喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

143

「いやはや、参ったね。僕は足に自信があったんだけど」「…………」 スタン状態から回復して、俺は立ち上がって怪盗の上から退ける。怪盗は埃を払いながら立ち上がって朗らかに自身の負けを認める。「約束通り、この宝珠は返すよ。悪いけど、君達が博物館に返しておいてくれないかい?」 そして、懐に入れてあったらしいカーバンクルの宝珠取り出し、俺へと渡す。「随分とあっさり渡すんだな」「僕は約束は絶対に守る主義だからね」 胸を張りながら宣言する怪盗。それも怪盗としてのポリシーか? 今の所判明してるのは手出ししてない輩には攻撃を加えない、そして約束は絶対に守る。これらの理由がリース曰くクエスト中に分かるらしいが、もう次で最後なんだが。最後に一気に怪盗の方から暴露話でも持ちかけて来るのか?「では、もう僕はおさらばするとしよう。流石に連行される気はないんでね」 と、怪盗は軽く伸びをしながら視線を上に向ける。「いい刺激をありがとう。では、また機会があれば会おう」 そう言って怪盗は降りてきたドリットの脚に捕まって、そのまま上空へと消えて行った。
『クエストをクリアしました』
 そして、クエスト達成を伝える旨のメッセージが現れる。 ……偶然落ちた先に怪盗がいただけだから、達成感が無いんだけど。何だ? 俺は怪盗のクエストクリアに関しては釈然としなくなる運命にあるのか? とか思いながらサクラ達と合流。互いにお疲れ様と言ってそそくさと博物館へと向かい、宝珠を返す。その際に館長から大袈裟に礼を言われた。 で、次に役場に行ってクエスト達成の旨のを伝え、最後となる怪盗ドッペンのチェインクエストへと進める。
『怪盗からの#####(チェインクエスト)』
『怪盗からの#####:##### 達成条件:##### 報酬:6000ネル                    』
 最後のチェインクエスト【怪盗からの#####】はクエスト名、内容と達成条件がバグって何が何だか分からなくなっている。 が、どうやらこれは最初からそういう仕様らしい。カエデとカンナギが受けた時もこんな表示だったそうだ。 因みに。ツバキはウィキでこのクエストの攻略法を調べていない。理由は楓とカンナギにかなり強く止められたかららしい。「ウィキに頼り切りにしない方が、楽しめると思うよ」「ネタ晴らしを見たら面白みも臨場感も掛けるさね」 とか何とか言われて。サクラもアケビもウィキを閲覧してないので、四人揃って初見である。ただ、ツバキ曰くこのクエストはカエデはシェイプシフターを、カンナギは持ち前の身体能力を活用してクリアしたらしい。 ツバキは攻略法を訊いたと言っていたが、それは【怪盗からの再挑戦状】だけで、【怪盗からの#####】は訊いても答えてくれなかったそうだ。 …………というか、だ。 ウィキ見ない方が楽しめるってのは、まぁ分かる。俺だって物語性のあるものは自分の目でしかと見たり、自分の耳でしかと訊いたりして進めていきたい。 だけどさ、このクエストは何処に行けば発生するんだよ? さっきやった【怪盗からの再挑戦状】もシンセの街としか書かれていなかったから始め何処で開始するのか分からなかった。多分博物館だろうと行ってみれば運よく開始で来たって感じだ。 で、今回は何処で開始されるのかもさっぱり分からないし、クエスト名も半分意図的にバグ表示されてるから開始場所の予測が全然出来ない。このシンセの街なのか、クルルの森なのか、クルルの横穴なのか。流石に先のアップデートで追加されたキリリ山ではないだろうが、攻めて開始場所くらいは明記するようにしろよSTO開発運営。「……何処でクエスト始められるか二人に訊いとけばよかったな」 と、流石にツバキも少し顔を引き攣らせながら頭を掻く。因みに、カエデは今日部活に行っている為に連絡不可。カンナギも今日はDG付近にはいないとの事。つまり、クエストクリアした「何でこんな表示なんでしょう?」「勿体ぶり?」「勿体ぶり、ですか」「こう……焦らしに焦らす的な?」 サクラとアケビはクエストのバグ表示についての疑問を口々に言っている。「びー?」「れにー?」 スビティーもフレニアも首を傾げているが、文字読めるのか? ……そうだな。今日、ログアウトしたらその事姉貴にメールしてみるか? お客様相談室とかそんな所に繋ぐよりもダイレクトに伝えてくれると思う。ただ、姉貴の意見が反映されるかと訊かれればそうとは言い切れないんだよな。まぁ、やらないよりは数倍マシ、だ。
『以下のクエストを受けますか? ・怪盗からの##### はい いいえ            』
