰して欲しいんやけど、そこへんどうなん?」

「あなたの話が事実であるなら、彼らは冒険者としての権利を剥奪され、一生を牢獄で過ごす事になるかもしれません。今の状況ではこんな感じでしょうか。後日またお話を伺いたいと思っていますので、そこのお嬢さんとあなた方のパーティにはもうしばらくこの町に滞在してもらいます。よろしいですか?」

「ええよ。こういうのはしょうがないもんなぁ」

「……か、帰れない…………うわぁーん!」

 まさかの事態が訪れてしまった。
 今後の予定では明日の朝に馬車に乗り、コルンを出発。そして次の日の午後に到着し冒険者協会へ報告をしてから我が家へ……となっていた。
 けれど、もうしばらくこの町に滞在という事は少なくとも一日はこの町に残る必要があるという事で、すなわち、私の帰宅までの期間が延びてしまうということだ。
 帰宅を楽しみにしていた私にとってみれば、これは本当に泣いてしまう案件だった。

 暴れ牛はなんて事をしてくれたのか。これは万死に値する程の行為に他ならない。やはりもう少し痛めつけるべきではないだろうか。
 しかし、そんな事をしたところで私の帰宅までの期間が縮むわけでもない。むしろ、延びる可能性もある。私は早く帰りたいのだからそんな愚行はしない。私は暴れ牛みたいな考えなしではないのだ。

「では、今日の所はこれで。暴れ牛は私達が責任を持って監視、投獄をしておくので安心してください」

「ありがとなぁ。ほな行くで」

「……ひっく……はい……」

 この日はこれで終了となり、宿に戻って次の日の朝を迎える。

 思ったよりも早く迎えた朝に、昨日の件は案外遅い時間にあったんだなと、眠たくて上手く働かない頭ながらに思った。だと言うのにハピネスラビットのみんなはむしろ元気で、『私達がこの世界から一つの悪事を滅ぼしたんだぞー! わはは!』と食堂の人達に自慢をしてる女性がいた。無論、頭を小突かれて礼儀だのマナーだの、迷惑をかけるなという事を口酸っぱく言われていたのだけど。

 それもあってか、コルンの町は暴れ牛の起こした事件で持ち切りになっていた。この町始まって以来の大事件となったそうで、牛兎ぎゅうと事件として名を残す事となった。
 その事件の犯罪者である暴れ牛、総勢十数名。そんな数を一度に投獄したことがないという衛兵は初めて埋まった牢獄を見て、『遂にこの町ににも大犯罪者が出てしまったのか。俺の戦いはこれからかもしれない』と呟いたそうだ。

 ここまでは、町中が噂をしていて私の耳にも簡単に入ってきた事だ。しかしこの噂は、何かが起こったという過去の事しか話してない。
 私が知りたいのは過去の話ではなく、未来の、それも暴れ牛の未来の話を知りたい。

 そういう訳でやって来たのがナーブさんのところだ。一応、昨日の被害者である私は暴れ牛が今後どうなるのかをナーブさんのご好意で教えて貰える事になった。
 それと同時に衛兵が私の話を聞きたいとの事だったので快く了承し、ナーブさんに許可を貰ってからナーブさんの部屋に来てもらった。

「さっそくなのじゃが、本題なのじゃ。『暴れ牛』に所属していた者が自白して、今回事件を起こした者全員、冒険者免許の剥奪と十年以上の服役が確定したのじゃ。もしかすると、これからの話次第では服役年数が延びる可能性もあるのじゃ」

「無期限になる事はないのですか?」

「あったとしてもリーダーだけかもしれないのじゃ。冒険者のパーティリーダーは総括として冒険者の鏡でなければいけないのじゃ。それを怠って尚且つ主導していたとなると罪は重くなるのじゃ。……冒険者は自由なのじゃ。じゃが、それは決まったルールの中だけの話なのじゃ。それでもし、そのルールを破ったなら、自由を与えられている代わりにとても厳しい罰を与える事になっているのじゃ」

 ナーブさんは少し哀しそうに顔を俯けた。しかし、尚も話を続ける。これだけは話しておきたいと、そういう事のような気がした。

「冒険者の集団戦闘において、集団戦闘時のルールを守らずに身勝手な行動をとるものがおったら、最悪、その集団が壊滅してしまうのじゃ。日頃からルールを守らない者は、そういう大事な場面でルールを守らずに身勝手な行動に出てしまうと思えてしまうのじゃ。じゃから、冒険者においてのルールは絶対遵守であって、その決して難しくないルールの中でなら自由でいてもいいという訳のじゃ。……ワシは自由な冒険者が好きじゃ。こんな事があってワシは正直悲しいのじゃ」

