ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
2章2話 最後のやり取り、そして愛の告白(2)
『お兄ちゃん……』
「まったく、イヴ、そんな悲しそうな声をされると、少し困るよ?」
心細く思っている自分の妹を安心させるために、ロイはあえて軽く言う。
まるでその日の晩御飯の献立を決める会話のように、日常であることを強く意識したやり取りだった。日常を意識した時点で、それはすでに日常ではないが、それでも、ロイはイヴに心の安寧を与えるように、何気なく言ったのだった。
だが、それでもイヴは――、
『お兄ちゃん、わたし、お兄ちゃんのこと大好きだよ?』
――それでもイヴは兄に対する想いを我慢できず、ロイの日常を意図的に演出した発言に背くような兄妹愛の告白をする。
自分の配慮を覆された。なのにロイは、やっぱりイヴはイヴだなぁ、と、イヤに感じるどころか微笑ましく思う。
「うん、ボクもイヴのことが大好きだよ」
それはロイの偽らざる本心だった。妹として、ロイはイヴのことを愛している。
今、この展開で、これ以外の返事をすることなんて、ロイには不可能だった。
『わたし、お兄ちゃんの妹で本当によかったよ。なぜか、今伝えないと後悔する気がするから伝えるけど、わたしのお兄ちゃんがお兄ちゃんで、子供っぽいって今思うかもしれないけど、本当にみんなに自慢できたんだよ? ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクはわたしのお兄ちゃんなんだよ! って』
「うん、それならよかった。妹が自慢できる兄になれて」
『頑張ってね、お兄ちゃん。お姉ちゃんと似たようなことを言うけれど、わたしもお兄ちゃんが帰ってくるのを待っているよ? お兄ちゃん、大好きだよ』
と、そこで唐突に向こうのアーティファクトがゴゾ、と、音を立てた。
どうやら別の誰かがイヴからアーティファクトを奪ったらしい。
その人物とは――、
『センパイ、おはよう!』
『おはよ……う……ご、ざいます……』
「おはよう、リタ、ティナちゃん」
明るい声でリタが、オドオドした感じでティナが、ロイに挨拶する。
すると、早々にリタがロイに質問を繰り出してきた。
『センパイさぁ、帰ってきたらなに食べたい? 豚肉? 鶏肉? それともやっぱり奮発して高級な牛肉?』
「ハハ、リタは相変わらずだね。しかも候補が全部お肉じゃないか」
ロイは気が抜けたように笑う。気だけではなく、張り詰めていた肩の力も抜けたようだった。いつも明るいイヴと、元気なリタ。イヴは落ち込んだ感じになってしまっていたが、リタの方はいつもどおりで、ロイは戦場に往く前、最後の日常らしさを噛みしめる。
『で、どう、センパイ?』
「全部、っていうのありかな?」
『おおっ、流石センパイ! それでいこう!』
「うん、もしよければボクの奢りで」
『そういうことなら、センパイ。センパイの帰り、待っているからな? ご飯はみんなが揃ってからいただきますしないと意味ないし』
「うん、そうだよね」
『なら、次はティナに変わるぜ?』
やっぱり、なんだか賑やかな女の子だなぁ、と、ロイはリタのことを微笑ましく思う。
いや、リタは賑やかで、悪く言えば騒々しいが、しかし一見バカっぽく見えても、実のところ物事の本質を見極めている節がある。
もしかしたら今のやり取りも、自分のメンタルを察して――、と、ロイは口元を緩める。
こんなことを思っている間に、リタからティナのアーティファクトの受け渡しは完了したらしい。
『……あ……、っ、……、そ……の、先輩』
「うん、大丈夫だよ。話し終わるまで、ボクはここにいるから」
『う……ぅう、……っ……っ、ぅ、……、グス……、っっ、っ……』
どうやら、アーティファクトの向こうでティナが泣いてしまったようだ。嗚咽が聞こえる。涙は見えないが、涙を服の裾で拭う音は聞こえてくる。
当たり前だ。以前、ロイがレナードと、アリス、つまり好きな人に戦場にきてほしくない、と、会話した時のように、ティナだって、今、淡い恋心を抱いていたロイに、例え手遅れだとしても、戦場に往ってほしくないのである。
まして、ティナはロイほど心が強くない。
だが、それではダメだとティナは心を強く持つ。
『先……、……、っ、……輩、グス……、……あ、の…………、っ』
「うん、どうしたの?」
涙声で、ティナはなんとか、精一杯、ロイに呼びかける。
それを、ロイは一切急かすことなく訊き返した。
その好青年っぽい促しを受けて、ティナはありったけの勇気でロイに伝える。
『~~~~っ、帰って、きたら、大切なお話が、ありま……、っ、す!』
言葉に詰まらなかったものの、声量は小さかった。勢いは強かったものの、今にも泣きそうな声音だった。それでも、ティナの言いたかったことは確かにロイに届いた。
次の瞬間、トン、と、控えめな音がしたが、ティナが感極まって別の誰かにアーティファクトを押し付けたことは、想像に難くない。
