End Cycle Story

島地 雷夢

第4話

「どうすればいいんだよっ!」 愚痴を呟くと同時に、レガンドールの一体がかたかたと人間で言う関節部分を鳴らしながらこちらに走ってくる。腕を投げやりな感じで俺に向かって振り下ろしてくる。俺はそれを横に跳んで躱す。 避けると二体目、三体目のレガンドールも近付いてきて同じような攻撃を仕掛けてきた。 さっきのは脊髄反射で動いたから避けたのであって、今度はそうはいかないだろう。一介の高校生たる俺は喧嘩慣れしていないので避ける為に背を向けて駆けるしかない。 俺が走って直ぐくらいに背後からかたかた音が鳴り響く。 後ろを振り返るとレガンドール三体が横一列に並んで走ってくる。マネキンが揃って走るのはある意味でホラーだ。いや、薄暗い洋館の中で遭遇したら間違いなくパニックホラーものだろう。 もう、勘弁して欲しい。 いくら相手が素手だからと言っても舐めてはいけない。その素手の一撃でも命を落とす場合がある。レガンドールの質感が光沢を帯びているので金属の可能性がある。金属でなくとも陶磁製と言う場合もあり得る。少なくともプラスチックではない事は分かる。 そんな硬い一撃を振り下ろして頭にでも当たればそれこそ直ぐに三途の川へと渡る手筈になってしまう。 それは御免被る。 俺は単にゲームをしたかっただけなのに、何でこんな目に遭うんだよ? 月並みの台詞だけど、まだ死にたくない。 だけど、このままだと俺は死ぬだろうな。 逃げ続けるだけの体力は備わっていない。高校で運動部系の部活はおろか部活自体に入っていないので体力が減っていくだけの高校生活を送っているし。いや、かろうじて自転車登校をしているから減少幅が小さいか? まぁ、それでも減っているのに変わりないんだけど。 と言うか、何だ? もう疲れた……。「はぁ、はぁ、はぁ」 息も上がり、走る速度も衰える。走るのなんて体育の授業くらいでしかないっての。それも全力でなんて走らない。全力疾走なんて十五秒持てばいいくらいだよ。 全力から四割減させ、息を荒げながらも逃げ回る。木にぐるりと囲まれた空間を内周に沿って走る。まるで学校の校庭で持久走してるみたいな気分になってくる。 ……もうさぁ、ゲームと同じようにエスケープしてみようかな? 逃げられない可能性の方が高いけど、もしかしたらこの空間から出られるかもしれない。 そしたら走らなくて済む。 うん、そうしよう。 俺はバトルフィールドの端に向かって走る。 木々の向こうには行けないようで、木に接する前に波打つ見えない障壁に阻まれる。 すると視界の上三分の一に横長のゲージが現れた。半透明のゲージは時間が経つごとに右から左に向かって薄緑色の何かが蓄積していく。 説明書で見た事がある。エスケープゲージだった。 エスケープゲージが薄緑色一色になると逃走成功となり、バトルからエスケープ出来る。確か七秒くらいバトルフィールドの端に向かって走ってれば満タンになった筈。 と言うか、まさかエスケープゲージまで備わっているとは。俺はてっきりバトルフィールドに来てしまったら逃げられない檻の中と同義と想定していたけど予想の斜め上を行っていた。ここは何処まで『E.C.S』順守な世界なんだ? で、七秒経つとゲージが薄緑色で一杯になる。これで逃走成功。
『この世界でのバトルではエスケープが出来ません』
 ……したと思ったら視界の上三分の一に半透明ウィンドウが出現しそんな事をのたまってきた。 無慈悲な世界だなこんちきせぅ。 まだ『エスケープに失敗しました』の方がマシだった。失敗する場合もあると説明書には書いてあったし、それに次は成功するかもしれないっていう希望も同時に見い出せる。 なのにこれはどういう事か? エスケープ出来ないって意味が分からないんですけど。別にボス戦に臨んでいる訳でもなく、敵に逃走防止の魔法を掛けられている訳でもないんだから逃げられてもいいだろ。 酷い。 この世界は異物である俺に死を望んでいるのか? そう思うと泣けてきた。 でも泣いてる暇はない。 こんな事で悲観して立ち止まっていたら後ろから未だにめげずに追い掛けてくるレガンドールに文字通り殴り殺しにされる。 それこそ本当に勘弁してくれ。 あぁ、このまま逃げ続けるしかないのか? もう四の五の愚痴を呟かずにまた走ろう。そして願わくばあいつらが諦めて帰って欲しい。確率は低いけどさ。 足に再び力を籠めて一歩踏み出そうと時だった。
 ビキッ!
