喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 アップデートが終わり、今日からSTOに入れる。 その日の放課後、掃除をしている最中に椿が廊下側に設けられた窓から身を乗り出して俺に話し掛けてくる。「なぁ、今日ちょっと俺達のパーティーと一緒に東門の向こう行ってみねぇか?」「俺は別に構わないが、サクラとアケビがどう言うか」「多分、OKはしてくれると思うぞ。ただ、サクラはずっと俺から隠れるんだろうけど……」 椿は何処となく遠い目をする。そう言えば、イベントの最中サクラはずっと椿から隠れてたな。「あいつは人見知りだからな」 俺は箒でごみを集める。掃除当番は週替わりで、出席番号順じゃなく座席の横列と少し変わっている。しかも後ろから前へと向かう順番で、今回は俺がいる後ろから二列目が当番となっている。 椿は俺の言葉に眉を軽く寄せる。「それでも楓とは打ち解けてるし、俺だけそれ発動してるってのは可笑しくないか?」「お前、あんまりサクラと話してないだろ? だからじゃないか?」「いや、話す以前にあの子もう眼すらも合せてくれねぇじゃん。こっちからコミュニケーションとろうとしても拒絶……まではいかねぇけど遠慮が感じられんだよなぁ」 まぁ、サクラは他者と積極的にコミュニケ―ションをとろうとしないからな。サクラ自ら話しかけたのは俺くらいか? アケビの場合はアケビから話しかけたし。カエデは……忘れた。「桜花はよくサクラと普通に接せられるようになったなぁ。名前繋がり? 何日掛かった?」「名前は関係ないと思うが、俺の場合は数時間くらいだけど」「何ぃ⁉」 何故か椿はこれ見よがしに大きな声を出して大袈裟なリアクションをする。その御蔭でクラス内で掃除している同級生と廊下を歩いている生徒の視線の的になる。が、直ぐにその視線は霧散して椿はフリーになる。「お前……どんな手段を使ったんだ⁉」「手段って」 それを見計らってか椿が動き出して俺の腕を掴んで何度も上下に揺さぶってくる。変な言いがかりをつけられそうだったので、初めてサクラと合ってから普通に話せるようになった過程を簡略して椿に説明した。「一応言っとくと、サクラの知り合いが俺に似てるらしくて初対面でもある程度会話が出来たってのが大きいと思うがな」 箒を持ったまま塵取りを取りに行きながら捕捉する。「……助けられれば普通になるか? つってもそれってリトシーとフレニアが孵化した御蔭じゃね?」「その時フレニアはまだファッピーだ」「そこは今どうでもいい」 塵取りでごみを集めている俺に歯をくわっと向きながら椿は威嚇してくる。いや、何でお前は俺に威嚇をするんだ? その威嚇も直ぐに終わり、窓枠に肘を付けて頬杖をつく椿は「まぁ、取り敢えずお前が普通にあの子と会話出来てる理由は分かった。……つまり何だ? 俺がサクラと普通に会話出来るようになる為には危機を救わなきゃいけなのか?」「それは極論だろう」 そんな事しなくても普通に接すれば自ずと距離は縮まっていくと思う。ただ、リースのように脅かさんばかりの大声とかポージングばっかりしてれば距離は離れていく気はするが。あと変態コート女のような過度なスキンシップをしなければ平気だろう。「と言うか、お前はそこまでしてサクラと話したいのか?」「そりゃ、折角知り合ったんだからな。普通に話せた方が互いに楽しいだろ?」「それもそうか」 椿の言葉に俺は納得する。確かに、もう知らない仲じゃないからな。「つー訳で、話を最初に戻すけどお前から訊いてみてくんね? 俺も楓とかに伝えとくから」「分かった」 最後にそう告げるとツバキは一足先に帰って行った。 俺も掃除を終え、家に帰って家事を終わらせ夕飯を食べ、STOの世界へと向かう。「しー!」「びー!」 降り立った瞬間にリトシーとスビティーが満面の笑みで俺にタックルをかましてきた。スビティーは俺の胸に、リトシーは俺の腹に。「うぐっ。……久しぶりだな」 一瞬息が詰まりかけて体がよろめいたが踏ん張って二匹を抱き抱えて、キマイラの方へと向かう。今回はサクラとアケビは工房に籠らず、外でフレニアとキマイラと一緒にだるまさんが転んだをやっていた。因みに鬼はキマイラだった。「グゥ……グルラゥ!」 と言いながら振り返る様はちょっと可愛いと思う。 だるまさんが転んだが一段落するのを待ってから今日の予定を切り出す。「で、今日ツバキにあっちのパーティーと一緒に今日は東門の先の所を行かないかって誘われたんだが、どうする?」