「…………」

「むっ!? つまらん事を話してしまったのじゃ! すまないのじゃ! 歳をとると説教くさくなるって言うのは本当みたいなのじゃ。フィーさんも気をつけるのじゃよ?」

「えっと……はい……でいいんですかね?」

 私はなんて答えていいのか悩んだ結果、隣に座っている衛兵に尋ねる形になってしまった。
 尋ねるのは少し悪いなと感じたのだけれども、衛兵は思いの外冷静で、寧ろ当然だと言わんばかりな態度だった。

「支部長の軽口には取り合うなと言うのが私達衛兵の中での決まり事でございます。何とも話が無駄に長くなるとか」

「あぁ、確かに。前回ナーブさんと話した時も長かった覚えがあります」

「おんしら、一応ワシは一番偉い支部長なのじゃが……」

「日頃の行いのせいでございますよ。もう少し支部長としての自覚をお持ちになればこの町の冒険者や衛兵達に敬われるようになると思います」

「じゃけどもワシ、支部長とかやりたくないのじゃ」

「はいはい。そう言い続けてもう何年目になると思ってるんですか。そろそろ諦めて真面目に働いたらどうなのですか?」

「嫌なのじゃ! 他の仕事ならまだしもなんで支部長なのじゃ! ワシが他の支部長にどれだけいびられてると思っとるんじゃ! 真面目に働かないジジイ、他人の力しか借りないジジイ、死ねジジイ……もう嫌なのじゃ!」

 最後のやつだけは何かが違ってるような気がしたけど、ナーブ自身がいびりと認識しているならそれはそれでいいとしておこう。時に真実は残酷なものである事もあるのだ。
 それにしても、ナーブさんとこの衛兵は単なる支部長と衛兵という枠を超えているような気がする。何だか、妙に親しげというか、本音で語り合えてる様な感じ。こんな関係性に支部長と一介の衛兵がなれるものなのだろうか?

「あのー、ナーブさんもうそろそろ次の話に移ってもいいですか?」

「むっ、すまんのじゃ。久しぶりに孫と話が出来て忘れておったのじゃ」

「支部長。このような場では血の繋がりなど無関係です。そんなだから他の支部長にいびられてしまうのです」

「ナーブさんのお孫さんだったんですね。だからそんな仲が良さそうだったんですか。納得がいきました」

「フィーさんまで……フィーさんは話を進めたかったのではなかったのですか……」

「そうでした! 取り敢えず、ナーブさんの暴れ牛が今後どんな処遇にあるのかという話は理解しました。それで、私に聞きたい事があるというのは?」

 実際に不思議なことではあるのだ。
 暴れ牛の処遇は決まり、ここでどんな事をされたという最終確認が出来れば終わりというのが通常の事件である。その場合、衛兵が来る必要もなく、私がナーブさんへ報告すればいいだけの事なのだ。
 けれども、この場には衛兵が同席し、直々に話を聞きたいと言う。今までにないことであり、内心何を聞かれるのかとドキドキしている。

「そうですね。その話をする前に少し話をしておきたい事があります」

「話……ですか?」

「はい。フィーさんと直接話したという暴れ牛のメンバーの一人とリーダーについての話です」

 私と直接話したと言うことは冒険者協会で因縁を付けてきた男と、あの食堂で目を付けてきたゲスな男で間違いはず。その二人がどうかしたのだろうか。

「暴れ牛のメンバーの大半は今回の事件で捕えられた事に怒り狂っており暴れ放題なのですが、先程の二人だけ極端に怯えてしまっていたのです。その為、自ら自白もしましたし、心の底から改心するとも言っています。しかしその一方で、魔法に対して他のメンバー達と違い、過剰な反応を示す事があります。特に、炎魔法と風魔法。何か心当たりはありませんか?」

「え、あ、うぅ……じ、自己防衛で少し……」

「自己防衛……ですか。それならば仕方ありませんね……。彼ら二人はその魔法を見るやいなや、地面に額を付けて必死で謝るのですよ。ごめんなさい、やめてください、殺さないで下さい、と。彼ら二人がそこまでの事をされたのかと思ったのですが、自己防衛で魔法を使われたのなら、彼らの自業自得ですね」

