喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

before 03

 時刻は正午を十五分ほど過ぎた頃。 皆、食堂へと行って席を取り合ったり、生協へと赴いて弁当やパンを買い漁ったりして午後の抗議やサークル活動の為に栄養を補給する大切な昼休みだ。 当然、俺もきちんと栄養を補給する。今日は適当に生姜と砂糖と醤油で味付けして焼いた玉ねぎと肉、人参をご飯の上に乗せた肉丼を弁当として持って来ており、それを頬張っている。
 昼を食べている場所は食堂だ。一緒に食べてるダチの一人が常に食堂のデザートメニューを食すので、頑張って席取り合戦に勝利した。弁当持参の俺がな。
「……なぁ」「何だ?」「何?」
 俺は一緒に昼を食っているダチ二人に質問を投げかける。
「お前等明後日締め切りのレポート終わらせたか?」「いや」「やってないよ」
 二人揃って首を横に振った。 大学生になって三年になったばかりの俺等だが、早くもレポートと言う名の課題を出された。しかも、期限は一週間ときたもんだ。時間的余裕は結構あったが、それでもこの二人はまだ手を付けていなかったらしい。 まぁ、この二人なら今日中には終わらせるんだろうけどな。
「んだよ、やってねぇのかよ」「そう言う友則とものりはどうなんだ?」
 ダチの一人である朝桐あさぎり刀祢とうやがあんみつを頬張りながら問うてくる。 こいつは外見的にスキンヘッドに眉無しでヤクザって感じの厳つい顔をしているし、二十歳とは思えない程に顔が老けてる。更には五年くらい前に不慮の事故(教室の窓ガラスがサッカーボールで割れた)で顔に切り傷を負ってしまったので怖さが倍増している。 そんな奴があんみつなんて幸せそうな顔して食ってるのはギャップがあり過ぎる。というか、似合わない。あんみつの隣りには既に空になったグラスが置かれているが、これは先程まではストロベリーパフェが乗っかっていた奴だ。
 こいつは昔から甘いものが大好きで、小学校中学校とデザートのおかわりには執念を燃やし、高校の頃は食堂のデザート一ヶ月無料パス目当てで学祭の女装コンテストにも出る程だ。因みに、コンテストはぶっちぎりの最下位だったけどな。 外見的に、肉とか貪っている方が似合っているのだがな。だが、こいつはそこまで肉が好きじゃない。どちらかと言えば魚の方が好きだったりする。
「俺? んなもん決まってんだろ」
 俺は刀祢の問いかけに、得意満面な笑顔を向ける。
「ウザいなその顔」
 刀祢にそう言われたが気にしない。
「どうせ吾大ごだいもやってないんでしょ?」
 と、もう一人のダチである筒地野つつじの浩太こうたがパックに入った牛乳をストローで飲み、スナック菓子を頬張りながらそんな事を言ってくる。 童顔で身長が百六十とちょっとしかない見た目から中学生と間違われそうだが、こいつは俺達と同じ年で既に二十歳だ。で、その外見もとい身長を今でも気にしているのか、毎日牛乳を飲んでいる。もう背ぇ伸びる事も無いのにな。
 因みに、食べているスナック菓子はここに来る前に生協で買っていたハバネロチップスだ。こいつは辛い物が好きで、カレーも激辛とか普通に食べる。牛乳で辛さを和らげている……と言う訳でもない。牛乳を飲まない時でも普通に辛いの食ってるしな。 刀祢と浩太。この二人と俺は小学校の頃からのダチだ。仲良くなった切っ掛けは特になかった筈だが、自然と会話するようになり、遊ぶようになって、つるむようになったと記憶している。 小学校からのダチが中学まで一緒なのはほぼ当たり前だが、高校、大学とまで同じ学校に進むのは稀だろう。
 まぁ、こればかりは本当に偶然だったんだよな。とは言っても、同じ学校に進んだ動機は全く同じだったんだけど。 理由は簡単で、家に近くて学費が安いから。 高校は公立で家から自転車で十分の距離。大学も国立でこれまた自転車で十五分の距離にある場所だ。 家から近く学費の安い学校に通いたいと言う執念の下、俺達はともに勉強して無事に合格したと言う訳だ。
「はっ、言うじゃねぇかよ浩太」
 俺は背もたれに軽く体重を乗せながら、浩太を鼻で笑う。
「俺はな……昨日終わらせたんだよ」「「何ぃ⁉」」
