喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 正直、こんな短時間で残り一匹(いや、一人?)になるとは思わなかった。恐るべしこの二人。大型武器ってそんなに攻撃力あるのか? いや、武器だけじゃなくて筋力の数値……だけでもないか。他にも何かしら要因があって、即行撃破が出来たんだろうな。ペガサスがいなくなっただけでもかなり楽になるし。いや、馬頭鬼もいなくなれば実質三対一になるから、こちらが圧倒的に有利だ。 でも、俺なんか戦わずに二人で任せた方がいいんじゃないか? って思ってしまう。この場面だと俺は足手纏いの何者でもない気がするし。まぁ、それでも俺は俺でサポートに徹するなり囮になるなりの役割を果たせばいいか。他には、隙が出来た時に攻撃を加えるくらいは出来るだろう。「ふんっ!」「よっ!」 リースとカンナギの二人はドッペルゲンガーの武器を弾く。流石に大型武器相手だとフライパンと包丁は競り負けるか。 でも、何か無魔法で強化してたよな? それでもあっさりと弾かれるものだろうか? 普通はいいくらいに競り合う気がするんだが。 弾かれた勢いで無防備になったドッペルゲンガーに追撃しようと、振り抜き終えた武器を振りかざそうとしてリースとカンナギの動きは止まる。自分の意思で動きを止めた感じじゃないな。動きの流れからして、無理矢理止められたように見えた。「おや⁉」「あれ?」 二人は同時に首を傾げて何故か握っている武器を見る。それぞれの武器の切っ先は地面を抉った軌跡を残しながら僅かに埋まっている。「ふっ」 出来た隙を見逃さず、ドッペルゲンガーはリースとカンナギに蹴りを加えて後方へと飛ばす。その際に、二人はそれぞれの武器から手を離してしまう。 ガシャン。ではなく、ドゴォ! と言う音を立てて武器は地面に減り込んだ。……いやいや、どうして減り込むんだよ? 二人が落とした武器をよくよく見れば、ドッペルゲンガーの武器と同じように刀身に透明な波が纏わり付いて歪んでいる。 もしかして……重力の影響でかなり重くなってるとかか? だから蹴り飛ばされた時に手を離してしまった? さっきドッペルゲンガーが発動した無魔法【アディショングラビティフォース】は強化の補助魔法じゃない? 武器に纏わせる形で攻撃と一緒に相手に状態異常を与える攻撃をするタイプの補助魔法か? と言うか、こんな状態異常ってあったっけ? いや、そもそも状態異常ならプレイヤーに影響が出る筈だけど、これは触れた武器に発生してる。そう考えると、状態異常と言うよりはこの魔法独自の効果とか、そんな感じか?「いったぁ……」「くっ!」 五メートルくらい吹っ飛ばされたカンナギとリースは、背部を強か打ったらしく擦りながら起き上っている。っと、二人に視線を注いでいる余裕はない。 直ぐ様振り向き、二人を蹴り飛ばしたドッペルゲンガーへと注意を向ける。「くらえっ!」 向き直った瞬間に重力を纏ったフライパンを俺目掛けて振り下ろしてくるドッペルゲンガーの姿が映った。それを素直に受けては駄目だと先の二人から学んだので全力で避ける。咄嗟に大きく避けた為に当たる事はなく無傷で距離を置く事が出来た。 が、それは一瞬で直ぐにドッペルゲンガーは一気に距離を詰め、包丁とフライパンの二つで俺を攻撃してくる。俺はそれを武器での防御やカウンターをせず回避だけに専念する。フライパンと包丁の乱舞は予想以上に苛烈で、全て完全に避けきれずにあちこち掠る。「くっ……」 掠った箇所が下に引っ張られるような、いや、下に押し付けられているような感じがする。これの所為で動きが段々と鈍くなっていく。もし直撃していたら動けなくなる程に押し付けられる様な感覚が襲い掛かっていたと思う。「とらぁ!」「くぉっ」 包丁とフライパンにだけ意識を集中し過ぎていたせいか、ドッペルゲンガーの蹴りを腹に受けてしまい、そのまま吹っ飛ばされる。生命力は……四割も持って行かれたな。耐久に振ってないからか。それでもよく持ったな俺の生命力。全損するかもって心の端で思ってたけど。 いや、そんな事考えてる余裕はないよな。早いとここいつをどうにかしないとこっちがやられる。 直ぐにショートカットウィンドウを出して【生命薬】を使用して三割回復させる。【クイーンハビニーの守護結晶】があれば一度だけ生命力が0になる攻撃を受けても1だけ残して耐えれるんだが、あれは拠点に置いて来てるからな。 流石にまだ使う段階じゃないんじゃないか? と俺達は拠点にサクラとアケビの作った棚に三人分の【クイーンハビニーの守護結晶】を保管してる。メニューのアイテム欄にないので、自動消費されない。 一人一個しか持っていない。しかも、もう入手出来ないんじゃないか? と思われるくらいに貴重そうな物だったから、おいそれと簡単に消費したくなかった。と言うのが一番の理由でもある。