喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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「……ふぅ」 学校から帰ってきて、制服を脱いでハンガーに掛けて部屋着に着替えた後、夕飯を作り始める。 高校の入学式を終え、今日から普通の授業が始まった。部活には入っても入らなくてもいいそうなので、別に入らなくてもいいかと思っている。特に入りたいと言う部活も無いし。 取り敢えず、高校生活が始まってまだ間もないが、それでも問題らしい事は起こってないのは良好と捉えよう。クラスの奴とも普通に話が出来ているし。中学からの知り合いはいないが、それでも知り合いがいたのにびっくりした。 夕飯を作り終え、今日も両親は遅いので一人で食べる。今日は麻婆春雨に炒飯、あとは適当にサラダを作り、バランス的には偏っていない筈だ。炒飯に卵多く使ったから蛋白質不足にもならないと思う。 夕飯を食べ終え、食器を洗ってから風呂に入る。浴び終えてから洗濯物を畳んでから自室へと向かう。 部屋の勉強机に置きっ放しだったタブフォにメールが届いていた。「……椿からか」 送り主の所に『香坂 椿』と表示されている。 この椿はSTOではツバキと言うプレイヤーネームだ。イベントで知り合ったプレイヤーが、まさか同じ高校、それも同じクラスにいるとは思わなかった。入学式で顔を合わせた時には互いに指を差し合ったな。お互いに名前をプレイヤーネームにしていたのは後で知ったが、顔はそのままの顔写真を使用していたので直ぐに一目で分かった。 椿の開口一番が「お前、本当に十五歳だったのかぁ」だった。「あぁ」と軽く頷いてから現実でもメールアドレスと電話番号を交換した。 で、メールを確認して見れば件名が『ちょっと頼みがあるんだけど』と書いてあった。「頼み?」 一体何だろうと本文を読んでみると、今日STOで午後八時までにシンセの街の南門まで来てくれ、との事。何でも、俺に会いたいプレイヤーがいるかららしい。 一体誰だ? わざわざ椿を介して俺に会いたいと言ってくるのは? 少なくとも、俺とフレンド登録をしているプレイヤーではない筈だ。そうだったらDGの方にメッセージを送って直接会う約束をしてくる。「……まぁ、いいか」 取り敢えず、午後八時までに南門に行けばいい。現時刻は午後七時半。メールが届いたのが六時頃だったので、『返事遅れてすまん。分かった』と即返信し、ベッドに横になってDGを被りSTOの世界へと向かう。 姿勢が直立になった感覚と共に、俺はオウカとしてSTOの拠点の居間に立つ。「今日は誰もいないんだったな」 流石に新年度が始まったのでサクラもアケビも色々と忙しいらしく、明後日までログイン出来ないそうだ。なので、暫くはここにいるプレイヤーは俺だけになる。 ただ、ここには俺以外にリトシーにフレニア、キマイラがいる。拠点があれば常にパートナー、召喚獣をここに待機させる事が出来るので、普通にくつろいでいる。キマイラは大きさから流石に外にいて、リトシーとフレニアはソファで横になってぐっすりと眠っている。「しー……」「れにー……」 二匹は互いに身を寄せ合って健やかな寝息を立てている。「おやすみ」 俺は寝ているリトシーとフレニアの頭を撫でてから拠点を出る。「よぉ、キマイラ」「グルラゥ」 外に出れば月明かりに照らされ、太陽光を浴びた時とは違う感じに煌めく青い外壁に囲まれた空間でキマイラが俺を見付けて歩み寄ってくる。「今日は外に用事があってな。また今度遊んでやるから」 拠点を手に入れてからはキマイラとリトシー、フレニアと一緒に遊んでいる。この場所で遊べるのは主に鬼ごっこで、大概俺が鬼で皆を追い掛ける。なかなか捕まらないのがキマイラで、タッチしようとしても軽く身を捩って避けてしまう。フレニアは高く跳んでも外壁を蹴ればタッチが出来る。リトシーは頑張ってはねて逃げるが直ぐにタッチ出来てしまうので極力同じ速度で追い掛ける。 昨日は鬼ごっこと大縄跳びばっかりしてたからな。恐らくリトシーとフレニアは昨日の疲れが今日も残っていたから早めに寝てしまったんだろう。何時もなら午後九時か十時くらいから寝始めるからな。「じゃあ、またな」「グルラゥ」 キマイラは一鳴きし、尻尾を振って俺を見送ってくれる。 俺は天井に開いた穴とは別の、壁に開いた先が真っ暗闇の穴へと向かう。そこがこの拠点唯一の出口だ。
