喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

before 02

 次世代型ゲーム機、ドリームギア専用のゲームソフト『Summoner&Tamer Online』。略してサモテ。もしくはSTO。私はサモテの方が言いやすいからサモテと呼んでいる。 発売日になった瞬間にダウンロード購入し、そのまま朝までサモテの世界にのめり込もうとしたけど、残念な事に購入と同時に寝落ちしてしまった。 朝起きて、ご飯食べて、さぁ、いざやろうとしたら我が家の愛犬シロヨが産気づき、一家総出で世話をし、私達が見守る中で三匹の子犬を出産。その際に結構な出血をしてしまったシロヨを急いで動物病院へと連れていき、命に別状はないと診断されてほっと一息吐き、夕方頃に帰ってきて夕飯を食べてシャワーを浴び、疲れたからそのまま寝てしまった。 結局、サモテの世界に入り込めたのは発売日の翌日になってしまった。 サモテの世界に足を踏み入れれば、ほとんど現実と遜色のない光景が目の前に広がっていた。おー、凄い凄い! 流石はVR! 質感まで本物っぽい! っと、感動してる場合じゃなかった。「さてっと。あっるかなあるかなぁ?」 私はサモテでどうしても使ってみたい武器があるのだ。出来れば最初からそれを通して使って行きたいとも思ってる。なので、まずは街中のお店を片っ端から探し、該当の品があるか確かめに駆け出す。「……ここもないかぁ」 結局、お店を全部回ってみたけど、お目当ての武器はなかった。 そりゃ、マイナーすぎるからないのも当然か。 けど、そう思うと余計に使いたくなってくる。 取り敢えず、当面の武器として大太刀は購入したけどさ。やっぱりあれを使いたいよ。 う~~ん、どうするべきか……。「あ、なら他の人に頼んでみよう」 妙案が浮かんだ私は手をぽんと叩く。このサモテでは【鍛冶】や【木工】といった作成系のスキルも習得出来る。当然、それらを習得して道具屋を開いたり、武器を作ったりする人もいる。 そう言った人に作って貰うのが一番確実で自分の想像したものを振るう事が出来る。 そうと決まれば、と私は街中を駆けまわり、武器作成をメインにプレイしていそうな人を習得したスキルを活用して見付け出し、片っ端から声を掛けていく。 初対面と言う事と、スキルがまだ低いので自分にはまだ無理だと言う事で首を横に振られても私はめげずに声を掛けて行った。 そして、七人目で漸く首を縦に振ってくれた人が見付かった。 その人はサービス開始からまだ二日しか経っていないのに【中級鍛冶】までスキルを上げていて、私の要求した武器を作ってくれることになった。 その人は通常時はアーマーだけど【解放パージ】と言えばアーマーの一部が武器に変形する面白防具(武具?)を作成している最中なので、それが終わってからと言う事になった。その職人さんがアーマーを作っているうちに、私は武器に必要な素材を集める事にした。 私は武器の素材集めの為に大太刀を担いでクルル平原に出掛け、モンスターを狩りまくって素材を入手し売って製作資金を調達。倒してレベルを上げてSP溜めてステータス上げて、SL使って新しいスキルも習得した。狩っている最中に召喚獣が喚べるようになったりもして、その御蔭で効率よく狩りが出来るようになった。 あと、【採掘】のスキルも習得してクルルの横穴へと入り込んで鉱石を掘りまくった。掘ってる最中に出くわすスチアリはいい経験値稼ぎにもなったし、スチアリのドロップアイテムも武器に必要そうだったのでたんまりとゲットした。 で、手に入れた素材と必要資金をプレイヤーの職人さんへと渡し、待つ事一日。漸く念願の武器が手に入った。この武器も特別仕様で、鞘を必要とせず、私の装備の着物の裾にどういった原理か不明だけど仕舞う事が出来るようになっている。なので、移動中に邪魔にならないのだ。 私は特別な機能まで付けてくれた職人さんに礼を述べて早速平原に出て試し切りに行く。 