喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 フチの家に着き、フチが用意している間に俺達も許可を得て台所を借りて料理を始める。丁度いい機会なので、フチへの料理だ。 セイリー族の好物はトレンキの葉や花弁との事なので、それらを使ってみる。花弁はこの間偶然一つ手に入れた。説明文からするに、花弁の方が葉よりも毒が強いそうだ。あの時食べなくてよかったと心底思ったよ……。 ただ、如何せんこちらには毒物なので味見は出来ない。失敗出来ないので比較的シンプルなものを作ろうと思う。 以前間違えてこちらに出された時は花弁はそのまま、葉は乾燥させて、それを煎った後に淹れた茶。それがセオリー通りの食べ方なのかはこちらに分からないが、取り敢えず葉っぱはすり潰してケーキ生地に混ぜようと思う。花弁はケーキのデコレーションに使用だ。 サクラもアケビも、VRとは言え結構卵白を混ぜる作業をしているので段々と手馴れて来ているし、砂糖とか小麦粉の分量も目分量とは言え以前のように一気に入れる事は無くなった。 二人が生地を作っている間に俺は生クリームを泡立て、パルミー、スビティー、フレニアの三匹は別に菓子を用意しているフチの手伝いをしている。 生地をバターを塗った型に流し込み、フチの家にあるオーブンに入れて焼く。その間にフチが用意してくれた菓子を摘まんで俺達の戦勝祝いを始める。 談笑しながら食べ、その際にフォレストワイアームの話題になる。 フォレストワイアームは、スケアリーアングールとの戦いが終わってからあまり時間が経たないうちに何処からか飛来して住み着いたそうだ。 そこにいるだけでセイリー族の集落を襲う事は無かったので、そのまま何もしなかったそうだ。ただ、フォレストワイアームに近付くとセイリー族もモンスターも関係なく問答無用で攻撃してくるので絶対に近寄らないようしている。 雪原へと続く道の真ん前を陣取ってる為に、雪原に用のある者はどうしてもフォレストワイアームと戦う羽目になる。一度でも勝てばフォレストワイアームは襲い掛かって来る事はないそうで、以後は素通り出来るらしい。 そしてフチ曰く、光になっても死んだ訳ではないそうだ。フォレストワイアームは精霊の一種みたいな存在で、本来は姿形を持っていない。竜の姿をするのは雪原へと向かう輩と相対する時だけ。で、倒すと光になるのは結構なダメージを受けてそれを回復する為に森の木々と同化する為、だそうだ。 ある種の門番みたいだな、フォレストワイアーム。そして、こういう設定があるから、あるプレイヤーが倒しても、倒していないプレイヤーとも戦闘が出来るようになってるのか。 そうこう話しているとケーキが焼けたのでオーブンから出して粗熱を取る。そうしてからクリームを塗った食って菱形に切った花弁で飾り付けをすればケーキの完成だ。
『トレンキケーキが出来た』
 料理をし終えると何時ものウィンドウが出現し、光となって俺の身体へと入り込む。直ぐ様メニューを出して【トレンキケーキ】を取り出す。
『トレンキケーキ:トレンキの葉と花弁を使ったケーキ。程よい甘さとほろ苦さを備え持つ。食べると最大生命力10%のダメージを受け、毒状態になる。相手に使うと50%の確率で毒状態にする。稀に猛毒状態にする』
 ……出す際に物騒な説明文が目に入ったが、今回は見ない事にする。 で、フチに食べて貰うと「美味しいですよー」との感想をいただいた。旨かったのなら、それはよかった。こちらは味見出来ないからな。【耐毒】は防具に備わってても、無効じゃないから食べると普通に毒状態になってしまうし。「で、オウっち達はこれからどうするんですか?」 ケーキを摘まみながら、口元にクリームをつけたフチが俺達に問うてくる。「当面は防具の新調だろうな。耐氷がないと、この先の雪原に行けない」 折角新たなエリアに行けるようになったからな。近々行ってみたい。 ……いや、それよりもまずはカーバンクルの召喚具を入手するのを優先させた方がいいだろ。アケビとの約束もあるし、そろそろ行動に移さないといけないな。「そーですか。私達セイリー族は寒さに弱いので、雪原に行ったことはないんですよ。行ったら感想聞かせて貰ってもいいですか?」「いいですよ」 フチの頼みにサクラは頷く。そうか、セイリー族は寒さに弱いのか。とすると、ゲーム的には氷属性の攻撃に弱いって事になるのか。「とすると、冬はどうしてるの?」「ここらは冬でも比較的暖かく雪も降らないので大丈夫なんですよ。それでも寒い事に変わりないのでしっかり着込んで暖炉の前に陣取ります」 アケビの素朴な質問にフチはからからと笑いながら答える。 もーですね、神殿内でも暖かい所は陣取り合戦が勃発するんですよー、とおばちゃん手招きしながら笑うフチ。何か猫みたいだな。「つーか、雪原近いのに冬暖かいのか、ここ」「ええ。これも【妖精の十晶石】の力なんです……かね?」「いや、俺に訊かれても困るぞ」「ですよねー」 まぁ、考えとしてはあながち間違ってないかもな。【妖精の十晶石】はセイリー族へと害をなすものからセイリー族を守る役割があるし。雪原から押し寄せてくる寒波を防いでも不思議ではない、か? それからも話をしたりして、菓子も無くなり程よく時間も経ったのでお開きとなった。「じゃあ、また来てくださいねー」 きちんと洗い物を済ませ、フチに見送られながらそのままログアウトをする。明日も休みなので、今日と同じように午後一時にまた拠点に、という事になった。「……ふぅ」 DGを外して、軽く息を吐くとタブフォが点滅していた。ゲームをしている間に着信があったようだ。「ん? メール?」 どうやらメールで、受信相手の名前を見た瞬間、少し眉根がよる。そして、件名、本文と見て行くと段々目も細くなっていく。「……マジか」 メールの全文を読み終え、俺は深く溜息を吐くと時間を確認。午後五時半少し過ぎ。なら……大丈夫か。 ジャージに着替えてDGをバッグに摘め、キャップ付きの帽子を深く被って財布と鍵を持って家を出る。夕飯は昼食作る時についでに作ったから心配ない。 タブフォの電源を切ってから自転車に乗って三十分くらい疾走。その間に中学の頃の知り合いに遭遇しない事、そして見付からない事を祈る。見付かったら後で面倒な事になりそうだからな。一応帽子を被って直ぐには分からないようにしているから大丈夫だと思うけど。 そして目的地に到着。遭遇してないし、多分見付かっても無いだろう。 目の前の二階建ての家の表札には『香坂』の文字。近くには『立町』の表札が下がった家もあるし、間違いなく椿の家だ。 俺は少し迷いながらも、後に引き返す事も出来ないので意を決して香坂家の呼び鈴を鳴らす。『はい? どちら様でしょうか』 出たのは椿ではなく、楓だった。そうか、今の時間帯だと椿と一緒になって夕飯を作ってる最中だったか。邪魔をしてしまった気がするな。 そう言えば、リアルでカエデの声を訊くのは初めてだな。……何て、思ってる場合じゃないな。「桜花だ」『オウカ?』『え? 桜花?』 と、少し小さな声で椿の声が聞こえた。『何だ? どした?』 椿の質問に、少し言い淀みつつも簡潔に用件を伝える。「……いきなり押しかけて悪いんだが、アリバイ工作に付き合ってくれないか?」『『は?』』 二人は俺の言葉に疑問に満ちた声を出す。 まぁ、それは当然の反応だよな。俺もいきなり言われたらそんな反応する。


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