ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章17話 胸中秘匿のイレギュラー(1)



 果たしてシャノン・ヴォルフガング・シュティルナーはやってくるだろうか?
 それ以前に、カバンに忍ばせた手紙を読んでくれただろうか?

 これは密会に変わりない。だが救いがあるとすれば、告白でもなければ、まさか決闘の申し込みというわけでもない点だろう。
 会えなかったなら縁がなかったということで、今後、コミュニケーションを取らないようにするだけである。そちらの方が互いのためでもあるし、向こうに話し合いの意思があり、今回はたまたま本当に別件が入っていただけならば、シャノンの方から再度、コンタクトがあるはずだから。

 自分から呼集を願っておいてアレなのだが、正直、ルークからすればシャノンがここ――学舎の一番端の階段。その1階の裏側、1階と2階の踊り場の真下に存在する空間――そんな特に名称もない空きスペースにこなくても、(まぁ、そうですよね)で軽く流すつもりだった。

 シャノンが貧民相手にも優しく接してくれる善人なのは理解しているが、十中八九、先約が存在するだろう。
 復学しただけだから学院の構造や部活動、委員会の紹介は必要ないかもしれないが、カフェに行こう! 図書館に行こう! 剣術を教えて! 恐らく、その類の先約が山のように。

 つまり、やむを得ない、と。
 実際、ルークとシャノンは住む世界が違う。

 今回ばかりは珍しく、悪い意味ではなく良い意味で。
 文字通り、高嶺の花、という意味で。

 が――、
 数分後――、

「お待たせしました、ルークくんっ」
「ほ、ホントに……、きてくれて……」

 信じられないことに、シャノンは時間通りにやってきた。
 こんな紅茶とクッキーどころか、テーブルとチェアさえない微妙に埃っぽい空間に。

 とはいえ、シャノンの方だって、自分と話しておきたい用件があったからこそ、ここにきてくれたのではないだろうか、と、ルークは考える。そう、言わずもがな、昨夜の戦闘のこととか。
 かといって、いきなり切り出すのはマズイ、と、ルークは判断し、まずは当たり障りのない日常会話から探りを入れてみることに。

「……その、お時間とか大丈夫ですか? 呼び出したのはこちらですけど、他のクラスメイトとの約束とかは……」
「復学初日ですので、一応、父が寄り道せずに帰ってきなさい、と。ですので、ルークくん以外のお誘いは少々延期させてもらったんです」

「…………」
「いろいろ聞きたいことはあるでしょうけど、10分もあれば終わりますよね?」

「え、えぇ……、まぁ……」
「なら大丈夫ですっ! 流石にカフェとか図書館とかに行ってしまうと、帰りが遅くなってしまいますが」

 庶民的な親しみやすさと貴族的な上品さ。その2つのいいところ取りでニコっ、と、シャノンは微笑む。
 ルークは境遇上、いろいろと達観――ではなく諦観しているので特になにも感じなかったが、他の同級生ならば、坂の上の石ころよりも呆気なく恋に落ちてしまうだろう。

「では、まず、ルークくんの方からどうぞ? 情報が不足しているのはルークくんの方だと思いますので」

「…………なぜか、僕の事件への関与が明るみに出てきていないんですが……?」
「すでに察しているとは思いますが、そもそも事件なんて起きていません。少なくとも、警邏庁に被害届は提出されていないでしょう」

「なら、その……、あそこでは、僕以外に……」
「残念ながらそのとおりです。昨夜のことを通報することは即ち、シュタイルハング侯爵家、ツィーゲホルン伯爵家、そしてエーアガイツ伯爵家のペルソナ、分厚い外面の破滅を意味します」

「ですけど、警邏庁を当てにできないだけで、必ずシュタイルハング侯爵たちはシャノンさんを……っ! それに、バルバナス様たちが退院して通学し始めたら……っ!」
「すでに手は打っています」

 優しく、まるで母親が我が子を宥めるように、シャノンは心配の無用をルークに説く。
 100%、シャノン自身と家族の方の安否に関わる事態に発展しているはず。だというのに、動揺も、不安も、恐怖も、謎の妖刀使いの顔には微塵さえ浮かんでこない。むしろその表情は余裕に満ちた笑顔そのものだ。


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