ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~
4章8話 みんなの前で、ただ1人に伝えたくて――(1)
エルヴィスが帰ったあと。
この日はラピスラズリの月の2日で、つまるところ月曜日だったので、シーリーンやアリスたちは学院に通っているのだが、放課後、みんながロイのお見舞いにやってきてくれた。
「お兄ちゃん、入るよ~?」
と、イヴの声が聞こえたのと同時に、病室の引き戸が開く。
「弟くん、お見舞いにリンゴを持ってきました。あとで切りますからね♪」
言うと、マリアもイヴに続いて入室してきた。
そして――、
「ほら! アリスっ、入って入って?」
「ぐっ……わかっているわよ」
最後に、シーリーンと、彼女に背中を押されたアリスが入ってくる。
なぜか、アリスの頬には乙女色が差していた。瞳を潤ませて、きゅっ、と、口をつぐんでいる。その後ろのシーリーンはというと、見かねた様子で、アリスの背中を押すのではなく、トン、と、優しく叩く。
結果、一歩前に出るアリス。
そうして病室の中は、ベッドの上で上半身を起こしているロイと、彼と向き合うように立つアリスがメインになり、他の3人は2人の様子を見守ろうと、一言も喋らない。
「――、アリス」
「ひゃ、ひゃい!」
アリスがなかなか喋ろうとしなかったので、ロイは助け舟を出すつもりで彼女の名前を優しく呼んだ。
一方で、アリスはなぜかロイを相手に緊張していて、思わず舌を噛んでしまう。
恥ずかしさのあまり、ますます顔を赤らめるアリス。
そんなアリスが微笑ましくて、ロイはクスクスと口元を緩める。
「アリス」
「……なにかしら?」
「正直、ボクは今回の騒動で、本気で、自分がいいことをしたのか悪いことをしたのか、判別が付かないんだ」
「――――」
「仮に、あくまでも仮にだけど、良し悪しの基準をアリスだけに絞ったところで、アリスが結婚することがなくなって喜んでいるっていう可能性だけじゃなく、実はもうボクと先輩がくる時点で、どんな理由にしても結婚を認めていて、なに邪魔をしているの、って、怒っている可能性もあるしね」
「ロイ……」
「だから、聞かせてほしいんだ」
「うん」
「ボクはキミに対して、友達としていいことをできていたかな?」
瞬間――、
アリスは、ロイに近付いた。
一歩、一歩、ゆっくりと。
まるで世界がスローモーションになったような感じがする。
そして、アリスはロイのベッドの目の前にくると――、
――ロイに、彼の存在を確かめるように抱き付いた。
「あっ、アリス!?」
「バカね――、ロイは、あなたは、間違いなく、私を救ったのよ」
アリスは苦笑交じりに泣きそうになる。
そんなアリスに、ロイは続きを促した。
「じゃあ」
「うん、他の誰かにとって悪いことだとしても、私にとって、ロイはいいことをしてくれた。それは、紛れもない事実よ」
「そっか」
「ええ」
「――よかった。――ボクは、誰かのためになれたんだ」
そっと、ロイはアリスの背中に左腕を回す。
するとアリスも、それに応えるために、さらに抱擁に優しく力を込める。
ロイは、アリスという女の子の、背中に回された腕を、身体に当たっている胸を、そして生きている証明である体温を、全身で感じる。
これが、これこそが、自分の守ったモノなんだ、と、自分で自分に言い聞かせるように。
抱擁を交わすロイとアリス。
2人の様子を、シーリーンは優しい微笑みで、イヴは少しだけ納得がいっていないように、マリアは少しアリスのことが羨ましそうに、ずっと、ずっと、邪魔をしないで見守っていてあげた。
「ねぇ、ロイ」
アリスが愛おしそうにゆっくり、ロイの耳元で彼の名前を囁いた。
次いでアリスは、名残惜しそうにロイから身体を離す。
嗚呼、名残惜しいけれど、『これ』は、ロイの顔を正面から見て言わないといけないことだ、と、自分で自分を応援して。
「なにかな、アリス?」
ロイがアリスに語りかける。
2人は互いに、互いの目を見て穏やかにはにかんだ。
もしかしたら拒絶されるかもしれない。
もしかしたら、シーリーンがいるから、自分の想いは叶わないかもしれない。
だが、それでもいい、と、アリスは心の中で、誰にもナイショで決意を改める。
拒絶されるよりも、伝えられない方がイヤだ。
想いが叶わないとしても、ロイにはせめて、この気持ちを知っていてほしい。
一般的にいう、断られるとか、振られるとか、そういうリスク。
告白なんてモノは、そのリスクを恋心が乗り越えた時にのみ言葉にできるものだ。
リスクなんて顧みない。
リスクを背負ってでも、心から飽和したこの気持ちを、今、ロイに伝える。
「――私は、ロイが好き。――私を、あなたの恋人にしてください」
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