「あはは……」

 私は、降りかかる火の粉を魔法という手段で払っただけで、何も間違った事は言ってないはず。別にやり過ぎてもいないし、炎魔法はちょこっと脅しに使っただけ。風魔法はリーダーに向かってぶっぱなしたが、威力は制限した。
 もし、これだけの事で怯えてしまうようになるのなら、彼らはその程度の男だったと言うだけの話。
 だから、私は何も悪い事はしてない。ただ、彼らの心が弱かっただけだ。

「あと一つお聞きしたい事があるのですが、フィーさんは本当に酷い目にあいましたか? 彼らの証言とフィーさんの客観的な戦闘能力を鑑みるに、酷い目にあう前に撃退出来たと思うのです。ハピネスラビットの方達が来るまでの間にあった事を聞いてもよろしいですか?」

「殴られて、気絶して、縛られて、暴れ牛の魔の手が忍びよって、最後にハピネスラビットのみんなが私を助けに来てくれました」

「随分アバウトですね」

「私も初めて誘拐にあって、色々訳が分からない事になっていたので、その時の事はあんまり覚えていないんです」

「そうですか……」

「そこらへんでやめておくのじゃ。もし本当になにかされてたとしたら彼女が可哀想なのじゃ」

「そうですね。フィーさん、すいません。辛い事を聞いてしまって」

「いえ、必要なお仕事なのですから気にしなくてもいいですよ」

 今まで語ってきた事は真実を織り交ぜた嘘だ。彼等にされた事は全て事実、初めて誘拐されたのも事実、けれども、訳が分からなくなった訳でもないし、あんまり覚えていない訳でもない。
 嘘も方便。より人を納得させるような事を言っておけばいい。結局の所、嘘でも嘘でなくても私は何もしていないんだから。

「これで一応聞きたいことは全て聞くことが出来ました。御協力ありがとうございます」

 深く頭を下げられて感謝の言葉を言われたので、私も同じように頭を下げた。嘘を吐いたのは少し良心が痛むが仕方の無いことだ。気にしないようにしていよう。
 そんな頭を下げあっている私達を見て、ナーブさんが今日一番の重要な事を口にした。

「本来ならフィーさんとハピネスラビットは今日この町を発つはずだったのじゃし、どうじゃ? 今から馬車を用意するからハピネスラビットと一緒に戻るのは――」

「よし行きましょう! すぐに行きましょう!」

 絶望的であった今日中の帰宅が現実的なものになった。それが堪らなく嬉しくて、思わず興奮してしまった。あぁ、ようやくカヤに会える……。

「話は最後まで聞くのじゃ……準備が終わるのが午後になると思うのじゃ。その間にハピネスラビットからも話を聞く事になるのじゃ。じゃから、向こうに戻るのは三日後になるのじゃ。それでも大丈夫なのじゃ?」

「はい! 大丈夫です! お願いします!」

 予定より一日遅れるくらいならなんて事は無い。あぁ、早く帰ってカヤをスリスリモフモフしたい。

「じゃあワシが用意しておくのじゃ。馬車の用意が終わったら宿に呼びに行かせるのじゃ。それまではゆっくりしているといいのじゃ」

「はい、わざわざありがとうございます! では、私はこれで」

「私もこれで公務に戻らせていただきたいと思います」

「うむ! 頑張るのじゃ!」

 私と衛兵はナーブさんに一礼をしてから部屋を出た。衛兵は廊下で私に一礼をするとそのまま公務へと戻って行った。終始、仕事熱心な人だなと感じた。

 私も衛兵のあとを追うように冒険者協会を抜けた足で、宿まで直行した。ここで待っていれば今日の午後に誰かが呼びに来てくれるとの事だったからだ。
 それに、すぐに帰る事が出来る体制にしておかないとちょっとしたロスが帰り着くまでの時間を延ばしてしまう。それは避けたい。
 もしも、馬車に乗っている最中に魔物や盗賊が出てきたら、私は何をしてしまうか想像もつかない。怒り狂って完全に消滅させる可能性もあったりして我ながら恐ろしいと思う。

 そして、馬車の用意が出来たという報告が来るまでの間、私は今まで触れ合う事が出来なかったカヤと何をして遊ぼうかと考えていた。
 遊ぶなら猫じゃらしという物が一番いい。カナタさんに教えて貰ってからはそれで遊んでる。必死で追いかけるあの姿が可愛くて、ついつい抱きしめてしまう事を誰が責められようか。

 その後、午後になって報告が来た時に私が悶えていたのは言うまでもない。見られた時は恥ずかしかった……。

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