 何かが割れるような音がこの空間に鳴り響いた。 別に俺を追い掛けているレガンドール三体が自重に耐え切れずに崩壊したとかそんな美味しい話ではない。その証拠に、レガンドール達も音を訊いたようで立ち止まり辺りを見渡している。 俺も辺りを見渡す……事はしない。もしあいつらから視線を逸らしたら、その瞬間に距離を詰められてやられるという最悪なパターンに繋がりかねないからな。そうなったら間抜け過ぎる。そんな死に方は死んでも死にきれず、恐らく幽霊になって徘徊するような未来が待ち受けているかも。 とか何とか心の中で呟いていたら。
 ドシュッ。
 前髪がはらりと数本切られて宙を舞う。 ……何が起きた? 視線をレガンドールから逸らして少し下を見ると、何かが地面に突き刺さっていた。 何か? まぁ、こう言ったファンタジー世界ではお約束の剣なんですけど。 俺の腕と同等の長さを誇る刀身は少しだけ透明感のある白くて荒削りの明らかに鉄や鋼ではない物体。両刃だが真っ直ぐでもなく凹凸が目立ち、打製石器のような作り。唾に当たる部分にはふさふさした灰色がかった白い毛が生えている。言うなれば、犬の尻尾に似たふさふさ加減だ。更に柄にはぼろぼろになった布が全体に巻かれている。 ……何、この似非鉄○牙は? で、ついと視線をこの剣の上空へと移す。 空間に亀裂が入っていた。この世界では空間に亀裂が入る事が日常茶飯事に起きるのだろうか? とも思うが、あまり突っ込まない。そしてどうやら空間の亀裂から剣は落ちてきたようだった。 御都合主義っぽいなぁ〜。攻撃手段を持ち合わせず、逃げられないからってまさか武器が落ちてくるとは思わなんだ。しかもわざわざ空間に亀裂を入れてまでするという周到振り。ここまで来るといっそ清々しい。 でも、これは有り難いな。 レガンドール達はどうしてだか空から落ちてきた剣を凝視しており、思考で十秒程止まっていたであろう俺に襲い掛かっては来なかった。そう考えると冷や汗が出てくる。運がいいな、俺。 そう、運がいい。 異世界に来てしまっても、むざむざと死ぬ訳ではない。 俺は地面に突き刺さる剣の柄を掴み、リ○クがマ○ターソードを抜く時のように勢いよく引き抜く。
『偽石英剣リャストルクを手に入れた』
 ウィンドウが現れる。どうやらこの剣の名前はリャストルクと言うようだ。と言うか偽石英って、石英ですらないんだ。異世界だから何でもありとして突っ込むのはよそう。 いや、そんな事よりも。「お、重い……」 引き抜いたはいいが、重くて両手で正眼に構えるだけでも腕が震えて段々と切っ先が下がっていく。これじゃ満足に触れないぞ。精々重力に任せて振り下ろすしかないんだけど。 これは……詰んだな。運がいいって言ったけど、よくなかった。これじゃ剣を持たずに逃げ回った方がマシだ。 そんな訳で俺は即行で剣を地面に落とす。未練はない。使えない武器は手に余る。枷になるくらいなら即手放して持たない方がいい。それを有言実行した訳だ。ドスンと音を立てて剣は地面に落ちる。「いたっ!」「ん?」 何だ? 今の声? と言うか声と言うよりも音と言った方がいいような……。「これ、お主! 妾を取り落とす出ないぞ!」 何か地面に落とした偽石英の剣の刀身が淡く光りながら震えている。ついでに言えば、音源はそこから聞こえてくる。 …………うん。まぁ、そう来るよね。 