ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章1話 アリシア、返事する。(1)



「ボクの、師匠になってください」

 と、ロイは眼前の最強、特務十二星座部隊、星の序列第2位の【金牛】に言う。
 刹那、2人の間に春の夜風が吹き抜けた。

 シン、と、静まり返った月だけが見守っている星下せいか王礼宮おうれいきゅうじょうのバルコニー。
 ロイのは真剣そのもので、微塵も臆している様子、冗談を口にしている様子は見受けられない。

 自明だ。
 アリシアに弟子入りを申し込むなど、生半可な覚悟では到底できない。

 ゆえに、口にした時点で本気も本気。
 真剣中の真剣。

 アリシアは一度瞑目して静かに息を吐くと――、
 うるわしい茶髪を揺らしながら頭を下げて――、

「すみません……、無理ですわ……」
「えぇ……」

 ロイのアリシアに対する弟子入りの申し込みは、あっけもなく両断された。
 一応、ロイにだって自信はあったのだ。まだまだ新参者ではあるが、聖剣使いだし、魔王軍の幹部を1人討っているし。
 そのようなロイの軽いショックを察してか否か、アリシアは頭を戻すと、申し訳なさそうに手をわたわたさせる。

「いや……っ、確かに私は弟子を作ったことはありませんが、ロイさんなら問題ない、むしろ弟子第1号としては完璧に最高の人選だと思っております。それは、間違いなく本心ですわ」
「なら、恐縮ですがせめて理由を……っ」

 喰い下がるロイ。彼だって必死だったのだ。このままでは、守るべき対象であるシーリーンやイヴに並ばれるかもしれないし、加えて最悪なことに、もしかしたらあの世界一気に喰わないレナードにも置いていかれるかもしれないから。

 とどのつまり、焦燥。
 すると、アリシアはビシィ、と、ロイに指を差して告げる。

「ロイさん! あなたは今、そもそも休暇中のはずです!」
「あぁ……」

 妙に納得してしまったロイ。
 確かに言われてみればそのとおりだった。グーテランドの社会、文化は、ロイの前世の日本ほど、休暇中に働くということを妄信していなかったのだ。
 微妙に、まだ日本的な感覚が残っているなぁ、と、漠然と感慨にふけっていると、コホン、と、アリシアは話を続ける。

「納得していただけましたか?」
「はい……、すみません。どうも前世の感覚が残っていたようでして……」

「ん? もしかして、ロイさんの前世では、休暇中に働くとか、上司、上官に会うとか、そのようなことも?」
「ええ、ボクの住んでいた国は日本って言いまして、他にも国はたくさんあったのですが、少なくとも日本では」

「一言だけよろしいでしょうか?」
「? ええ、大丈夫ですが」

「休暇中に働いたら、それって休暇って言わないのでは?」
「うぐ……」

 アリシアに、日本には休日出勤って言葉があるんですよ~、なんて言ったら、どのような反応をするのか、ロイは言葉を詰まらせながらも、そんな益体のないことを思わず考えてしまう。

「ですが、言われてみればそのとおりかもしれません」
「申し訳ございません。確かに私にとっても非常に魅力的な提案でしたが、休暇中の団員を訓練なり実戦に同行させたとなると、私が怒られてしまいますので」

「アリシアさんを怒るって、すごい人もいるんですね……」
「まぁ、人事の方に注意を受けるのは、正直全然怖くないのですが、国王陛下とエドワードさんに怒られるのは、かなり響きますね」

 国王陛下に叱られて萎縮するのは当然だが、エドワード・ノーブ・ル・ニューエイジは特務十二星座部隊において、アリシアを超越える星の序列第1位の【白羊】だ。その上、エドワードはアリシアよりも年上。響いてしまうのも当然のことと言えるだろう。
 それが腑に落ちると、ロイは改まって、深々と頭を下げた。

「では、わざわざご多忙の中、手紙を出してまでお呼び出しして申し訳ございませんでした。それも、こんな深夜に呼び出すことになってしまい。足らぬとは存じますが、謝罪をここに申し上げさせていただきます」
「いえいえ、ロイさん、まだ話は終わっておりません」
「えっ?」

 ゆっくり、おずおずと頭を戻すロイ。
 すると、アリシアは月明かりに照らされながら、優艶ゆうえんに微笑んで――、

「言ったはずです。休暇中だから無理。そして同時に、無理だけれども、私にとっても非常に魅力的な提案である、みたいなことも」
「あっ――」
「休暇が終わり次第、なんらかの形で弟子としてのファーストミッションを与えたいと思いますわ」

 幼女の姿にすごく似合う、穏やかで和やかで、そしていとけない笑みを浮かべながら、アリシアはロイの申し込みに改めて応じた。

 ロイは感極まる。
 当然だ。自分はこの瞬間、少なくともある程度は、王国最強の2人のうちの1人に認められたのだから。

「ですが、一応、面接ぐらいはこの場でしておきましょうか」



コメント

  • ペンギン

    もう!この日を待ってました!
    9月10日までが長く感じた...
    やっぱり、いつも通り面白いです!ありがとうございます!これからも、楽しみにしています!

    1
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