手にフィットし、更に振り心地も抜群。そして切れ味も申し分なし。重さもいい具合に重い。 うんうん、いいねいいね。 私は上機嫌のまま平原から森へと進軍し、強敵と言われるアングールを一人で討伐。うん、かなり大きいし、攻撃力もそれなりに高かったと思うけど、私の敵じゃなかったな。動きが単調で読めやすかったし、大きい分こっちの攻撃当たりやすいし。 その後も北の森を進んで行き、何時の間にかドラゴン? ワイバーン? そんなのが待ち構えてる場所にまで来てしまい返り討ちにあってしまった。 最初の方は順調だったんだけど、ブレスを喰らえば、毒、混乱、麻痺の状態異常になって身動き取れず、あと状態異常の回復薬を全く持っていなかったので毒でじわじわと生命力が削られた。で、身動き取れなくなった隙を付かれ、木の根に貫かれて死に戻り。所持金が減ってデスペナを受けてシンセの街に戻ってきた。 まぁ、所持金に関しては製作費に全財産ぶっ込んでいてすっからかんだったから痛手は受けなかった。 デスペナ喰らってから五日くらい経った。その間森や横穴でレベル上げをして、時折PvPをして地力を上げていった。その甲斐あって、私は一人で森のドラゴン――フォレストワイアームを倒す事に成功した。その前に横穴へ行って、そこにいた巨大な蚯蚓っぽいグランドワイアームを倒して新たな召喚獣を仲間にした御蔭で戦闘しやすかった。 グランドワイアームは溶解液を飛ばしてくるのが面倒だったけど、動きはフォレストワイアームよりかなり遅く、攻撃は避けやすく、逆に私の攻撃は当て放題だった。切った感じ耐久はフォレストワイアームよりあったかもしれないけど、地面を這うグランドワイアームと空を飛ぶフォレストワイアームでは時間単位でのダメージ量が違う。 地上にいるだけで、特に潜りもしないのでこちらの攻撃は百発百中。どんどんとダメージを蓄積していけたし、時折魔法を使って来るけど土と火の攻撃魔法だけだったから避けるのも比較的楽だった。 なので、グランドワイアーム戦では死に戻りする事も無く一発でクリアしたのだ。 で、フォレストワイアームを倒した私は召喚具を選択して、直ぐ様雪原へと足を運……びはしなかった。何せ、雪原ではスリップダメージが発生するらしいから、耐氷の装備をしていないと直ぐに死に戻りするらしい。 なので、私は一度街に戻って共にモンスターを屠ってきた相棒を作ってくれた職人さんの所へと赴いて耐氷装備を作って貰う事にする。「あれ? 先輩?」 職人さんの所へ向かう為に街中を歩いてたら聞き慣れた声が聞こえたのでそちらに目を向けると、何と高校の後輩がいたではないか。 学年は一個違いで、所属してる部活も違うけど、練習場所が近いと言う事で面識があった。より親密になったのは練習場近くに出没する我らのアイドル野良にゃんこと戯れてるのを見付けて、私が声を掛けたのがきっかけだ。 その後は気さくに雑談したり、ちょっとした相談を持ちかけられたりする仲になった。「おーっ、何々? もしかしてサモテやってたの?」「はい。先輩は髪の色は変えたんですね」「うん、顔はそのままだけど、折角のゲームだから思い切って真っ白い髪にしてみた」「そうですか。御世辞抜きに綺麗で似合ってますよ。私は流石にちょっと抵抗があったので」「いいんじゃない? その髪の方が似合ってるし」「ありがとうございます」 と、後輩と雑談を繰り広げていると近くの店から男の子が出て来てこちらに来る。男の子の隣りには球根みたいでプリティーなパートナーモンスターがぴょんぴょん飛び跳ねながら移動している。何あれ可愛いんですけど?「あれ? そちらさん知り合い?」「しー?」 侍のような格好をした男の子の顔は見た事ある。何回かタブフォに入ってる写真を見た事がある。ははぁん、成程ねぇ。と私は表情には出さずに内心でにまにまと笑顔を浮かべる。「うん。私の高校の先輩。名前は」「上名かみな明澄あずみでーす。ここでの名前はカンナギ。楓の一個上だよー。