喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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「確かにな、今までの団長もよかったんだ。転んで涙目になったり、罠にかかって助けを求めたり、間違って味方に攻撃してオロオロしたりと。もうそんな仕草が可愛いくて可愛くて。裏で保護者と言われてるローズ以外のメンバーはもう微笑ましくそれを見ていた。だが、そんな団長はもういないんだ。もう、過去の存在なんだよ。それはオウカ。君の御蔭であり、お前の所為でもある。私の場合は君の御蔭なんだが、中には昔の団長の方がよかった、とのたまう輩も当然いる。変化を受け入れ、新たな団長の元気っ子属性に萌え……ごほん。新たな団長の成長に喜ぶか、過去の団長の属性であるドジっ子に想いを馳せ……げふん。まぁ、兎も角だ。君の御蔭で団長は元気を取り戻し、我々に間違って攻撃をする事も無く、転ぶ事も無く、罠に掛かる事も無くなった。ローズに至っては、泣いて喜んでいたぞ。何だか成長した我が子を見てるようです、と呟きながらな。ただ、その分何時も以上に嬉々として動き回ったりするようになったがな。と言うか、アクロバティックな動きをするようになったが正しいか。転びそうになっても前転して回避したり、味方に攻撃しそうになったら体ごと動いて軌道を変えてモンスターにだけ喰らうようにしたり、罠に関しては引っ掛かる事はない。当然、味方の仕掛けた麻痺罠に掛かる事も無く一直線にモンスターへと切り掛かっていくんだ。今まで以上の勇猛さを見せる団長は少し背伸びをしているようで微笑ましい。オロオロして涙目になる団長はもう何処にもいない。今いるのは笑って駆け回る元気っ子団長だ。そんな団長の見せる笑顔がまたいい。年相応のあどけなさがあり、太陽の光を浴びて天へと伸び花弁を広げる向日葵のようだ。決して太陽そのものではなく、太陽の光を浴びた向日葵。そこが重要なんだ。太陽のように決して近付いたものの目を焦がし、体を焼き、命さえも奪う危険な存在なんかじゃあない。近付いても目は焦がされず、体も焼かれず命も奪われない優しい存在なんだ。その向日葵の優しさにつけ込んで害獣や害鳥、害虫なんかが寄って来る。それを排除するのが我々機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツなのだ。ただし保護者ローズは除く。団長に害をなす存在は何人たりとも許さず、PvPで完膚なきまでに叩きのめす。おっと安心していいぞ。団長を吹っ飛ばしたオウカをPvPで一方的に殺る(ワンサイドゲーム)しようなんて輩は機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツには一人もいない。もし本当は許せなくて闇討ちしようと画策しているメンバーがいたとしても、俺とローズ辺りが阻止するだろう。それ以前に、団長が望んでいない事は絶対にしないからほぼ確実にそんな事態にはならないだろうと思うから大丈夫だ。……そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は不肖ながら機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツの副団長を努めさせて貰っているハイドラと言う。今後ともよろしくなオウカ。あぁ、君の名は団長から訊いたさ。まさか何の因果かイベントのランキング2位のほぼ無名だったプレイヤーが団長を変えるとは思わなかったよ。……そろそろ話を戻そうか。今の元気っ子団長の駆け回る姿もそんじょそこらの生意気なクソ餓鬼ど……ごほん。少しうるさい子供達より楽しそうに、そして剣を振るう姿も修学旅行で木刀を買った中学生が友達同士でチャンバラごっこをするよりも数十段キレがよく、魔法を放つ際の詠唱もテレビで見る子役なんかよりもはきはきはっきりと保護欲をそそられる可愛らしい声で言い放ち、アーマーの【解放】をした時なんかは特撮ヒーローや日曜朝の女の子向けのアニメみたいな決めポーズは取らず自然体のままだがそこが逆にいい。夢見る子供から段々と大人へと近付いている感がビシビシと伝わってくるからな。もしくは、そう言ったポーズを人前で取るのが単に恥ずかしいだけなのかもしれないが、それはそれでありだ。