喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 クルルの横穴から引き揚げ、現在俺達は拠点にいる。 サクラとアケビは採掘したカコル鉱石を用いて耐氷性能のある防具を作る為に工房へと閉じ籠っている。フレニアも吹く火によって手伝う事が出来るので彼女等と一緒だ。 因みに、サクラとアケビの新たな召喚獣――ノームとゴーレムは現在俺達作成が出来ない組と一緒に外にいる。ノームの前はノージ。ゴーレムはゴゴゴとなった。 ノームの外見はまんま小さな人で、俺の膝丈までの身長しかない。真っ白いひげを蓄えて頭巾のようなとんがり帽子を被っている様はサンタクロースに見えなくもないが、サンタより恰幅はよくない。どちらかと言えばやや丸っとしてる感じか。 ゴーレムは煉瓦が積み重なったような奴だとか、岩の塊がくっついている奴だとか、色々と予想はしてみたが、俺の予想はどれも掠りもしなかった。 本当に岩で出来た人形だった。 見た目がもう人そのもので、岩を削って精巧に人に近付けた感じだ。関節部分には球状の駆動部位が備えられてるから、腕や足の動きは人以上に自由となっている。アケビが試しに全ての指の第一関節を扇風機の様にぶんぶん回すように命令した時は正直ホラーものだった。 あと、何やらゴーレムに限ってはメイキングが可能となっているらしい。自分の好みの体形、見た目の性別、顔、髪型に出来、更には武器や防具を持たせる事も出来るとか。 また、武器を装備させる事によってそれに対応したスキルアーツも使えるようになるらしい。ただし、使えるスキルアーツはゴーレムのレベルによって変動するらしいので、現在レベル1のゴーレムは武器を装備しても初級までのスキルアーツしか使用出来ない。 ゴーレムの弱点となる属性を防具に耐性として付加しておけば、弱点属性を突かれたとしてもダメージを減らす事も出来る。 色々とカスタマイズ出来るゴーレムは第二のアバターと呼んでも差支えが無いかもしれない。事実、命令しなければ戦闘中でも全く微動だにしないらしいし。 ゴーレムへの命令は普通に声を出せば行ってくれるそうだ。そして、レベルが上がるごとにより複雑な命令もこなすようになるのだとか。 本当、このSTOのNPCとかのAIって凄いよな。パートナーや召喚獣もまさに生きてるって感じがするし。召喚獣に至っては人と同じように喋ったりする奴もいる。会話する相手がいるならソロで活動していても寂しくはないよな。 で、俺達の所では人語を離す事が出来るのはノージ唯一人。他は話す事は出来ない。リーフィは話せそうな感じなんだけど未だに一度も声を発した事はないし、カゲミはあの試練の時は舌に脂が乗ったように饒舌だったのにここでは無口を貫いている。 人語を話す、話さないの基準が分からないな。人型じゃない四不象や動物の頭をした牛頭鬼と馬頭鬼は喋るのに……う~~ん、分からん。 まぁ、これに関しては考えても仕方がなので思考を切り替えよう。 俺は現在木に背中を預けてウィンドウを開き、グランドワイアームを倒した際に手に入れた装備品の説明を見ている。
『土岩蛇竜牙の耳飾り:グランドワイアームの力が籠められた装備。装備する事により特殊技【土岩蛇竜の牙撃】を使用する事が出来るようになる。(武器の装備不可) 耐久度――/―― ※レベル150以上で装備可能』
 改めて見ると、制限が結構……いや、かなりきつく感じる。 まず、装備可能になるにはレベルを150まで上げなければいけない。 俺のレベルは52。あと三倍くらいレベルを上げなければ装備する事が出来ず、現状ではこの耳飾りは倉庫の肥やしとなっている。 あと、これを装備すると武器が装備不可能になるらしい。これはこれで酷いものだ。いくら特殊技が使えるようになるからと言って、自分の獲物を没収されたのではたまった物ではない。 意表を突けるとしても戦力的には大幅な減衰を強いられるこれは所謂ハズレ装備に分類されるだろう。ハズレ扱いにならないのは、元から武器を用いずに戦う格闘家的なスタイルを貫いているプレイヤーだけか。 そうなると、サモイエローや姉貴は相性がいいな。サモイエローは徒手空拳で戦ってるし、姉貴は武器じゃなくて防具に分類される大盾でぶん殴ってるし。 無論、俺の場合は装備したら戦力減になる。【蹴術】は持っているが蹴りメインの戦いじゃなく、様々な調理器具を用いた戦法を取り扱っている。