ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章11話 真実到達のファーストステージ(5)



『一応、お聞きしますが、どうしますか、アリシアさん? ボクを、その……、なんらかのルール違反で、本当に国外追放しますか?』
「――にわかには信じられませんが、私はそのようなこと、絶対にしません」

『アリシアさん……』
「私もまだまだ未熟なようで、胸中がぐちゃぐちゃになってしまっているのですが……。ロイさんにとっては理不尽だろうと、あなたに言いたいことが、どうしても思い浮かんでしまうのですが……。っっ、それでも、ここでロイさんを捨てることは、王国のためにならないと、判断できていますので」

『ありがとうございます、本当の、本当に』
「いえ、こちらこそ、真実を教えてくれて、感謝してもしきれません」

 誠心誠意、ロイは改めて礼を告げた。
 前世でだって、地動説を信じたら、異端者扱いされて、多くの人間が処刑された時代があったのだ。

 アリシアのこの反応は奇跡に等しい。
 自分は仲間に恵まれている、と、ロイは心底神様に感謝した。

『ところでアリス』
『なにかしら? あっ、私はロイのことを信じるわよ? いろいろ整理できないことも多いけど……、それでも! イヴちゃんは言わずもがな、私も、シィも、マリアさんも、レナード先輩だって、ロイの今までの頑張りを知っているわけだし』

『そっか、ありがとう』
『べ、っ、別に……これぐらい当然よ。ロイと一緒なら、世界とだって戦えるわ』

『う、うん……』
『えぇ、そうね、うん』

 久しぶりにツンデレを発動するアリス。
 無線機越しだというのに、甘酸っぱい雰囲気が完成されてしまったようだ。

「オイ、ロイ、テメェ……ッッ、アリスに訊くことがあるならサッサと訊きやがれ。会議中になに惚気てんだ、アァ?」
『地味に私怨が混じっているんだよ……』

「とはいえ、レナードさんの言うとおりです。姉よりも先に妹が結婚するなんて……」
『本当にアリシア隊長の仰るとおりですね。姉が行き遅れるなんて、あってはならないことですね……』

 年上組が微妙に現実を嘆き始める。
 他にも嘆くはずのポイントがあるはずなのに……。

『それでアリス、ボクとアリスが偽物の恋人を演じていた時があったよね?』
『えぇ、あったわね。周囲の詮索を回避するために』

『その初日、占星術の講義があったのって覚えている?』
『覚えているわ。っていうか、その講義の終わりに、私がロイと付き合いだした、って、みんなにアピールし始めたじゃない』

 アリスはトパーズの月第1 ‐ 2部の13日3章8話のことを思い出す。
 確かその講義でロイとアリスが当てられた問題は――、

『――当たり前といえば当たり前だけど、教授も、他の在学生も、みんな天動説を信じていたわね』
『正直、ボクはあの講義で笑いを堪えていたんだ。でもね? 講義の最中に違和感を覚えた。逆にみんな、天動説の方に笑いを堪えている感じだなぁ、って。実際、魔王軍の認識を小馬鹿にしている雑談も聞こえたし』

 と、そこでアリスはその数日後のロイの行動を口にした。

『待って、ロイ。あなたそういえば、図書館で――』
「あぁ、それは俺も覚えている。俺の方は錬金術の本を読んでいたが、あの時、テメェの方は――」

『――読んでいたのは占星術の本でした。流石に、あの時点で七星団に即行で入団して、なにかアクションを起こそうとは考えていませんでしたが。それこそ、異端者扱いを受けて、国外追放までいかなくても、なにかしらの罰が待っていそうでしたし』

『お兄ちゃん、何手先まで読んでいるんだよ……』
『うっ、腹痛が……』

 数ヶ月前の自分の行動をロイは褒めてあげたい気分だった。

「それでロイさん、なにかわかったことは?」
『表現が違うだけで、どの書籍にも、魔王が魔術で宇宙を狂わせた。数学を用いた計測法で、宇宙ではなくこの星が動いているような結果になってしまうのは、魔王の策略のせいだ、と、そのように書かれていました。魔王に対する反抗心が仇になっていますね』

「確かに、それは初等教育の時点で習うような知識です。ですが、だからこそ異世界からの来訪者でないと、その情報を疑うことが不可能、というわけですか」

『えっと……、ロイくん? つまり、実際は存在しない魔術を解析しようとしても、永遠に解析対象さえ発見できない、ってこと?』
『うん、シィの解釈であっているはずだよ。けど、それ以上の違和感がもう1つある』

『これ以上、シィたちに不都合なモノがあるなんて……』
『いや、むしろこっちは魔王に対してのカウンターになりそうな情報なんだけど――』

 そこでロイはタメを作った。
 しかし顔が見えなくても、みんなの急かすような雰囲気を察し――、
 イヴとマリアに至っては直接、ロイのことをキラキラした瞳で見てきて――、

『――ボクの〈零から始めるオンベグレンツァト・無限の修練イーブナヌーマァ〉って、正直、意味不明すぎない?』

 ――と、思い切ってずっと思っていたことをぶちまけた。
 無論、その意味不明な発言に全員、アリシアでさえ即座になにも言えない――訂正――あえて、なにも言わない。

 どこからどう考えても、魔王に対するカウンターになるとは思えない。
 仮にロイのゴスペルが役立たずなら、むしろ魔王にとっての脅威が1つ減ることになるというのに……。

「ロイ……、その情報のどこが、魔王に対するカウンターになるんだよ、オイ……」
『なのに、女神様はこのゴスペルをとってもチート、って断言した。他にも、あなたなら、きっと最強になれるでしょう、とも言っていたね。――そう、恐らくあの当時から、魔王がジャミングしていたはずの神域で』

 そう、この前提が間違っていることはありえないはずだから――
 ――つまり、神様の女の子は、ラグナに盗聴されていることを承知の上で、ロイにその説明をしたことになる。

『んんっ? なら、なんでお兄ちゃんは女神様に話をあわせられたの? あの当時なら、お兄ちゃん、魔王が女神様をジャミングしているなんて、知らなかったはずなのに』
『女神様はこうも言っていた――私は神ですから、どれだけ現実味のないことでも、あなたに信じ込ませることができるのです、って』

 そこから推測できることは1つ。
 それは――、

『女神様が弟くんを強引に信じ込ませた、ということですね? それが本来、ツッコミどころ満載の情報でも』
『そう考えれば、いろいろな疑問も出てくる。努力が楽しくなるとか、成長の余地を増やす余地の開放とか。結局、そういうのは、充分な時間があって初めて最強に至れるかもしれない、って話なんだ。病気や事故、老化や戦闘による後遺症、敵による永久封印の可能性を考えたら、杜撰《ずさん》な計画にも限度がある。ボクがエルフとか竜人とか、長寿な種族として転生するならまだしも、この世界に生まれ落ちてみれば、普通の人間だったし』

「なるほど、女神様の本命はゴスペルではなく――」
『――えぇ、恐らくエクスカリバーの方でしょうね』

 そう、いくら魔王が神域に干渉できたとしても――、
 ロイが生まれたあとに手にした聖剣が彼女の切り札ならば――、

 ――実際にあるか否かはともかく、仮に存在した場合、現時点でロイさえも理解していない能力を、ラグナには推測することさえできないのだから。


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