「私は賛成。取り敢えず一度は見てもいいと思うから」「僕もいいですよ。ちょっと気になりますので」 アケビもサクラも新しいエリアが気になるようで、首を縦に振る。「じゃあ、メッセージ送っとく」 ツバキに送ると直ぐに返信がきた。内容は七時半に東門前へ集合、と言うもので時刻を確認すればもう七時五分。そろそろ行った方がいいな。 その旨をサクラ達に伝え、キマイラ以外皆揃ってぞろぞろと拠点の出口へと向かうが、俺はふと立ち止まる。「……さて、今日はスビティーと外に出る日だったか」 抱えている二匹を放し、リトシーをキマイラの近くへと連れて行く。「悪いなリトシー、今日はキマイラと一緒に留守番しててくれ」「……しー」 少し悲しそうな顔をするが、駄々をこねる事はせずに頷くリトシー。次はリトシーと一緒に東門の先に行こう。「じゃあ、行くか」 俺達は拠点の出口である暗い闇の広がる穴の前へと立つ。
『行先を決めて下さい。 シンセの街 セイリー族の集落 ノリュリュ村(プレイヤー:オウカのみ)』
 アップデートの影響か、シンセの街のみだったのが行った事のある街、集落へと自由に行けるようになったらしい。それくらいは事前情報に書いておけよ開発運営。まぁ、これの御蔭でクルルの森へ行くのにそう時間が掛からなくなったな。今まではシンセの街から出発して平原を突っ切っていたからな。セイリー族の集落に行けばほぼ直通だ。 ノリュリュ村に関しては俺しか行ってなかったからサクラとアケビはいけないらしい。今度パーティーでクルルの横穴に行った方がいいな。 まぁ、何はともあれ今回はシンセの街での待ち合わせなので関係ないか。 俺達はそれぞれの前に浮かんでいるウィンドウで『シンセの街』を選択する。 すると、アケビは光となって消えたが俺とサクラ、そしてスビティーとフレニアは残ったままだ。その理由は俺達の前だけに別のウィンドウが表示されたからだ。
『パートナーを連れて行きますか? はい いいえ            』
 今まで出た事も無かったウィンドウが突如俺の目の前に現れる。今までパートナーを連れていく時にはこんなウィンドウは出現しなかったし、近くにいたら自動でついてきたんだよな。 これに関しては、今更な感じがする。もしくは、拠点を獲得したプレイヤーの中でパートナーと一緒に外へ出る事が出来ないとクレームを出した人でもいたから、運営が対策を講じたのか? 俺はスビティーを連れていく為に『はい』を選ぶ。サクラも『はい』を選択し、フレニアとともに光となって消えた。が、どうしてだかまた俺はシンセの街へと送られず、黒い穴の前に突っ立ったままだ。俺に追加で別のウィンドウが出現したのが原因だろうな。
『連れて行くパートナーのうち、戦闘に参加するパートナーを選択して下さい。 リトシー スビティー                              』
 戦闘に参加するパートナーって、いやいや、連れて行くのがスビティーなんだからリトシーは選べないだろ。 俺は『スビティー』を選択する。 また何かウィンドウが出るか? と思ったがこれで終わりらしく俺もシンセの街へと降り立つ。「あいつらは……先に行ったか、はたまた別の場所に降りたか」 軽く周りを見渡してもサクラとアケビの姿は見えない。時間差があった所為か降りる場所が異なってしまったみたいだ。まぁ、ボイスチャットを送って互いに直接待ち合わせ場所に向かった方がいいと伝えるか。「びー⁉」 と、何故か俺の横を飛んでいるスビティーが顔をこちらに向け、眼を起きく開いて驚きの声を上げる。どうしたんだ? 俺の後ろに何かあるのか? 振り返るとそこには――。「しー?」 リトシーがいた。誰か別のパートナー……じゃなくて俺のパートナーのリトシーがそこに立って小首を傾げている。「……え? 何でだ?」「それはだねオウカ君!」 と、突如上から声が聞こえた。上を見ればリースとトルドラゴが丁度こちらに降りて来る所だった。そう言えば、リースと合うのはイベント終了直後が最後だったな。 で、このリースの大声でまた注目が集まってしまう。周りから視線が突き刺さってくるな。早くこの場から去りたい心境に駆られる。「久しぶりだねオウカ君! 元気かい⁉」「ギャウギャウ⁉」 地面に降り立ったリースとトルドラゴは何時も通り……と言っては何だがポーズを決める。本当にシンクロするよな、こいつ等。そして大きな声で耳が痛くなるが、今思うとあの副団長より数段マシだと分かる。