Q.攻撃方法は何ですか? A.卓球です。

島地 雷夢

新たに仲間が加わりました。

 俺とクロウリさんはさっさと依頼完了と換金手続きを済ませ、待合スペースへと移動する。そして、鎧の人も依頼完了と換金手続きを済ませて俺達のいる方へとがっしゃがっしゃと音を立てながら来る。 俺とクロウリさんは横一列に座り、目の前に鎧の人がビシッと姿勢を正して座る。横に大きな盾と剣を立てかけている。流石に背負ったままは座れないか。座ったら座ったでソファ傷付けるだろうし。 暫しの沈黙が降りてくる。が、鎧の人が口を開いた事によって直ぐに払拭される。「初めまして。白騎士見習いのレグフト・ウィンザードです」 ……何か、外見とのギャップが凄いな。いや、居住まいは正され、いかにも厳格そうな雰囲気を醸し出しているからこの言葉遣いでも違和感はない。無いんだけど、スリットの間から聞こえる声は恐らく女性だろう。高く澄んだ声が木霊してギャップが発生している。クロウリさんの時とは違ってくぐもらないのは何故だろう? と言う疑問はこの際横に退けておくとしよう。「どうも。冒険者やってます宇都宮卓海です」「クロウリ・アズサ。黒魔法使い」 俺とクロウリさんも自己紹介を簡単に済ませる。「えっと、レグフトさんは白騎士、なんですか?」「はい。ですが、まだ見習いです」「成程。あの、すみませんが白騎士とは一体どのようなものなんですか? ちょっと俺そこら辺の知識が疎くて」「そうでしたか。すみません、てっきり周知の事かと思い、説明を省いてしまいました」 とヘルムによって表情も分からず微動だにしないままレグフトさん気分を害した様子も見せずに語る。 白騎士とは、白属性に突出した才能を持つ者がなる騎士との事。本来なら、ある一つの属性に突出していれば魔法使いへの道が開かれる。が、それも魔力のランクがE以上だった場合だ。 魔力ランクがE未満で、どれだけ魔道具に魔力を流してからレベルアップしてもランクが上がらない者もいる。 そう言った者は魔法使いの道ではなく騎士の道へと進む者が多いそうだ。騎士は魔法に頼らず、培った様々な技巧を用いて魔物の討伐をしたり、罪人を取り締まったりしているそうだ。 また、騎士の中でも一つの属性に突出した者は属性騎士となり、赤騎士、青騎士、黄騎士、緑騎士、黒騎士、白騎士の六つに分類される。属性騎士になりえる素質があると己の愛剣にその突出した一つの属性を付加させる【赤剣】【青剣】【黄剣】【緑剣】【黒剣】【白剣】スキルを習得出来るらしい。 これらのスキルを発現出来るようになる為に既存の属性騎士から師事を受け、習得した時点で騎士見習いとなる。そこから様々な経験を経て、師事を受けた騎士からの推薦があれば属性騎士昇格の試験を受けられ、それに合格すれば晴れて属性騎士と名乗る事が出来るそうだ。 で、レグフトさんは白騎士見習い。つまり【白剣】スキルを発現出来ると言う事だ。白属性の攻撃はアンデッド相手にかなりの有効打となり、夜の湿地帯ではかなり有利に立ち回れる。足元や他の魔物を気にしなければ、の話だけどさ。 ここに来てアンデッド特攻のある人が仲間の募集を見て応募してくれるのはかなり有り難い。けど、どうしてレグフトさんは湿地帯に行きたいのだろうか? やっぱり白属性を操る騎士だからアンデッドは放っておけない性分とか? 率直に質問すると、意外な答えが返ってきた。「虫嫌いを克服する為です」 その答えに俺とクロウリさんは暫し沈黙。数秒後にクロウリさんが首を傾げながら尋ね返す。「虫嫌い?」「はい。お恥ずかしながら、私は虫が大の苦手でして……」 と、消え入りそうな声で呟くレグフトさん。「でも、騎士として活躍するなら、虫系統の魔物とも戦えるようにならないといけません。なので、虫嫌いを克服する為に、まだ大丈夫そうな形の虫系統の魔物がいる湿地帯で慣れようかと思いまして」 レグフトさんは弱々しながらも、決して挫けないぞという強い意思を籠めながら言葉を紡いだ。そうか、虫が嫌いか。俺は昔から虫は平気だし、夏はカブトムシとかセミとか捕まえに野山を駆け回ってたな。 あと、クロウリさんも虫は平気だそうだ。昨日の語り合いの時に知ったけど、最初は苦手だったけど魔法の触媒や魔法薬の材料に虫を使ったりするから怯えもしなくなった、とか。「ですので……あなた達のパーティーに応募したのは自分の苦手を克服する為なんです。大変身勝手な理由で申し訳ありません」 レグフトさんは微動だにしなかった姿勢を崩し、僅かに肩を落とすと俺達に頭を下げてくる。俺とクロウリさんは慌ててレグフトさんに顔を上げるように言う。