喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 パートナーと召喚獣のニックネームを付け終わり、俺はメニューを開く。そしてステータス画面でそれぞれの項目を選択。 ここでニックネームを入力出来るので早速入力。これで回復アイテムを使う際に種族名ではなくニックネームで表示されるようになる。「さて、他は付け終わったのか?」 全員を引き連れ、石窯の所で暫し待つ。すると、ツバキ、アケビ、サクラの順に俺の方へと来た。 それぞれニックネームを付け終わり、どのようなのにしたか紹介をする。「パルミーはルーネ、スビティーはビーア、ドッペルゲンガーはカゲミ、メリアスはリーフィ、カーバンクルはソラだ」「こいつの毛並みが空っぽいからスカイだ」「キマイラはグラゥ。グリフォンはグリン。カーバンクルはレイ」「えと、フレニアはファフィーで、カーバンクルはコウです」 改めての紹介も終わり、一息吐こうと言う事になって菓子を作り始める。 今回はシンセの街で買ったドライフルーツを混ぜ込んだクッキーを作る。サクラとアケビも大分慣れて来ていて、手際よく事が進んで行く。 俺達とカゲミ、リーフィがクッキーを作っている間、ファフィーが石窯に火を吹き入れ、他の連中は段々と重なって動物タワーを作ったり、かーごめかごめをしたりして時間を潰す。因みにサクラの卵は生地を作っている間は傍らに置いている。多分、クッキーが出来たらいい具合に孵化するんじゃないだろうか? 作り終えた生地を型で抜いて、石窯に放り込み、しっかりと焼いて完成。
『ドライフルーツクッキーが出来たっ!』
 出来ると同時に、何時ものように光となって胸の中に消えたので直ぐ様取り出し、綺麗にした調理台の上に置き、皆で食べ始める。「あっ」 クッキーを食べながら談笑していると、サクラが抱えているパートナーの卵にヒビが入った。 ヒビは徐々に広がって行き、卵も左右に動き始める。そして、ヒビの間から光が迸り、思わず目を閉じる。「……るぅ」 光が弱まり、目を開けるとサクラの腕の中には眠たそうに目を閉じている土竜がいた。焦げ茶色の毛は艶があり、三対の長い髭、両手足の爪は鉛筆のように太いけど先は丸い。大きさは二頭身でルーネと同じくらいだな。「……るぅ」 大きな欠伸をすると、少しぐずってサクラへと寄り添い、安心したのか寝息を立て始める。サクラはそんな土竜の頭から背中にかけて優しく撫でる。「あ、寝た。サクラちゃん、少し触ってもいい?」「はい、いいですよ」 アケビはサクラの許可を取ってから土竜の頭を指先で軽くつつき、爪を触る。「意外に柔らかい」「あ、確かに」 アケビに言われてサクラも触る。気になったので俺とツバキも触ってみると、確かに柔らかい。未使用の食器洗いのスポンジくらいか?「で、この土竜の種族名は?」「……モールンだそうです」 土竜だからモールン、か。にしても、生まれて直ぐに寝るのか。もしかして夜行性とか? 土の中なら結構素早く動けたり出来る筈だよな。 ……土竜、かぁ。土竜と言えば、モリュグ族の村に姉貴と一緒に行ったきりだったよな。 雪原に行くなら耐氷の装備を持ってないとスリップダメージが酷いんだったな。ノリュリュ村があるクルルの横穴で耐氷装備に必要な【カコル鉱石】を採掘しとかないといけない。 となると、次は鉱石を集めるのを優先した方がいいな。ついでにボスとも戦っておいた方がいいだろう。「で、こいつのニックネームはどうすんだ?」 サクラの胸の中で眠るモールンを見ながら、ツバキが一言。「そう、ですね……」 と、サクラはツバキから顔を少し背けながら考え始める。流石にどんなモンスターが生まれるか分からなかったからさっきの時間には考えなかったみたいだな。「………………」 難しい顔で悩み、考え続けるサクラ。「いや、無理して今決めなくてもいいんだからな?」 流石に生まれて直ぐのパートナーにニックネームをつけるのは大変だろう。まだモールンがどんな奴なのか分からないんだし。「でも、そうなるとこの子だけニックネームが無いままで」 サクラは少し辛そうな表情をしながらモールンの頭を撫でる。確かに、このままだとモールンだけ種族名だけで呼ばれ、他の皆はニックネームで呼ばれる。それだけで新密度的な意味で結構な差がついてしまう。「……………………」 悩み悩み、かれこれ十分経過した。その間、俺達は全員サクラとモールンに視線を向けていた。「……あ」 そして、声を上げる。「すみません。今日はもう帰ります」 サクラの口から出たのはモールンのニックネームはなく、ログアウトの宣言だった。「もう?」 アケビが首を傾げながら尋ねる。