他には、もっと強いモンスターと戦う場合に備えて、と言うのもあるけど。フォレストワイアームは最初のボスだからまだ大丈夫だろう、と守護結晶無しに挑んで見事に返り討ちにあったけどな。……もう、今日はフォレストワイアームに挑む時【クイーンハビニーの守護結晶】を持って行った方がいいかな? いやいや、だからそんな事考えてる余裕はないんだって。 兎にも角にも、生命力が0になる攻撃を喰らったら一度も堪えられないので、生命力の管理は大事だ。【生命薬】が切れたら終わりだし、一撃で0になるような攻撃を受けても終わり。少なくとも八割はキープしておかないといけないかな? で、生命力をキープするだけではドッペルゲンガーには当然勝てない。どうにかして突破口を開かないといけないな。 幸い、三対一で数の上では有利に立ち回れる。と思いたい。「そらっ!」「うおっ」 ドッペルゲンガーがフライパンを投げて来たのでしゃがんで回避し、こちらに向かってきた奴から離れるように右の方へと駆け出す。 取り敢えず、今は注意を俺に向けるのを優先させた方がいいんだけど、重力の影響を少し受けてる俺の敏捷じゃ無魔法の補助で上昇してるドッペルゲンガーの速さについて行けない。いや、素の状態でも俺が負けてるけどさ。 ドッペルゲンガーは俺と生命力以外は同じ力を持ってると言ってたけど、それにプラスして俺が持ってない力も使うと言ってた。持ってない力は魔法と、まだ覚えてないスキルアーツか。他にはないと信じたいし、でもある可能性があると念頭に置いておかないと不意を突かれて一気に終わる気がする。 あと、こいつが言ってた同じ力を持ってるって、嘘だろ。だって、素の状態で俺の攻撃に後出しで真似して攻撃してくるんだから俺より速い。それは間違いない。あと、体力も絶対俺より上だ。回復してるように見えないし。 こいつはどうやって攻略すべきなんだ? 【クルルの森の異変】の時に戦った幻人は俺の体力を消費して行動していた。それを逆手にとって全体力消費のスキルアーツ連発して実質ほぼ俺のターン状態で倒した。けど、ドッペルゲンガーは俺の体力を消費して動いているようではないから、この攻略法は無意味だ。 攻撃面では俺よりも確実に上だし、素早さもこちらが負けてる。耐久面は知らん。下手したらそれも負けてるかもしれない。そこまで考えると、一人で相対したなら絶望の一言に尽きるな。「ふっ!」 戻ってきたフライパンを掴んだドッペルゲンガーは、一直線に俺へと向かって駆けてくる。このまま攻撃を避けて、【生命薬】と料理アイテムが尽きる前に相手の体力切れを狙うしかないか。 けど、今の状態ならそれを狙わなくても勝機はある。一人じゃなくて、三人だから。「せいっ!」「たぁ!」 ドッペルゲンガーの左右から、気付かれぬ間に近付いていたリースとカンナギが同時に攻撃を繰り出す。それぞれ武器は手にしておらず、リースは蹴りでカンナギは拳を突き出す。「ちっ!」 ドッペルゲンガーは気付き、悪態を吐きながら体を僅かに捻って攻撃を回避。そしてカウンター気味にフライパンと包丁で二人を攻撃する。しかし、カンナギとリースは攻撃を終えた段階で既に飛び退っていて距離が開き空振りに終わる。「その武器に触れたら大変だからね!」「そうそう。ヒットアンドウェイで安全に行くよ」 リースとカンナギは足に力を溜めて解放し、一気にドッペルゲンガーとの距離を詰めていく。おいおい、二人とも【ウェイブグラビティ】の存在忘れてないか? あんまり見え見えの攻撃だと発動されて機動力削がれると思うんだが。 もしかしたら、わざと狙ってるのかもしれないが、そうだとしても俺には理由が分からない。「……面倒だ」 ドッペルゲンガーは回避行動を取る事もカウンターを仕掛けようともせず、深く息を吐く。「無よ、我が言葉により形を成し、星の力の流れを掻き消せ。【ゼログラビティ】」 そして、【ウェイブグラビティ】ではない、また訊いた事も無い魔法を発動させる。 ドッペルゲンガーを中心に半径二メートル程の透明なドームが形成される。波のように広がっていくのではなく、一気にドームが出来上がった為、二人は丁度中に閉じ込められてしまう。が、そのドームは直ぐに消え去った。「むっ⁉」「えっ?」 ドームが消え去ると、カンナギとリースは宙に浮かび上がった。手足を動かして見るも、ただ空を切るだけでその場から動く事も出来ない状態になってるようだ。ただ、場所は変わらずとも体の向きは変わっているが。ただそれだけだ。「取り敢えず、面倒だから一人一人相手をする事にした。先ずはお前からだ、オウカ」 完全に身動きが出来なくなった二人を尻目に、ドッペルゲンガーは俺に目を向ける。 ヤバい、三対一から一対一に無理矢理切り替えられた。


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