ねこと一緒に転生しちゃった!?

十六夜 九十九

003話 俺、死ねないの!?


『今日からお前の名は『テスタ』だ』

『テスタ……うん! いいね!』

 我ながらにいい名前を付けたと思う。付けられた本人も喜んでいるし、申し分ないだろう。後はカヤがどう思うかだが……。

「カヤ、どうだ? いい名だろ?」

「にゃ〜」

 返事をしたカヤの声音は優しかった。どうやら、大丈夫みたいだ。これで一先ずは嫌われずにすむ。一安心一安心。

『ところで、テスタって名前どうやって付けたの?』

『それはあれだ……適当だ。強いて言うなら、お前が初めに『テステス』って言ってたから、それをちょっと捩った』

『なるほど……! よし、これでバッチリ!』

 何がバッチリなのかは分からないが、テスタは自分の名前の由来に納得したようだ。本当の事を言うと、後半の方は嘘で、特に何も考えずにふと降りてきた名前を付けただけだ。
 ただ、何か理由を付けた方が、後々にめんどくさい事にならなさそうだったからな。適当でも理由を付けてやった。

 これで、テスタも少しは落ち着いただろう。俺は全然落ち着かないけどな。
 だってさ、未だに俺の方を見てる人がいるんだぜ? それも尋常じゃない状態で。
 こんな状況でどう落ち着けと言うんだ……。この事も含めて、テスタに聞いてみるしかないな。

『なぁテスタ、結局ここ何処なの?』

『ここは、というかこの世界は『エクスウェルト』だよ? 言わなかったっけ?』

『『地球』じゃないのか?』

『うん!』

 …………。

 ……今、さらりとすごい事を言われた気がするんだけど、俺の気のせいだろ? な?

『キミ、信じてないでしょ?』

『信じろと言われる方が無理な話なんだが……』

『だったら、そこら辺にいるヒトを見てみるといいよ。信じる気になるから』

 テスタがそういうので、さっきからこっちを見ている集団の中でも、一際泣き喚いている一人を見てみた。
 だが、泣いている以外におかしい所は何もない。目が二つに、鼻が一つ。口も一つで、犬耳がちゃんと頭についてる。って……ちょっと待て。俺今なんて言った? 犬耳?

 俺はもう一度しっかり確認をする。
 目二つ、鼻一つ、口一つ。犬耳が頭に二つ。おまけに、ふさふさの犬の尻尾がお尻についてる。その他は全然変わった所はない。変わってるのは、俺の頭のようだな。

 ははっ。まさか、そんな、ねぇ……?

『俺の頭が事故でおかしくなったようなんだけど?』

『どうしてそうなるの!?』

『どうしてと言われてもな。あれってコスプレ?』

『違うよ! 正真正銘の獣人!』

『獣人か。そっかそっか。……って、えぇぇ!!』

 いやいや。そんな馬鹿な話がある訳ない。だってほら、他の人はそんな事な……い……?
 あ、あれ? なんか耳が尖ってない? それにすごくイケメン……。ちっ。イケメンは死ねばいいのに。……おっと、俺の黒い部分が出てしまった。
 今はそんな事は置いといてだ。あれって所謂、アレだよな? 耳が尖ってて、美男美女が多いっていうアレ。

 俺は混乱しながらも、観察を続ける。
 だが、誰もが存在しないはずの容姿をしており、俺の混乱は酷くなるばかり。

 そんな時、一部がたわわな女性に俺の目が止まった。……いや、別に胸が大きかったから凝視しているとかそんなんじゃないぞ? 確かに大きい事は大きいんだが、気になったのはそこじゃない。

 その女性は、俺と変わらない容姿をしていた。違うのは、性別による身体的特徴ぐらいだ。分かりやすく言えば、彼女は"人間"ってこと。
 目の保養も出来て、人間も見付けて一石二鳥だぜ!

 だが、俺に見られてた女性は顔を青くして走り去る。走ってるから、何ともまあ揺れること! 上下に激しくプルンプルンってな感じで。ごちそうさまです。

 俺はそれを見て少しの落ち着きを取り戻した。そして、テスタにもう一度問いかける。

『本当にここは『地球』じゃないんだな?』

『もう! 何回も言ってるじゃん! ここは『エクスウェルト』だって!』

『じゃあ、その上で聞きたいんだが、あのコスプレみたいなのは獣人で、あっちの美男美女はエルフって事になるのか?』

『うん! 地球では有名なんでしょ?』

『地球規模ではどうかは知らないが、日本人には有名かもな』

 やはり、ここまでくると認めざるを得ないか。ここが『地球』ではなく、別の世界だってことをな……。
 だが、認めてしまったらもう早い。俺はあるがままを受け入れる。獣人もエルフも、その他の種族もな。郷に入っては郷に従えって言うし、世界が違うのに一々気にしてたらキリがない。

 という事で、俺、今日からこの世界の住人になります! テヘペロ!

「カヤも俺と一緒にこの世界の住人になろうな!」

「にゃ」

「うんうん。そうだな! 幸せな家庭を築こうな!」

「にゃ〜ん」

 なんて言ってるか分からないけど、取り敢えず適当な事を言っておいた。
 そして分かった事は、知らず知らずの内に俺の頭はおかしくなってたってことだな。いい歳こいて『テヘペロ!』とか、猫と二人で『幸せな家庭を〜』とか、頭がおかしいとしか考えられん。

 全ての元凶はテスタだ。テスタが俺に現実を突き付けるから……。恨み言の一つでも言ってやろ。

『テスタなかんか死んじゃえっ!』

 おっと、恨み言を言うつもりだったのにストレートに言ってしまった。

『カヤに言い付けてもいいの?』

『ごめんなさい! すいません! 申し訳ありません!』

『そ、そんなに必死にならなくても……』

 カヤに嫌われたら俺はもう生きていけない。この世界から居なくなるわ……。

 あ、居なくなるで気付いたんだが、この世界って地球じゃないのに、どうして俺がこの世界にいるんだ? というか、この世界って何? 天国なの?