「いやいや、そんな事無いですよ。俺が仲間募集したのだって、自分の武器の素材を手に入れたいからですし」「僕だって、アンデッドの素材を手に入れたいから仲間になった」 俺とクロウリさんは交互に語る。「俺達はいわば、互いの利益を得る為にパーティーを組んだんです」「一人じゃ無理でも、二人なら可能」「目的地は同じ湿地帯ですからね」「パーティーを組まない理由はない」「つまり、何が言いたいかと言うとですね」「そんな理由でもばっちおーけー」「そして、俺達にはレグフトさんが必要なんです」「アンデッド相手に白属性は有効。そしてその大剣による攻撃は強烈」「防御をこなせる人がいれば、クロウリさんの魔法詠唱がしやすくもなります」「だから」「パーティー組んで下さい」「お願い」 少し長くなったけど、結論は言えた。 レグフトさんは自分の苦手とする虫に慣れる為に頑張っているんだ。その意思を無碍にはしたくない。それに、何より一人で虫に相対するよりも仲間がいた方がいいだろう。そうすれば精神的にも余裕が出来る筈だ。 それに、レグフトさんが仲間になる事によってアンデッドに対する特攻を得られ、魔物の攻撃をその盾で防いだり受け流したりする事が出来る。そうなれば、アンデッドの素材やウィードタートルの甲羅集めが楽になると同時に、魔力と幸運以外難のあるクロウリさんへのフォローがしやすくなる。 以上の事から、俺とクロウリさんはレグフトさんのパーティー加入は大歓迎なのだ。「本当に、いいんですか?」「はい」「うん」「……では、今後ともよろしくお願いします」 俺とクロウリさんはレグフトさんと握手を交わす。これで三人パーティーとなった。 パーティー結成の記念と言う事で、一緒に食事をとる事となり、レグフトさんは一度鎧や武器を宿に置いてくると言ってギルドから出て行く。 俺とクロウリさんはギルドの喫茶コーナーのファミリー席に陣取り、お冷を飲んで冒険者カードでステータスを眺めながらレグフトさんを待つ。
『名前:宇都宮卓海 性別:男 年齢:十五
 レベル:15 体力:D+ 筋力:D+ 敏捷:C 耐久:E 魔力:F 幸運:C
 ポイント:99 習得可能スキル:【逃走Lv1】(消費ポイント10)【精神安定Lv1】(消費ポイント20)
 スキル:【卓球Lv1】【殴打Lv1】【斬撃Lv1】【精密向上Lv1】 魔法:なし 称号:【異世界からの流れ人】(隠蔽中)』
 俺のレベルは15まで伸び、新たにスキル【精神安定Lv1】が習得可能になっていた。
『名前:クロウリ・アズサ 性別:女 年齢:十六
 レベル:15 体力:E 筋力:E- 敏捷:F 耐久:E- 魔力:B+ 幸運:B-
 ポイント:54
 スキル:【詠唱省略Lv2】【魔力制御Lv2】 魔法:【黒魔法Lv5】【赤魔法Lv0(MAX)】【青魔法Lv0(MAX)】【黄魔法Lv0(MAX)】【緑魔法Lv0(MAX)】【白魔法Lv0(MAX)】 称号:【異世界人の血を引く者】【黒魔法使い】』
 クロウリさんもレベルが15になっていた。このまま順調にレベルが上がれば湿地帯での危険も減るな。「すみません、遅くなりました」 そうしているうちに、鎧を宿に置いてきたレグフトさんが戻ってきた。 鎧を外したレグフトさんは綺麗な白い髪をしていた。まるで青空に映える白い雲のようにきめ細やかで、鎧を着る際に邪魔にならないようにする為か肩付近で切り揃えられている。切れ長の目は知的な印象があり、収められた瞳の色は橙色だ。 服装はパンツルックで、シャツの上に薄手のカーディガンを羽織っている。まるでモデルさんみたいだな、と言うのが俺の第一印象だ。 正直、声を聴かなければレグフトさんだと気付かなかったと思う。因みに、クロウリさんの時は甲冑姿の時と同じ帽子、マント、杖を装備していたから気付く事が出来た。 僅かに頬を赤くして荒めの呼吸をしている所を見ると、どうやらレグフトさんは走って戻ってきたようだ。「いえ、そこまで待ってませんよ」「おつかれ」 俺とクロウリさんは冒険者カードを仕舞い、レグフトさんに座るように促す。 そして、メニューを開いて料理を選び、呼び鈴を鳴らして注文をする。 全員分の料理が運ばれ、俺達は改めて居住まいを正し、注文した飲み物(全員オレンジジュース)を掲げる。「えー、では。パーティー結成を祝いまして、かんぱーい」「「かんぱーい」」 乾杯の音頭を俺が述べ、俺達はグラスを鳴らす。 それから、談笑を交えての楽しい食事となった。

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