ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章7話 真偽錯綜のプレリュード(5)



 刹那、バルバナスの右側、シャノンから見て左前方に陣取っていたディルク。彼が弾け、爆ぜ、瞬くような、火花のごとき淡彩たんさいの燐光を四方八方に燦々さんさん煌々こうこうと散らす。金銀財宝にも匹敵する輝きを魅せる【雷穿の槍シュペーア・フォン・ドンナー】を己が右手に形成し始めた。
 詠唱破棄。それは黄金の霹靂へきれきが模す魔術の長槍。神話の時代、幾度も何人からも神格化された未だ人智が及ばぬ大自然の営み。青年の手中に浮かぶはその贋作なれど、塵芥ゴミなど児戯より容易く蹴散らせる殺戮滅相、至高雷霆らいていの攻撃魔術。恐らく先刻から戦闘に発展する気配を感じ取っており、シャノンとバルバナスが会話をしている最中に準備を進めていた結果だろう。

 射出即行とは至らずとも、形成自体は1秒以内に完璧に終了する。
 女子供なら呆気もなく泣き喚き、命乞いを始め、剣術や魔術を極めていない一般市民なら、成人男性であろうと膝から崩れ落ちるだろう。それほどまでに威圧的、驚異的な稲光が縦横無尽に大気をはしった。

 次いで、真実まことの刹那しか遅れずに電圧の掌握を完了。
 ディルクは相手が軍人でなく非戦闘員なら、100人以上を塵芥のように掃き、捨て、遍く人肉を灼き焦がす無慈悲無情の雷撃を撃ち放った。擦過した程度で脳が沸騰し、血液が蒸発し、筋繊維が熱で千切れるような殺人魔術である。

 強いて言語化するなら、分子さえ電離し弾ける刺激的な破裂音。その異音を一瞬だけ響かせ、自分とシャノンの間の大気をことごとく絶縁破壊し、プラズマの暴虐を体現せしめた。

 が、しかし――、
 ――シャノンはまるで散歩していて一歩踏み出したら、たまたま遠くから飛んできたテニスのボールを回避できた。正真正銘、そのような気楽さ、何気なさで雷速の一撃を悠々と躱してみせる。

「――――戦闘開始、ですね」

 粛々と、律儀に宣戦の言葉を告げると、シャノンは最初、なにが起きたのかさえ認識、理解、咀嚼できていないディルクに向かって疾風迅雷の疾走を開始する。
 否、たった一瞬程度で彼の懐まで潜ったそれは、もはや跳躍や低空飛行にも酷似した滑走だった。凄絶、怒涛、並びに異常。その移動方法は凡夫の学生には到底到達できないほど圧倒的に高速で、技巧を要し、根本的に走るという行為の体裁を成していなかった。自明、当然の道理。移動距離が本人の歩幅を超え、比較的長いだけで、片足を一歩踏み出すことを疾走と定義、呼称するか否か。その絶技を常人の枠内に収めて然るべきか否か。答えは必定、否でしかない。『あれ』は垂直ではなく、多重肉体強化魔術を付与しているだろうとはいえ、人体で可能な駆動の限界に挑戦するかのごとき、ほぼ水平な跳躍である。

 察しに相違はない。必然、その肉薄は開始して一足で踏破、終焉を迎える。
 シャノンの接近に2歩目3歩目の必要性は皆無だった。

 背中には悪寒と戦慄が、脳裏には自らの死体の想像が奔る。考えたのではない。条件反射、即ち、直感しただけ。全身の血の気が引くほどの精神状態の不協和音に身を侵され、ディルクは後方に跳躍を試みた。結果、幸いにも色香を振り撒き、なれど不気味ないろを魅せる能力不明の妖刀の間合い、想定死滅領域から撤退することに成功する。
 それを好機と捉えて、マルコはシャノンに対し【黒よりシュヴァルツ・アルス・黒いシュヴァルツ・星の力ステーンステーク】を発動する。自明、シャノンが最初の標的をディルクと定めた時点で、バルバナスの左側に陣取っていたマルコに背中を向けてしまうのは当然の帰結に過ぎない。その上で、シャノンの側面にいたバルバナスは魔術の射線に味方がいないことを再確認して、【雷穿の槍】を射出した。

 刹那、光景、燦々煌々、白熱。
 一拍遅れて震天動地の轟音が響いた。

 網膜が灼け、鼓膜が破裂してもおかしくない光彩の日照り、並びに空気の振動の暴風雨が、そこには同時に存在を主張している。
 が――、

「ハァ!? また躱された!?」
「なんなんだよォ、こいつはァ!?」
「重力操作は生きているはずなのに!?」


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品