ダンジョンテストプレイヤー

島地 雷夢

01

「何で」『いるんですか?』「おぉ! 凄い凄い! まるで外にいるみたい!」 大はしゃぎのミーネは呆気に取られるケイトとアオイの事なぞお構いにないしちょこまか動き回り、あちらこちらに視線を向ける。 確かに、ここの内装はまるで外にいるかのようだ。天井は存在せず青空が広がり、きちんと雲も広がってる。陽光が注いで暖かささえ感じる。今までより広い一本道は人が三人横一列に寝転がっても余裕がある程だ。地面には草が生い茂り、花が咲き、道を囲うように木が密集して生えている。そして花の蜜を求めて蝶までも飛んでいるではないか。 ダンジョンと言うよりも。どちらかと言えば森の中が一番しっくりくる。実際近くの森にいるんじゃないか? と錯覚が起きる程だ。しかし、生憎と外は冬で雪が積もっている。今の季節ではこのような光景を見る事は出来ない。 因みに、自然豊かな一本道だが、先には人では到底登れそうにない断崖絶壁が立ちはだかっていたり、大木が倒れて行く手を阻んでいたり、針穴が待ち構えていたり、やけに金属質で見るからに物騒なゴーレムが徘徊しているので、決してのどかな雰囲気は感じられない。「おーい、ミーネ?」「蝶だ蝶だ! 今冬なのに蝶がいるーっ!」 ケイトははしゃぎまくるミーネに声を掛けるが、彼女は訊く耳持たず、ひらひらと飛んでいる蝶を追っ掛け始める。「ミーネってば」「いたっ! ちょ、何?」 思わず後頭部にチョップを繰り出し、意図せずに無理矢理ミーネの意思をケイトの方に向けさせる事に成功する。「いや、ね。何でミーネがここにいるの?」「ついてきたから」 言い淀む事も無く、ケイトの目を真っ直ぐ見て答えるミーネ。あまりにも清々しく答えたので、ケイトは少し意表を突かれて顔を片手で半分覆う。「……何でついてきたの?」「そりゃ、昨日鳥ちゃんが新しいダンジョンが完成したとか、明日迎えに行くとか言ってたから」「……はい?」 ミーネの口から聞き捨てならない言葉が発せられた。「ちょっと気になったので、こっそりついてきました、まる」 何故か胸を張って得意げにするミーネから少し離れ、ケイトは後ろを向いてアオイに問い掛ける。「ねぇ、昨日ミーネにも聞こえるように話してた?」『いえ、昨日も何時ものようにケイトにしか聞こえないようにしてたんですけど……』 アオイはダンジョン外では混乱を招かないようにケイトにだけ聞こえる声を発して会話をしている。ケイトとアオイが初めて会った時、ミーネにアオイの声が聞こえなかったのはその為だ。 それなのに何故、昨日はミーネにアオイの声が聞こえたのか? うんうん唸ってアオイは原因を探っていると、一つの可能性が浮かんでくる。『……あれですかね? 昨日その事離してる時ミーネさんに触られてたんですよ。もしかしたら私に触れる事で声が聞こえるようになったとか?』「何故に疑問形?」『いえ、私も確証は持ててないので』 少なくとも、ダンジョンが完成した。明日迎えに行く。その旨をケイトに伝えた時、ミーネはアオイを撫でていた。それ以前のアオイの声が彼女に聞こえなかったのを鑑みるに、可能性はそれくらいしかない。 取り敢えず、それでアオイの声が聞こえた件は納得しておく二人。次は別の問題だ。「そして、何でここに来れたんだ? 普通はあの広間に出る筈だろ?」 そう、普通ならば広間に出るのだ。テストプレイをするケイトはアオイを伴う事によって直接テストプレイダンジョンへと赴く事が出来る。それ以外の者は例えテストプレイダンジョンが出来ていたとしてもそちらへは向かえず、何時も通りの広間へと出るようになっている。 だが、ミーネは見ての通りこのテストプレイのダンジョンに来てしまっている。『それは私の近くにいたからかと』 その謎はアオイの一言で直ぐに解決する事になった。次回からは後ろに、もしくは近くに誰かいないかを確認しながら入らないといけないのか? と若干の入り辛さを覚えるケイトだった。 兎にも角にも、ここにミーネがいる理由と原因が粗方判明した。「で、どうするんだ?」『どうするもこうするも、まずは本人の意思を確認しない事には』「意思確認?」『まず、テストプレイをするかしないかを訊いてみます。しない場合は昨日と今日の一部の記憶を消してダンジョンの外へ行ってもらいます。テストプレイをすると言っても他人に言いふらすならやはり記憶を消します』「消せるんだ、記憶」『消せますよ、記憶。まぁ、誰にも言わないでくれって頼めば、ミーネさんは決して言わないと思いますけど』「それは同感。と言うか、アオイの判断で決めていいんだ」『以前、言質を取ったので』 アオイとしては……と言うより春斗とアランにとしてはテストプレイの人数はある程度いた方がいいと考えている。ただ、あまりべらべらと他人に話して自分達の存在を公けに晒すような真似をする輩にテストプレイは頼めない。なので、ケイトをテストプレイヤーとして協力を仰いで以降は誰にも声を掛けていない。 因みに、ケイトも初めて会った日、去り際に他人に話さないようにと釘を刺され、首肯して答えた。この時、少しでも渋るような仕草をしていれば記憶を消されてダンジョンの入口へと送られていただろう。 取り敢えず、ミーネは元気いっぱいで年齢よりも若干幼く感じられるがおいそれと他人の秘密を漏らす輩ではないとアオイは見ている。 