喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 PvPが終了したら体力がPvP開始前の状態にまで回復した。この御蔭で【圧殺パン】を発動した後でも体力切れで倦怠感に襲われる事は無かった。姉貴の時は生命力が戻った事にしか意識を向けてなかったから気付かなかった。「…………」「何か、悪かった」 ローズが体育座りをしてずっと下を向いている。PvPが終わり、むくりと起き上がってからずっとこんな感じだ。気の落ちようが半端ない。 因みに、どうしてこんなに気落ちしているかと言えば、単に俺に負けたから……と言う訳ではない。瞬殺されて俺の実力を見る事が出来なかったからだそうだ。ローズはツバキを介してその事を俺に言った。 ほんの少しだけでもダメージを与えれば勝利。それはつまり少しでも攻撃を受ければ負け。そして範囲も制限されている。俺が魔法を一切使わず敏捷を主に伸ばし接近戦を主軸にしていると言う情報をツバキから仕入れた為、敢えてそのようなルールにしたとの事。 範囲が狭まれば必然的に相手の攻撃を避け辛くなり、それに相手との距離も狭まりやすくなる。肉薄する一撃一撃に気を配りながらも、魔法や遠距離攻撃にさえも注意しなければならない。攻撃を避け続け、隙を見ては攻撃に転じて、九死に一生を得て断崖絶壁に立たされる。そんな極限状態を疑似的に作って俺の実力を測ろうとしていたらしい。 ローズは俺の攻撃を避ける事を前提でこんなルール設定にしたのだが、それが逆に仇となって瞬殺となった訳だ。 言っては何だが、かなり無茶のある考えだと思う。 常に自分も避け続けなければならないので、相手の実力が分かる前にやられてしまうと言う事も当然起こり得る訳でもあるし、偶然が重なって一撃喰らって呆気なく終了と言う流れだってある。 更に、範囲を指定された事により広範囲技を避けにくくなり、例えば最終イベントでスケアリーアングール=フラトが使った【シャドウクロウパニック】や【ウェーブスプラッシュ】等の範囲型の攻撃魔法を放たれればまず避ける事が出来ない。当たれば負けて、避けようものなら範囲外に出て負けとなってしまうので確実に負ける要因にしかならない。 俺は魔法こそ使用しないものの、広範囲攻撃技の【圧殺パン】を持っていたので、それさえ当たってしまえば勝ち、外れれば負けの単調な試合内容となってしまうルールだった。 まぁ、俺が広範囲技を使えると知っていれば、こんなルールにはしなかっただろうな。 パーティーメンバー以外が見てる中で【圧殺パン】を発動したのは今回が初めてだ……と思う。【腐骨蛇の復活】の時も発動したのだが、あの時は周りに誰もいなかったし瘴気で姿が見えにくかったと思う。【十晶石の幻塊】でも使ったが、一対一の隔離された場所だったので、俺がこんな技を使うと予測させる行動自体が無い。 と言うか、だ。この【圧殺パン】は隠れスキルである【フライパンビギナー】の専用スキルアーツだ。俺と同じように【フライパンビギナー】を持っているプレイヤーが情報を公けにしていなければ技そのものの存在を知られる事はない。俺はサクラとアケビと姉貴以外に使用出来る事を言ってないしな。 まぁ、そんな訳で。意図していた訳じゃないが情報を隠していた事により、上手く相手の虚を突く事が出来だ。俺がローズの予測の範囲外の行動をしたが為にローズが呆気に取られ、巨大化したフライパンがヒットして俺が勝ったと言う次第だ。 ……勝ちは勝ちなのだが、こちらとしても釈然としない。こうも簡単に終わってしまうと、折角の上位プレイヤーとの戦闘経験が積めない。これがあるとないとでは他のPvP戦やモンスターとの戦闘でも多少なりとも見方が変わってくるかもしれない。それは俺の攻撃の仕方だったり攻撃の避け方だったり様々だと思う。 実際、姉貴と台所戦争していた時は姉貴の動きから色々と得て、カウンターを喰らわせようとしたり、何時もと違う動きをして虚を突いたりしようとした。まぁ、結果としてその全てが躱されて一撃でノックダウンさせられた訳だが。その積み重ねもあって今の俺があるのだから、こう言った経験はするべきなんだよな。 俺は未だに体育座りして下を向いているローズに提案を持ちかける。「なぁ、ルール換えてもう一回PvPしないか?」「……それは、惨めに瞬殺された私への情けですか?」 ローズは顔も上げないまま、そんな事を口にするが俺は首を横に振って否定する。「情けじゃない。