ファンタジー世界のあるあるパターン。意思があって喋る剣。 今落とした剣はまさしくそれなんだろう。俺としてはどうやって声を出してるんだろうと言う疑問を持つ。呼吸器官を持たないから当然声帯もない。あ、もしかしたら刀身を震わせて空気を任意の周波数で振動させてるのかもしれない。なんて考える俺は中二病なのかもしれない。「無視するでないっ!」「あ、何か済みません。重かったものでつい」 怒られたので謝る俺は典型的な日本人だと思う。「重い!? レディーに対して重いとはなんじゃ!?」 どうやらこの剣は女性のようだ。あまりにも無機質で低いとも高いとも取れない声からして判断つかなかったんだがな。「いや、だって重いもんは重いっと危ねっ!」 剣に言い訳してたら後ろでカタカタ音が聴こえ、後ろを即座に振り向くとレガンドールが腕を振り上げており、俺は即座に距離を取って振り下ろされた攻撃を回避する。と言うか何時の間に背後に来てたんだこいつら? 因みに、距離を取る際剣の刀身を踏んでしまったが。「痛い痛い痛い! 妾の顔を踏むな! 胸を踏むな!」 顔や胸があるのか、と言う突っ込みをする暇も無く右横に現れたレガンドールの攻撃を体を捻って回避する。って横? さっきは後ろ――今だと前だけど――にいたレガンドールに襲われてたんだけど。あ、そう言えば後ろにいたのは一体だけだった。 ……もしかして。 辺りを確認する間でもなく、先程とはおおよそ反対方向からもレガンドールから攻撃を受ける。丁度死角となっていたので食らってしまう。「っつう!」 左肩に振り下ろされた腕。骨が折れるかもしれないと言う衝撃が神経を伝って脳へと行き渡り、痛覚を刺激する。涙目になる。骨折はしなかったが、左腕を動かそうとすると痛みが走る。
『生命力:236/300』
 ウィンドウが現れてそんな情報を掲示してくる。この痛さで64のダメージか。意外と多いような少ないような判断しかねる。 が、一つ分かるのは、こいつらの攻撃はあと三回まで食らっても大丈夫という事。三回までなら192のダメージで残る生命力が44。ぎりぎり生き残れる。 でもいくら分かってもどうしようもない気がする。 だって。「がっ!」 振り下ろししかして来ないと思ってたら、右足を軸にして体を回転させ、両腕をフルスイングして横に振ってきた。 俺は左肩の痛みを和らげようと変に思考を働かせていた為に避ける事は叶わず、左の上腕部にその一撃を受ける。 ボキィッ! あ、折れた。 骨が砕ける音を耳で聞き取り、骨が砕ける感覚を神経を伝って感じ取った。が、不思議と痛みは来ない。もしかして麻痺した? それだったら痛みに際悩まされず儲けもんだな。「ぅぅああっ!」 と思ったけど、今痛みがいきなり襲ってきた。遅れて来るとは状況の読めん奴。来るなら直ぐに、来ないなら永遠に来るな。淡い期待をしてしまったじゃないか。 突き刺すような痛みに襲われた俺は折れた部分を押さえながらその場に膝をつく。
『生命力:78/300』
 生命力減り過ぎだろ。一発で158のダメージって、片腕の二倍以上はないだろ。遠心力か? 重力よりも遠心力の方が勝っているのか?「ぎっ!」 で、追い打ちとばかりに左肩にまたもや腕を振り下ろされる羽目になる。と言うか執拗に左ばっかり攻撃してくるな。何? こいつらは俺の体の左側にただならぬ恨みでも抱いているのか?
