ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章25話 絶対領域のパーソナリティ(1)
「流石に敵もバカではない、ヒットしませんか……」
「だろうな。王女殿下が打った起死回生の一手、政治上の汚点は全て【土葬のサトゥルヌス】に押し付ける計画。ここで動くということは即効性がないだけで自殺行為に等しい。よって、動きがないのは当然だ」
「追加情報――現在、架空の七星団上層部の団員をでっち上げ、普通に在籍していることにしており、その架空団員に全ての罪をいつでも集中砲火できる状態。【土葬のサトゥルヌス】を発見し、可能なら無力化し次第、架空団員の中身をあいつということにできる。つまり――」
「――状況を打開するために殺人なり洗脳をすれば、確実に痕跡が残り、こちらとしては足取りを追いやすくなるのに、向こうからしたら冤罪ではない本物の罪が増えてしまう。罪がいくつであっても死刑確定でしょうが、それが多ければ多いほど、捜査魔術師増員時の大義名分が増え、自分の首を真綿で絞める。大人顔負けの手腕ですね……、私の記憶違いでなければ、王女殿下、まだ15歳のはずでしたのに……」
19時39分――、
先刻とは場所が移り変わり、七星団の本部のアリシアの自室にて――、
アリシア、シャーリー、エルヴィスの3人は個別会議を行っていた。
天井にはシャンデリアがあり、翻り、床一面に広がるのは上品で、派手すぎず、むしろ落ち着いた印象を与える高級で高品質な絨毯。アリシアの自室はかなり広く、ロイの前世換算だと、1人部屋なのに15帖以上もあるではないか。狙撃による暗殺防止のため、3階に部屋があるのに空間を歪曲させ、南側の窓からは最上階からの夜景が一望できた(逆に外からは7階の窓越しにアリシアの部屋が見えるか、もしくは実際にカーテンが閉まっていなかったとしても、操作すればそれが閉まっているように見える)(なお、実際に7階を狙撃したら、景色を繋げているだけなので、7階に置かれた警報装置が作動する仕組みになっている)。
部屋にある物といえば、豪華、清潔、巨大、そして安眠必至であるフカフカの天蓋付きベッドの他に、ソファ、ローテーブル、東側の壁一面の本棚と、それを99%埋め尽くす魔術に限らない専門書。それと、所有しているアーティファクトの収納箱(もちろんパスコード付き)や、テーブルではなく仕事用のデスクも。
そのような貴族令嬢の自室の手本のような空間にて、3人ともソファに座り、天板がガラス張りのローテーブルを割と真剣に囲ってみせる。そこには8つに分割された画面と、それに映る8人の視界が。
「各員に事前通達していたとおり、『意図的に私語を増やした会議』でしたが、これでウソを見破る魔術を使える誰かに会議の内容を訊かれても、『任務にはあまり関係ないけど、虚偽というわけでもない会議内容』で返答することが容易になります。が――」
「現状――ロイ様と王女殿下、並びに第562特殊諜報作戦実行分隊の隊員とメイドのハローハウスロウ様、合計8人に接触を試みたのは七星団の団員のみだと20人ジャスト。王女殿下に執務に必要な書類を提出したり、サインを求めたりしたが7人。何気に不良系リア充陽キャのルートライン様に餞別を送ったのが5人。アリス様とマリア様に餞別を送ったのが各々4人。ラ・ヴ・ハート様とイヴ様はボッチ。無論、ロイ様は面会謝絶状態」
「皆さんの了承を得て、私とシャーリーさんで視界共有させてもらっていますが、会議の内容について質問する御方は今のところ、当然ですが現れませんか……」
「追加情報――ディナーの際、ハローハウスロウ様を除くメイドが複数人、件の8人と、やはりハローハウスロウ様を除く7人が食卓を共にさせていただいた国王陛下に接近したが、配膳に関すること以外の行為、言動は確認されなかった」
「陛下はこのことを知っておられるのか?」