『と、思ってる訳なんだが』

『どう思ってるのかさっぱり分からないよ?』

『はぁ……。俺、どうやってこの世界に来たんだ? ここ天国?』

 思わずため息が出てしまった。頭の中で話せるなら、考えてる事も読み取ってほしい。何度も同じ事を考えるのは面倒臭いからな。

『そんな事、キミは気にしなくていいんだよ! それよりも特殊能力のこと聞きたくない!?』

 質問にも答えず、話をすり替えてくるテスタ。この話題になった途端、テンションが上がったのが分かる。
 でもまさか、俺の質問がそれよりもで流されるなんてな……。テスタにとってはどうでもいい事みたいだ。俺にとっては結構重要な疑問のような気がし……ないな、うん。だって俺、もうこの世界の住人だし。

 そういう訳で、テスタが言う特殊能力について多少気になってきてる。ちょっと前に『特殊能力を一つずつ付けたからね!』とか言ってたし。どんな感じの特殊能力なのだろうか?
 もしかしたら、凄く強力な能力だったりするかも。なんか胸がドキドキしてきた。

『少し気になるな。俺の特殊能力ってなんだ?』

『ふっふっふっ! その言葉を待ってたよ!』

『いいから早く』

『ちぇー。雰囲気出そうと思ったのに』

『今のところで雰囲気なんていらないだろ……』

 テスタって意外と天然だったりするのか? それともマジで子供で、自分の興味のある事しかしないの? まあ、なんにせよテスタは面倒臭いな。別に嫌いって訳ではないけどね。

『それで結局、俺の特殊能力って何なの?』

『一言では言い表しにくいなあ』

『取り敢えず言ってみてくれ』

『怪我は即時回復、部位が欠損してもすぐに生えてきて、どんな状態で死んでも生き返るってやつ』

『えっ! 俺、死ねないの!?』

『一回死んで生き返るから死ねない訳じゃないよ? それに寿命で死ぬのはどうしようもないし』

『そういう事を言ってるわけじゃないんだけど……。ちなみに、死ぬ時って痛みとか感じるの?』

『当然じゃん』

 軽くヤバい事を言ってくれるテスタ。
 でもこれって、控えめに言って拷問だろ……。こんな特殊能力欲しくないわ……。

『ほら、自分の手を見てみてよ。カヤに噛まれた所、もう治ってるでしょ?』

 俺はテスタの言う通りに自分の手を見てみた。確かに、カヤに噛まれて流血していたところが、綺麗さっぱり無くなっている。
 これを考えると、この特殊能力は便利ではある。だがなぁ……。

『ちなみに、俺は強いのか……?』

『一般人レベルかな?』

『マジかよ。弱くね?』

 この世界の強さの基準なんて分からないし、今は何とも言えない。だけど、どう考えても一般人レベルは弱いと思う。

『でも、その分カヤは強いよ! というかそれがカヤの特殊能力だし!』

『へぇ。どんな?』

『一言で言えば最強! それにやろうと思えばなんでも出来る! どう? 凄いでしょ!』

 なにそれ……ただのチートやわ。
 もしもカヤを怒らせて、俺に襲いかかってきたら、俺は一体何回死ぬんだろうか……。想像しただけでもゾッとする。絶対に怒らせないようにしよう。嫌われたくないってよりも、死にたくないって気持ちの方が強い。

『どう? 二人の特殊能力! いいでしょ?』

『うん。カヤの特殊能力は素晴らしいな』

『でしょでしょ! でもキミの方が凄いよね! だって死なないんだから!』

『うん。俺は死なないだけだからね? せめてもう少し強くしてくれてたら良かったなって思ってるよ?』

 どう考えても、カヤの特殊能力の方がいいよな。最強なら死ぬ要素ないし。しかもやろうと思ったらなんでも出来るんだろ? 俺がいる意味無くね?
 もしかしたら俺がカヤのお荷物になって、カヤに捨てられるかもしれない……。か、考えただけで涙が……。

 あぁ、どこの世界も不条理なのは変わらないのか……。せめてこの世界くらい俺に優しくても良かったと思うんだ……。俺、早くもこの世界を生き抜けるか不安を感じてきた……。

「にゃ~」

「カヤは俺を捨てたりしないよな……? な?」

「にゃ?」

「『何言ってんだこいつ』みたいな顔してるから大丈夫だな。安心したよ」

「にゃ~?」

 今のところカヤは俺を捨てるような事はしないようだ。それが分かっただけでも僥倖。まだ強く生きていける。
 もしカヤに捨てられたら、海の底にでも沈もう。死んでは生き返る事を繰り返すだけだけど。……なにそれ怖い。

『取り敢えず、ボクがキミに伝えたかった事はこれで全部かな?』

『そうなのか?』

『うん! じゃあまたね! ぼくはキミの事をずっと見てるから!』

『あ、おい! ずっと見てるってどういう事だ!』

 それ以降は俺がどれだけ怒鳴っても、テスタは全く反応を示さなくなった。それに、その時から俺の頭の中にいた存在みたいなのがいなくなっている事を感じていた。
 これはテスタとはもう話せなくなったって事になるのか? でも、ずっと見てるって言ってたからな。いつかはまた話せる日が来るだろ。
 そう納得した俺はカヤを抱き寄せる。

「さて、カヤ」

「にゃん?」

「これからどうすっかね……」

 俺はカヤと二人、未だに喧しく騒ぐ集団に見られながら、今後の話し合いを始める。

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