恥ずかしがる団長は今の所残念ながら拝見した事が無いから、団長のそう言った姿を想像するだけで、こう、くるな。そして何より食べる姿。これに関しては今も昔も変わらないが笑顔で頬張るんだ。特にプリンが大好物でな。小さい口を大きく開けて、スプーンですくい取った大きい一欠けを一気に口の中へと入れ、行儀よく口を閉じてもぐもぐと咀嚼する姿が……あぁ……たまらんなくいい。そして食べ終えればきちんと手を合わせてごちそうさまと言うんだ。礼儀正しいんだ。ただ、その際に口元にプリンが少々ついてる時があってな、そんな時はローズがついてますよと拭いて取り除くんだ。俺や他のメンバーが誰が拭いてあげるかと鋭い眼光で互いに牽制しあってる中で平然と、そして自然とローズはやってしまうんだ。流石は保護者と陰で言われてるだけあるよな。あと押しなのがパートナーモンスターと触れ合ってる姿だな。最近は団長と合う事も無く見れなかったが、今日はリースの所のトルドラ――じゃなくてトルドラゴになったんだったな――の背中に乗せて貰ってな。大空を飛んだ。もう満面の笑顔を浮かべていてな、上から見るシンセの街の景色や遠くに見えるクルルの森なんかが広がっていく光景がとても気に入ったらしく、俺達に何度も何度も感動を伝えたよ。他にも以前ならローズの弟のツバキのリトシーと一緒に遊んだり、大盾でぶん殴る変な戦闘スタイルのプレイヤーのギーファとも戯れたりしてな。あと他にも……」 夜のシンセの街の外れ。周りに人がおらず静かな筈なのだが俺の左隣に座って熱燗を煽っているプレイヤーの一方的な語りがあるので正直、うるさいを通り越してウザい。 団長であるモミジちゃんが戻ってきた礼をしたいとの事で、機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツの一員――今の一方的な語りで副団長ハイドラと分かったプレイヤーにつれられておでん屋に来ている。それも屋台の、だ。 何でこんな所におでん屋があるんだ? と副団長に訊けばついこの間出来たばかりらしく、掲示板等でも広められていない。その御蔭で現在この屋台に座っているのは俺と副団長のみ。リトシーは流石に寝てしまったので拠点に独りで帰した。一応サクラとアケビにメッセージを送っているからソファの上で寝られていると思いたい。 で、この屋台はNPCの親父が引いていて、趣味で始めたそうだ。こんな中世ファンタジーの街の中に日本の屋台が出現すると違和感しかない筈が変に溶け込んでいる。屋台につるされてる提灯の影響だろうか? いやいや、提灯だってこの街じゃ異質だ。 よく分からない感覚に陥りながらも俺と副団長は席に座って親父に注文をした。その時、副団長が頼んだのが熱燗だ。 この世界でもアルコールは普通に効力を発揮するようで、飲むごとに段々と顔を赤らめていき、今では完全に酔っぱらって眼鏡の位置を何度も直しながらモミジちゃんの事ばかりを語っている。 これが、絡み上戸と言う奴か。俺は未成年なので酒は頼まず、麦茶を貰ってちびちび飲みながらおでんを食べている。「……大根とがんもどき頼む」「はいよ。……君も大変だねぇ」 NPCの親父――ではなくここで店の手伝いをしている女性プレイヤーに新たに注文を頼む。親父の方は先程から副団長の方に熱燗を用意して、話に耳を傾けている。「お待たせ。まぁ、頑張って。社会に出ればこういう事あるから」 女性プレイヤーは大根とがんもどきの他に昆布巻を何故か一緒に皿に乗せる。どうしてか? と訊けばサービス、との事。 大根は型崩れせず、しっかりと汁の味が染み込んでいて旨く、がんもどきもふわっとしていて口当たりがいい。干瓢で巻かれた昆布巻も変に磯臭くなく旨い。 副団長の話をそっちのけで帰る事もせずにこの場に留まっているのはこのおでんの所為なんだよな。普通に旨い。その旨さを味わいたいという欲求が勝って、現在に至る。 結局、そこから俺の強制ログアウト間際まで副団長は話を続けた。 不可抗力や最悪の場合を除き、機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツとはもう関わらないようにしようと誓った日だった。


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