二週間程前に『千変万化・中辛』でケイトの持つかわりの箱が盾に変化する様を見てしまったミーネに彼は誰にも言わないでくれと頼んだ。ミーネは至極真面目な顔をして頷き、誰にも話さずそれ以降はかわりの箱について全く触れようとしなかった。 その場面を何時もの鳥ではなく腕輪に変化してケイトと一緒にいたアオイは見た。あの時のミーネの目には揺るぎない意思を感じ取った。 と言う訳で、早速アオイはミーネの方へと飛んで行き、話し掛ける。『あーあー、テストテスト。ミーネさん、聞こえます?』「っ⁉ 聞こえる! 聞こえるよ!」 アオイから人語が発せられたのをしかと聞き届けたミーネは目を大きく開いて何度も頷く。「鳥ちゃんって喋れたんだね」『えぇ、まぁ。喋れます。あと、名前はアオイと申します』「アオイちゃん、か。可愛い名前」『ありがとうございます』 さて、とアオイはミーネの顔の前でホバリングをして顔を合わせる。『ミーネさん。あなたに一つ訊きたい事があります』「何?」『この新しいダンジョンのテストプレイしてみたいですか?』「テストプレイ?」 首を傾げるミーネにアオイは説明していく。『はい。実はこのダンジョン、人造のダンジョンでして。昨日新しいものを作ったんですよ。で、そのテストプレイ――つまり試しに潜ってみて改善点や良かった点とかを報告して欲しいんですよ。勿論、謝礼はありますし、無理強いもしません』 一息吐き、ミーネに尋ねる。『どうです? やります?』「やる! やりたいっ! 未踏のダンジョンを人よりも早く挑戦出来るのって、物凄いわくわくする!」 目を輝かせ、片手を高く上げ何度も跳び跳ねるミーネ。『では、ケイトと一緒にこのダンジョン「ゴーレムハント(仮)」のテストプレイをしていただきます。あ、あとこの事は誰にも言わないで欲しいです』「分かった。誰にも言わない」 興奮して跳ねていたミーネだが、先程と打って変わって真顔になって誰にも言わないと誓う。雰囲気もうきうきわくわくしていたものから物静かでいて張った糸のようなものへと変貌する。『と言う訳で、ミーネさんも一緒にテストプレイをしていただく流れにありました』「頑張ろうね、ケイト!」「あ、うん」 真面目な顔も瞬時に破顔し、ころころと表情や雰囲気を変えるミーネに少し呆気に取られるケイトであった。 そんなケイトを余所に、アオイは説明を始める。『では、テストプレイをしていただく前に軽く説明をします。この「ゴーレムハント(仮)」では障害のある一本道を進んで行き、最奥にいる特殊なゴーレム――ボスを倒す事が目的です。道中にもゴーレムがいますが、それらは基本無視しても構いません』 次に、とアオイは翼でケイトとミーネを――正確には彼等が着ているスーツを指す。『ケイトとミーネさんが強制的に装着されているスーツについて説明しますね』 現在彼等が着ているのはぴっちりとしたスーツだ。ケイトのスーツは青をベースに白と藍色のラインが入っており、ミーネのものは赤をベースに白とピンクのラインが走っている。 スーツはぴっちりサイズ故に身体のラインが浮き彫りになり、足には膝まで隠すブーツ、腕には前腕部まで隠すグローブが嵌められている。更に、グローブには左右に一つずつ砲身が取り付けられている。顔には視界を覆うように半透明の緑のバイザーが装着されている。『このスーツは身体能力をある程度向上させる能力を持っており、この「ゴーレムハント(仮)」で怪我を一切しなくなる結界も展開されています。スーツに守られていない頭部もバイザーから同様の結界が展開されているので心配はありません』 このぴちぴちスーツは見た目に反してかなりの高性能なのか、とケイトは驚きで眼を見開き、ミーネは興味津々とばかりに少し摘まんで伸ばしたりする。『次はグローブとブーツについてです。ブーツの爪先下部分を指裏で強く押すと前傾姿勢を取って前方に滑るような高速移動をする事が出来ます。そして、壁を蹴って上に昇る事も出来ます。このダンジョンは主にこのブーツの特性を利用して進んでいくことになります。そしてグローブですが、手を握る事で砲身から魔法弾を放ちます。何度も握って離すを繰り返すと連射し、長時間握ってから離せばより威力の高い魔法弾を放つ事が出来ます。この魔法弾でゴーレムを倒して下さい。……取り敢えず、説明はこれくらいでいったん終了です。私もついて行くので、気になった事は気軽に訊いて下さい』「はーい」「分かった」『では、行ってみましょうか』 アオイの言葉を訊き終えると、直ぐ様ミーネは爪先で地面を蹴るように力を入れる。すると、身体が自動的に前傾姿勢となり、滑るように前方へ高速移動をする。「あ、本当だ! 速い!」 高速移動がお気にめした様で、何度も高速移動を繰り返すミーネ。「すっごい! これ楽し」 と、笑顔で高速移動をしていたミーネの姿が一瞬で消えた。どうやら、前方に開いていた針穴に落ちたようだ。
 ティウンティウンティウンティウン…………。
 そして、針穴から変な音が聞こえ、光の玉が放射状に飛び散った。『あ、いきなりやられましたね』 アオイは淡々とケイトに告げた。

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