ティナは、本当によく頑張った、と、ロイは感慨深く思う。
数日後には死体になって帰ってくるかもしれない自分に会話なんて、頑張った、と。
むしろ自分がみんなの声を聞きたいからってティナに会話を強制するのは残酷だった、と。
そうして、他の女の子と比べると少し短いティナとの会話が終わると――、
『ゴメンね、ロイ、ティナちゃん、少し泣いちゃって……』
「ううん、ボクの方こそ、ティナちゃんを泣かせちゃったから」
ティナの次はアリスだった。
「アリス、あの手紙――」
『書いたとおりよ。徴兵が終わってもロイが七星団に残るつもりなら、私もできる限り早く、七星団に入団する。ロイと同じ場所に立つ』
アリスはみんなの中で一番凛としていた。強い決意を秘めていた。
自分は好きな男の子の帰りをただ指咥えて待っているだけの女の子ではない、と、言外に伝えるようなハキハキした、やけに聞き取りやすい声だった。
アリスには、誠実な心と、加えて自分が間違っていると思う物事に真っ向から立ち向かう強さがある。だから、もう、ロイが危ないからダメだよ、と、やんわり許さなくても、必ず、アリスはいつか七星団に入団するだろう。
嗚呼、きっと、頑固さならロイよりもアリスの方が上なのかもしれない。
『それまで、アナタが死ぬことは私が許さないわ』
再び、アリスは真正面から女の子だがカッコイイとさえ思える声音で告ぐ。
このように言われれば、ロイには頷く他に選択肢がない。
「そうだね――。それが一番いいと思うよ。ボクだって死にたくないけど、本当に究極的な局面になったら、ボクはボクが死ぬことを結局は許してしまいそうだ。だから、アリスは許さないでほしい」
すると、アリスは一瞬だけ黙りこくってしまい、しかし次の瞬間――、
『――ロイ』
「なに、アリス?」
『かなり恥ずかしいけれど、我慢して言葉にするわ。私は――あなたと結婚したい。そして愛し合いたい。次いで子供を産みたい。さらに幸せな家庭を築きたい。あなたのことを、ロイのことを、世界で一番愛しているから』
恥ずかしがって曖昧にすることなく、照れくさくて誤魔化すことなく、アリスはロイに自分の胸に確かにある愛情を言葉にして送る。真摯にして純潔な言葉。いかにもアリスが口にするのに相応しいアリスの言葉だろう。
「うん」
『ここで質問よ。結婚することも、愛し合うことも、子供を産むことも、家庭を築くことも、私1人でできることかしら?』
「――できないね」
『そして、私の恋人はあなたしかいない。必ず帰ってきなさいよ、いってらっしゃい』
アリスはティナのように嗚咽を漏らして泣きはしない。
だが最後の方は声が震えていて、なにかを我慢していて急くように会話を終了させた。
いくら先刻まで凛々しい感じであっても、心に制限時間は付き物だ。
強がっていても、虚勢を張っていても、悔しいことに、アリスのそれはギリギリ最後まで持たなかった。
それで、残る1人の女の子は――、
『ロイくん』
「――シィ」
最後の女の子はシーリーンだった。
シーリーンは、最愛の恋人に語る。
『ねぇ、ロイくん。アリスはアリスなりの言葉でロイくんに愛を伝えた。イヴちゃんはイヴちゃんなりの言葉でロイくんを励ました。マリアさんはマリアさんなりの言葉でロイくんの戦いに往く前の心を癒した。リタちゃんはリタちゃんなりの言葉で元気を伝え、ティナちゃんはティナちゃんなりの言葉で想いを伝えた』
「――――」
『なら、シィがロイくんに送るべきモノは、シィのオリジナルでないといけないよね』
「シィのオリジナル?」
すると、シーリーンは――、
アーティファクト越しに大きく息を吸って――、
『~~~~っ、シィはロイくんのことが大好きです! 慕っています! 尊敬しています! 愛しています! シィの全てをあなたに捧げてもいいぐらい! キスされたいしハグされたいし頭をナデナデされたい! これからもずっと恋人でいたいです! そしていつか結婚したいです! 子供もほしいです! シィのこの気持ちは…っ、この想いは……っ、この感情は……っ! っっ、初恋よりももどかしくて、甘々で、純粋で、初心で、偽りがなくて、胸が切なくて……っ! 純愛よりも熱くて、ドキドキして、透明で、一途で、ウソなんてなくて、胸がうずいて……っ! 夢よりも夢見心地で、世界中のどんな幸せよりも尊くて、名前なんて付けられないし、わからないけど、どうか、ロイくんには、言葉にしても100%伝わらないコレが伝わってください!』
「…………ッッ」
『グス……、またね、なんて言わないよ、ロイくん。シィたちは心で繋がっているから、再会するまでもなく、いつも一緒だもんね』
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コメント
ノベルバユーザー359879
それな
ペンギン
なんか、思っていたよりもスゴく感動しました!絶対に帰ってきてください!僕も待っています!