ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章12話 第1特務執行隠密分隊、初戦闘を始める!(3)



 戦慄を隠せないシーリーン。
 だが、彼女はむしろ誇るべきであった。早熟なら年齢が1桁の子供でも覚えるような初心者向けの魔術の組み合わせ、応用で、魔王軍のスパイの魂のストックを6つも削った。これは率直に言って快挙である。

 確かに同じ【魔弾】と【聖なる光の障壁】であっても、流石にシーリーンと年齢が1桁の子供とでは、攻撃力も速度も、前者に軍配が上がるが、それでも、減らしたのは1つではなく6つ。
 つまり、単純に計算するなら、普通の人間なら6回も殺せる計算の攻撃なのだ。

「やってくれるねぇ、再生しても、頭に【魔弾】が入ったままだったから、すぐに死んでしまう。さらに再生しても、やはり死ぬ。結局、【魔弾】がエネルギー切れになるまで耐えるしかなかったよ」

 言うと、男は手のひらに闇属性の魔術を展開させる。それは視界に入れただけで吐き気を催してしまうほど禍々しく、紅と褐色と黒の絵の具を混ぜている最中のように、混沌を呈した泥のような球体だった。

「その魔術は……ッッ」
「Sランクの闇魔術さ。発動した魔術師を除き、1mmでも触れた相手を底なし沼のごとく呑み込んで、それ以降は発動した魔術師ではなく、呑み込んだ相手の魔力を使って活動を続ける、半永久的にキャスト状態の疑似生命体」

「呑み込む、って……、まさか……ッッ!」
「そりゃそうだろ! 呑み込んだ相手を搾りカスにするんだ! 当然、呑み込まれたら死ぬしかない! おっと、泥だからって動きが遅いはず、なんて考えるなよ? この魔術のスピードは蒸気機関車よりも速い。さて、どうやって攻略するか見ものだな」

 クツクツと笑いをこらえる魔王軍の男性。
 しかし、途中でもう1つ、こらえるような笑い声が増えた。
 察しのとおり、シーリーンが笑いをこらえていたのである。

「なにがおかしい?」
「いや、あのね? そんな魔術、攻略するの、すごく簡単だなぁ、って」

「なに?」
「要するに、発動する前にあなたを殺せばいいんでしょ?」

 シーリーンは凄絶な双眸で敵を睨む。まるで、自分の勝利を確信したみたいに。

 男性は動揺を隠せない。隠したつもりでも、わずかに表情に滲み出てしまっている。
 眼前の小娘が自分を殺せるなんて、ありえなかった。魂のストックは残り30、つまり、あと31回殺さないと自分は本当に殺せない。加えて、今、手に持っている泥を、実は彼女を囲むように、物陰に5つ忍ばせている。最初からこの魔術を使わず、彼女の鬼ごっこに付き合っていたのはそのためだ。また、泥の速さが蒸気機関車に匹敵するのは本当だし、わざわざ自分の魔術の効果をご丁寧に説明したのも、5つの魔術しか使えない彼女でも使える【魔弾】と【聖なる光の障壁】に対する【零の境地】の脳内ストックを用意するためだ。

 この準備に抜かりはない。
 が、しかし、シーリーンはまるで獣が舌なめずりするように好戦的に笑い――、

「ねぇ、シィがなんの勝算もなく、ただ考えなしに長時間も走り続けていると思った?」
「なん……ッッ! だと……ッッ!」

 と、その時だった。
 光はあっても音はなく、――――――――ッッッ! と、男性の背後から黄金おうごんよりもさらに輝く雷撃が飛来。その魔術に一切合切の慈悲はなく、止まるということも速度が落ちるということも知らず、そのまま男性の心臓に風穴を空けた。光速には劣るが雷速の一撃、しかも、前回のイヴの時とは違い完全に不意を衝けた。

