End Cycle Story

島地 雷夢

第26話

 さて、スーネルが水害を起こしてしまった日から三日が経った。「とりゃぁぁああああああっ!」 俺は、亀裂の中に入って我武者羅にリャストルクを振るって経験値の荒稼ぎを行っている。リャストルクを使えばたったの一振りでの効率的な作業だ。自分が怪我を負う事も無く、魔法職故に物理防御力が然程高くないと宣言してきたスーネルへと敵を向かわせずに一掃出来るのだ。 いや、別にスーネルがリャストルクを持てば物理防御力の低さを補える程に強力な物理攻撃力と魔法攻撃力を得られるのだが、今回は俺がレベルを上げないといけない為にリャストルクは俺の右手に握られている。 相手は御馴染みとなったドギーノーデムとレガンドールにレガンパペット。それに加えて新たにノーデム側にはドギーノーデムと同じ大きさの背中に棘が満載のヘッジホッガーノーデム、レガンドールの三倍の腕の大きさで、それしかないレガンアームも出現し出した。 ヘッジホッガーノーデムは丸まってその場で回転し出して地面をぎゃりぎゃり削りながら俺の方へと物凄い勢いで突進してくる。あんなのに巻き込まれたら確実に肉が抉られる……と言うか抉り取られて体が上下に分断しかねないのでリャストルクの切っ先を向けて自滅して貰っている。俺が振らなくても勝手に向かってきて勝手に突き刺さって消滅するからとても楽な相手だ。リャストルクを持っていなければ、『刃波』や『ファイアショット』で遠距離攻撃を行うか、『サンダーフォール』や『ライトスフィア』を展開してカウンターをくらわせるのが効率的だと思う。 レガンアームは空中を飛んでいて、指をわきわき動かしながら俺の方へと突進してくる。俺の頭を掴もうとしたり、足首を掴もうとしたり、更には手を握って拳を放って来たり、人差し指と中指だけを立てて目潰ししてきたりする。多彩な攻撃をしてくるが、手の形がジャンケンのグー、チョキ、パーと同じで、それに対応した攻撃を放ってくるから対処は意外と楽だった。これもリャストルクの切っ先を向けてれば勝手に消滅してくれる楽な相手だ。リャストルクを使わなければ、攻撃を避けて前腕部分を思いっ切り攻撃するとか、グーやチョキの時に『カウンターガード』を発動させれば楽に倒せるだろう。高度も俺の身長プラス三十センチまでの所を浮くから攻撃は比較的当たりやすいし。 因みに、俺は今レガンアーム四体と戦っている。事前に打ち合わせでもしていたのか、四体は同時に攻撃してくるので避けたりしなければいけない。けど、コンビネーションは皆無で、俺の頭を掴もうとしたらしい二体が空中で激突して墜落したりしていて、間抜けだと思った。 その隙に俺はリャストルクでいとも簡単に屠るんだけど。
『レガンアームを四体倒した。 840セルを手に入れた。 経験値を464獲得した。 レベル:16に上がった。 ステータスポイントを3獲得した。』
 で、全滅させてレザルト画面が出てくる。この三日間は昼夜問わずにそこらの森の中や道を駆け抜け、亀裂へと飛び込んで倒しまくったので一気にレベルが4も上がった。けど、目的はまだ達成されてないからまだまだレベル上げを行わなくてはいけない。 あ、その前にステータスポイントとを振っておこう。ステータスポイントは今9溜まってるし、平均的に割り振れる。 俺は『エンプサ・ブラッド』に覚醒した後もステータスをどれかに特化するような割振りにはしていない。『エンプサ・ブラッド』は運命力だけが三倍になるので、他のステータスもそれなりに無いと戦闘できつくなってしまう。いや、物理とか魔法とかのどちらかに寄らせると言うパターンも無きにしも非ずなんだけど、個人的には臨機応変に物理攻撃と魔法攻撃を絡ませて戦った方がどちらか一方が使えない状況に陥ったとしても平静を保てるんじゃないかな? と思ったから結局どのステータスもは同じタイミングで増やすようにしている。 で、以下現在の俺のステータス。
『レベル:16 ステータスポイント:1 生命力:800/800 精神力:80/80 物理攻撃力:32 物理防御力:32→40 魔法攻撃力:32 魔法防御力:32→40 敏捷力:32→33 運命力:16 状態:普通 次のレベルまであと5712の経験値が必要』