「えぇ、流石に了承は得ておりますとも」
ちなみにトイレと入浴の際のみ、自分で可能な方の目で瞬きを3回する、という動作をすれば、魔術をキャストされた場合の遠隔感知魔術は解除されないのに、視界の共有だけは解除されることになっている。元に戻す時も同様の動きをすれば再度、繋がるようになっていた。
必要最低限のマナーとプライバシーが守られていることを確認すると、ふと、エルヴィスはシャーリーに視線をやった。
それに気付くシャーリー。彼女がこちらの視線に気付いたことに気付くと、エルヴィスは少しだけとはいえ緊張を覚えながら、あることを彼女に訊いてみる。
「ところでシャーリー」
「むっ?」
「――【土葬のサトゥルヌス】はどうだった?」
刹那、答えようとして口を開いたのはいいものの、シャーリーは声を出せなかった。
その質問はいつか、異世界の存在を知る者のうちの誰かが、絶対に自分にしてくるモノだったとはいえ、心の準備ができていなかったから。
とはいえ、エルヴィスにそれを撤回する気はない。
もう少しでアリシアが敵の領土に行ってしまうし、それまでに今のように都合よくこの3人が集まれる保証なんてどこにもないがゆえに。
必然の追及。
エルヴィスは意図的に質問の内容に詳細な条件を増やした。
「具体的には、魔術師として、特務十二星座部隊に匹敵する強敵として」
「情報共有――不幸中の幸いで、私めとあいつは実力も知識も、恐らく大差ない。とはいえ、私めはロイ様の異世界知識を独占的に魔術に組み込んであいつと互角なのに対し、もしかしたら魔王軍はロイ様に匹敵する知識を公に共有している可能性がある。実際、私めと【土葬のサトゥルヌス】の魔術的技量を凌駕するアーティファクトを魔王は開発していた」
魔王――、その単語にアリシアもエルヴィスも、目つきを険しくする。
「――魔王。――魔王軍最上層部、革命執行派閥、悪十字の序列第1位、【水辺のオーディン】こと、ラグナ・アドヴェント・フォン・トーデストリープ。アリシアとシャーリーさえ凌駕する魔術の天才、か……」
現状、七星団の誰であっても1対1でラグナを倒すことは不可能、というのが少なくともここに集まった3人の共通認識だった。
アリシアはすでに一度、ラグナを相手に実質、敗北しているし、恐らく、星の序列第1位のエドワードでも彼には勝利できないはずだろう。アリシアの想像だと、確かにエドワードは自分よりも強いが、魔術師ではなく騎士であるため、ラグナを相手にしたら撤退さえできない可能性があった。
「シャーリーさんは聞きましたか、ロイさんが神域で経験した出来事を?」
「当然――そう訊いてくるということは、そちらも聞き終わっているということで相違なし?」
「あぁ、よく魔王と会敵したのに生還してくれたものだ……。神域では戦闘が禁止されていると言っても、心底そう思う……」
「中断――女神と神域の話も大切ではあるが、今は【土葬のサトゥルヌス】の順番。あいつ、見過ごせない魔術を使っていた……」
今度はシャーリーがシリアスになる番だった。
とはいえ、今、彼女の顔に浮かんでいるのは怒りや憤りではない。強いていうならそれは困惑。苛立ちを発散させるために物に当たるとか、歯を食いしばって次回勝つために雌伏に徹するとか、もはやその程度のことさえ判断に迷うような神妙さである。
「異世界知識を組み込んだ魔術ですか?」
「否定――あいつ……、【介入の余地がない全、つまり一、ゆえに完成品】と【人体錬成・零式】を使っていた……」
「「な……ッッ!?」」
明らかに動揺する2人。
この状況でシャーリーが冗談なんて言うはずがないのに、もはやそれさえも、わずかとはいえ疑わざるを得ない。それほどまでにあってはならず、対処、取り扱いに慎重にならなければならない情報だった。
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