 俺の言葉に何故かダチ二人がテーブルをダンッと叩いて目を見開いて驚愕しやがった。
「そこまで驚く事かよ?」「当たり前だ。友則お前、今までこんな早くレポート終わらせた事無かっただろ」「それに、吾大は何時も僕と朝桐のレポートを写してたじゃないか」
 失礼な事を言う奴等だな。
「おい、流石に何時もじゃねぇだろ。半分くらいだろ」「半分でも多いと思うがな。レポート写メして送ってくれと深夜に電話をしてくるな」「してくるとしても、夜の九時とかそこくらいにしてよ」「その節はすまないと思っている」
 俺は深々と頭を下げて二人に謝る。 多分、いや、十中八九刀祢と浩太がいなかったら、俺は普通に必須科目の単位を落として留年していた事だろう。
「で、何かあったのか?」
 と、軽く息を吐いて刀祢はあんみつを食べる手を止めて俺に質問をしてくる。
「吾大は余程の事がないと、宿題とか手を付けないタイプでしょ?」
 浩太もハバネロチップスから手を離し、真っ直ぐと俺を見てくる。 やはり、こいつらは長年共にいたダチだ。俺のちょっとした行動で普段とは違うと看破してくる。
「あぁ、実はな……」
 二人は生唾を呑み込みながら、俺の言葉に耳を傾ける。
「昨日、おふくろが商店街のくじ引きで温泉旅行を当ててな。明日から家族と一緒に二泊三日温泉に行ってくる」「「あぁ、そうかい」」
 そして即行でとても淡泊な返しをしてきた。 まぁ、当然の反応だよな。レポートを早めに終わらせた理由が温泉に行くってんだからな。
「そうかそうか。家族との親睦を深めて来い」「お土産楽しみにしてるから。あ、温泉卵あったらそれで」
 何事も無かったかのように食事を再開する刀祢と浩太。
「そこで、お前達二人に頼みがある」「どうせ休んでる間の講義のノートとレジュメ、あとは課題を教えてくれって奴だろ?」「いいよいいよ。その分、お土産期待してるから。あ、温泉饅頭あったらそれもお願いね」
 やはり、俺の言いたい事は言わずとも理解してくれるか。流石は小学校時代からのダチだ。以心伝心とはこういう事を言うんだろうな。
「助かる。土産は任せろ」
 俺は二人に感謝の意を込め、頭を下げる。 それから食事を再開し、食べ終えて適当にだべり、そろそろ移動しないと次の講義に間に合わない時間になった所で俺達は食堂から出て講義室へと向かう。 その道すがら、一つ思い出して俺は刀祢と浩太の二人に伝える。
「あ、それと。DGは流石に持って行けねぇから。温泉から帰ってくるまでSTOにも入れねぇ」「「OKOK。その間は適当にレべリングでもしてるさ」」「すまんな。と言うか、別に先に進んでてもいいんだぞ?」「「それは無理だ」」
 俺がそんな事を言うと、二人はきっぱりと言い切った。
「と言うか、お前がいないとまずアングールに勝てる気がしない」「一人いないだけで結構厳しいからね。いくら火炎瓶で誘導出来るようになったとしても」
 自分で先に進んでいいと言っといて、二人の言葉にそれもそうかと納得する。 俺達は重装備に身を固めていて、動きが鈍い。故に、アングールが丸呑みをしてきたら持ち前の耐久で耐えると言う選択肢が取れずに即死というのを繰り返してきた。 なので、まだ北の森のボスに挑む事が出来ていない。
 幸い、この間のアップデートでアングールが熱に反応するようになったので、丸呑みしようとしてきたら火焔瓶で別方向に誘導出来るようになった。これにより、丸呑みによる被害を抑える事が出来る。 が、そう上手くは行かず、結局今もまだアングールを倒せていない。 そろそろ倒して北の森のボスであるフォレストワイアームに挑みたいものだ。
「と言う訳で、北の森攻略はお前が戻って来てからやるからな」「それまでは、なるべく楽に倒せるようにレべリングしてるよ」「了解」
 会話している間に講義室につき、俺達は適当に後ろの方の席に座る。 予鈴がなる少し前に教授が来て、予鈴が鳴ると同時に講義が始まる。 あ、帰ったら一度STOに入ってカギネズミと戯れるか。 そんな事を思いながら、俺は程よい満腹感によって生み出された眠気と戦いつつ教授の言葉に耳を傾ける。

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