喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 二人の怪盗。マントをしておらず、仮面で顔を完全に隠している怪盗と、マントをして、口元だけ露出するように欠けた仮面を被る怪盗。 欠けた仮面を被る怪盗はマントを翻し身を隠す。すると、その場から忽然と姿を消したではないか。「よっと」「っ⁉」 突如、怪盗の横に現れ【カーバンクルの宝珠】をひったくる。そして直ぐに跳び退って距離を開ける。 へらへらと笑い、手の中で宝珠を弄ぶ欠けた仮面の怪盗。「…………」「何だよ? カーバンクルがいなくなれば、お前だってこんなの簡単に手に入るだろ?」 欠けた仮面の怪盗はわざわざ怪盗に見せるように指先に乗せ、肩を竦めながら問い掛けるが、怪盗は首を横に振る。「……それじゃ、意味がないよ」「意味がない、ねぇ。……やっぱ、俺とお前さんは相いれねぇな。目的自体が違う」 軽く息を吐くと、指先で弾き、軽く宙を回せてから別の手でキャッチする。「お前は」「あん?」「お前は誰だよ?」 警戒をしながら、ツバキは欠けた仮面の怪盗に問い掛ける。「俺か? くっくっくっ……そいつと同じ、怪盗って言やいいか?」 すると、肩で笑いながら親指で怪盗を指差し、そう答える欠けた仮面の怪盗。「からかってる?」「からかってねぇさ」 眉根を寄せたアケビに対しても尚、笑うのを止めようとしない。「実際、俺はそこの怪盗さんを模してんだからよ。怪盗で間違いねぇだろ」 嘲るように、怪盗に目をやり肩を竦める。 模してる。つまり、自分から怪盗ドッペンの偽者と宣言してるぞ、こいつ。「たぁだぁし、怪盗っつっても俺はそこらのガラクタなんかにゃ一切興味ねぇ」 怪盗の偽者は首をぐるりと回し、怪盗が並べ直した展示品を一瞥して鼻を鳴らす。「俺が興味あんのはこれだけだ」 手で弄んでいる【カーバンクルの宝珠】をシャンデリアの光に当てるように掲げ、偽者は僅かに口角を上げる。「召喚獣を喚び出す為の依代、召喚具……それ以外はどうでもいい」「何で召喚具を狙う?」「簡単な話さ」 偽者はまたマントを翻し、身体を隠す。するとまた姿が掻き消える。「力を得る為だよ」 上から声が聞こえたので、見上げれば今度はシャンデリアに片手だけでぶら下がっているのが確認出来た。空いた手には、きちんと【カーバンクルの宝珠】が握られている。「古代の時代に生きた伝説の存在。その力を自在に操る事が出来ればまさに百人力だ」 ドリットが飛び、偽者に音波を浴びせようとするが、それよりも速く偽者は自ら手を離して落下する。 その際にまたマントを翻して姿を消し、展示品の上に現れる。「でも、だったらどうして暴走なんてさせるの?」「言っただろ? 自在に操る事が出来ればって」 腑に落ちないって表情をするアケビ。偽者は首を軽く振りながら肩を竦める。「喚び出しても時が経てば還ってしまう。そして、幾分が間を置かなければ喚び出せない。ここのように封印陣が敷かれていれば喚び出す事自体が出来ない。それじゃあ、意味がないんだよ。何時何時いつなんどき、時も場所も気にせず力を振るえなければ意味がない」 追跡していたドリットが偽者に音波を放つ。しかし、偽者は跳んで躱し、ドリットに踵落としを喰らわせる。先の怪我の影響か、それとも単純に偽者が早かったからか、ドリットは避ける事が出来ず延髄に直撃を受けてしまう。「ドリット!」 怪盗は慌てて墜落したドリットへと駆け出す。ドリットは白目を剥き、気を失ってしまっている。 少し離れた場所に音も無く着地した偽者はドリットに目もくれず懐から何かを取り出す。「これ、何だか分かるか?」 偽者が取り出したもの。俺はそれを見た事がある。正確には、それに似たものだが。 赤、青、水色、黄色、黄緑、緑、茶、黒、白、灰色と十色もの光が辺に沿うような形で巡りめくっている。