 装備が偽石英剣リャストルクの為に攻撃力がどの程度上がっているのかが表示されない。『うむ……まだ覚えぬか』 亀裂から元いた森の中へと戻りながら、手にしたリャストルクが俺に頭の中へと直接声を届かせる。 そうだなぁ。まだ覚えないな。と言うか、本当に覚えるのか?『覚える……じゃろう。何せ、ソウマは前の段階を既に習得しておるのだから』 そうだよなぁ。あっちの方はもう次の段階に行ったんだから、こっちの方も早く次の段階を覚えたいよ。『なら、やはりここはレガンとノーデムを倒してレベルを上げていくしかなかろうて』 それしかないな。でも、本当に一体何時になったら覚えるんだろう? せめてレベル:20までには覚えたいぞ。 はぁ、と溜息が漏れる。 俺がレベルを上げている理由。それはあるアビリティを覚える為にレベルを上げている。そのアビリティの名前は『サーチ』。俺が今覚えてる『ロウサーチ』のバージョンアップとでも言えばいいのか、それを覚えようとしている。 『サーチ』はリャストルク曰く、道端に落ちている物を『ロウサーチ』よりも見付けやすくなるだけじゃなく、自分が最後に落とした物の位置を知る事が出来る効果がある。 俺が『サーチ』を覚えようとしているのは、後者の能力が欲しいからだ。 理由は至って簡単。キルリの愛剣を見付ける為だ。 水害があった翌日に剣を捜そうと駆け出した時にスーネルに肩を掴まれて、「闇雲に捜しても見つかりませんよ」と優しく諭された。俺はこうなったのはスーネルが原因だろうと意地悪にも言い返してしまい、スーネルは肩を落としてしゅんとしてしまった。 スーネルの言った事は真実で、どのタイミングで落としたのか分からないし、どの程度水で流されたのかも分からない。俺が流された場所から発生源へと戻って行けば見つかりそうなんだけど、あの水量と勢いだ。どこで変な風に方向転換しても可笑しくないし、しかも、発生源に戻るには数時間は歩かないと辿り付けない。そんな遠くまで俺は流されていたのだ。スーネルとリャストルクに再会出来たのは互いに魔法が使えたからだし、魔法とか狼煙とか使えなかったらと思うと、背筋が少し冷たくなる。 いや、一人で旅をしようと思ってた俺だけど、仲間と逸れるのは怖いんだ。まだ俺はこの世界の常識――いや、周知を知らないみたいだし、俺一人だと危ない橋を渡る可能性が高い。それを少しは加味し、残り全ては単純に安否の確認が出来ず、知り合いが死ぬかもしれないと言う焦燥感に駆られるのが怖いからだ。もう、あんな事は御免だ。少なくとも、俺の見える範囲にいる人だけでも、死ぬ姿は見たくない。 さて、少し話が脱線したから軌道修正をしよう。 しゅんとなったスーネルの代わりに、スーネルの腰に佩かれたリャストルクが「『サーチ』をおぼえればいいじゃろう」と答えた。 リャストルクは俺が触っている限り、互いに思考の交換が出来る。故に、まぁ、俺からも話したってのもあるけどステータスやレベルに関しても把握してる。当然、覚えている魔法や特殊技、アビリティもだ。 リャストルク曰く、やはりこの世界の人やレガン、ノーデムにはレベルとかステータスの概念は存在しないらしい。俺が異世界から来た人間だからか、このようなシステムが組み込まれているようだ。なので、身体能力はトレーニングでは上がらず、レベルアップをしてステータスポイントを振って上げなければいけない難点もあるが、効率的に経験値を稼いでレベルを上げられればトレーニングをするよりも早く力を付ける事が可能だ。 また、レベルアップにはまだ利点がある。それはレベルが上がれば自動で魔法、特殊技、アビリティを覚える事があるという点だ。普通は魔法も特殊技もひたすらは反復練習を重ねて形を作り上げていかねばいけないらしいが、俺に関してはある一定のレベルになれば最初から形のある魔法、特殊技を覚える。アビリティも同様で、本来ならばやはり地道に努力を重ねて得る物らしい。 俺はこの世界で優遇されているようだ。いや、異世界に来た時点で優遇とは程遠いかもしれないが、それでも救済措置なのか、レベルを上げるだけで魔法、特殊技、アビリティを覚えるのは生きる上では楽になる。まぁ、俺もレベルアップだけじゃなくてレアクエストをクリアする事でも覚えるけど、それも最初から形ある状態で習得するから、はやり優遇はされてると思う。 まぁ、そんな訳で、俺はレベルを上げて『サーチ』を覚えようとしている。因みに、レベル上げじゃない方法ではリャストルク曰く一年は訓練しないといけないそうな。どんな、とまでは訊かなかった。訊くよりもレベルを上げた方が状況が好転するし。「取り敢えず、一旦休憩するか」 亀裂から出た俺は額の汗を拭い、道具袋から乾かした乾パンを取り出して口に含む。