 男性は黒焦げになってしまい、重度の全身火傷の状態から「ガ……ッッ、アァ、ァ……ッッ!」と苦悶の声を漏らして、一応、魂のストックを消費して再生するも――、

「【雷穿の槍】! 【雷穿の槍】! 【雷穿の槍】! 【竜、シュレイクストリッヒ・咆哮波動のウィ・エイン・如きドラハン・飛剣ガボル】! 【竜、咆哮波動の如き飛剣】! 【竜、咆哮波動の如き飛剣】! 【炎斬の剣】! 【炎斬の剣】! 【炎斬の剣】! 【竜、咆哮波動の如き飛剣】! 【竜、咆哮波動の如き飛剣】! 【竜、咆哮波動の如き飛剣】! 【魔術大砲ヘクセレイ・カノーナ】! 【魔術大砲】! 【魔術大砲】! 【魔術大砲】! 【魔術大砲】! そして――ッッ、【絶光七色】ンンンンンンン――ッッッッッ!!!」
「……ガァ……嗚呼ァ………………ッッッッッ!!!!!」

 男性は熱した鉄板の上に放置されたイモムシのように、のたうち回って悶絶する。実に凄惨で、実に醜悪な光景だった。死霊術による再生は、再生できるだけであり、多少は緩和する方法もあって、生き返れるということから傷付くことへの恐怖も減るが、それでも痛覚を停止しているというわけではない。
 そして、地面の上でバタフライするように暴れ続ける男性の近くに、1人の女性がやってきた。

「私も前回のシィとジェレミアの戦いを、アーティファクトの録画で見せてもらったけれど、うん、ええ、そうね。ジェレミアのことは大ッッッ嫌いだけど、彼の言う、意識を失っている状態では魔術を使えない、っていうところには、賛同せざるを得ないわね」
「貴様は……、アリス……ッッ! エルフ・ル・ドーラ……、っ、オーセンティックシンフォニーッッ!」

「もう気付いたよね? シィは走って逃げているふりをして、建物の下敷きになっているアリスとあなたの間に、一切の障害物がない位置関係に誘導したの」
「そこから先は私の出番」

「ど、どういうことだ……ッッ!?」
「おっと、危ないわね。【魔術大砲】! 【魔術大砲】! 【魔術大砲】! 【竜、咆哮波動の如き飛剣】! 【竜、咆哮波動の如き飛剣】! 【竜、咆哮波動の如き飛剣】! 【風打の槌ハンマー・フォン・ヴィント】! 【風打の槌】! 【風打の槌】! 【土刺の矢プファイル・フォン・エアデ】! 【土刺の矢】! 【土刺の矢】! 【魔術大砲】! 【魔術大砲】! 【魔術大砲】アアアアアアアアアア……ッッ!」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッッッッ!!!」
「私の戦い方は準備万端の至り。つまり、仕方がないことだけれども、魔術の脳内ストックを準備するための時間が必要なのよ。だからシィはあなたを相手に少々走って時間稼ぎしていたわけ。もちろん、イヴちゃんたちがクリストフと会話したのも、これが一因よ。さらにもちろん、肉体強化の魔術を多重キャストするため、っていうのもウソじゃないから、一石二鳥ってヤツね」

「ゲボォ……ッッ、ヴェボォ…………ッッ」

 吐血する魔王軍のスパイ。
 もう完璧に、戦意喪失していた。

「で、話を戻すけれど、意識を失っている状態では魔術を使えない、っていう子供でも知っている大原則がある以上、あなたは死んでから生き返るまで、再生以外の魔術を使えない、反撃できないってことよね? だって、死ぬっていうことは、例えあなたの場合は一時的なモノだったとしても、その間だけは頭からつま先まで、肉体の全ての機能が停止する、ってことなんだもの」

「あとは簡単だね。アリスは100にも届く魔術を脳内にストックできる。だから、あなたを死ぬまで殺させてもらう。アリスが疲れたらシィに交代して、シィが頑張っている間に、アリスはまたストックを貯めて、シィが疲れたらまたアリス。これなら確実に、反撃を許さないままあなたのストックをゼロにできる」

「ふざ……、ケルナ……ッッ、クリストフのヤツが……ゲボォ! た、助けに……」

 魔王軍のスパイは近くで戦っていたイヴ、マリア、クリストフに視線を向ける。
 そこでは想像を絶するほどの死闘が繰り広げられていた。



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