ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章21話 原理不変のアーティファクト(1)
「そういえば、シィは不登校だったから……」
「う、うん……、ロイくんたちは習っているかもしれないけど、シィは……、その……」
ロイはシーリーンがもともと学院に通えていなかった、という事実の爪痕を気にして、少しだけ言いよどんでしまう。最近のシーリーンは女の子として明るく可愛らしかったし、七星団の団員としてもすごく勇ましかったので、互いに気にしないようにすることができていた過去、それとのギャップが大きかったせいだろう。
一方で、無知であることが恥ずかしく、シーリーンの方も歯切れが微妙に悪くなっていた。
そのような2人を見てマリアは気付く。
本来、中等教育下位に在籍しているイヴも、シーリーンと同じ状態のはずなのだが――、
「ちなみに、イヴちゃんはどうですかね?」
「わたしは大丈夫だよ、お姉ちゃん! 聖剣や魔剣、アーティファクトに関する環境がグーテランドと類似している前世を、何十個か何百個か、とにかく経験済みだもん」
慎ましやかな胸を張ってイヴは問題ないよ、と、自信満々でアピールしてみせる。
事実か否かは実際に筆記試験をしてみないとわからないが、マリアは実力だけではなく、知識量でも妹に負けている可能性があることに気付き、自分の頬が引きつるのを自覚してしまった。
「嘆いていても仕方がない。とりあえず、ロイ」
「はい、なんでしょうか?」
「中等教育下位の教科書、まだ捨てずにこの自室に保管してあるか?」
「えぇ、クローゼットに入っているはずですけど、どの箱にしまったかまでは……」
「ご主人様、こちらでございます」
ロイが探し始めるよりも、あるいは探すのを諦めて、口頭で説明しようとするよりも早く、クリスティーナが己が主人に対して申し出る。
主人の背後から物を手渡すわけにはいかない。ゆえに僭越ながら、少々シャーリーの前を失礼して、そのようにクリスティーナは件の教科書をロイとシーリーンの間に置いてみせた。
「ありがとう、クリス。でもどうやって……」
「皆さま少々お忘れかもしれませんが、わたくしにはブラウニーとしての種族スキル、〈使用人の嗜み〉がございますので。料理、掃除、洗濯は言わずもがな、探し物から害虫駆除、果ては不審者発見まで、このクリスティーナ・ブラウニー・ハローハウスロウにお任せくださいっ♪」
まるで麗らかな春の昼過ぎに見付けたタンポポのように癒されて穏やかな、そのようなパーフェクトメイドさんスマイルを披露するクリスティーナ。
ロイがクリスティーナに礼を伝えると、彼女は再度、後方で待機し始めた。
翻り、ロイは彼女がテーブルに置いてくれた教科書をシーリーン側に少し寄せてあげる。無論、聖剣や魔剣、アーティファクトに関するページを開いた上で。
そして教科書を覗くシーリーン。
そこには――、
「聖剣と魔剣にはスキルが込められていて、アーティファクトには術式が込められている? んんっ、どういうこと?」
早速、教科書と睨めっこを始めたシーリーンが小さく首を傾げた。
小動物らしくて心底可愛らしい仕草ではあったが、会議を終わらせることができないのは困る。結果、戦闘員としての実力は皆無だが(そもそも戦闘に加わることを許されていないが)、一般市民の常識に疎いだけで博識なヴィクトリアが、まずは説明を試みることに。
「シーリーン様、どうしてアーティファクトはほとんど金属で、効果が強い物ほど金や銀やダイヤモンドが使われると思いますの? そして逆に、木製のアーティファクトがないと思いますの?」
「えっ!? 理由なんてあったの!? シィ、強いアーティファクト=宝石って決め付けていて……、疑問なんて特になくて……」
「まぁ、実はそれも間違いではございませんわ。ご安心くださいまし」
全然論理的ではなかったものの、現実問題、確かに強い効果を持つアーティファクトほど、その素材に宝石、言い換えれば貴金属が採用される傾向にあった。なのでヴィクトリアはまず、それは間違いではない、ということを疑いの余地なく明言しておく。
「確認――ラ・ヴ・ハート様はジェレミアのヤツとの入団試験で、水筒の水に向かって詠唱して、魔力反応を感知されない方法であいつを奇襲した。覚えていますか?」
「は、はい!」
「詠唱とは即ち、魔力の振動である術式を組む発声法の一種。つまりね、シィ、魔力を有している一定の空間、それを満たしているのが流体なら、基本的に詠唱は成立するのよ。もちろん、理論上の話であって、術者にはかなりの技量が要求されるけど」
「ど、どういうこと……?」
徐々にシーリーンの脳内にクエスチョンマークが浮かんできた。
アリスの言っていることの意味が理解できないわけではないが、だからといって、アーティファクトに宝石が使われる話との繋がりの方まで理解できた、というわけではもちろんない。
「ハッ、要するに、金属を超高温で一度融解させて、それに向かって詠唱。上手くいったら液体になった金属を凝固させて、はい! 術式が仕組まれた固体の完成! つっーわけだ。難易度に天と地ほどの差があるとはいえ、やっていることの本質は鍛冶師の鋳造となにも変わらねぇよ」
極限まで講義をサボり、滅多に勉強をしないくせに、地頭だけは優秀なレナードが補足説明をしてくれた。
アリスは成績優秀だからこそ、自分の知識をもとに、誰に対しても詳細な説明をすることが可能だったが、その相手がシーリーンの場合なら、レナードのように知識がなくても想像を膨らませやすい説明の方が適していたわけである。
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