 兎にも角にも、まずはクエストを受諾しないと始まらないので俺達は【怪盗からの#####】を受ける。「まず、何処調べる?」「また博物館でも行ってみるか?」 ツバキの問いに俺は軽く首を捻りながら答える。今の所怪盗ドッペンのクエストは全て博物館から始まってる。それを考慮すれば、今度も博物館から始まる可能性が高い。「私も博物館に行った方がいいと思う」「僕もです、ね」 アケビとサクラの両名も俺と同意見のようだ。「なら、博物館行くか」 目的地も決まり、いざ行かん博物館へ。 と言う所で、急にツバキは立ち止まる。「っと、その前に一度拠点に戻ってメンバーチェンジでもした方がいいか?」 ツバキは手を叩いて尋ねてくる。 この場合、該当するのは俺とツバキだけ。【テイマー】から【サモナー】に変えるか。俺の場合はパートナーを変えるかって選択もある。「別に大丈夫じゃないか? まずはこのメンバーで行って様子見で」 このチェインクエストは失敗しても何度も挑戦が可能だから、一回目は様子見って感じでいいと思う。「それもそうだな」 と言う訳で、今度こそ博物館を目指す。「そう言えば、怪盗が綺麗なフェイントしたって言ってたが、どんなのだ?」 役場の出口へと向かいながら、俺はふと思った事を三人に投げ掛ける。あの時俺はドリットの相手をしていたからどんなフェイントをしたのか分からないんだよな。「あぁ、それはですね」 と言いながらサクラが役場出口の扉に手を掛ける。
『怪盗からの#####を開始しますか? はい いいえ               』
 そうしたら、まさかのウィンドウが出現した。「え?」 突然の事で意識が怪盗のフェイントからウィンドウに集中する。「早くないか?」「まぁ、有り得なくはないけど……」 ツバキとアケビも困惑している。 俺もまさかここでクエスト開始を訊かれるとは思わなかったが、闇雲に捜すよりは断然マシだな。「開始場所を探す手間と、そこに向かう手間が無くなってよかったと思えばいいんじゃないか?」「そう……だな」「そうね。じゃあ、サクラちゃん。早速『はい』をタップしてくれる?」「あ、はい。分かりました」 サクラは『はい』をタップしてウィンドウを消す。「…………」「…………」「…………」「…………」 が、何も変わりない。役場の中はさっきと同じだし、試しにドアノブに触れても勝手に開いて怪盗が入って来る事も無い。「取り敢えず、外に出てみっか?」「そうだな」 ドアを開いて、役場の外へと出る俺達。 ドォォォォン‼ と同時に、何やら物騒な音が鼓膜に響く。「きゃっ⁉」「な、何?」 音のする方へと目を向ければ、黒い煙が上がっている。「火事か?」「分かんねぇけど、行ってみた方がよさそうだな」 煙の上がる方へと俺達は駆け出す。 街には人っ子一人いない。さっき怪盗を追い掛けた時と同じだ。 で、煙の下へと近付くと、それは博物館から上がっているのが分かった。「……つっ」 そして、博物館から投げ出されたかように怪盗ドッペンが横たわっていた。ドリッドもマント状態にはなっておらず、扉の下敷きになりながら怪盗の横に倒れ伏している。 あの扉って、あそこの出入り口の奴だよな? 二つある出入り口のうちの一つ、扉が無くなってるし。 博物館の警備の人に吹っ飛ばされた……訳じゃなさそうだな。もしそうなら、今にもぞろぞろと館内から出て来るだろうし、そもそも博物館から煙が上がるとは思えない。「おい、どうしたんだ?」「……あぁ、君達か」 駆け寄ると、かなりぼろぼろなのが見て取れる。服は所々擦り切れたり、燃えたような痕があり、垣間見える皮膚にも深い切り傷が刻まれている。 怪盗は両腕を付きながらも必死に身体を起こし、ドリットの方へと向かい、扉を除けようとする。しかし、今の怪盗一人ではどうする事も出来ず扉はビクともしない。 咄嗟に俺は怪盗の下へと駆け寄り、一緒になって扉を除けようと持ち上げる。扉は結構重く俺が一緒になっても退ける事が出来ない。が、俺と同じように駆け寄ったサクラ達と一緒になって退かす事が出来た。「キ~……」 扉の下敷きになっていたドリットも決して浅く無い傷を負っており、目を回して気絶していた。「御免よ。僕が避けられなかったばかりに」 直ぐ様怪盗が【生命薬】で救出したドリットの傷を癒す。どうやらドリットは怪盗を庇ったらしい。「……すまないね。恩に着るよ」「気にするな。それより、どうしたんだ?」 怪盗がここまで手傷を負うとは思えなかったので、率直に訊いてみる。「……ちょっと、君達に頼みがあるんだけど、訊いてくれるかい?」「頼み?」 怪盗は俺達を改めて順に一瞥し、頭を下げる。「あぁ。…………召喚獣の暴走を止めるのを、手伝って欲しい」


「喚んで、育てて、冒険しよう。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く