ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

2章10話 解答保留のプロブレム(1)



「今回の任務は大きくわけて2つ。諜報活動と破壊工作です。こちらに本来の資料とは別の、厳密には正式な隊員ではないロイさんを戦力として換算した場合の資料を用意しました。まぁ、参謀指令室に提出したところ、『仮にたまたま現地に協力者がいた場合のスケジュールを用意しておくのは、別段、ルール違反には該当しない』と仰ってくださいましたので、いろいろと察してくださりますと助かります」

 アリシアが非公式な資料を配布し会議を始めると、クリスティーナを除いた全員が資料、その目次を開いた。
 瞬間、シーリーンとイヴは、うげっ……と、なにかまずそうな表情かおをしてしまう。

 目次によると、作戦目的→スケジュール→現地の地図(諜報活動をする市街地)→研究施設の見取り図(破壊工作の対象施設)→潜入ルート(全32パターン)→脱出ルート(全46パターン)→アリシアの任務(諜報活動日程のみ)→ロイの任務(諜報活動日程のみ)→イヴの任務(諜報活動日程のみ)→マリアの任務(諜報活動日程のみ)→シーリーン&アリスの任務(諜報活動日程のみ)→レナードの任務(諜報活動日程のみ)→アリシアの任務(破壊工作当日)→ロイの任務(破壊工作当日)→イヴの任務(破壊工作当日)→マリアの任務(破壊工作当日)→シーリーン&アリス(破壊工作当日)→レナード(破壊工作当日)という順番で記載されているらしい。

 無論、現地の常識、法律、社会制度、敵軍人の傾向、貴族の傾向、風習、抱えている(つまり漬け込みやすい)社会問題、そして七星団の団員として当然、人為的緊急時のマニュアルと、偶発的自然災害時のマニュアルも別途資料に100ページ以上あった。

 なお、シャーリーは隣に座っていたシーリーンから資料を見せてもらっている模様。シーリーンは微妙に涙目である。

「今回の作戦の舞台は魔族領のグロースロートと呼ばれる地域です。さらにその中でもエリア20と呼ばれる区域に任務の拠点と破壊工作の対象があります。住宅街、市場マーケット酒場街パブストリート風俗街ソープタウン貧民街スラム、メインストリートが数本あって、さらにサブストリートが入り組んでいて、まぁ、敵国にあるとはいえ街は街、王都と似たような感じです。建築様式に違いはありますが」

 ロイが資料に載っていた地図を見た限り、確かに普通の街だ。
 仮に魔族領の民をこちらの王都に案内したら、今の自分と同じような、敵国の街が普通であることを信じがたい感覚に陥るのだろうか、と、漠然と思う。

「諜報活動にあたり、メインで入手すべき情報は破壊工作の対象、つまり最終的にはぶっ壊してしまう予定の研究施設、軍属北西区域第13研究所のデータです。そこで研究されているのは聖剣や魔剣の複製技術、並びに霊脈、つまり魔術的地下資源の制御技術、その両方になります。あっ、例のごとく、質問がありましたら、もうそのたびに訊いてください」

「はい」
「マリアさん、どうぞ」

「聖剣や魔剣が複製可能なのだとしたら、確かに脅威です。そこで質問なのですが、他の脅威と比較して、なぜ今回はこれなのか。今まで、少し悪い言い方をすると放置していたのに、なぜこれの優先順位が上がったのか。差し支えなければ、ご回答いただけると幸いです」
「一言で言えば動きがあった。これに尽きます。下種な話ですが、よほどいい感じのモルモットを手に入れたわけです。具体的には――」

 そこで、アリシアは自分自身の資料の最初の方のとあるページ、それを全員に見えるようにテーブルの上に提示してみせる。
 そこには一人の少年の似顔絵が載っており――、

「――ルーク・ノルトヴェスト・アハトドライノイン。元奴隷階級の貧民で、魔剣、レーヴァテインの使い手です。あっ、ちなみに女の子に見えますが男の子ですので間違えないように」

 アリシアは口にする、『奴隷』という単語を。
 それに反応し嫌悪感を抱いたのは、過去に(グーテランドを比較して)充分な社会的教養を身に付けていたロイとイヴだけではなかった。

「奴隷なんて許せないわね!」
(…………んっ?)

「胸糞悪ぃ話だ。奴隷制度なんて」
(…………えっ?)

 瞬間、ロイは途轍もない違和感に襲われる。
 アリスもレナードも、奴隷制度推奨派ではないのか? と。

 ふと、ロイは隣に座っていたイヴに視線をやる。
 イヴもどうやらアリスとレナード、いや、他のみんなも奴隷制度推奨派ではないことに、必死に動揺を隠しているのだろう。

「ことの経緯についてですが、実はこのルーク・ノルトヴェスト・アハトドライノイン、数年前の時点でレーヴァテインに選ばれ、戸籍を獲得し、軍立の学院に通えるようになっております」
「つまり、それこそマリアの言うように、こちらは事情があってこの案件を放置していたわけだ」

「その事情というのは、言ってしまえば準備期間のことです。先行部隊が向こうでいろいろ準備してくれているのですが、以前からの計画通り、今年のエメラルドの月に本隊が潜入するため、それまで焦り、独断専行は禁物、と」
「お答えいただき、ありがとうございます」

 つまり、優先順位が上がったのではなく、前々から比較的高く、準備が整ったから今回決行することになった、というのがマリアの質問に対する答えなのだろう。

「質問です」
「はい、ロイさん」

「部隊を入れ替える意味はどのようなものですか? その先行部隊にも現地拠点があるはずです。ボクたちが潜入して、拠点での生活を始めたのと同時に、近隣住民に違和感、少なくともあそこの住人、入れ替わるように引っ越してきたんだな、と、思われる可能性は高いと考えられます」
「先行部隊の役割は本隊が暗躍しやすくなるための下準備、そして諜報活動しやすくするための諜報活動、そしてオトリ、この3つです」

「オトリ?」
「――拠点を2種類作っておき、1種類目の拠点を先行部隊が、2種類目の拠点を私たちが使う段取りです。先行部隊による手引き終了後、1種類目の拠点は必要な物を全て持ち出したあと、事故を装って爆破。できれば、その犯人を向こうの腐敗貴族にでも仕立て上げられればモアベターです」

「それで、肝心の第562特殊諜報作戦実行分隊の拠点はどこにあるのですか? 住宅街ですか? 郊外ですか?」
「住宅街ですが、2人1組の部屋を2つ、3人1組の部屋を1つ用意しました。それぞれ徒歩3分前後の距離ですが、これで引っ越しに伴う違和感は薄れるはずです。もちろん、ある程度、入居の時期はズラしますが」

「なるほど、分割ですか……」

 そもそも先行部隊の拠点を引き継がない。
 さらに近隣に住むととはいえ、1個分隊を3つに分ける。

 これなら違和感もだいぶ軽減できるし、そもそも引っ越しに気付かれないというのは物理的に不可能だ。要するに引っ越しても怪しまれなければいいのであり、最大で3人の引っ越しなら問題ないだろう。
 それすらも恐れて魔術を使い、相手に魔力反応を感知されたら本末転倒でさえある。

「ちなみに組み合わせを今のうちに発表しておきますと――、シーリーン&アリス組、ロイ&イヴ&マリア組、そして、アリシア&レナード組です」

「…………えっ、俺?」

「ふふっ、向こうに着いたらよろしくお願いします、ねぇ、レナードさん?」

 瞬間、レナードは物凄く気まずそうな表情かおを我慢できなかった。


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