ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
1章8話 イヌ耳、そしてネコ耳(2)
ロイたちは自己紹介もほどほどに、駅舎の中、駅のホームに入っていく。
王都、オラーケルシュタットから、癒しの都、ツァールトクヴェレに向かう蒸気機関車は、10両編成の寝台特急モーントグランツといった。漆のように純黒の車体。まるで塔のような煙突。今にも力強く回り出しそうな車輪。心底、豪奢な蒸気機関車であった。
「お兄ちゃん! これ、すごいよ!」
「本当だね。機関車なのに城壁のような頑丈さというか……」
なんとなく、ロイの言いたいことはみんなに伝わった。見るからに頑丈で、正面から大砲を撃ってもびくともしなそうな車体から漂う重厚感。このロイたちの体重の何千倍もありそうな鉄の塊が馬よりも早く走るなど、ロイはともかく、シーリーンたちは驚きを隠せない。
しかも、駅のホームには、その蒸気機関車が他にも数本、出発時刻まで待機していた。
少年心に溢れるリタなんかは、その圧倒的な光景を前に、見るからにワクワクしているではないか。
「センパイ! アタシ、駅弁っていうのを食べてみたい!」
「リタさま、ご心配は無用でございます♪ すでに全員分のお食事は手配しておりますゆえ、席に着き次第、お召し上がりいただけます」
「おおっ、流石メイドさんっ!」
「ていうか、この国にも駅弁ってあったんだね」
雑感を口にするロイ。
「ティナちゃん、これってこの前発売した小説よね?」
「は……は、い。え……っと、旅行中、に、全……部、読もうと思、って……」
「読み終わったら、私の小説と交換して読ませてもらえないかしら?」
「そっ、それ……、は、本屋さん……で……売り切れて、い、た、『騎士団長活かし』です、よ、ね……? はいっ、その……ぜひ、ぜひ、交換し、て、読んでみたい、です……」
ロイとリタがやり取りをする一方で、アリスとティナも初めての会話をしていた。
どうやら2人とも読書、小説が好きなようで、上手く仲良くなれそうだった。特に、イヴとリタ以外で、ティナと一番仲良くなりそうな年上組は、どうやらアリスになりそうである。
「…………っ」
(ん? ティナちゃん、一瞬だけこっち見た? すぐに顔を赤らめて視線を逸らしたけど)
ロイがアリスとティナの会話を見ていたのに気付いたのか、ロイの雑感どおり、確かにティナは一瞬、ロイのことをチラ見した。漠然と、ロイは(視線に気づかれたかな?)と、何気なく思う。
実は、ティナはロイのことがかなり気になっていた。
それも、今日を楽しみにして前日あまり寝付けなかったぐらいに。
しかし憧れの先輩を目の前にして、どうやら、上手く喋る自信がないらしい。
もともと、ロイはゴスペルホルダーの上に聖剣使いだ。顔もそんなに悪くはない。むしろ抜群にイケメンというわけでもないが、親しみやすい好青年っぽい爽やかな顔立ちである。
いわゆる、憧れの先輩。
もしくは、手が届きそうで届かない、年上の青年。
夢見がちな初々しい乙女であるティナからしてみれば、ロイはまるで、王子様のような存在であった。噂にはよくよく聞いていた友達の兄など、ティナぐらいの年の女の子からすれば、好意のストライクゾーンに、剛速球ど真ん中ストレートである。
要するに、ティナはロイのことを以前から恋い慕っていた。
1つおまけを付けると、このように年下の女の子が年上の男の子を好きになることは、そこまで珍しくないのだが。むしろ多い可能性すらある。
「はいはいっ、それじゃあ、そろそろ乗車しましょうね?」
マリアは仕切ると、全員、乗車する。それを確認してから、最年長であるマリアと、メイドであるクリスティーナも、続くように乗車した。
寝台特急モーントグランツの内装は、まるで貴族の屋敷を蒸気機関車という枠組みに当てはめたのかのように豪華絢爛だった。床には高級な木材が使われており、天井にはシャンデリアを彷彿させるような魔術の灯りが、窓枠には芸術作品のように意匠が彫られてある。暖房の魔術をキャストしているのか、冬の夜だというのに、暖炉の前にいるかのように暖かかった。
そして、1つの個室のようなブースの中、ドアから見て左右に、2段ベッドがあり、その個室のようなブースを、ロイたちは2つ使っていいらしい。ちなみにドアから見て正面には車内から外の景色を見渡せるように大き目の窓がある。
で、ブースの中も、非常にゴージャスだった。
ベッドはふかふかだし、内装は綺麗で大人な感じ、ポストモダンな雰囲気がそこには確かにあった。
「みなさま、先ほど渡しました乗車券には、ご自分たちのスペースの番号も刻まれておりますので、どうぞその指定されたスペースに」
と、いうわけで、ロイ、シーリーン、アリス、マリアの4人が1組目、イヴ、リタ、ティナ、クリスティーナの4人が2組目、という具合になった。
この組み合わせを考えたのはクリスティーナで、まず、リタとティナは、イヴと離すわけにはいかない。そして自分はメイドだから、この3人に混じっても、全員、まさか自分に必要以上に気を遣わないだろう、と、考えた。で、残りはロイとシーリーンとアリスとマリアの4人なので、特にこのままで問題なし、と。
それに――、
(万が一、なにかございましても、席を交換すればいいだけの話でございますからね)
それで数分後、ロイは天井近くの荷物棚にシーリーンとアリスとマリアの荷物、そして自分の荷物も置くと、自分に割り当てられたベッドに座る。2段ベッドの上だったので、足をブラブラさせた。
ロイの真下がシーリーンで、対面がアリス、斜め下がマリアという配置である。
が、だというのに、ロイが足をぶらぶらさせながら座る右隣にはシーリーンが、左隣にはアリスが、すでに自分のスペースからロイのスペースに、お邪魔してきていた。
「まったく、弟くん? 恋人と仲睦まじいのも結構ですけど、節度を持ってイチャイチャしてくださいね?」
なんてことを、自分の席から斜め上を見上げる感じで、マリアが指摘する。
それに対して、ロイは「あはは……」と、苦笑いしながら、人差し指で頬を掻く他にない。
だが、そんな一応イチャイチャを控えようというロイとは翻って、シーリーンもアリスも、両側からロイにくっ付いてくる。
「ロイくん、今夜、添い寝してもいいかなぁ?」
「ちょっと、シィ、抜け駆けは許さないわよ?」
「ならアリスは2日目の夜に添い寝したらどう? ねぇ~、ロイくん?」
「ふぇ!? ~~~~っ、そ、そうね……、考えてあげなくも、ない、わ……」
その時だった。
車掌の汽笛の鳥の鳴き声みたいな音が、駅のホームに響く。
そして、徐々に加熱していく蒸気機関。
温泉街――癒しの都、ツァールトクヴェレに向かって、ロイ一行は出発した。
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