『生命力:12/300』
 今度は66のダメージか。個体によってか、はたまた場合によって被ダメージ量は変動するのかね? とか考えちゃ駄目だろ今は。 生命力は一割を切り、生命力の文字と数値が赤に染まる。デッドゾーンに突入してしまったようだ。 つまり、これから一撃でもレガンドールの攻撃を食らえばそこで終わりだ。 軽く言えばゲームオーバー。 重く言えば死。 ゲームならコンテニュー出来る。が、これはゲームじゃない。実際に痛みを感じるし、恐怖している。 まぁ、恐怖していると言いながらこう思考は止めてないけど。 これは癖だな。うん、癖だ。自分が切羽詰まった状況に成程俺は心の中で独り言を呟いたり考えたりする。そうしないと不安で何も出来なくなったり、恐怖で立ち止まったりしてしまうから。一種の安定剤か? いや、薬ではないけど。でも自分の精神を安定させる為に行っているからあながち間違った表現ではないと思う。 さて、そんな考えもそろそろ終わりにしよう。 状況確認。 俺は三方をレガンドールに囲まれている。距離は一メートルも離れていない。何故か今は攻撃してこないが、何時襲い掛かってきてもおかしくはない。俺は左肩が負傷し、左上腕部が骨折している。因みに手首も痛む。この手首の痛みは恐らくキルリに突き飛ばされた時にぐねったからだろう。その時は痛まなかったが、どうやら時間差攻撃だったようだ。そんな左腕は痛みオンパレードになって気になってしまい、上手く走れる自信はない。今も痛みに堪えるのに必死で歯を食い縛っている。 うん、絶望的だな。軽く言ってしまったがそうとしか言えない。 あぁ、俺の人生はここまでか。せめてこんな所ではなく、俺のいた世界で死にたかったな。後悔はあるけど、したって意味ない。幽霊になるかもだけど、そしたら誰かを呪うのかな? それは辺り迷惑と言うものだ。出来る事なら、幽霊にならずに真っ直ぐ成仏する事を祈ろう。「ってこらぁ! 何時まで妾を踏んでおるのだ!?」 あ、こいつ(?)の存在をすっかり忘れてた。「あ、悪い」 俺は足を退けて刀身を蹴って少し場所をずらす。「レディーを足蹴にするとは! お主はそれでも男か!?」「男だよ」 何だろう。死ぬ直前にこんなやりとりをするとは思わなんだ。こう言っては何だが緊張感がまるでない。脱力しかけてしまう。変に痛みが和らぐのは御愛嬌だろうか?「と言うか、もう話し掛けんな」「何でじゃ!?」 口があったらくわっと牙を剥いているんだろう口調で突っ掛かってくる。「いや、どうやら俺はもう直ぐ死ぬらしいし。最期くらいは潔く死ぬ」「は?」 剣は間の抜けた声を出すが、それでも構わず俺は剣に語り掛ける。「周りをレガンドールに取り囲まれて、生命力は風前の灯火。攻撃手段は無いし、防御する手立ても無い。逃げる事も儘ならない。だから、俺はもう直ぐ死ぬ」 言ってて悲しくなる。死ぬ、ね。何か何回も言ってると受け入れてるって感じがするけど、実際は本心では受け入れていない。仕方がないと甘んじて受け入れているだけ。どうやったってこの状況を覆せないんだ。もう死ぬ事は確定してる。足掻きは無駄。足掻くくらいなら潔く死ぬ。 そう、足掻くくらいなら、もう死んだ方が……。「……お主、馬鹿か?」 センチメンタルな気持ちになってたらいきなり罵倒された。「誰が馬鹿だ?」「お主じゃ」 にべも無く言われた。「どうして人の事を馬鹿と言う?」 一応平均的な学力は持ち合わせている筈だ。馬鹿と言われる筋合いはない。「お主が一つ見落としているからじゃ」 憤然とした態度で剣は言う。見落としてる? 俺が一体何を見落としてるっていうんだ?「お主には、攻撃手段が残されておるであろう。――妾と言う、最高の攻撃手段がな」「それはないわー」 自信たっぷりで顔があればどやぁっとしてるだろう剣に俺は即行で茶々を入れる。「何じゃと!?」「だってお前、かなり重いし」 正直、片手で扱える自信は無い。と言うか、まず持ち上がらない気がする。だから最初から攻撃手段から除外してたんだ。「それは妾がお主を薙ぎ手と認めていないからだ!」「薙ぎ手?」「妾を振るうに相応しい者の事だ!」「あ、そうすか。でも結局お前は俺を薙ぎ手に認めないから重くて無理」 そう、いくら軽くなるからと言っても認められてないなら話にならない。もう無駄な足掻きをさせるなよ。「お主は諦めがよ過ぎではないか!? 薙ぎ手に認められるような言や行動を取ろうとは思わんのか!?」「思わない。だってそう言うのはお前の匙加減一つで決まるし、それに当て嵌まらなければ無駄だろ? 