ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&成長チート&美少女ハーレムで世界最強の聖剣使いに成り上がる物語~

佐倉唄

1章9話 路地裏で、幼女を押し倒して口付けを――(1)



 黒いフードを被った不審者は城下の街のメインストリートの脇道に入って、ロイを路地裏で待ち構えていた。
 そう、待ち構えていた。ロイに追い付かれたのでもなく、行き止まりにぶつかったのでもなく。

 要するにロイは誘導されたのだ。
 ロイはすぐにそのことを察して、理解する。

「うふふ、初めまして、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクさん」
「――――ッ」

 不審者は黒いフードを脱いだのだが、刹那、ロイは驚愕を隠せない。
 いや――、追いかけている時からわかっていたが、身長がイヴよりも小さい。

 そして素顔を明かされた瞬間に、怪訝が確信に変わった。
 不審者は年端もいかぬ幼女だった。

 ダークな茶色の長髪は当たり前のようにさらさらで、上品で、綺麗で、幼女の髪なのに艶っぽく、貧民街の子供ではないことが推察できる。あれは、毎日きちんとシャワー浴びている髪だ。
 サファイアのように蒼い瞳は幼い女の子らしく、あどけなくて無垢そうなのだが、視線がロイだけを捉えているわけではない。ロイの周囲を注意深く観察し、広い視野を持っている。敵だけを見るのではなく、戦場全体を見ている感じ。幼女なのに、やたら戦闘慣れしているのだろう。

 無論、幼女というだけあって身長が小さいのは前述のとおりなのだが、隙がない。騎士としてはロイの方が上手そうだが、幼女はいつでも魔術を撃てる状態にある。
 仮に戦闘が開始して、前から斬りかかれば魔術防壁を張られるか、迎撃のアサルト魔術を喰らう。左右の建物の壁を壊して、瓦礫によるダメージを狙っても、肉体強化の魔術で悉くを躱されるだろう。幼女の真上を通りすぎるように跳躍、幼女の後方に着地して、背後から斬りかかろうにも、それはあえて隙を見せているだけで、誘っているだけ。カウンターを受けること必至だ。

 しかしその時、ロイは我に返る。

(なぜボクは、ただの幼女と戦うことを想定しているんだ?)

 ロイがそう冷静になった瞬間、疾ッ、と、幼女の姿が目の前から残像を置いて消えた。
 肉体強化の魔術による全力疾走? 風の魔術による速度のアシスト? 否、その程度の矮小なモノではない。

 ――殺気。
 ロイは脳内に鳴り響く警鐘に従い、真横に跳躍した。
 その0・1瞬遅れで、ロイが先刻までいた場所に、無数の漆黒の刃が咲き乱れる。

「自分の影を斬撃に変える闇属性Aランク魔術、【そこに我はいない、ヴァールハイト・故に咲き誇る純黒の花ドゥンケルハイト・ブルーメンブラット】――。うふふ、闇属性のAランク魔術を見るのは初めてですか?」

 違う、驚嘆すべきところはそこではない。
 闇魔術に限らず、Aランクの魔術を使える魔術師はそれなり、いや、かなり多くいる。問題なのは、それを、先刻のなんらかの移動魔術、少なくともSランク以上と推察される魔術とダブルキャストして、その上で詠唱破棄しているのが、かなり凄まじいということ。

 恐らく、幻影のウィザード・ジェレミアの100倍強い。子供が10倍とか、100倍とか、調子に乗って使うようなものではない。限界ギリギリまで敵を過小評価しても、ジェレミアの100倍なのだ。

「 顕現せよ、エクスカリバーッッ! 」

 ロイの右手に聖剣が顕現するのと、幼女が再び残像を置いて姿を消すのは同時だった。

 次の刹那、ロイは振り向きざまに聖剣を背後に、横一線を描くように振るった。
 すると、聖剣と影の刃がぶつかり合って、甲高い音を鳴らす。そして数瞬後には、その衝撃で暴力的なまでの風圧が周辺に当たり散らされる。

「――、ウソだ――ッ」

 唐突、ロイは顔を青ざめさせる。そして、たった先刻に会ったばかりの幼女を、長年の宿敵を見るような目で睨む。それを幼女は口元を緩めて出迎えた。

 決してロイと幼女が顔見知りだったというわけではない。
 ロイが「ウソだ」と呟いたのは、現実を認められないからである。

 影の刃を対処しながらロイは恐る恐る答え合わせをしようとした。

「キミが移動する時、2回とも風は発生しなかった。つまり風の魔術は使われていない」
「――正解」

「そして同じく、あれだけ高速で移動したのに、移動地点にも着地点にも、石畳が抉れた跡はなく、移動した道筋にも疾走した痕跡はない。つまり肉体強化は使われていない」
「――正解」

「なら――ッッ!?」
「あらあら、バレてしまいましたわね――。私が使った魔術は『概念を我が身に降臨させる魔術』です。今回は『速さ』という概念をその身に宿しました。結果、私はこの世界における速さという概念そのものになり、移動の際に、距離を無視することができるのです」

「神話クラスの魔術……ッ!?」

 魔術には神話クラスと人智クラスと原始クラスの3つのクラスがある。
 人智クラスにはEランク~Sランクまでのランクが存在し、例えば先刻の【そこに我はいない、故に咲き誇る純黒の花】はAランクに相当する。

 しかし、いかにAランクの魔術といっても、所詮は人智クラス。
 神話――、神々の物語の領域ではない。

(この子――っ、化け物かッッ!? ウィザードの頂点であるオーバーメイジ、ヒーラーの頂点であるカーディナル、この領域の天才でも、Sランク魔術をテンス~フィフティーンスキャストできれば平均以上なのに!? なのに神話クラスの魔術だってッッ!?)

 影の刃を片付けたロイは、すぐにバックステップして幼女から距離を取る。
 騎士が魔術師から距離を取るなんて愚の骨頂。

 しかし――ギリギリだ。1秒でも体勢を立て直し、1回でもまともな呼吸をする。ゆえに、騎士の間合いの極限のギリギリまで後退する。

 離れすぎてもいけないし、近付きすぎてもいけない。



コメント

  • 空挺隊員あきち

    ウソだッッッッ

    0
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