「……まぁ、それなりに」「そうかそうか!」 そんな答えでも満足したらしく、一人と一匹は腕を組んで頷く。そんな彼等を始めてみるスビティーは目を点にしている。この反応は呆れている……んじゃなくてただついていけてないだけか。「で、だオウカ君! 君は今二匹のパートナーモンスターを連れている! 本来パートナーは一匹だけしか連れていけないのにこれは可笑しいと、そう思っているね⁉」「あぁ」「その答えは単純明快っ! 今回のアップデートの御蔭さ!」「ギャウ!」 ビシッと腕を伸ばして足を肩幅に開くリースとトルドラゴ。アップデートの御蔭?「このアップデートでテイマーは常に複数のパートナーを連れて歩く事が出来るようになったんだ! ただし、従来通りにモンスターとの戦闘やPvPでは一匹だけしか参加出来ない! 選ばれなかったパートナーは戦闘時半透明になり戦闘に関する一切に関与出来なくなり、触れなくなるのだ!」「ギャウギャウギャギャウ!」 そうなのか。これはもしかして二匹以上と一緒に街を歩きたいと言うプレイヤーの要望を聞き入れてくれた結果か? でもそれなら事前情報にきちんと載せておけよ運営。びっくりしたぞ。……まぁ、びっくりさせるのが運営の目論みだったんだろうけどさ。 そして、拠点を出る前のウィンドウの意味を漸く理解した。あれは二匹連れて行くが、その内の片方だけを戦闘に参加させる為の選択か。 今回はスビティーを選んだから、戦闘の時リトシーは半透明になるのか。 と言うか、どうしてパートナーを一匹しか連れていないリースがその事を知っているのだろうか? と思っていると、トルドラゴと同時に腕を腰に当てて胸を張り出した。「かく言う私も今パートナーを二匹連れていてね! 紹介しよう! 新たな仲間! フートルだ!」「ギャギャウ!」「とる!」 トルドラゴの背中から突如何かが飛び出してきて俺の目の前に降り立つ。それは巨大な藍色のカブトムシで、大きさはギーファと同程度。雄らしく角はあるが短くて先が丸く、目もパートナーモンスターでお馴染みの真ん丸目だ。 そして、こいつは器用に二本足で立ってリースとトルドラゴと同じようにポージングをする。おい、甲虫。普通に直立するな。ゲームだからって何でもありか? まぁ、その突っ込みも今更な気がするが。「先日のイベントで全てのダンジョンをクリアした者にパートナーの卵が送られてね! それが孵ってフートルが生まれたんだ! フートルもトルドラゴと同じく風魔法を使うんだ!」「とる!」 一人と二匹(人間とドラゴンとカブトムシ)は揃いも揃って同じポーズをとる。相性のいいパートナーが生まれてくる……ねぇ。まさしくその通りだと思う。「で、オウカ君! 君の新しい仲間は何て名前なんだい⁉」「ギャウ⁉」「とる⁉」 ポージングの解除も同時で、リース達は視線をスビティーに向ける。スビティーは三対の目を向けられても動じずに受け流している。そして一匹増えただけで更に暑苦しくなってウザくなったな。まだ副団長よりマシだけど。「こいつはスビティーだ。風の魔法を使う」「びー」 俺は内心を表に出さないようにしながらスビティーをリース等に紹介する。「風魔法! 私達と同じ魔法を得意とするとはこれも何かの縁だろう! 今後ともよろしくスビティー君!」「ギャウ!」「とる!」 リース、トルドラゴ、フートルはそれぞれ手を伸ばしてスビティーの手もとい脚をとって握手をする。スビティーも昆虫だから足は六本あり、三人同時でも握手が出来ている。で、リースが君付けしてるから多分スビティーは雄だろうな。「では、私達はこれにて失礼するよ! この後他のプレイヤー達と新しいエリアの夜の散策をする予定でね! そろそろその集合時間となる!」 腕時計を見るように右の手首を見るリース。おい、そこに腕時計は嵌められてないぞ。と言う俺の心の突っ込みは聞こえる筈もなく、そう言えばこんな突っ込み以前もしたなとどうでもいい事を思い出す。「また会おうオウカ君! 行くぞリースっ! 風の限りっ!」「ギャウギャウッ! ギャウッ!」「とるとるっ! とるっ!」 右手を上げると直ぐにリースは去って行った。物凄い速さで。その後をトルドラゴとフートルはそれぞれ翼と翅をはばたかせて後を追い掛けて行った。「…………」 体力ゲージは減っていないが、結構疲れた。取り敢えず、気持ち少し休んでからサクラ達にボイスチャットを送るか。


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