一筋の希望を持って打ち砕かれて絶望するよりも、端っから諦めてた方が絶望は増さない」 本当、自分で言うのも何だけど甘んじて受け入れてしまっているな。本当は死にたくないのに。希望に縋りたいけど駄目だった時の絶望を味わいたくないが故に拒否している。弱虫だな、俺。チキン野郎だ。「その潔さはいっそ天晴れとでも言うべきか……」 剣は溜息を吐く。……どうやって溜息を?「じゃが、お主が諦めると妾がこの空間から出られんのじゃ」「……どういう事?」「妾は空間の亀裂からここに落とされた。薙ぎ手にな」「薙ぎ手に? どうして?」「分からん。しかもその際薙ぎ手は妾の力の大半を封じてここに落としたのじゃ。今の妾ではこの空間から自力で出る事は出来ぬ。レガンが作った空間から出るにはレガンを倒すしかない。妾は自らの意思で動く事が叶わぬので倒す事が出来ぬ。倒せねば妾は一生この異空間に残る事になる。それは御免被りたい。妾はどうして薙ぎ手がこの異空間に落としたのか、その真意を知りたい」 じゃから、と剣は一言区切る。「妾がこの異空間から出る為に、そして童の本来の薙ぎ手を見付けるまでの一時の間、お主を妾――リャストルクの薙ぎ手として認めよう」 剣――リャストルクの刀身が光り輝き、その光が俺の体を包み込む。 それに触発されたのか、何故か先程から微動だにしなかったレガンドールの一体が腕を振り下ろしてきた。 反射的に、無意識のうちに俺はリャストルクに手を伸ばし、柄を掴んで立ち上がり、振り上げる。 レガンドールが振り下ろそうとした腕は振り上げたリャストルクの刀身に当たると粉々に砕け散った。 リャストルクから重みが消え失せていた。軽くなった、ではない。まるで最初から俺の体の一部であったかのように手に馴染む。そして一種の興奮状態にでも入ったのか、左肩と腕の痛みが感じなくなった。それにプラスして体が羽のように軽い……気がする。これは好都合。存分に動ける。 腕を粉々にされたレガンドールが残された腕で攻撃しようと振り上げる。 俺はリャストルクを薙いでそいつの足の太腿にあたる部分を切る。足を失い均衡を崩した人形の腕は狙いが逸れて仲間の頭部に当たり、陥没させる。 切る感触は押し切るでもなく引き切るでもなく叩き切るだった。刃が立っていないので当然と言えば当然か。「ほれ、一時の薙ぎ手よ。早うレガン共を殲滅せよ」 リャストルクが上から目線でそう告げてくる。こいつだけでは何も出来ない癖に随分と偉そうだな。 まぁ、別に気分を害さないけど。 こいつの御蔭で、俺は死を回避出来るんだから。 諦めた生を掴む事が出来るんだから。 俺はその場から動かず、リャストルクを一閃させる。 頭を陥没させたレガンドールの首を切り落とす。すると首を落とされた人形は光の粒子となり、天へと昇って行った。 片腕と両足を失ったレガンドールの後頭部にリャストルクを突き立て、同様に光の粒子に還す。 残りは一体。ここまで順調とは、御都合主義の賜物か、はたまた本当に運がいいのか。リャストルクの硬度が見た目よりも硬い事と軽くなり片手でも充分に扱えるようになったのが重要な点だろう。 中学校の授業で剣道をして以来、こう言ったものを手にした事が無かった俺だが、どうやらそれでもこいつらを倒せるだけの最低限の力はあるようだ。左腕はぷらんぷらんと力無く垂れてるけど平衡感覚とかは普通だ。 ……まぁ、それらはステータスが影響していたりするかもしれないけど。そこは後でたっぷりと時間を掛けて検証していこう。 残った一体は仲間の死を嘆く事も無く無表情な顔で俺を一瞥し、体を回転させ両腕をフルスイングしてくる。 俺はそれを避けようとせず、順手から逆手に持ち替えたリャストルクの刀身で受ける。 刀身に触れた瞬間、少しだけ押されたが、リャストルクを放す事無く、レガンドールの両腕を粉々にする。 腕を失ったレガンドールの額目掛けて、逆手に持ったままのリャストルクの切っ先を突き付け、貫く。 最後の一体も光の粒子となって空へと消えた。
『レガンドール三体を倒した。 252セルを手に入れた。 経験値を72獲得した。 レベル:1に上がった。 魔法『ファイアショット』を習得した。 魔法『フロストカーテン』を習得した。 特殊技『スラッシュ』を習得した。 アビリティ『ロウアナライズ』を習得した。 アビリティ『リミットオーバーガード』を習得した。 ステータスポイントを2獲得した         』


 これが、俺がこの世界に来て初めての戦闘だった。




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