調理器具も一応武器と言うカテゴリになるので、【土岩蛇竜牙の耳飾り】を装備してしまったら調理器具による攻撃が出来なくなってしまう。 特殊技が使えるようになれば戦闘に幅を持たせる事が出来ると思って選んだのが裏目に出た。こうだと分かっていれば、俺も召喚具を入手していたんだがな。 まぁ、過ぎた事を悔いても仕方がない。これは取り敢えずインベトリの奥底に眠って貰う事にしよう。使う機会ないし、売るのも何か勿体ない気がするし。「みー」 と、俺がメニュー画面を見ているとルーネが袖を引っ張って来て石窯の方を指差す。 あぁ、そろそろ時間か。「おぅ、今行くよ」 俺はルーネを連れて石窯の方へと向かう。 サクラとアケビが耐氷性能のある武器を作っている間に、俺はカップケーキを作っている。 バターに砂糖、卵に小麦粉、それにベーキングパウダーが売っていたのでそれを合わせて混ぜ、それを縦四列横六列の窪みがある鉄製のカップケーキ焼きの容器にギザギザした紙のカップをセットし、そこに生地を注ぎ込んで石窯へと投入。焼けたら完成。 今回は生地に何も入れずに焼いてみた。ドライフルーツを入れたりチョコチップを入れたりもするが、何分初めて作るので下手に混ぜ込むのはやめた。 その代わりに、別途付け合せとして以前苺を砂糖で煮つめて作ったジャムにチョコソース、それに蜂蜜を用意して各々で好きな味付けに出来るようにした。 俺は石窯の扉を開き、カップケーキを一つ取り出して竹串を刺して中まで焼けているか確認する。抜いた竹串には生の生地が付着していなかったので、しっかりと中まで焼けているようだ。 俺は石窯の中にあるカップケーキ軍団を取り出す。
『プレーンカップケーキが出来た 収納しますか? はい いいえ           』
 カップケーキが出来ると何時ものウィンドウに新たな文面が追加されている。どうやら、先日のアップデートで変わったらしい。 以前までは出来たらそのまま光となって胸の中に消えていたけど、今度からはそれを任意で行えるようになったようだ。 俺は『いいえ』を選択し、焼き立てのカップケーキを机の上へと並べて行く。石窯の中にはカップケーキ焼きの容器が計四個。合計で九十六ものカップケーキがテーブルに並ぶ。 皆がわらわらとテーブルの回りへと集まって来る。涎を垂らさんばかりに口を開けたり、目を輝かせたりとしていて、いただきますをした瞬間に一気に群がりそうだな。 俺はサクラとアケビ、フレニアの分を予め取り分け、他の皆の分も平等に行き渡るように六個ずつ皿に取り分けて行く。 サクラとアケビ、フレニアには先に食べていると言ってあるので、問題はない。「じゃあ、食うか。いただきます」 俺の合図と共に、皆が一斉に手を伸ばしたり、がっつき始める。 俺も一つ手に取って一齧り。 うん、程よい甘さが口中に広がるな。何も入れないと優しい味わいになるな。 ジャムやチョコソース、蜂蜜をつけても旨い。それぞれに異なった旨さがあり、素朴で優しい味わいのカップケーキの味を壊さずに同調している。 ルーネとリーフィ、ソラ達カーバンクルは苺のジャムをつけたものが気に入ったみたいで、リーフィがスプーンを片手に苺ジャムを彼等のカップケーキに塗っていく。 グラゥにグリンはチョコソースが好みなようで、丁度チョコソースを手に持ったカゲミに催促して自分達のカップケーキに掛けてくれるように懇願していた。因みに、カゲミは俺と同じで色々な味を楽しんでいる。 残るゴゴゴ以外の他の皆は蜂蜜がお気に入りみたいだ。ノージが率先して他の皆のカップケーキに蜂蜜をかけて行っている。 で、ゴゴゴだけど、今更ながらゴーレムだから食べられないんじゃないか? と言う疑問が当然のように浮上してきた。 だが、それは杞憂に終わった。ゴゴゴは普通に口を開けてカップケーキをむしゃむしゃと咀嚼して呑み込んだのだ。どうやら、普通に飲み食いが出来るようだ。そしてゴゴゴは何もつけずにカップケーキだけの味が気に入ったみたいだ。表情は全くの無表情だけど、ジャムとかつけないでいるから、そう予想がつく。 全員が満足そうに食べ進め、自分達の分が全て亡くなった段階でサクラ達が拠点の岩から出て来た。どうやら、装備作りを終えたみたいだな。 という事は、漸く雪原へと行く事が出来るのか。 ツバキによれば、一面の銀世界で綺麗らしい。 今からでも、雪原へと行くのが少し楽しみだな。

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