ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章14話 決闘のあとで、さらに決闘を――(4)



 レナードの悪いクセだった。ロイならば考えるよりも先に動くのだろうが、レナードは逆。動くよりも先に考えてしまう。ロイのスタンスもレナードのスタンスも、一長一短ではあるが、今に限って言えば、レナードのそれは短所であった。

「クソがァ! アスカロン……ッッ」

 最終的に、レナードはアスカロンで【魔術大砲】を斬ろうとする。
 だがそれは間違いだった。

「爆ッ、散ッ!」
「……ッッ!?」

 なぜか、アスカロンで斬る前に【魔術大砲】が破裂した。斬ることはおろかまだ1mmも【魔術大砲】に触れていないのに。

 奔流する暴力的な魔力。まるで魔力の津波だ。竜巻そのものと表現しても差し支えない暴風が轟々と辺り一帯を蹂躙して、活性化した魔力が肌をジリジリと焦がし尽くそうと暴走を開始する。

 まさに魔術の大砲。流石は魔王軍との戦争でも実際に使われる上位の攻撃魔術だ。

 数秒後、砂煙が晴れると、そこには満身創痍となったレナードの姿が。
 流石にアスカロンは壊れなかったが、右手がボロ炭のように焦げていて、どうやら右足を骨折したらしい。左手で身体の側面を押さえているあたり、肋骨を2本か3本折ったのかもしれない。

「君の聖剣、アスカロンと言ったか」
「ゲホ……っ」

 レナードはもはや、言葉を返すことができない。
 代わりに口から血の塊を吐き捨てて、ギラついた双眸でアリエルに、俺はまだ負けちゃいねぇ、まだ戦える、と、主張するように睨む。

「アスカロンのスキル、まるで見当も付かないが、しかし、ただ1つわかるとしたら、スキルの発動条件がスキルの対象にしたいモノを斬る、ということだ」

「カハ……テメェ……っ」

「なら、斬られる前に魔術を解除すればいいだけの話だ。魔術を解除する時、普通は解除の対象である魔術がなんらかのリバウンドを起こさないように慎重に解除するのだが、今回はあえてリバウンドを起こすように解除したのだ。普通の解除よりも手間がない」

 涼しげな表情かおでアリエルは言う。
 翻ってレナードは、苦虫を噛み潰したような表情かおで、次の瞬間には、思わず吐血した。地面がレナードの流血で鮮明な赤に染まる。

 だが、レナードはまだ諦めていない。
 ヒーリングすれば、全快することは叶わなくても、剣を振るうことぐらいはできるはずだから。

 しかし、何度詠唱しても、幾度詠唱しても、ヒーリングの魔術は発動しなかった。


「……ッッ、な、ぜ?」
「――【零の境地】を永続キャストしているのだよ。聖剣使いの君に倣って剣で例えるなら、【零の境地】という剣で、一回だけ振って敵を斬るのではなく、切っ先を突き刺して、そのまま剣を抜かないようなものだ」

 これでレナードの回復手段はなくなった。封じられた。
 そしてトドメと言わんばかりに、アリエルは右手の親指と人差し指を鳴らす。

 刹那、顕現する【魔術大砲】。
 動くことが不可能なレナードなど、いつでも撃ち抜けると言わんばかりに、【魔術大砲】はアリエルの頭上で待機していた。

 最後に、アリエルはレナードに1つ、聞きたいことを聞くために訊いた。

「レナード君、君の負けだ」
「――――」
「最後に言い残すことはあるか?」

 ふいに、レナードはアスカロンの切っ先を地面に刺した。
 次いでアスカロンを柄から手を離して、自分から進んで攻撃を受けるように、両腕を広げて【魔術大砲】を受け入れる構えを取る。

 言い訳はしない。駄々をこねたりも、ウジウジしたりもしない。
 負けは負けだ。自分は負けたのだ。
 潔さだけが自分の取り柄である。

 だが、潔いことと全てを諦めることは、全くの別。

「俺はテメェに負けた。だが、心はまだ死んでねぇ」
「よく言った。私は、その言葉が聞きたかった」

 やり取りはそれで終わりだった。
 アリエルの頭上で待機していた【魔術大砲】がついに発射され、レナードに向かって迫りくる。
 10分の1秒にも満たない時間のあと、レナードを中心に大規模な魔力の塊が爆ぜた。



「ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • ノベルバユーザー359879

    もうどうしようもないんか…かなしいやん…

    0
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