まるでセイリー族の集落にある【妖精の十晶石】みたいだが、五角形を二つ合わせたような形じゃなく、五芒星を適当に二つ重ねたような形をしてる。「これは召喚獣の力だけを奪い取るものさ」 力を奪い取る? そんな事が出来るのか? ……いや、可能性はあるか。あのイベントでは【十晶石の幻片】や【十晶石の幻塊】が本元の力を奪っていた。なら、召喚獣の力を奪う事も不可能じゃない。「もっとも、万全な状態の召喚獣相手じゃ力を奪い取れねぇけどな。だから、力を奪い取れるぐらいに弱らせねぇといけねぇんだよ」 歪んだ笑みで語る偽者。「まぁ、力奪い取ったら召喚獣は消えちまうらしんだけどなぁ」 こいつ、その為に召喚獣を暴走させたのか。存在そのものが消失するかもしれない状態に陥らせて、そして実際に消滅させてまで召喚獣の力が欲しいのか?「もっとも、本当かどうかは知らねぇけどよ。何せ、今回も失敗に終わったからな。今回はお前さん達と、怪盗さんにな」 どうやら、偽者は以前も召喚獣の力を奪おうとしたらしい。だが、全て防がれていたようだ。「ほんっと、怪盗さんはしつこいよ」 うんざり、とばかりに重い息を吐く偽者。話からすると、過去は怪盗の手によって妨害されたみたいだな。 一体、この偽者と怪盗の因縁は何時からあるのだろうか?「【破魔の朱水晶】も今は手元にないからなぁ。このままとんずらこかせて貰うとするよ」 軽い調子で【カーバンクルの宝珠】と召喚獣の力を奪い取る道具を懐にしまうと、マントを翻してまた姿を消そうとする。「させると思うかい?」 しかし、それよりも速く怪盗が駆けつけ、マントを剥ぎ取る。消える為にはマントが必要らしく、偽者はその間に留まったままだ。 マントを剥ぎ取った怪盗に首を向け、偽者は得物を前にした野獣のような笑みを浮かべる。「だぁよぉなぁ! お前さんは俺を敵視してるからなぁ! 今回も逃がさないってかぁ!」 偽者は蹴りを怪盗に放つが、怪盗は華麗にバックステップを繰り出して回避する。 次に怪盗が拳を放つが、偽者はそれを避けずに真正面から掴む。怪盗はそれでも間髪入れずに様蹴りを放つが、それすらも足首を掴まれて止められてしまう。「ふっ!」 偽者は怪盗を宙へと放り投げる。人を軽々と放り投げられる怪力かよ。 ただ、驚くのはそれだけじゃなかった。「おらぁ!」 偽者はそのまま跳び上がり、怪盗へと蹴りを入れる。ただの蹴りじゃない。【中級蹴術】のスキルアーツ、【流星脚】だ。「がはっ⁉」 怪盗は直撃を貰い、そのまま地面に叩きつけられる。 ……可笑しい。今この場は封印陣が復活しているからスキルアーツは使えない筈。なのに、偽者は普通に使ってきた。 封印陣が機能してない訳じゃない。きちんと機能しているから、暴走してたカーバンクルはきちんと還ったんだ。 だとしたら、偽者は【破魔の朱水晶】以外に封印陣を無効化する何かを持っていると見た方がいいか? こいつと戦うとなると、こちらは魔法とスキルアーツが使えないから苦戦を強いられるかもしれないな。「さぁて、お前さん達も俺の行く手を阻むのかなぁ?」 怪盗の身体から足を離し、俺達に顔を向ける怪盗。 俺達は顔を見合わせる事無く、各々の武器を構える。 スビティーとフレニアも目を怒らせて偽者を睨みつける。 クエスト関係なく、こんな身勝手な奴は見過ごせない。 カーバンクルを助ける為に、こいつをぶっ倒す。「くっくっくっ……はぁーっはっはっは!」 臨戦態勢を取った俺達を見て、何が可笑しいのか偽者は笑い声を上げる。「……なぁらぁ、全員返り討ちにしてやるよぉ!」 醜悪な笑みを浮かべ、偽者は俺達へと向けて駆け出す。

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