喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

118

 タブフォのアラームが鳴り響き、目が覚める。「ふぁ……」 机の上に置いてあるタブフォを手に取り、アラームを切り時間を確認する。 朝の四時半。約束は五時からだから今から行けば充分に間に合う。 寝惚け眼を擦ってからDGを被り、STOの世界へと向かう。 横になった姿勢から直立になり、軽くふらついてしまったが転ばずに踏み留まる。「……薄暗い、か」 拠点から見える空は未だに薄暗く、夜明け前の空が広がり星の輝きも少しばかり残っている。「ふぁ……」 流石にこれだけ朝が早いと欠伸が出る。が、ここで寝てしまっては元も子もないので準備体操で体をほぐして少しでも眠気を覚まそうと努力する。「しーっ!」 俺が準備運動をしていると、小川の方からリトシーが飛び跳ねながら元気よくこちらに向かってくる。「おはよう」 準備運動を切り上げ、俺はリトシーに挨拶する。リトシーはそのまま俺の胸の中に飛び込んでくる。「リトシーは早起きだな」「しーっ」 リトシーは笑顔で頷く。とすると、リトシーは何時もこのくらいには起きているのか。流石植物と言った所か? でも、完全に太陽は出てないんだけど光は関係ないのか? まぁ、深く考えても仕方ないか。 スビティーとフレニアは流石にまだ眠ってるのかな? まだ四時半だし。 俺の頭上に影が出来、はばたく音が聞こえて見上げればキマイラがこちらに降りて来ていた。「キマイラも、おはよう」「グルラゥ」 キマイラも早起きらしい。ネコ科なのに。いや、完全にネコ科って訳じゃないだろうけど。でも、顔をよく見ればちょっと眠そうで目尻が何時もより下がっている。もしかして、リトシーに合わせて起きてくれているとか? それとも俺が起こしてしまったかな?「しーっ」「グルラゥ」 リトシーは元気いっぱいに頭の葉っぱをぴんと伸ばしてキマイラに挨拶する。キマイラも右前脚を器用に上げて挨拶し返す。「しー」 で、挨拶を終えたリトシーが俺に期待の眼差しを向けてくる。何して遊ぶ? って訴えてる気がする。身体もうずうずしてるし。あ、キマイラもそんな眼差しを向けて来るけど欠伸した。やっぱり眠いのか。 今日俺がこんなに早くSTOにログインしたのはリトシー達と遊ぼうと思った訳ではなく、カンナギとの約束があったからで、時間も無い。期待にそえない旨をきちんと伝えないとな。「今日はちょっと用事があって早く来たんだ」「しー」「で、俺一人で街に行く事になってるから、悪いけど遊べない」「しー……」 リトシーががっくりとうなだれてしまう。キマイラは納得がいったような顔をしている。俺はリトシーを地面に優しく降ろし、目線を合わせる。「またこっちに来たら菓子作るから、我慢してくれ。な?」「…………しー」「御免な」 リトシーは我儘言わずに頷いてくれた。俺はリトシーの頭を軽く撫でて立ち上がり、今度はキマイラの方を向く。「キマイラ、よろしくな」「グル」 キマイラも了解とばかりに頷いてくれる。「じゃあ、行ってくる」「しー」「グルラゥ」 リトシーとキマイラに見送られながら、俺はシンセの街へと降り立つ。 シンセの街もまだ薄暗く、街灯は消えてない。少しひんやりとした空気が肌に触れる。 周りを見ても人はいないな……。NPCはまだ眠ってるのかな?「さて、確か東門だったな」 俺は人っ気のないシンセの街を歩き、東門へと向かう。 何か、他のプレイヤーはいてもよさそうなんだけど全然見ないな。もしかしたらいるとしても攻略に向かってるとかかもしれない。朝早くから攻略を進めていくって、眠くて身体が鈍らないか? まぁ、人によって活動時間って違うから一概にもそう言えないけど。 とか思いながら歩き、目的地へと着く。「おはよーっ」 東門の所には既にカンナギがおり、笑みを浮かべてこちらに向けて手を振ってくる。「おはよう」 俺も手を振り返し、カンナギの方へと向かう。「ごめんね。こんな早く」「別にいい。気にするな。俺だってプラスボーナスってのがあれば狙いたいし」 カンナギが両手を合わせて頭を下げて来るが、俺は首を振る。