ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

3章7話 真実到達のファーストステージ(1)



「レナード・ハイインテンス・ルートライン、ただいま帰還しました」
「ご苦労様で……す?」

 22時42分、A班の拠点にレナードが帰還した。
 彼の声に反応し、アリシアはテーブルの書類から顔を上げるが――、

「? どうしましたか?」
「いえ……、まだその女の子の姿に慣れていませんので……」
「いえ、むしろ見慣れないでください、こんな姿」

 こんな姿、と、女装した本人は嘆くが、その実、エクスカリバーを使って体型を弄っているロイよりも、レナードの女装の方が似合っていた。
 前述のとおり、適当なカーディガンに適当なスラックス、これまた適当な女性用の靴を履いて、あとは常に内股を意識して歩けば、この時点でもう完璧である。

 化粧を施して、顔の輪郭を女性に見えるようにするとか。
 ウィッグを被るとか。

 本来女装をする上で上位に君臨する要素でさえ、(無論、任務だから手を抜くことはないが)彼の場合はもはやオマケ要素でしかない。
 あとは自分の喉をアスカロンで少し斬り、『自分の女声がバレる』という事態の発生順位を最下位に、『自分の女声が、むしろ美しく聞こえる』という事態の発生順位を最上位にすればモアベターである。

「まぁ、綺麗な姿であることに間違いはありませんので、初見の相手なら確実に誤魔化せるはずです。心中は察して余りありますが、外出時は堂々としていてください」
「了解です。それで、今日はもう着替えても?」
「えぇ、大丈夫です」

 レナードは許可をもらうとあてがわれた自室で男性用の服に着替え始める。
 どうせあとは打ち合わせをして就寝するだけだった。

 レナードは本当に飾りっ気のないシンプルな上着と適当なズボンを履くと、すぐにアリシアがいるリビングに戻る。
 当然のことながら、今日の報告をすませておくレナード。

 そして数分後――、
 テーブルにて、彼の対面に座っていたアリシアは――、

「さて、そろそろアレをいたしましょう」
「あぁ、意味がよくわからないアレですか」

 アリシアの提案していることを察し、レナードは無線通信機を用意しながら微妙に呆れているような表情かおをした。
 無論、レナードは隊長であるアリシアに呆れているのではない。彼が呆れている人物は他にいたのだから。

 実はレナードと似たような感想を抱いているのだろう。
 アリシアの方も、特にレナードになにも注意しないで自分の無線通信機を用意した。

 そして――、
 今度は数秒後――、

「ぬるぽ」
『『ガッ!』』

「はい、ロイさん、アリス、応答ありがとうございます。これより打ち合わせを開始したいと思います」

『こちらB班、了解です。問題ありません。イヴと姉さんももちろん揃っております』
『こちらC班、同じく問題ありません。シィにもキチンと聞こえております』

「オイ……、ナァ、ロイ?」
『どうしたんですか、先輩?』

「……これ、本当にテメェの故郷の合言葉なのか?」
『そうですけど? まぁ、実際に私生活で使う人は滅多にいませんでしたが。なにか問題でも?』

「俺の個人的な感想だが、発音がダサイ」
『だからこそ、合言葉として優秀なのでは?』

 なにかが微妙に間違っている気がする。
 なのに、レナードにはなんらかの情報が足りていなくて、それを突っ込むことが不可能だった。

「さて、雑談はそのくらいにしておきましょう。なにせ、今夜この分隊のメンバーで話し合うことは、レナードさん、あなたのことなのですから」
「俺、ですか?」

「まず、あなたは移民でしたね?」
「あぁ、肯定です。それは七星団に入団する時に全て書類に記載したから、隠しているわけじゃねぇですが……。調べようと思えば、例のアイツじゃなくても誰でも辿り着ける情報です」

「ヴォルケエーベネの紛争――で、あっていますか?」
「それも肯定です」

「ロイさん曰く、移民と難民は別物で、レナードさんの場合、正しくは難民に分類されるそうです。あくまでも、向こうの世界の話になりますが」
「察するに、自分の意思で移住するのが移民、戦争や人身売買などでやむを得ず移住するのが難民、といったところですか?」

「やはり、本来の頭の回転速度は速い方なんですよね。これでもっと学院で勉強してくれていれば申し分なかったのですが……」
「も、申し訳ありません……」

 バツが悪そうにレナードはアリシアから視線を逸らした。
 しかし、アリシアからしてみても、今は説教をする時ではない。

 そう、『これと同じこと』を『すでにレナードに言ったことがあった』から。
 ゆえに――、

「さて、本題に入らせていただきます。ロイさんが前にいた世界では、彼が生まれてくるよりも昔に、第一次世界大戦と、第二次世界大戦というモノがあったそうです」
「世界大戦? 従来の戦争となにか違うんですか?」

「私たちは今、グーテランドと魔族領とで、ほとんど向かい合って、互いに睨みながら戦争しています」
「俺も、そのように認識しています」

「私もまだまだ勉強を始めたばかりで、詳細な説明はどうしてもロイさんに求めることになってしまうでしょう。それでも、私の方から言えることがあるとすれば――その世界大戦というモノは、国と国とが同盟を結び、敵もまた別の国と同盟を結び、戦場が惑星規模で広がっていた、ということです」
「そういえば――」

 ふと、レナードは1人、仲間の少女の顔を思い浮かべる。
 あまり詳しく知っているわけではなかったが、浅めの情報は1つ、彼も知っていた。

「シーリーン」
『ほぇ? シィ?』

「別に戦争孤児ってわけじゃなかったはずが、テメェも、確か1人で王都に来ていた記憶があるんだが……」
『はい、そこらへんの事情はもう、ロイくんと結ばれる前からロイくんには明かしていましたし』

 レナードに知るよしはなかったが、通信機の向こう側で、どこかシーリーンは幸せそうにぽわぽわしながらその時のこと第32話を思い出す。
 これまたレナードに知る由はなかったものの、その嬉しそうに笑う姿をアリスにジト目で見られながら。

「えぇ、そして、それこそが今夜話し合う謎の切り口です」
『それ? シィの以前の1人暮らしのことですか?』


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