やはり水に流された時にふにゃふにゃの離乳食擬きへと変貌を遂げた乾パンだったけど、それを薄く延ばして、スーネルが持って来ていたフライパンの上に薄く延ばして押し固めながら焼いたら形は一応元に戻った。衛生的には微妙かもしれないけど、いざとなったらそこらで拾って補充した毒消し草やスーネルの『キュア』があるから無問題。「ソウマさん、これどうぞ」 亀裂の中では何も手を出さず、そして俺が我武者羅にレガンとノーデムを倒している理由をリャストルクと一緒になって説明して納得してくれたスーネルは丸々として張りのある赤い皮をした果実――つまりは林檎を一つ俺に差し出してくる。「ん? 林檎なんて持ってたのか?」 生の果物は傷みやすいから旅の時は干し果実のほうがよかったような? あ、でも林檎って意外と日持ちするんだっけか? でも気温が高くなってきてるから直ぐに悪くなりそうなんだけど、まぁ、そこら辺の事は追々知識として頭に詰め込んでおくとしよう。「いえ、先程走っている時に見付けた野生の林檎の木に生えてたので取ってきました」 スーネルはそう言いながら俺の手に林檎を乗せ、道具袋の中からもう一つ林檎を取り出して齧る。しゃりっとして瑞々しい果汁が少しばかり飛び散って、俺の食指がそそられる。あ、よく見るとスーネルの道具袋がぼこぼこと歪んでパンパンに膨れている。恐らく許容量限界まで林檎を入れたんだと思う。まぁ、旅をしていると食べ物は貴重になるから、手に入れられる時に手に入れておかないといけないよな。 にしても、林檎ってこの時期に収穫出来たっけ? 確か秋によく見かけていたような……まぁ、気にしたら負けだ。ここは異世界だし、元の世界でだってハウス栽培で時期ずらしたりするんじゃないかな? 林檎がそのような栽培をしているかは知らないけど。 俺は手にした乾パンを一気に口に放り込み、手渡された林檎を一つ齧る。うん、甘くて酸っぱい果汁が口の中に広がって、喉を潤す。ここ最近は水だけだったからこの甘味のある瑞々しい果汁は本当に有り難いな。 計二つの林檎を食べた俺は、暫し休息を取って再び亀裂狩りへと繰り出す。この日はそれ以降は五つの亀裂へと飛び込んでレガンとノーデムを倒したけど、レベルは上がらず、夜も遅くなったので今日の所は終わりにする事にした。 で、次の日。
『レガンアームを三体倒した。 630セルを手に入れた。 経験値を348獲得した。 レベル:17に上がった。 魔法『キュア』を覚えた。 アビリティ『サーチ』を覚えた。 ステータスポイントを2獲得した。』
「よっし! 覚えた!」 本日四つ目の亀裂の戦闘を終えた俺は半透明のウィンドウで念願のアビリティを覚えた事にガッツポーズを取る。漸く『サーチ』を覚える事が出来たこれで四日前に失くしたキルリの愛剣を捜す事が出来る。「おめでとうございます」 俺の覚えたと言う大き目の声に、スーネルは笑顔で拍手を送ってくれる。嬉しいんだけど、これを覚える切っ掛けは貴女が原因なんだよ? とは口が裂けても言わない。またしゅんとなってしまうし、全部が全部スーネルの所為じゃないからな。本当、どうして俺はあの時全力でなんて言っちゃったんだろう? まぁ、それは横に置いておくとして。「で、スーネルにリャストルク。『サーチ』の落し物追跡機能? ってのはどうやって使うんだ?」 用が済んだリャストルクを、護身の為にスーネルへと手渡しながら二人(一人と一振り)に質問する。「頭の中で落とした物を思い浮かべれば大丈夫な筈じゃ」「その際に目を閉じて行った方がイメージしやすいと思います」 リャストルクが説明して、スーネルが細くしてくれた。成程、頭の中でイメージね。そして確かに目を瞑った方がイメージはしやすいな。人間は考える時は視線を上に向けて天井を見たり、白目を瞑ったりして行う場合が多いらしいし。 俺もその人間の習性に倣って、眼を閉じてキルリの愛剣を思い浮かべる。結構綺麗な鋼の刀身を持っていて、装飾も施されていなくてシンプルな作りだけど実用性に長けたフォルム。 すると、俺は不意に頭を右へと向ける。そちらから強く惹かれる何かを感じ取った。言うなれば、引き寄せあう磁石のS極とN極の関係みたいだと思う。自然と足もそちらの方へと無意識に歩いていた。「どうやら、そっちの方にあるようじゃのう」「行きましょう」「だな」 リャストルクとスーネルの言葉に、俺は頷き、惹かれる方へと体を向け、駆け出す。



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