俺も今の時間を確認すると、もう直ぐ午後三時になると言う所だ。何時もは五時とか六時にログアウトなので、確かに早いな。「今日、ちょっと急な予定が入ってしまって。その事を言うの忘れてました……」 申し訳なさそうにサクラは俺達に頭を下げる。「いやいや、別に気にしなくていいから」「そうそう」 俺は首を横に振り、アケビは手を横に振る。「すみません。では、また」 そう言い残して、サクラはモールンをアケビに手渡しログアウトしていった。「さて、と。どうする?」「う~~ん」 俺とアケビは首を捻る。もし、サクラがいたなら横穴に行って鉱石を掘ろうと提案したんだけどな。まだ二人は【ノリュリュ村の通行証】を持ってないから、直接行く事が出来ないし。 はてさて、どうしたものか……。「ん? あ、ちょいと失礼」 そんな時、ツバキにボイスチャットが届いた。ツバキは俺達に一言断りを入れて、少し離れる。「……おぅ。…………ちょい待ち。訊いてみてから掛け直すわ」 ツバキはボイスチャットを終えて、俺達の方へと駆け足で来る。「なぁ、ちょっといいか?」「何だ?」「今、姉ちゃんからボイチャ来たんだけどよ」 今のボイスチャット、ローズからだったのか。「姉ちゃん?」「あぁ、そう言えばアケビは知らなかったっけな」 パーティーでは俺以外にローズと会った事のあるのはいなかった。「ツバキの姉貴も、STOやってんだよ。名前はローズ」「そうなんだ」「で、ローズから何だって?」 俺はツバキに訊き直す。「いやさ、団長がお前等の拠点に行きたいって言ってんだって」「団長?」「機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツの団長」「???」 意味が分からないと言わんばかりに首を傾げるアケビ。あぁ、そう言えばその事も俺以外知らなかったなぁ。「ローズは機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツのメンバーなんだよ」「そうなんだ。でも、どうして団長? が私達の拠点に来たいの?」「ほら、前に俺がここに連れて来たモミジちゃん。覚えてる?」「うん」「その子が、機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツの団長」「…………へ?」「俺も知ったのはモミジちゃんと別れて次の日だったからな。知らないのも無理ない」 伝え忘れたってのもあるけど。 そんな衝撃の真実を告げられたアケビは目をパチクリさせる。「……そうだったんだ」「そうだったんだよ」 アケビは以前ここで遊んだ時のモミジちゃんの機動力を思い出し、納得したようだ。「で、モミジちゃんが俺達に逢いたいって理由は?」「また一緒に遊びたいんだと」 成程。そう言えば、あれっきり会ってないもんな。……まぁ、個人的に機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツに出遭わないようにしてたってのが一番の理由なんだけどな。「で、どうなんだ? OK? それともNO?」「私はいいよ」 ツバキの問い掛けにアケビは頷く。「俺もいいが、確認……と言うか、条件付きだ」「条件付き?」「あぁ」 俺の言葉に、ツバキは怪訝そうに眉を寄せる。「条件ってのは?」「逢うのはモミジちゃんとローズだけ」 以前遭遇した副団長のハイドラ。あいつはちょっと以上に苦手だ。酒が入っていなければ絡んでこないかもしれないが、そんな保証は何処にもない。そして、他のメンバーも、言っては何だがハイドラと同じような輩かもしれないと、以前のハイドラの一方的な会話で予想している。 なので、こんな条件を出してみた。「あぁ、それなら大丈夫だろ。今日は姉ちゃんと団長しかいねぇみてぇだし」 あ、よかった。最初から二人しかいないのか。なら、安心だな。「じゃあ、OKって事でいいか?」「あぁ」 俺も了承すると、ツバキはローズにボイスチャットを飛ばす。「あ、姉ちゃん? いいってよ。……今? オウカん所の拠点にいる。……分かった。じゃあ、また後でな」 ボイスチャットを終え、ツバキは俺の方を向く。「で、悪いんだけどオウカ。二人迎えに行ってくれね? 今オフクス族の山村の茶屋にいるんだと」「分かった。じゃあ、行ってくる」 俺は拠点から出て、オフクス族の山村へと向かう。 オフクス族の山村では、前回来た時と同様に狐耳の住人が行き交ってる。俺はモミジちゃん達が待つ茶屋へと向けて一歩踏み出す。 ……って、茶屋って何処だ?

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