俺だってお前の実力を見ずに終わるのは嫌なんだよ。折角俺よりも先に進んでる上位プレイヤーと戦えるんだからな。俺としても経験を積んでおきたいんだよ。だから、情けじゃなくて俺とお前の為なんだよ。利害の一致って言えばいいのか?」 実際利害は一致していると思う。ローズは俺の実力を対戦して知りたい。俺は強いと言われるプレイヤーとの対人戦で経験を積みたい。だからローズがこの提案を蹴るとは思えないんだが……。「で、どうすんだ?」「…………やります。今度は、あなたがどんな事をしても絶対に動きを止めたりせずに対応していきます」 ローズは立ち上がり、静かに俺を見下ろす。これで二戦目へと突入する流れになった。「では、ルールを」「だったら、俺が今度設定するぞ」 ローズがウィンドウを出した瞬間に傍らにいたツバキが挙手する。「あ、ちょ」 ツバキがウィンドウを表示させて軽快に指を動かしていく。「さぁ、死力を尽くして戦うがいい」 そして、俺とローズの前に新たなウィンドウが表示される。
『ツバキからプレイヤー:ローズと共にPvPを申し込まれました。 ルール ・1vs1vs1(パートナーモンスター、召喚獣の介入は一度のみ) ・アイテム使用禁止 ・制限時間:無限 勝利条件 ・最後まで生命力の残ったプレイヤーの勝利(PvPで生命力が0になった場合、死に戻りはしません) プレイヤー:ツバキ及びローズとPvPをしますか? はい いいえ                      』
 ルールは姉貴とやった時と似ているが、勝利条件が生命力を0にするになっている。ただ、0になっても死に戻りする事はないから安心か。あと、パートナー、召喚獣の介入が一度だけありにもなっている。「っておい。俺は今実質パートナーがいない状態なんだが」「いいじゃねぇか。相手がどのタイミングで召喚獣を喚んで対処してくるのか考えるのもいい経験になんじゃねぇの?」 からからと笑うツバキの言う事には一理ある。ゲーム特有の戦法にも対処していかないと、この先辛いものがあるかもしれないし。 と言うか、それらよりも突っ込み所があるんだが。「おい、お前もやる事になってるぞ?」 まさかの乱闘になっていた事だ。ツバキも参戦で三人バトル。「俺だって折角いるんだからPvPやりてぇの。それに、オウカは経験積みたいんだろ? 俺だって一応雪原まで進んでっからそれなりに強い。だからいい経験になると思うぜ? あと、乱闘なんだから一対一よりも気を配らなきゃいけねぇし」 身勝手な事を言うツバキ。いや、俺としては多人数戦はあまり経験してないからまたとない機会として喜ばしいんだがな。「いや、俺がよくてもローズが」「私は別に構いません」 ローズは気にした風もなく、すんなりと『はい』を押していた。「いいのかよ? 一対一の方が実力見れるんじゃないか?」「大丈夫です。最初にツバキを二人で袋叩きにしてしまえば、何ら変わりありません」 しれっと酷い事を言うローズにツバキは「えっ⁉」と目を開いて驚いていた。「今思えば、直接対決して実力を測ると言うのも手ですが、共闘する事によっても実力と言うのはわりかし伝わって来るものです。ですので、少々お時間を割いてしまいますが私の提案を受けて下さいますか?」「いいぞ」 俺は一言で了承する。多人数戦を経験出来ないが、知り合い以外との共闘もまたいい経験になるだろうからな。「え? え? これってマジな流れ?」 少しだけ挙動不審になりながら、ツバキは俺とローズに真偽を問うてくる。「マジな流れだろ」「マジな流れです」 俺とローズは二人して頷く。 そして、俺も『はい』をタップする。
『プレイヤー:ツバキ及びローズとのPvPを開始します』
 さぁ、まずはツバキを倒さないとな。
『Count 3』
「マジでかよっ! 来いリーク! 一先ず少しでも二人から距離取るぞ!」「しー!」 ツバキはリークを頭に乗せて遠くへと走って行く。
『Count 2』
「最初だけの共闘、よろしくお願いしますね」 ローズは遠ざかって行くツバキを一瞥した後、俺に手を差し出してくる。恐らく握手を求めてるんだろう。
『Count 1』
「あぁ、よろしく」 差し出された手を握り、握手を交わす。
『Count 0 Start!  』
 カウントがゼロになるのと同時に手を離した俺とローズは今は遠くにいるツバキへと向かって駆け出す。


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