喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

119

 東門から出て、即行でセーフティエリアである道から外れてから草原を突っ走っていく俺達三人。当然、モンスターが飛び出してきて俺達に襲い掛かってくるんだが…………。「てりゃ!」「ふっ!」 薙刀っぽい包丁っぽいよく分からない武器を持つカンナギと大剣を持つリースが無造作にぶっ飛ばしている為、かなり安全に行進している。まぁ、一応俺の方にもモンスターが襲い掛かって来るけど、俺も蹴り、包丁、フライパンで撃退してるけど前を行く二人よりも倒すのに時間が掛かってしまう。 何となく聞いたら、カンナギは65、リースは71だそうだ。レベルが。そりゃ、43になったばかりの俺よりも簡単にモンスターを吹っ飛ばせる訳だ。納得納得。 …………何か、場違い感が半端ないなぁ。レベル差が20以上って……。リースもカンナギもキリリ山でレベルを上げたらしいが、おいカンナギ。お前はきちんと休んでろよ。もしかして回復するのに一週間かかったのはそれが原因なんじゃないか? と疑う。「とりゃ!」「ぶぎゅー!」 カンナギが手の生えたホッピー――デュホッピーを造作もなくホームラン。光となって消えていく。「とぅ!」「あぎゃぎゃー!」 リースが角が生えたアギャー――アギャギャーをぶっ飛ばしてホームラン。光となって消えていく。「……」 何だろう。吹っ飛ばされるモンスターが不憫でならない。これって、モンスターを吹っ飛ばして飛距離を競うゲームだったか? と変な疑問が浮かび上がって来てしまう。 草むらを突き進んで十分くらい。先頭を行っていたカンナギが立ち止まる。「ここだよ」 どうやら目的地に辿り着いたらしいが、特に変わった様子は見受けられず、草が広がってるだけだ。変な岩があったり、洞窟があったりする訳でもなければ、誰かが突っ立っている訳でもない。「何処だよ?」 俺が辺りを見渡ながらカンナギに尋ねる。リースも同様に辺りを見渡手何か怪しいものが無いかを探す。「ここ」 と、首をあちらこちらに向けている俺とリースを尻目にカンナギが足を一歩踏み出すと急に穴が開いてそこへと落ちて行った。 …………また穴かよ。何だ? 開発陣営は落とし穴を作るのが昨今のブームになってんのか? 今度姉貴に訊いてみるか。「成程! こんな所に穴があったとはな! ではオウカ君! 行こうか!」「ちょ」 で、リースは警戒なんぞせずに俺の手首を掴んで穴へとダイブ。俺は巻き込まれてそのままフライ。穴は結構深く、十秒は落ちた。「ふっ!」 リースが着地し、俺をお姫様抱っこをしてくる。…………男にお姫様抱っこされるとは思わなかった。まぁ、イベントの時もサモレッドに助けて貰った時にされたけどさ。「さぁ! 着いたぞ!」 で、俺を優しく降ろして立たせてくれるが……悪い。少しふらつくんだけど……。手首掴まれてたから半ば強制的で……三半規管が少しやられた……。 まぁ、これくらいなら自分で【醒め薬】を使えるので、早速使って酔いを回復させる。本当、【醒め薬】様様だな。 で、改めて辺りを見渡すと……何かまさにファンタジーって感じの場所に出たなぁ、と少しばかり心が躍る。 壁一面にひしめく松明で彩られたそこは正に遺跡とでも言うべき場所で、石を切り出して空間を作り、そこに切り出した石で形作っている建物が物静かに佇んでいる。中央に中へと続く入口があり、入口へと続く道には石柱が両端に聳えている。石柱の上には何やら鳥を模った像が彫られている。 よくこんな地下に大きな空間を作れたな。流石はゲームと言った所か。現実だと地盤とかそこら辺の強度を考慮しない限り無理だし。「あ、言うの忘れてたんだけどさ」 先に着いていたカンナギは俺とリースの方に歩み寄って来て、真剣な眼差しを向けてくる。「二人共、戦う準備はしておいて下さい」 戦う準備。草原のモンスターをホームランしていたカンナギがそう言ってくるとは、つまりそれだけの強敵がこの先に待ち構えているのだろうか?