って、そう言えばカンナギは今日普通に喋ってるな。「今日は喋るのか?」「そりゃね。もう風邪治ったし。メッセージだけの会話をする必要なしさね」 カンナギは俺の質問に肩を竦めながら答える。で、カンナギは見た目と違って少し低い声質だな。アケビよりは高いけど。 っと、そんな感想抱いてる場合じゃないな。早速本題に入らないとな。「で、召喚具を使えるようにするにはどうすればいいんだ?」「キリリ山の近くにある特定の場所に行くと使えるようになるんだ。だから、今からそこに行こうかと思ってるんだけど……」 だけど? だけどなんだよ? と思ってると、カンナギは顔の前で両手を合わせて片目を瞑る。「ごめん。もうちょっと待って?」「は?」 つい、間抜けな声を出してしまう。「何で待つんだ? プラスボーナスってのは時間帯によって変わるんじゃなかったのか?」「実は、声を掛けたのはオウカだけじゃないんだ。あともう一人いて、その人が来たらその場所に行こうと思って。実はそのプラスボーナスって時間帯と人数によって変動するらしいから」 時間帯の他に人数によってもプラスボーナスは変動するのか。何かややこしいと言うか面倒だな。「と言うか、よくそんな事分かったな」「訊いたからね、そこにいるNPCに」「NPCいるのか、そこに……」 と言うか、聞いた、って事はカンナギは風邪を引いている間もまだSTOで遊んでいたのか……少しは体を労われ、と言ったら「自分の身体だから限界は弁えてる」と言う返答を貰った。 いやいや、弁えてなかったから一週間前はぶっ倒れて強制ログアウトしたんじゃないか、と言ったら目を逸らして無言になってしまった。 俺とカンナギは残る一人を待つ。特に雑談する事も無く、二人で無言で待ち続けるもそこまで長くは待たなかった。時刻が午前の四時五十五分になった頃か。「あ、来たみたい」 と、カンナギは何故か上の方を見る。正確には建物の屋根の方を。 何で屋根なんか見る? と疑問に思っていると、そこから何かが跳び降りてきた。「とぅ!」 そして無難に着地し、そのままバック転を行って直立する。大剣背負った鎧姿の緑髪プレイヤーが。 何か……風騎士が登場したんだけど……。「やぁ! すまない! 待たせてしまったな!」「いえいえ。まだ集合時間になってないですし。気にしなくていいですよ」「いや! 集合時間の十分前には集まらないと失礼だろう! 誠にすまなかった!」 リースは朝でも大声は変わらずで、自分が最後で待たせてしまった事に対して頭を下げてくる。どうやらその一人とはリースだったようだ。俺と同じようにパートナーは連れてないから、少し新鮮味を感じるな。「だから、気にしなくていいですよ。それよりも、もう行きましょう」「……うむ! そうだな!」 俺とは違って敬語のカンナギの言葉にリースは直ぐに思考を変えて頭を上げる。と、リースが顔を上げた所で俺と目があう。すると、リースは大袈裟に目を開き、俺を指差す。「おっ⁉ そこにいるのはオウカ君ではないか! 一週間ぶりだね!」「……そうだな」 見付かってしまったか……。いや、それも当然か。結構近くにいたし。「もしや、オウカ君も召喚具を使えるようにするのかい⁉」「……あぁ」「そうかそうか! では! オウカ君もよろしく!」 リースが笑いながら右手を差し出してきたので、俺も右手を出し、握手をする。ぶんぶんと振り回さないでくれ、結構痛い……。「じゃあ、早速行きましょう。おーっ!」 で、三人が集まった所でカンナギが固く握った拳を空高く上げる。「おーっ!」 リースも負けじと力強く拳を天高く突き上げる。「「…………」」 で、何故かカンナギとリースの二人は無言で俺をじ~っと見てくる。あれか? 俺もやらないといけないパターンか?「……おー」 俺は渋々と言った感じで同様に右拳を持ち上げる。 ……今日は、こんなテンションがずっと続くのだろうか?

「喚んで、育てて、冒険しよう。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く