って、楓はネームどうしてんの?」「そのままカエデです」「なーる」 そっか、名前をそのままプレイヤーネームにしたんだ。まぁ、あんまり凝った名前にするよりもいいよね。下手すると現実世界で混乱しそうだし。「あ、そうなんですか。と言うか、あなたがあの有名なカンナギだったんですか。俺はツバキって言います。こいつはパートナーのリトシーで名前はリークです」「しー」 男の子――ツバキは手を出して握手を求めてくる。やっぱりこの子がツバキか。毎度カエデから惚気話を訊かされてるからねぇ。この幸せもんがっ。 私はそんな事をおくびにも出さずに握手を交わし、リークとも握手(葉っぱの部分を握ったけど)をした。 いやぁ、まさかサモテで後輩とその思い人と出逢うとは夢にも思わなかったなぁ。こうなるんだったら事前に訊いてみてもよかったかもしれない。そうすれば一緒にパーティー組んで冒険出来ただろうに。そう考えると少しばかり残念に思うな。「あの、先輩。もしよかったら私達とパーティー組みませんか?」「ほえ?」 何て思っていると、カエデからまさかのパーティー勧誘が来たではないか。え? マジすか?「今、私とツバキでパーティー組んでるんですけど、ちょっと攻撃力不足で、雪原エリアでの攻略が上手い具合に進んでいないんですよ」「そうなの? 私はソロだから別にいいけど、ツバキの意見は訊かなくていいの?」「あ、俺は大丈夫です。上名木先輩……カンナギ先輩は剣道かなり凄いってカエデから訊いてるし、PvPではあのリースと互角だって掲示板に書かれていたので戦力アップ間違い無しですし」「結構現金なんだね」 まぁ、私としてはズバッと言ってのけるツバキには好感を持てる。変に遠慮するよりも数倍マシだしね。「リークもいいよな?」「しー」 ツバキの相棒リークも私がパーティーに加入する事に反対ではないようだ。 だったら、組もうかな? 一人よりも複数人で冒険した方が楽しいだろうし。「じゃあ、パーティー組んじゃう?」「はい、よろしくお願いします」「お願いします」「しー」 と、カエデとツバキ、リークは頭を下げてくる。 うん、何かなー。「あー、何か個人的な事なんだけどさ」「はい?」「何ですか?」「敬語止めない? だってここは現実世界じゃなくてゲームの中なんだよ? 流石にここでも先輩後輩の関係にはなりたくないな。パーティー組んだんだからお互いに対等な関係で行こうよ? いい?」 流石にこう敬語でずっと接せられると逆にこっちが遠慮しちゃうし、カエデ達も変に遠慮するような事があるかもしれない。 折角のゲームなんだし、お互いに楽しむのが第一だと私は思うんだよ。だから敬語はやめで、互いにラフに接すれば自ずと緊張も発生しないし自然体でいられると思うんだ。「えっと、分かりました……分かったわ」「オッケー」「しー」 カエデはちょっと抵抗があったけど、頷いてくれた。ツバキは順応早いな。まぁ、それはいい事だと思うぜ。「よっし、じゃあ改めてよろしくね」「はい」「おぅ」「しー」 こうして、私達はパーティーを結成した。「そう言えば、掲示板に書かれてたけど、カンナギの武器って確か大太刀だったよな?」「ノンノン。私の武器は大太刀じゃないよ」「「え?」」 私は着物の裾から相棒の柄を握り、一気に取り出して高く掲げる。「これは鯨包丁さっ!」 ネットの海を彷徨ってる時に偶然鯨包丁の画像を見付けてこれすっごい格好いいんですけど⁉ ってテンションあがって、これで試し切りしてみたいなぁと思ってたんだよね。 で、サモテだと結構自由に何でも出来ると謳われてた。だから、鯨包丁あるんじゃね? ってなんてやり始めたんですよこれが。 で、念願叶って鯨包丁を扱えている私は満足していますよ。えぇ、サティスファクションしていますとも。 そう高らかに発言したら、何故か二人共目をパチクリさせた。 私、何か可笑しい事言ったかな?

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品