「奥にはボス級のモンスターでもいるのかい⁉」 同様の疑問を持ったらしいリースは質問を投げ掛けるがカンナギは首を横に振る。「いえ、いませんけど。ちょっと戦う事になるからです」「何とだ?」「召喚獣と」 召喚獣と? 俺とリースは首を捻っているとカンナギが補足を加える。「ここで召喚具を使えるようにすると発生するイベントで、召喚獣と戦闘する時間帯と人数でプラスボーナスが変動するの」 成程、プラスボーナスを得るにはそんな仕掛けがあるのか。流石にSTOの開発陣営も無条件でボーナスを与える事はしないか。「何でそんな事まで知ってるんだい⁉」「NPCから訊いたんです。懇切丁寧に教えてくれました」 リースの疑問にカンナギは遺跡の入口へと顔を向けながら答える。集合した時に俺も同様にカンナギに訊いたな。そのNPCってのはSTO開発陣よりも親切じゃないだろうか? 多分、姉貴がいたら「開発してる奴等より数倍親切だ」とでも言いそうだな。「因みに、今から戦闘しようとしてる時間帯と人数によって得られるボーナスは?」 俺も更に疑問に思った事を口にすると、カンナギは詰まる事無く訊いた事を口にする。「早朝だと召喚時間がほんの僅かに増えて、三人以上だと後のレベルアップで覚える固有技を一つ覚えた状態になるみたい」 召喚時間の延長と固有技の早期習得、か。それは確かにお得だな。召喚時間が少しでも長くなれば、その分有利に働く場面が増えるし、固有技も早くに覚えていれば戦術の幅広がる。「ただ、それらのプラスボーナスを得るには召喚獣に勝たないといけない。負けても召喚具は使えるけど、プラスボーナスは得られない」 流石にそこまでは甘くないか。ただ戦うだけでは駄目、と。負けて召喚具が使えなくなるデメリットは無いけどボーナスは得られないから損はないが、出来れば勝ち取ってプラスボーナスを得たい所だな。「あ、あとお金かかるのも言うの忘れてた」 カンナギは今思い出したかのように手を叩いて新たな情報を口にする。 金が掛かるのか。まぁ、そんな好条件をただでやらせようとは思わないか。ある程度のリスクを持たせないといけないと思うし。 …………ちょっと待て。金、掛かるのか?「……どのくらいだ?」「20000ネル」「…………」 カンナギの答えに、つい俺はメニューを開いて所持金を確認する。 …………俺の手持ちは、124ネルだ。「悪い。手持ち金不足だ」 フォレストワイアームに二回死に戻りさせられて所持金が四分の一。そこまではいいとして、その後も全然モンスターから手に入れた素材アイテムなどを売らずにいたから金が無さ過ぎる。「いいよ。気にしなくて。私が払うから」 と、カンナギがそんな事を軽く言ってのけてくる。「いや、それは」「だって急な事だったし、オウカにはその分迷惑掛けてたから」「だが……」 流石に20000ネルと言う大金を肩代わりさせてしまうのは忍びないし、こちらとしても戦力強化が出来る案件なだけに一方的に相手が損をするような真似だけはしたくない。渋っていると、「なら!」とリースが大きく柏手を打つ。「今回はカンナギさんに払って貰って、後日返せばいいではないか! そうすれば、問題ない!」 リースの提案に、俺とカンナギは互いに顔を見合わせる。確かに、一方的に払って貰うよりも、こっちの方が断然俺としてはいい。けど、金を借りる事に対しての罪悪感が消えた訳じゃない。 ただ、ここで俺が渋り続ければ続ける程、時間が取られてしまい目的の時間帯を過ぎてしまうし、俺としても早くに戦力増強を図りたいから首を横に振る必要はない……訳だが……。「……悪いけど、それで頼む」「じゃあ、それで。別に利子とか付けないし、期限とかも設けないから」「……早く返す」 そして口にはしてないが、20000プラスαの金額は返す。口にすると「いいから別に」って言われそうな気がしたからな。「じゃあ、そろそろ行きましょう。準備は大丈夫ですか?」 カンナギの確認に俺とリースは頷き、建物の入り口へと向かってずんずんと突き進んでいく。

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