『シンセの街に向かいますか? はい いいえ          』
 俺は『はい』を選択して光に身を包まれる。そして、中央広場へと降り立つ。「さて」 マップを開いて現在地点を確認すると、丁度南の方に降りられたようだ。あまり急がなくても八時に充分間に合うな。「っと、そうだ」 俺は歩き出す前にメニューを開き【ビーワスの卵】を出現させる。光が集まって俺の前に降りてきたラグビーボールのような白い卵を両手で抱える。拠点があって、そこにパートナーを預けておけば、新たな卵を孵化させる事が出来る、とウィキに書いてあったので試してみる事にした。拠点がないプレイヤーなら一時的にパートナーを預かってくれる施設に赴く必要があるらしい。 リトシーの時は一時間くらい経ったら孵化したんだよな。だったら、この卵もそれくらいで孵化するんだろう。と思いながら浮かんでいる街灯に照らされた道を進んで行く。「お、来た来た」 南門の所にツバキとリークが並んで立っており、俺の姿を見付けて手を振っている。ゲーム内で会うのはイベント以来で、ツバキの通常装備を今日初めて見る。 両手に金属製の籠手を装着している以外は動きやすさを優先させて金属は使用されていないように見える。侍の袴姿だが草履ではなく靴を履いているので違和感があるな。深紅の鞘に収められた一振りの刀が左に佩かれている。別に髷とかはない、か。 また、リークの茎にリトシーと同じく【霊樹の葉飾り】が嵌められている。ポイントを交換したんだろうな。「ほら、あれがオウカだよ」 と、ツバキはリークとは反対隣りに突っ立っているプレイヤーに話し掛ける。 ツバキよりも背が高く、全身アーマーを着込んで、更に顔を隠すヘルムまで被っているので性別が分からない。特徴的な所を言えば、アーマーの形だろうか。普通の鎧、西洋鎧や武者鎧と違って、見た目がサモレンジャーのような特撮ヒーローに見える。曲線が多用され、滑らかに仕上がっているアーマーは関節部分もしっかりとガードしており、隙がない。ヘルムには呼吸用の隙間の上に黒いバイザーが仕込まれていて、そこで視界が確保されている。 誰だ? こいつは? とやや警戒しながらツバキの方へと向かう。恐らく、あれが俺に会いたいプレイヤーなんだろう。どうして会いたいのか本当に分からないが。「よぉ。で、そいつか? 俺に会いたいってプレイヤーは?」 軽く手を上げてツバキとリークに挨拶をした後、隣りのアーマーに視線を向ける。「あぁ。ほれ、自己紹介自己紹介」 とツバキはアーマーの背中をバシンと叩いて前に無理矢理押し出すが、叩いたツバキは手に痛みが走ったらしく、顔を顰めて何度も叩いた手を振っている。「初めまして。私は機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツのローズと申します」 見た目のギャップが凄い澄んだ綺麗な声がヘルムの奥から聞こえてくる。こいつ女かよ。女で俺より背が高いのか……まぁ、気にしないけど。姉貴だって俺より高い訳だし。 で、アーマーもといローズは名乗り終えると礼儀正しく頭を下げる。頭を下げた拍子にヘルムの隙間から金色の髪が垂れて零れ落ちる。どうやら最初から垂れていたみたいだが正面向いてたから気付かなかった。そして結構長い。肩甲骨……いや、腰骨当たりには届くか?「オウカだ。初めまして」 俺も軽く自己紹介をして、直ぐに首を捻る。「……今、機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツって言ったかこいつ?」「言ったよ。