ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章12話 判別不能のリアリティ(1)
翌日――、
軍立第35騎士及び魔術師育成学院にて――、
ルークが登校すると学院、少なくとも彼のクラスは昨晩の話題で持ち切りだった。
人の噂に戸は立てられないとはよく言ったものである。バルバナス、ディルク、マルコの3人、そして彼らの父親が他言無用を関係者に命令したところで、医療関係者に他の貴族の一員がいないわけがないのだから。
どの地域でも、そして魔王軍と戦争中のグーテランドでも、医者、及び治癒魔術師というのは基本的にエリートにのみ許された職業である。他人の命を左右するのだから、そこに関して言えば、なんら不思議なことなど1つもないが……。
では、グーテランドはともかく、グロースロートにおいて、エリートとは即ちなにか?
無論、貴族と、資産的にも社会的にもそれに匹敵する巨大商会のトップや著名な学者、騎士、魔術師の子息である。
奴隷階級は言わずもがな、貧民だって子供を教育機関に通わせる余裕なんてない。中流階級の国民も、子供を教育機関に通わせることができても、本人の成績や性格とは別の理由で目指した職業に就けない、就けても昇進できないなんてよくある話だ。
多少脱線したが、ともかくこの国家の医者、及び治癒魔術師の出自の割合は貴族が50%、貴族以外の富裕層が48%、中流階級に至ってはたったの2%ほど。
「ふぅ……」
なだらかなすり鉢を3分の1にしたような形状の講義室。ルークは後方の扉からなるべく音を立てないように入室して、窓側の最前列に着席した。学院は基本的に全ての講義で自由席だが、にしても定位置というモノは存在する。窓側の一番後ろの席なんて、カースト上位の溜まり場でしかない。
余談ではあるが、今日はルークもきちんと男子の制服を着ている。昨日の放課後は校門を出たところで、強制的にバルバナスたちに連行されてしまったのだ。本人たちが怒鳴っていたとおり、(事実はどうあれ、少なくとも建前上は)金と酒を用意できなかった、という理由で。
数十秒ほどなにもしないで過ごして、誰も自分のことを人気のない場所に呼び出さないことを確認したあと、ルークはカバンから教科書を取り出して、机の上に適当に開いた。ちなみに小説はもちろん、参考書もダメだ。誰かに奪われるリスクを徹底的に回避するには、そもそも、ここにいる全員が絶対に所持している共通の書物だけを読む必要がある。それでも、落書きされる時はされるし、破かれる時は破かれるが。
が、ルークは別に予習復習をしておきたかったわけではない。他人の話に聞き耳を立てたかったから、難癖を付けられづらくするため、カモフラージュのために教科書を開いただけである。
(さて――)
早速、ルークは聞き耳を立て始めた。
まず気になったのは講義室のドア側の後方席にて、バルバナス、ディルク、マルコの3人が入院したことを話している男子学生5人組である。
貴族の子息が入院なんて穏やかな話ではないが、ハッキリ言って、異常というレベルではない。事故、怪我、病気、そして定期健診。ないに越したことはないが、現実問題、数年に1回はあって当然のことだ。よってこれは本来、心配だな。あぁ、そうだな、だけで終わる話のはずである。
なのになぜ、今朝に限って男子学生5人組は憶測を飛び交わせているのか?
その理由は、例の3人が入院したこと自体よりも、そのあとの父親、つまり各々の家の当主の対応にある。
3人の入院の原因が事故や病気ではなく、事件、つまり何者かに意図的に痛めつけられた、ということはすでに情報として広まっていた。
だというのに、シュタイルハング侯爵家、ツィーゲホルン伯爵家、エーアガイツ伯爵家、全ての家の当主が被害届を出していないとのこと。
数分間他人の話を盗み聞きしてわかったことだが、どうやら、どの同級生も昨日、あの事件現場にルークがいたことを本当に知らないらしい。と、いうより、誰か1人でもその情報を掴めば、ルーク本人の意思に関係なく全てを話せと命令してくるはずだろうし。
(真っ先に思い浮かぶ可能性は――、娼館どころか人攫いと、絶対に認可が下りていない野外売春の露見を恐れての様子見、かな)
貴族の影響力は絶大なモノであるが、決して万能ではない。
そもそも、その絶大な影響力を有している貴族が、他にいないわけではないのだから。
警邏庁に被害届を出せば、断言してもいいほど、まずは現場に案内してくれ、と、絶対に言われてしまう。
そうなれば最後、いかにシュタイルハング侯爵家が主力となって警邏庁に干渉しようとしても、件の3家の失脚なり、自分の所属勢力の拡大なりを理由に、他の貴族が警邏庁の捜査を後押しする。貴族に怪我を負わせる不審者を野放しにしておくわけにはいかない、という大義名分もあるのだから。よって、実際のところは知らないが、ルークの頭で考えられるベストな筋書きは、バルバナス、ディルク、マルコが子供同士でケンカをしてしまった、という感じだった。
仮にどこかの家が被害届を提出する前兆を見せたとしても、そこで問題になるのは2つ。
被害者がそこでなにをやっていたのか。
そして人払いのアーティファクトがあったのに、犯人はどうやって現場に辿り着けたのか。
はい! 貧民を攫って野外売春をさせようとし、その客にやられました!
――、――、――、なんて、それを口にした瞬間、貴族として終わる。言えるわけがなかった。
(次は――)
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