ローズは上位パーティー機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツの一員」 ローズを指差しながらツバキに問い掛けると、ツバキは頷きながら答える。「機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツって、どういう訳か最後の最後にランキングから消えてた機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツ?」「そう。どういう訳か最後の最後にランキングから消えてた機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツ」 そうか。ローズはその機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツの一員なのか。「うぐっ」 俺とツバキの応酬で何やらダメージを受けてしまったローズ。……気にしてたのか。「……あれは、私の所為ではない。団長が止めを刺すとか言って勝手に突っ走って終了間際にセレリルに呑み込まれたのが悪い。私は止めたんだ。皆も止めたんだ。なのに団長は訊く耳持たなかった。私は悪くない。皆も悪くない。全然悪くない。全く悪くない。これっぽっちも悪くない。悪いのは団長ただ一人」 と、勝手に一人で弁解をするローズ。どうやら、ランキングから外れてしまったのはその団長とやらがセレリルに呑み込まれて死に戻りしてしまい、ポイントを失ってしまったのは原因のようだ。しかも、勝手な単独行動によってポイントが減らされた、と。「…………まぁ、運が無かったと思え」 他人事なので、そう言うしかなかった。同情はするが、そんな性格の人間を団長にしたのが悪いからな。「あ、一応尊厳護る為に言っとくと、団長は普通に強いからな。ローズ含む他のメンバーも、そして俺も敵わない。ソロイベント二位のリースと互角くらいなんだ」 と、横でぶつぶつぼやいているローズに代わって団長をフォローし始めるツバキ。って、ツバキよりも強いのか。つまり当然レベル差のある俺よりも強いと言う事で、更にはリースと互角らしい。そんな奴がいくら【縮小化】でレベル1になっていたとしても、セレリル如きに後れを取らないと思うんだが。「ただアーマー着てなかったらセレリルに呑まれる事を忘れてたんだと思うぞ。セレリルは金属の防具を多く装備してるプレイヤーは呑まない。機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツは戦闘時に常にアーマー着込んでるからな。普通通りに相手しちまったんじゃないかと」「つまり、ドジだと言う事か?」「まぁ、簡単に言えばそうなるな。団長は結構ドジで、何もない所でこけたり、よそ見して壁にぶつかったり、果ては落とし穴があるって分ってるのにそれに嵌まるらしい」「……そうか」 実際にいるのか、そんな奴が。そんなのが仲間内にいると不安で精神がすり減りそうだな。「因みに、俺達と一緒に北の森のボスを攻略した時なんて仲間が仕掛けた麻痺罠に引っ掛かって痺れてた。罠仕掛けたの見てたのにだ」「もうそいつ団長の座から引きずり下ろせよ」 恐ろしいくらいのドジ野郎だな。と言うか、所々で順位下がってたのはその団長の所為だったんじゃないか? 俺の当然と思える言葉にツバキは肩を竦めながら首を横に振る。「それはパーティー内で決める事だからな。俺等が介入する事じゃない」「そりゃ、そうだが……」「まぁ、そんな事よりもだ」 と、ツバキは未だにぶつぶつと呟いているローズの背中を小突く。今度は籠手の金属部分で行った為、痛みは走らなかったみたいだ。「ほらローズ。オウカに頼みがあんだろ?」「……あぁ、そうでした」 我に返ったローズは背筋を伸ばし、真っ直ぐと(多分)俺の目を見てくる。「俺に頼みって何だ?」「私とPvPして欲しいのです」 そう問い掛けると、ローズはそう答えた。

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